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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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「お前は俺には勝てねぇよ。俺は、強いからな」

「っ……」

あれから、飛竜は再戦した。

茅の力を信じられなかったから。

茅はその再戦を面白いと受けて立つ。

そして、今行われているものと同じ試合をしたのだ。

ひらりとかわし、ただ一撃だけで倒す茅。

昔と何も変わっていない。

自分も、攻撃を出すだけ出して、一撃で吹っ飛ばされるのは変わっていない。

けれど、それではだめなのだ。

バキッと音がして、茅が少し吹っ飛ぶ。

それは、飛竜が放った攻撃に間違いなく、茅は少しの間何が起こったかわからないようだった。

「あんとき、確かに俺はあんたに負けたんだ」

飛竜が肩で息をしながら、茅のほうを見る。

茅は、すぐに立ち上がった。

そして、こちらに歩いてくる。

「そうだな、あの時は一発も入らなかったな」

「えぇ、嬉しいですよ。今、あんたに一発入れられた」

「それで、勝った気になるのか?お前は」

「まさか、一発入ったなら、2発目だってはいるはずだ」

「バカか」

そう言って、今度は飛竜が吹っ飛んだ。

今度は茅の左ストレートがきちんと見えた。

「っつ、あんた、やっぱり強いな。ほんと、強いわ」

「俺は力の制御とかできねぇからな。だから、お前が俺のお付をしてたんだろ」

「そうですね」

「俺は言ったはずだぜ?

―――お前は負けたんだから、俺の付き人になって、ずっと傍にいろよって」

それは、確かに飛竜が言われた言葉だった。

「覚えていたんですか?」

「当たり前だろうが」

忘れるはずがないだろう。自分が言った、その言葉を。

一生、こいつを縛ってやるとそう宣言した言葉を。

飛竜が下を向いて、攻撃を止めた。


「若は、ひどいな。覚えてるくせに、俺の事を遠ざけるんだから」

「飛竜?」

「俺、遊部 央が嫌いだ」

ぽつりと飛竜がそういう言葉に、茅が驚いた顔をした。

飛竜がそう思っていることなんて、知らなかった。

もしかして、だから認めないと言ったのだろうか。

「遊部 央なんて嫌いだ。だって、あいつが若の隣に来てから、若は俺を隣に置かなくなった」

「飛竜?」

「俺がずっとそばにいたのに。俺のほうが若のこと知ってるし!俺のほうが若のこと想ってるし!俺のほうが若の役に立つのに!なのに、若はいつも遊部 央を傍に置く!」

「ひ、飛竜?」

何を言い出すのかと、茅さえもが驚いた声を出した。

だが、飛竜はその声では止まらない。

茅と対峙していたのに、いきなり央のほうを見る。

「まだ恋人になる前はよかったんだ!なんだかんだ言ったって、若は俺を傍に置いてた。でも、恋人になった瞬間、俺を離すようになるし、なんで?俺のほうが若に近かったのに!」

5代目さえも、姐さえも、驚いて飛竜を見る。

飛竜がこんなに喚き散らすのは、初めてだ。

飛竜はまた茅に向き直った。茅は、向き直った飛竜を受け止めた。

「なんで、その言葉を言ったくせに。俺を必要としたくせに。なのに」

「お前、そんなことで拗ねてたのか?」

茅がそう言った瞬間、飛竜の顔が赤く染まった。

図星らしい。

赤く染まる飛竜さえ、見たことがない。


「だから、拗ねて次期6代目でも狙ってみたのか?」

「違う。それは、違う。俺だってわかってた。これが子供の癇癪だって。お気に入りのおもちゃを取られて泣いてるしかない子供の癇癪だって。俺だって、あんたの恋を応援してたんだ。あんたには、幸せになってほしいって、そう思ってるんだから」

それは茅だってわかっている。

なんだかんだ言って、初めての感情にとらわれて抜け出せない茅の相談に乗ってくれたり、早とちりする茅を止めてくれたり、6代目の自覚を持たせてくれたり、彼はきちんと自分の事を考えてくれていたのだ。

茅はきちんと知っている。

「あいつら、バカなんだ。6代目に若がふさわしくないっていう。俺のほうが強く見えるからって、それだけで俺を担ぎ上げようとする。バカどもだ。バカなんだ」

リルをこの敷地に入れたのは、その方がいいと判断したからだった。

リルが蒼秀会の次期8代目のお気に入りだというだけで、そのリルと仲良くしている央の後ろ盾になると思った。

だから、自分の恋人宣言をしてまで、入れてやったのだ。

だが、それが飛竜を6代目にと担ぐ材料になってしまった。

そんなつもりは、毛頭ないのに。

「バカなんだ。若が強いってこと、知ろうともしない、バカどもなんだ。でも、都合がよかった」

「お前って、ほんっと馬鹿だよな?」

「お、俺は、若のためを思って!!」

はぁ、と茅がため息をつく。

そして、飛竜のほうへと歩み寄ってニコリと笑う。


バキッ


実に気持ちのいい音がして、飛竜が地面を数メートル滑った。

すぐに起き上がったが、顔が痛い。

「お前、バカなんだよ。俺のため?笑わせんな。俺のためだっていうのなら、俺のためになることをしろよ。ほんっと馬鹿な奴」

言葉とは裏腹に、茅は笑っている。

飛竜はぽかんと口を開けた。

「俺は後月会の6代目だ。その地位を揺るがないものにするために、お前がいるんじゃねぇの?」

「あ……」

「今まで、俺が次期6代目を名乗ってこられたのも、今まで俺が全然傷負わなかったも、全部お前が俺を守っていたからこそだろ。まぁ、俺のほうが弱いってことになってたみたいだけど?」

そう言って、ぎろりと飛竜を支援していた代表格を見る。

代表格は、それだけですくみ上ってしまった。

「俺は本来お付なんていらねぇんだよ。どうやっても俺のほうが強いなんて目に見えてるしな。今まで、飛竜が戦いたいって言ってたからやらせてたけど。これからは俺がやるか」

「え?」

飛竜が大きな声でそう言った。

が、茅は聞いていないのか続ける。

「仕方ねぇよな。俺が弱いからなめられたんだから、ちょっとは戦わないといけないよな」

最近、腕もなまってきたし?

茅の発言に、周りがひんやりとした。

先ほどの飛竜との戦いを見ていて、あれで腕がなまってきたと彼は言う。

腕がなまっていなかったら、あとどれぐらいの力を秘めているのだろう。

「だ、駄目です!若が前線に出るなんて!そんなの俺が!」

「ふぅん、じゃぁお前はこれからも俺についてくる気があるわけだ」

「当たり前です。6代目襲名なんて、俺にとっては邪魔なだけです。ただ、あのバカどもにお灸をすえるためにそう言ってただけで。俺、やるとは言ってません!!」

そんなバカなこと、俺が言うとでも思ってるんですか!!

飛竜がそう言って、立ち上がる。

先ほどまで飛竜の支援者と言っていた人たちが一斉になんだと、という顔をする。

だが、確かに彼は決定的な言葉は一度も発したことがなかったのだ。

騙された、いまさらそう思っても後の祭り。


「俺のお付でいるってことを誓えるんだな?」

「当たり前です!」

そうかそうか。

茅はにっこりと笑った。

いつも不機嫌そうな茅の何かを隠した笑みに、本気で背筋が凍る。

それは、茅派の人にも容赦なく降りかかった。

「飛竜。俺を害するものがいるんだけど?」

「えぇ、きちんと始末しますよ」

そう言って、飛竜がギャラリーを見る。

その瞳には、もう迷いも何もない。

後月会宇月組次期6代目付東澤 飛竜は、面白いものでも見つけたかのように、行動を開始した。



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