17
『信用』と『信頼』は違うものだ。
少なくとも、央はそう思っている。
央の中ではこの2つは同じようで違いがあった。
信用は、信じてはいるがそれは契約だったり決め事だったり。信じてはいるが、裏切る可能性も持つかもしれない。そういう信じ方。
信頼は、本当にその人を信用していて、それで自分も心を許して信じようと思う信じ方。
同じように聞こえるかもしれないが、央には意味の全く違う言葉だった。
信頼している人はたった2人。
父親と、今の母親。
この2人は信頼できる。
央が、一緒にいてとても安心できて、なんでも話せる2人。
今までの央の世界には、2人しかいなかった。
ずっと、この2人だけが央の世界だと思っていた。
『央、茅君っていう子がとても大好きなんだな』
その言葉を聞いて、その言葉を認めて、央の世界が急激に変わった。
その人の傍にいることへの幸せ、その人が傍にいることによっての安心。
今まで、央の唯一はいなかった。
仲のいい人が一人もいなくて、だからこそ初めての唯一。
その初めての人を、信頼したい。
央は初めてそう思った。
だが、信頼したいという思いも、央の心の奥底が拒否するのだ。
――――人は、怖い。
ただ、その言葉のせいで。
「央」
さんざん逃げ回ったのに、彼はここを探し当ててしまった。
逃げ回ったといっても、言葉の通りだったらすぐに捕まっただろう。
歩き回っていては、すぐに見つかる。
そう思ったからこそ、央は一つのところでじっとしていた。
「ち、がや」
「探したぞ。腹減ってねぇか?」
そう言って、購買で買ったのであろうパンを差し出される。
昼休みが始まって、央は何も食べていなかった。
だが、あいにく食べたい気分ではなかった。
「い、い」
「食べろ。俺の飯が食えねぇっていうのか?」
多少、怒っているらしい。
確かに今日央は彼へのお弁当を作ってきていない。
作れるはずもなかった。
作ることによって、思い出してしまう彼を消したかったから。
「あのよ、央」
怒っているだろうに、いつもと変わらない声を出す茅。
その気遣いに、央は気付いていた。
「お前の昔の話聞いちまった」
え?と声を出して央は驚いた。
だが、そうすると昨日母親がいなかったことにもつながるので、納得もした。
「そう、……」
「俺、それで考えたんだけどよ」
茅は一体何が言いたいのだろうか。
よくわからないが、茅が緊張していることもわかった。
「俺、お前の事守りたいんだけど、どうすりゃいい?」
「は?」
茅が何を言ったのか、央にはまったく理解できなかった。
脳のキャパがあふれたわけでもない。
だが、央にはその日本語が理解できなかった。
「茅?」
「俺、お前のこと好きなんだよ。わかってるだろ?」
じっとこちらを見つめてくる真剣な1対の目。
央には見えなかったが、その分伝わるものはある。
気配にさとい央ならば、それぐらいわかってしまえた。
だが、やはり先ほどの言葉は頭に入ってくれない。
茅はそんな央に気づかずに続ける。
「だからさ、俺はお前の事を守りたい。守るから、守らせてほしい」
「あの、茅」
「なんだよ」
「話が、見えないん、だけど」
茅は先ほどの央と同じ顔をした。
いや、同じ顔になるような筋肉の動かし方をしようとしたが、結局いつもの不機嫌顔だった。
「話が見えねぇって?どういう事だよ」
どういう事だと言われても。
言葉の通りなのだが。
そして、その言葉通りすぎて、何を話せばいいのかわからない。
茅は一瞬考えるように間を開け、そして再度口を開く。
「お前に昔起こった話を聞いた。それを聞いて、俺は、お前の実母から、お前を守りたいと思った。って言ってんだよ」
「えー、と」
生まれて初めて聞いたと言わんばかりに、央はぱくぱくと口を開く。
が、何も口から音は出なかった。
「俺、お前の話聞いて、強くそう思ったんだよ」
先ほどのぱくぱくと口を開いていたのは、どうやら終わったらしい。
央が、心配そうにこちらを見てきた。
「なんで、そんなこと思うの?」
「は?」
おそらく、今日一番ドスの聞いた声を茅は央に送ってしまう。
それに、央はなぜだかびくりと肩を震わせたりしなかった。
「お前、本気で言ってんのか?」
「本気って、何が?」
「俺、お前に告白したはずだよな?」
告白?
はて、その言葉ってなんだろう。何を告白したんだろう。
本気で央はそう思った。
どうやら、落ち着いたのではなく本当にキャパオーバーを催したらしい。
茅ははぁとため息をついた。
とりあえず、央にコンタクトを無理やり入れさせて、その上で顔を近づける。
「ち、ちが、や?」
茅への恋心を認めた央にとって、それは凶器にもなりえた。
心がドクドクとうるさい。
けれど、茅が言った言葉によって央の心臓の音が止まった。
「俺は、お前が好きだ。お前が好きで、おまえを恋人にしたい。いや、俺の姐にしたい」
最後の言葉はよくわからなかった。
だが、心臓の音はどこかへと言ってしまった。
完璧に、キャパがオーバーになり顔がほてってくる。
熱い、熱い、熱い。
体の中の血液のすべてが沸騰したかのように、熱い。
「俺は、お前が好きだ」
『俺、お前のこと好きなんだよ。』
なぜだろう。
あの時とかぶって見えた。




