37
「6代目付が遊部 央を認めた」
そのニュースは、すぐに分家にも伝わった。
もちろん、分家頭の六木組の頭にも。
もちろん、六木組の組長は癇癪を起したかのように怒り狂った。
「飛竜、『こちら』の答えは出たわけね」
クスリと香絵が笑う。
六木組の組長に、さっさと茅のところへ行けと昨日言われたばかりだった。
「じゃぁ、私も本気を出すとしましょう」
そう言って、香絵は本家の門をくぐった。
「何しに来た」
ぶすっと突然の来客を睨みつける。
傍には飛竜、央とリルがいた。
「何をしに来たとは、またすげないお言葉ですね。私はあなたの婚約者でしてよ?」
「それは、断ったはずだ」
「あら、それはあなたが『俺、彼女で来たから』という戯言ですか?」
久しぶりに会った。
それは、茅が逃げ回っていたからではなく、本当に香絵が久しぶりに来たのだ。
一度、香絵と対峙して、彼女ができたから婚約者にはなれないと言ってから、来なくなっていたから、あきらめてくれたのかと思っていた。
「戯言、だと?」
「戯言でよいでしょう?どうせ今の関係です」
「そんなこと、だれが決めた」
「誰がとは?では茅様。お伺いいたしますけれど、どうやってその堅気の女を姐にするおつもりで?」
茅がくっと唇をかんだ。
やっと宇月組の組員に認めてもらったのだ。
他の分家は絶対にまだ認めてはいないはず。
むしろ、認めようとはしないだろう。
目の前の人と同じく。
「彼女を姐にすれば、11組が黙っていませんわよ?もちろん、我が六木組も。そして」
香絵は一瞬、飛竜のほうに目を向けた。
「飛竜殿がいらした、羽月組も」
「羽月は俺とはもう関係ありません」
「あら、そうでしたか?申し訳ございません」
うふふと笑って、香絵は飛竜を見た。
飛竜は、おそらく自分が今どんな顔をしているのかわかっている。
昔一緒に遊んでくれた優しい姉のような人。
その人が認めてくれないのは、きっと茅のほうが悲しいだろう。
「愛人ぐらいにしておきなさい。それがあなたと、この組、後月会引いて、彼女のためにもなるのですからね」
そう言って、香絵は立ち上がる。
その動作は洗練されていて、美しかった。
「では、御前失礼。あなたも、いい気になって妻の座は狙わないようにね」
でないと、恐ろしいものがやってくるわよ。
クスッと笑って香絵は出て行った。
部屋の中は静まり返る。
「央、悪い」
「え?」
いきなり謝られ、央は間抜けな声を出した。
「なんなの、あの人。央ちゃんばっかりにそんなこと言って」
「リル、私大丈夫だよ」
「でも!あんな言い方」
きっと香絵が去って行った方を見る。
央はそれも止めた。
「央ちゃんは、悔しくないの!」
央は何も答えられなかった。
ただただ、頭の中には彼女の微笑みがあるだけだった。




