18
ねぇ、人を信じることには何が必要ですか?
昔まで、そんなことを考えなくても生きていけたのに。
ねぇ、人を信用するのには何が必要ですか?
契約書?約束の指切り?
そんなもの、破いてしまえばすべて同じことなのに。
ねぇ、人を信頼するのには何が必要ですか?
わからない。
だって、私は信じようと思ったことがないのだから。
だけど。
『逃げんなよ!』
その言葉で、央の世界は変わるのだ。
『俺、お前のこと好きなんだよ。』
前に言われたとき、びっくりしたけれど嬉しかった。
そんなことを一回も誰にも言われたことがなかったから。
あれは、央にとっては嬉しい出来事で、茅が自分を友達だと思ってくれているのだと判断した。
友達だから好きだと言ってくれる。そう思っていた。
本当の告白だなんて気付いてもいなかった。
いや、茅にとってもあれは本気などではなかったはずだ。
面白いものを見つけたから。弁当を作ってくれる人を見つけたから。
その人への好意だったはず。
でも、今の言葉はあの時とは全く違う。
真剣な言葉に、まっすぐな瞳。
それが、央をとらえて離さない。
この告白に、何一つ嘘がないのだとそう訴える眼だ。
「ち、がや」
「俺、お前の昔の話を聞いたとき、最初は同情した」
その気持ちは、嘘じゃなかった。
この次期6代目という役名がある自分が、そうそう同情なんてするわけがない。
だから、それができる央が好きだと思っていた。
けれど、一晩たった今、それは違う気持ちへと変化したのだ。
「俺は、お前に笑っててほしい。そのためなら、なんだってやってやる。そう思ったんだ」
「茅」
そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。
早く、この気持ちを伝えて、彼女を守りたい。
そう強く思った。
同情、したのは本当。
けれど、その同情が一日で変化する。
こんなに、感情に振り回されるなんて、自分らしくないのに。
「わ、たし、今、わら、ってる、よ?」
「嘘つけ。お前は迷ってるだろ?俺への返事にどう断ったらいいか」
ずばりと真実をつかれて、央は瞠目した。
茅がやっと央から顔を話す。
央はあきらかにほっとしていた。
「お前は、人が怖いって聞いてる」
それは、まぎれもない央の真実だ。
人は、怖い。
怖くなかったのは、父親と今の母親のみ。
他の人間は怖くて仕方がない。
「じゃぁ、お前は俺も怖いか?」
「え?」
「俺は、もちろん人間だ。しかも、いいか悪いかって聞かれると悪い人間のほうだ。いい人なんかになれやしねぇ。そんな人間の俺が、お前は怖いか?」
――――――怖い。
わけがない。
怖いなんて、どうして思うのだ。
央の目が見えにくいとわかって、彼は極力大きな声を出さないように気を付けてくれた。
弁当のお礼だと言ってジュースを買いに行ってくれたり、見たいという自分の気持ちをくんでくれて、コンタクトを渡してくれた。
他にも、茅が優しいところなんて央はもっと知っている。
茅が、央に乱暴だったり怖い人だったことは、仲良くなってからは一度もないのだから。
確かに、最初は茅が怖かった。
けれど、今は違う。
人をいい人と悪い人の2つに分けるのは、どうかと思うが。
央にとっては、茅はいい人だ。
「央、お前は人間が怖いんじゃない」
「え?」
驚いて、茅のほうを見る。
茅はまだ真剣な目をしていた。
何故だろう、彼の次の言葉を聞くのが怖いなんて。
次の言葉で、央のすべてが暴かれてしまうみたいで、怖いなんて。
でも、それを言ってくれる人を央はずっと待っていた気がするなんて。
「お前は、人間が怖いんじゃなくて、人間を信じることが怖いんだよ」




