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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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「次期6代目、――お願いがあるんです」

女性の目は、まっすぐに茅を見る。

茅はそれをきちんと見返した。

いつもの傲慢な態度ではなく、ただ、見極めるために。

「なんだ?」

「あの女は、また央ちゃんの前に現れるかもしれない。央ちゃんを、守ってやってくれませんか?」

「なぜ?」

「え?」

もちろん、断られる可能性も考えていただろう。

女性は、とても頭がいいのだから。

だが、実際にそう言われると詰まってしまう。

だが、あきらめるわけにはいかないのだ。

「先ほども言った通り、あの女は極道と関係を持っている。あちらでは有名らしい、極道の人らしいんです」

「それで?央を守って、そこと喧嘩しろって?」

茅の声は冷たい。

女性はそれに少しだけひるんだようだった。

「言っとくけどな、俺は次期6代目として守らないといけねぇもんがあんだよ。その中の一つに、後月会っていうのがある。有名な極道って言ったら、何個か名前は上がるけどよ、その一つとうちがけんかしろっていうのか?」

「で、も」

「俺は、組員を守るのも仕事なんだよ。一人の女にかまけてる時間なんぞ、ねぇ」

ぐっと、女性がこぶしを握る。

茅は、それを見てはぁっとため息をついた。


「まかせとけ」

「え?」

女性がぱっと顔を上げる。

そこには、にっと笑った茅がいた。

冷たい顔は、どこかへ行ってしまったらしい。

「一人の女にかまけてる時間はねぇ。だが、好きな女ひとつ守れないなら、次期6代目としての名が廃る」

傲慢に、けれど強い瞳で。

「俺は、確かに傲慢だし、自分勝手だし、高飛車だけどよ」

茅が飛竜の頭を殴った。

何か、小声で言ったらしい。

だが、茅の瞳はまっすぐだった。

「俺を夢中にさせるのは央だけなんだぜ?」

にっと茅が笑う。

その瞳に、女性は悔し泣きではない、泣きそうな顔をする。


「若、後月会宇月組の信念は?」

「堅気には手を出さない。守ると決めた女は何が何でも守りきる、だ」

「そういう事です。なので、ご安心ください」

にこっと飛竜が笑う。

こういう時、茅は笑えないから飛竜がやってくれて助かる。

茅の顔は、優しく笑うようにはできていないのだ。

「あ、りが、とう、ご、ざいま、す」

女性は、もう泣いていた。

ぽろぽろと泣く姿は、みっともなくなんてない。

今まで、守ってきた人の安堵だ。

「まかせておけ」

そういって、勘定を持って茅は歩いていく。

飛竜もそれに続いた。


「若」

「なぁ、飛竜。やっぱりまずはうちの組員を説得するところからだよなぁ」

うーんと、喫茶店を出てから唸っている茅に話しかけると、帰ってくるのはやはりなことだった。

「まぁ、そうですねぇ。きっと分家は何か言ってくるでしょうし」

見えないけれど、央はれっきとした堅気だ。堅気を嫁にするなんて!と言われることは目に見えていた。

だが。

「それでも、守ってやりたいんだよ」

「えぇ、若はそういう人ですから」

一度懐に入れると、大切にしてくれる。懐に入るのは難関だが、だが彼の懐には入る価値がある。

飛竜はいつもそう思うのだ。

「俺も手伝いますから」

「当たり前だろ」

まずは組員を説得して、それから――。

ぶつぶつとつぶやきながら今後やることを考えている主の姿に、飛竜は笑う。

本当に、彼女を大切にしているのだとわかって、その人に巡り合えたことに感謝する。

飛竜は、本当に央に感謝しているのだ。茅をここまで変えてくれた、彼女に。

だから、2人の応援をしたいと思っている。


「若、一ついいですか?」

「なんだよ」

茅は考え事を止められて、少しだけ眉をひそめる。

ちなみに、飛竜は彼の懐に入っているのでこれぐらいで済んでいるのだ。

懐に入っていない人なら、まず話は聞かないし、最悪機嫌が悪いとぼこぼこにされる。

だから、飛竜はいう事ができる。

茅が今一番やらないといけないことを。

「まず、若と彼女って付き合っていましたっけ?」

答えはもちろん。

――――――Noである。




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