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月がきれいな夜だ。
央はそう思いながら、茅を探していた。
先ほどからずっと難しい顔をしていたから、心配になったのだ。
だから、探していた。
すると、声が聞こえる。
「何か御用ですか?茅様」
どうやら、茅は香絵に会いに行ったらしい。
ばかだなぁ、央はそう思う。
「香絵」
「夜伽ですか?」
茅が顔をそらした。
それでは、話ができないだろうに。本当に、茅は香絵の前では弱い。
その理由も、わかりきっていたけれど。
「違う。そうじゃねぇ」
「あら、違うところがお好みですか?」
「そうじゃねぇ、夜伽じゃねぇよ」
「ではなんでしょう?」
「認めてくれ」
「なんです?私たちの婚約は、組員のほとんどが認めてくれていますよ?」
「俺は、央が好きなんだ」
あぁ、それで認めてくれるわけがないのに。
央ははらはらと植え込みの陰に隠れていた。
茅がやることは応援してあげたい。
彼は、央のためにやってくれているのだろうから、特に。
でも、今その話をするべきじゃない。
「認めませんわ」
案の定、香絵ははっきりとそう言った。
もう、見ていられなかった。
「茅」
自分でも震えている声だなと思った。
実は、ここにいたことがばれていたのではと思って、震えたのだが。
茅と香絵は気付いていなかったらしい。
「なんだよ」
「あ、あの、5代目が、呼んで」
茅はその声を好機とでもいうかのように去って行った。
嘘は言っていない。
茅を探していると言った央に後で来るように言ってくれと言ったのは、他の誰でもない5代目だ。
「あ、あの、」
しどろもどろになって話す。
そういえば、香絵ときちんと話をするのはこれが初めてだ。
「何か?」
冷たい声だった。けれど暖かくも感じる。
「茅と、その」
「あなたに言うことなんて、ないわ」
「さっき、茅が、ごめんなさい」
「何故、あなたがそんなことを言うの?」
「茅、イライラして、たから」
央がそういう事に、香絵は驚いていた。
そして、態度が軟化するのが雰囲気でわかる。
きっと、わかってくれたのだ。
自分が言おうとしていることを。
「あの、茅に、あまり、ツンツン、しないで、上げてください」
「何を言っているのか、よくわからないわ」
「あの、あれで、茅、あなたのことが、好きなんです」
「それは婚約者ですから」
「茅、あなたが冷たくて、イライラ、しているんだと、思います。それに、飛竜くんも、あなたが、好きで、それで、2人して、イライラしてる」
茅は本当に香絵の事を大切に思っている。
おそらく、央のほかに好きな女人を素直に言えと言ったら、すぐに香絵の名が上がるだろう。
それぐらい、小さなころから茅は香絵の事が好きなのだ。
それは、恋情ではなく、愛情だけれども。
「だから、優しくして、とはいわないけど、あの……」
「茅と飛竜が、私を避けているんだけどね」
香絵が面白いといったように、笑っている。
その笑顔は、きっと本当の彼女の顔。
あぁ、やはり自分の考えは間違っていなかったのだ。
そう思えた瞬間だった。
「冷えるから、早く入りなさい」
「はい、おやすみなさい」
そう言って、央は歩いていく。
とても充実した気分だった。
そしてくすぐったかった。
「茅も、愛されてるなぁ」
きっとそれが、一番彼らが誤解し合っているところなのだ。




