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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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「央ちゃん!」

一緒に帰ろうと誘われ、央は頷く。

目がよく見えるようになったから、感覚がつかめないでいるのを茅はわかっているのだ。

だから、一緒に帰るぞと言われた。

飛竜も後ろから付いてきて、3人で帰ろうと校門をくぐろうとしたときだった。

ふと、呼び止められて、央が驚いた顔をする。

「お母さん」

そういうからには、母親で間違いないだろう。

かなり若い母親は、若づくりしているといっても、自分たちの親にしては若すぎる気がしないでもない。

「買い物して近くまで来たから待っていたの」

ふわりと笑う彼女は、央と全く違う、正反対のかわいらしい容姿を持った女。

小柄で、栗色の髪をしていた。

「あら、お友達?」

珍しいとじろじろ見られる。

こんなふうにぶしつけに見られたことのない茅は、どうしていいか分からない。

「あの、前に、言った、弁当、の」

「あぁ!茅君ね。はじめまして。央ちゃんがお世話になっています。央ちゃんの母親です」

「あぁ、はじめまして?」

いきなりで飲まれたのか、茅の反応は薄い。

央は慌てたように母親に言った。


「あの、美香さん」

「お母さん」

「お母さん、どうしてここに」

先程言ったじゃないと笑って言う母親の顔は、半分笑っていなかった。

「ここの近くまで来たから、央ちゃんと一緒に帰ろうと思って」

「え、でも……」

「そうね。お友達がいるのなら、一緒に帰りたいわよね」

シュンっと下を向いてしまった母親に、茅と飛竜は眉を寄せた。

まったくもって、わざとらしい。

こういう手合いには慣れている。だから、茅は譲ってあげる気はなかった。

それが、好きな人の母親であっても。


「若ったら、心せま~い」

後ろから、雰囲気でやることを悟った飛竜が小声でつぶやいてくるが、無視だ。

飛竜の話は、半分以上は無視するのが一番である。

だが、茅の思いとは別に、央が先に口を開く。


「茅、ご、めん」

断られた方は、自分だった。

それに少々落ち込む自分を感じながら、だがそんな姿は絶対に見せずに、茅は了承した。

いや、了承せざるを得なかった。

本当に申し訳なさそうな央の表情に、それしか言えなくなったからだ。

あぁ、本当に自分って弱いな。

そう思いつつ、茅と央とはそこで別れた。

「若ったら、自分が思っている以上にメロメロですよね」

「言うな」

飛竜の皮肉交じりの言葉に、茅はそういうしかなかった。


以上が、昨日の話なのだが。

今日も一緒に帰ろうとしていた3人だが。

今は違う3人になっていた。茅と飛竜は変わっていない。

変わったのは、央ではなく央の母親になったこと。

そして、その母親となぜだか喫茶店に入ってお茶をしている。

なぜだ?いつの間にそうなった?

「へぇ、ここのケーキうまいんすか?」

「そうなの!すっごくおいしいのよ。央ちゃんとよく来るのよ~」

「へぇ、親子仲いいんですねぇ」

そして、なぜ飛竜は央の母親とあんなに打ち解けているのだ。

喫茶店に入って、少し引き気味の店員が持ってきたメニューを2人でにらめっこしている。

「あ、若。このガトーショコラがおすすめなんですって。俺は、トリプルマウンテンがおすすめだと思います。食べたら、若死んじゃいそうですけどね!」

「あら、茅君は甘いものが苦手なの?」

「そうなんですよ~。昔……」

飛竜が言いよどんだ。

茅がなぜ甘いものが苦手になったかを思い出したのだろう。

飛竜は茅が甘いものが苦手になった経緯を、その目で見ていたのだ。

あの壮絶な体験は、茅だって忘れてはいない。

「えーと、娘さんはどのケーキ食べるんですか」

強引に話題を変える。

ちなみに、飛竜は茅のためを思って話を変えたのではない。

あの光景をこれ以上思い出したくもないから変えたのだ。

央の母親は急な話題の変わり方に一瞬驚いたようではあったが、気にしないことにしたらしい。

央ちゃんはね、と変えられた話題をきちんと受け取ってくれた。

頭のいい人だ。

はぁ、と2人に悟られないほど小さく、茅はため息をつく。

もう、どうしてこうなったかは考えないでおこう。

それより、聞きたいことは一つだけだ。

「何か、話があるんじゃないのか?」

話が長くなるのは、嫌いだ。

だから茅は単刀直入にそう聞いた。



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