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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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『6代目付、どうか次期6代目に』

『6代目付こそが、次代6代目にふさわしい』

『後ろ盾もない堅気を姐にするなんて、言語道断だ』

『蒼秀会のお気に入りを恋人にするなんて、さすがはあなただ』

うるせぇよ。

俺の事もわからないくせして。

勝手にしゃべってんじゃねぇよ。

お前らに俺の気持ちがわかるのかよ。

俺にすらわからない、俺の気持ちが。

『飛竜君って、疲れる性格だね』

『なんか、飛竜君ってこどもみたいな性格だね』

『いい加減怒っているなら怒っている顔をしなさいよ。あなたって本当に子どもね』

こんなことを言うやつは、あの女が初めて。

性格は器用と言われ、表情と本当の気持ちが一緒かさえわからない。

なのに、あの女は言ったのだ。

子供だと、この俺が子供だと。

普段ならきっとムカついていた言葉に、心を貫かれたのは初めてだった。




先ほどまで、自分を6代目にしたいと言っていたやつらと少しだけ話していた。

なんとなく、あいつらと一緒にいるのは疲れる。

はたして、自分は本当疲れているのか、それは定かではない。

だがある種の倦怠感があったから、少しは疲れていたのだろう。

飛竜は、口角を上げた。いつもの彼の癖だ。

笑っていれば、たいてい彼の思うとおりに事は運ぶ。

一番、誰からも何も言われない。それが、笑顔だった。

飛竜が心の中から微笑んでいたことなど、なくても。

笑顔は一番都合がよかったのだ。

「疲れてるなら疲れた顔してもいいんだよ?無理して笑わなくて」

気配を感じなかったが、そこにはリルがいた。

やばい。先ほどの男たちとの会話は聞こえていただろうか。

そう思って、聞こえているはずがないと心の中でかぶりを振る。

なぜなら、こことそこは離れており、そして飛竜にとって聞かれても聞かれなくてもどうでもよかった。

「俺が疲れてるって?また面白い冗談」

「あなたって、ほんっとうに見栄っ張り」

そういうリルが面白い。なぜ見栄っ張りだと言われなくてはいけないのか。

飛竜にはまったくわからない。

だって、自分は見栄っ張りなどではないのだから。

「見栄っ張りとは、また言われたもんだな」

「あら、言い足りないぐらいだよ。自分の本当の気持ち抑え込めて、そんなに若が大切?」

「え?」

飛竜は思わず間抜けな声を出した。

彼女は一体なんと言った?

自分の気持ちを抑え込めて?

抑え込めてなどいない。なぜなら、茅が6代目になることは飛竜自身身と認めていない。

だから、今この自分が候補に挙がっているのだ。光栄なことではないか。

それに、若が大切?笑わせる。

何を言いたいのだ、この女。

そう思って飛竜は彼女を鼻で笑う。

彼女は、ため息をついただけだった。

「わからないならいいけど。これだけは言っておくね。

あなたは本当に子どもでどうしようもない。自分の気持ちがわからないふりして、周りの外堀を埋めようとして、なぜだかそれができないと呻いている。

できなくて当たり前なことにも気づかず、それでも進んだら何とかなるかと思ったのに、それさえできなくて、苛ついて、ムカついて、でも何にむかついたのかもいらいらしたのもわかんない。―――あなたは、癇癪を起している子供と同じだわ」

なんだそれ、なんだそれ、なんだそれ!!!

飛竜はリルをにらみつけた。

だが、リルは特に怖がった素振りなんて見せない。

飛竜が睨めば、たいていの人は逃げるか怖がって動けないかどちらかなのに。

彼女はどちらでもなかった。

それどころか、ため息をついて困った顔をしている。

そんな顔、されたことがない。


「ほんっと、茅君が良ければ後は何でもいいんだ、あんたは。そうやって、自分まで押し込めて、茅君のためにって言って無理して。それで茅君が喜ぶとでも思ってる?」

何を言われているのか、わからない。

けれど、彼女が言いたいことはなんとなくわかる。

自分を押しこめている。茅がよければそれでいい。無理をしている。

頭の中にその文章が支配する。

何故だろう、彼女に聞けば分かる気がした。

どうして行き詰っているか。

何に行き詰っているか。

そして、自分が何を思っているか。

「お前、俺の気持ちがわかるのか?」

「むしろ、皆なぜ気づかないんだろうとは思ったよ」

心に敏い人たちが多い中で、飛竜の気持ちを読める人はいない。

5代目も、茅も、央も、そして肝心の飛竜さえも。

皆気持ちに敏い人ばかりだと思う。

自分はどちらかと言わなくても、鈍い方で。

でも、もしかしたら鈍いからこそ気づいたのかもしれない。

彼が自分の心にかけている重い重い枷を。

彼が何重にも守ってきた、彼の真実を。

「飛竜は、茅君の事が大好きだよね」

「……」

「だって、いつだって茅君のためを思ってやってきたんだもん。今だって、茅君のために次期6代目になれっていう人たちにかまっている」

「それ、は」

「自分以外の人にはなってほしくないんでしょう?だって、自分以外の人がなってしまったら、彼は最悪6代目から外されてしまうかもしれないもんね」

ドクンと心が鳴る。

聞いてはいけない。

そう心が警鐘を鳴らすのに、けれどきっと聞かないといけないことだと思った。

自分が押込めているもののすべてを、彼女はきっと知っている。

「ねぇ、ちょっとは素直になったら?」

「素直……に」

「私、あなたが素直になった時の気持ち多分知ってる。けど、教えちゃってもきっとあなたはそんなことはないって思うだけっていうのも知ってる。だから、これは宿題」

本当に、彼女はわかっているのだ。

だから、こんなことを言う。

ひどいけれど、言われていることがきっと真実だから。

「この答えがわかったらあなたがやるべき道も見えてくるはずだから」

にこりと笑う彼女に、

――――後月会宇月組次期6代目付 東澤 飛竜は完璧に、負けた。



そして、その3日後。

茅のもとへひとつの果たし状が届く。

送り主は東澤 飛竜。

そして、その果たし状にはこう書かれていた。

『○月×日 あなたと俺の関係性を見直したいと思います』

決戦は、次の日曜日――――つまりは明後日だ。



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