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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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「央、遅かったな」

央に与えられた客室の前で茅が待っていた。

央の姿が見えた瞬間、こちらへとやってくる。

「うん、香絵さんとお話していたから」

「香絵と?」

とりあえず、外で話していても仕方がないので、中に入るように促す。

茅は先に央を入れて、自分も入ってきた。

「ねぇ、茅。正直に話してくれる?」

「なんだよ」

「香絵さんの事、好き?」

央の問いに、茅は瞠目した。

しかしすぐに茅は食って掛かってくる。

「俺は、お前のことが好きだと言ったはずだ」

「あぁ、違うよ。恋情じゃなくて愛情として。家族愛っていうのかな?」

沈黙は、肯定だ。

茅は沈黙を持って、その問いに答える。

家族愛。言われてみればそういうのだろう。

姉として、とても頼れる人で、優しくて、わがままもいっぱい聞いてくれて、でも間違っていることはすぐに叱ってくれて。

香絵は本当に姉のようだった。

一人っ子で、年の近い友達も組員もいなかった茅にとっては、香絵がその当時は一番だったのだ。

自分が裏切ってしまう、その時まで。

「きっとね、香絵さんも茅の事が大好きだよ」

「そんなこと!」

裏切った人間を、好きだというやつなんていないだろう。

自分は間違っていた。それがわかっている分、茅はそう思うのだ。

「ううん。香絵さんは茅のことも飛竜君の事もとても大切にしている。私にはわかる」

「央」

「だから、きちんと考えてみて。私の事を考えてくれたように、今日の夜一日かけてでも。次に香絵さんが来る前までに、きちんと答えを出してあげて」

央はそう言って笑った。


央にそう言われたのが、一週間前。

香絵は今日来ると言っていた。

だから、茅は覚悟を決めることにした。

「何しに来た」

「婚約者に向かっての言葉とは思えませんわね」

「お前は俺の婚約者じゃない」

「まぁ、まだあきらめてなかったのですか?」

「あきらめる以前の問題なんだろ。お前にとっては」

茅がそういうと、香絵は少しだけ面白そうな顔をした。

央に出された宿題を、茅はきちんと考えていた。

考えていたら、この答えにしかどうしてもたどり着けなかった。

「何のことでしょう?」

「お前は、俺のことが嫌いなんだろ?だから、婚約者って言うんだ」

辛そうに、きっと自分は辛そうな顔をしたいに決まっている。

けれど、その顔をしてはいけないと茅はそう思った。

「何のことでしょう」

「香絵、俺はお前の本音が知りたいんだ」

彼女の本音。

いつだって、彼女は自分を隠してきた。

それが、彼女がやらないといけないことだったから。

自分を殺して、そして組のため、会のため、そして茅のために頑張ってくれた。


「嫌いです。大嫌い」

その言葉を聞いて、安心したのは茅のほうだった。

好きだと言われたら、それこそもう何もできまい。

「よくお気づきになられましたね。そうです。私はあなたが嫌いです」

「なんで、俺の婚約者を名乗ったんだ」

「あなたが、考えている通りでしょう」

「俺のため?嫌いな俺のためにそこまでやったのか!」

香絵が自分の婚約者を名乗ったら、他の人は手出しができない。

そんな状況を、彼女は嫌いな自分のためにやったとでもいうのか。

「香絵、俺は」

「私は、5代目とその姐さんが大好きです」

「香絵、聞いてくれ、俺は」

「まだ、迷っておられますか」

まっすぐに、香絵の瞳が茅をとらえる。

その目は、茅の思っていることが正解であると暗に告げていた。

「あなたがそんな態度だったら、好きな人一人守れませんよ」

「守る。あいつは絶対に守る」

「それを聞いて安心いたしました」

「でも、香絵は!」

「二頭追う者一頭も得ず。私は大丈夫ですから。それよりせいせいします。やっと解放される」

それはそうなのだ。

自分は、6代目としては、一番に守らないといけないのは央だ。

決して、香絵ではない。

でも大丈夫と言われようと、心配なことは心配だ。

今から香絵がすることは、危険でしかないのだから。

それでも、それでもやらないといけない。

これ以上、香絵の思いを踏みにじってはいけない。

だから、だから。

「香絵、お前との婚約を破談にする。その前に央のことを認めてくれ」

そう言って、茅は香絵を手放した。




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