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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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あれから、香絵はよく宇月組を訪れるようになった。

そのたび、茅は逃げ回り、そして香絵は央に冷たい言葉を投げかける。

それはもうここ2週間で日常となりつつあった。

香絵から央を守るものもいる。

それは、香絵が来る以前に央を姐として認めてもいいと思っている年嵩の組員や友好的だった人。

香絵を支持する者もいる。

それは、央に反感を持っている人。

宇月組は、その両端に揺れていた。

5代目でも、止められないほどに加速していくそれは、央のほうが劣勢であった。

なぜなら、香絵の登場で友好的だった人たちが香絵のほうに少し流れてしまったから。

しかし、央へ友好的になってくれる人は、少なくなる一方だったのだ。

「あら、今日も来ているのね」

そう言って、香絵は央に笑みを向ける。

央が香絵からもらったものは、この笑顔と辛辣な言葉だけだ。

辛辣な言葉は、いたいものもあった。

けれど、なぜだか気にならないのもあったのだ。

気になると言えば。

茅がさんざん香絵から逃げ回っていることのほうが気になる。

あの茅が、さんざん逃げ回っているのだ。

あの、茅が。

「あなたの神経は図太いを通り越しておそらくないのね。私にこれだけ言われてもここにきているのだから」

クスリと妖艶に香絵が笑う。

央はその言葉にそうかもしれないと思った。

香絵にはずっと辛辣な言葉を吐かれていた。

ここに来るなはまだいい方で、茅には似合わないとか、姐になるのは認めないとか。

だが、その言葉は央の心まではどうしてか届かない。


「あ、央!」

そう言って、リルがやってくる。

リルがやってきて、香絵を認めた瞬間、リルは央の手に抱き着いた。

「あ、どうしたの?」

「茅君が呼んでいたから。呼びに来た」

にこりと笑うリルは、おそらく自分を安心させにきてくれたのだろう。

だが、央は安心できなかった。

「あら、茅様がどこにいらっしゃるのか知っているの?」

香絵がリルの言葉に返す。

リルは、少しだけ香絵のほうを見て、知らないと嘘をついた。

香絵にはそんな嘘がバレバレだと知っていて。

「そう、では今日は改めましょう。いい?今のうちに逃げ出しなさいな。あなたは姐にはなれない。姐になったところで、一体あなたに何ができるの?」

「……」

「私は、茅様のために幼少期から姐修行を積んでいる。その私にかなうはずがないのだから、今すぐあきらめなさい」

そう言って、ニコリと笑って、リルだけにさようならと言って香絵は去って行った。


「何、あれ」

リルは憤慨したようだ。

それもそのはず、リルに対する宇月組の態度は央とは全く違う。

央には辛辣に言葉をかけたり、存在を無視したり。

そんなことがいつものように行われるのに、リルはたいていの人が優しくしてくれる。

それは、リルが蒼秀会の次期8代目のお気に入りであることが一番大きいだろう。

そしてそれは香絵だって一緒なのだ。

「リル、茅は部屋?」

リルの憤慨を無視して、央はそう言った。

リルはコクリとうなづく。

ありがとうとお礼を言って、央は茅の部屋へと歩こうとした。

が、リルが腕を話してくれない。

「リル?」

「ねぇ、央。もしさ、もしだけど」

リルが言いよどむ。

が、その言葉の続きは聞くことができなかった。

リルが何でもないとあわてて手を放したからだ。


『6代目の終わりだ』

先ほど聞いた組員の会話。

それがリルの頭を支配する。

6代目は終わり。

彼らはそう言って下品に笑っていた。

リルが扉の外で聞いていたことには気づかず。

「昭ちゃんの時も、こんなことあったんだよね」

リルがそれを次期8代目に伝えたから、そいつらの計画は無駄に終わった。

どこでもこんな計画はあるのだと感心するとともに、それを茅に伝えに行こうともした。

だが、できなかった。

茅に伝えることも、そして央に伝えることも。

『俺が6代目?面白いことを言う』

男たちの下品な笑いの中で飛竜の声が聞こえる。

その飛竜の声は、嘲りだった。

茅に対してか、男たちに対してか、それとも両方か。

区別はつきにくかったが、なんとなくリルにはわかってしまった。

もし、言ったのが飛竜でなければリルは茅に伝えていただろう。

茅が強いだろうと、リルは知っている。

だが、飛竜の声に間違いなかったのだ。

「まったく、バカなんだから」

その言葉は一体誰に当てたものか。

リルは、それがわからなくなってきていた。


「こんなところで何をしているの?」

「香絵、お嬢」

香絵はまだ帰ってはいなかった。

茅がどこにいるのかはわかっていたし、なぜ彼女から逃げるのかもきちんとわかっていたから。

驚いたように飛竜がそういうわけも彼女は知っていた。

彼もまた、香絵から逃げていたのだ。

「久しぶりね、6代目付。最近、茅様のところにいないようだけれど」

「え、えぇ、まぁ」

「裏でこそこそといろんなことをやっているから大変ね」

クスリと香絵が笑うのに、飛竜はびくりと肩を震わせた。

全く、昔から何一つ成長していない。

本当に、何も。

「香絵、お嬢。あなたが、こちらの味方になって下さったら」

「あら、私はいつでもあなた方の味方ではないですか」

ニコリ。

飛竜は、香絵のほうを見ようとはしなかった。

ただ、そっぽを向いて、香絵と対峙する。

香絵は、ふうとため息をついた。

「私を勧誘するなら、まずは『こちら』をはっきりさせなさいな」

そう言って、香絵は言いながら去っていく。

飛竜は、やはり顔をあげなかった。


飛竜は知らない。

自分が何をしたいか。

自分の感情はどこを向いているのか。

彼は器用だ。

だから、彼はわからない。

器用になりすぎて、彼は自分の性格がわからず、自分の思いもわからず。

ただ、わかったのは楽しいという感情のみ。

そう、ただそれだけだった。



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