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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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「茅、何してるの?」

「いや、お前を、探してたんだ」

央が部屋に帰ると、彼は部屋の前で待っていた。

「俺、あいつの事がよくわかんないんだ」

ぽつりと茅はそう言った。

それはいつもの茅とは違う弱弱しい言葉で、央は少しだけ驚いた。

「あいつと俺は、小さいころよく一緒に遊んでた。あいつは5歳年上で、それで姉みたいに思ってた」

どうやら、話をしてくれるらしい。

香絵を避けているその理由を。

前までやんわりと聞いても答えてくれなかった。

だが、教えてくれるみたいだ。

央にできるのは、相槌を打つことのみだった。


「小さいころ、あいつは六木組から宇月組に一時期預けられてて、一緒に遊んでた。俺、一人っ子だし、香絵は、姉さんぽかった」

茅がまだ小学生にもなっていないころに、香絵は宇月組に預けられた。

それは、もちろん意図があっての事。

六木組の頭は香絵を茅の婚約者にしたかったのだ。

5代目もそれはわかっていたが、茅と香絵を合わせた。

もしかしたら、惹かれあうかもしれないと思っての事であったし、何より5代目とその姐は香絵の事を気に入っていたから、傍に置きたいという思いもあった。

六木組に洗脳されず、生きてほしいとそう思っていたらしい。

とにかく、六木組の頭の念願通り、香絵はそこに預けられ、そして茅とそれなりに仲良くなっていった。

そのころはまだ飛竜はおらず、茅は本当に香絵とばかり遊んでいたのだ。

そのうち、香絵は中学生になり、自分の組へと帰った。

飛竜が来たのはこの後で、本家に顔を出してくれる香絵に2人して遊べと言ったり、かまえと言ったりして、楽しかったのを覚えている。


しかし、香絵が中3になってから、香絵はまったく本家に来なくなっていた。

久しぶりに会いたいと言っても、何かと理由をつけてこちらに来てくれない。

小さい茅でも、わかるぐらいに避けられていた。

何故だかわからなくて、憤って、会いたくて。

「俺は、なんで香絵に会いたいのかずっと考えて、それで思ったんだ。あいつの事が好きなんだって」

央が驚いたように茅を見た。茅は、央のほうが見れないらしい。

「飛竜にもそう言われた。俺はあいつの、香絵の事が好きだって。だから、会いたいと思うんだって」

何度言っても、香絵はこちらへとやってこない。

会いたくて、でも自分から会いに行くのは気が引けて。

香絵に嫌われているのだと思ったら、怖くて。

茅は動けなくなった。

だが、会いたい気持ちは募って、それが負の気持ちになるのも、すぐだった。

若頭命令で六木組に連絡し、香絵に強制的にここにさせて。

――そして自分はしてはいけない間違いを起こした。

あの時、自分が何をしたのか今でも後悔する。

そして、その時に全てわかった。

自分は、この人を姉以外に思えない、思っていなかったということに。

その間違いを起こさなければ、自分の気持ちさえ彼はわからなかったのだ。

ただ、姉がかまってくれないと、さびしいという気持ちを、彼女に口で伝えていればよかったのに。

自分は、彼女を気付つけた。

深く深く、傷つけた。

自分の事を大切に思ってくれていたその人を、自分が裏切った。


「だから、香絵さんに会いたくなかったの?」

茅は無言だったが、恐らくそれが真実なのだ。

一通り、話を聞いて央は少し考え込む。

その間も、茅は央のほうを見ない。

「最低だろ。俺は、傷つけた人間をろくに見れない馬鹿な男だ」

「謝らないの?」

「謝って、済む話じゃない」

だって、自分は裏切った。

あんなにやさしくしてくれた人を、自分をわかってくれた人を、姉として暖かく包み込んでくれた人を。

自分は裏切ったんだ。

「でも、これだけは信じろ!俺はあいつの事は何とも思ってない。俺が好きなのは、お前だけだ」

必死に茅がそう言う。

それに、央がクスクスと笑った。

なぜ笑われたのかわからない茅はきょとんとする。

「央?」

「私、茅が私のこと好きじゃないなんて言ってないのに」

「だって、俺」

「確かに、ちょっと思うところはあるけど。でも、今は違うんでしょ?私は茅の言ったことを信じる」

「央」

これは、5代目姐に言われたことであった。

修行の初日、2人で少しだけ話をした。そこで、5代目姐は言ったのだ。

『姐が一番に何より信じるのは、頭だけよ。頭の言う事を、一番に信用し、支える。それが、姐の役目なの』

そう言った5代目姐が、まぶしくて、央もそう思う事に決めた。

だから、央は茅の言葉を信じる。

茅が今は自分の事が好きだと言ってくれていることを。

守ると誓ってくれたことを。

央にできることは、ひたすらそれを信じ、そして、支えることだけだ。

「私は茅を信じるよ。だから、茅も頑張ってよ」

「央」

「私を、守ってくれるんでしょう?」

そう言って笑う央を、茅は抱き寄せた。

いきなりの事で驚いた央は、驚いたままに茅の胸へと納まる。

「ち、茅」

「そうだよな。がんばんなきゃな」

それが、一番茅がしなくてはいけないことだ。

香絵から守れなくて、どうして他から守れるのか。

そんなことさえ失念していた自分に腹が立つ。



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