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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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央がコンタクトをつけるようになってから一週間。

央は実際あまりコンタクトをつけようとはしていなかった。

それは、自分でつけられないという理由もあったし、つけることによって、見えすぎて怖かったせいでもある。

だが、茅につけてもらうのは大丈夫だったので、茅が近くにいるときのみ、コンタクトをつけるようになっていた。

つまり、授業中よりも昼食中につけることのほうが多かった。


「空って、あんなに遠いんだなぁ」

「なんだよ。見えなかったときはもっと遠かったんじゃねえの?」

「そうだけど、見えると思っていたところよりはずっと遠いって感じる」

にこっと央が笑う。

その笑顔はとても無防備で、一瞬にして茅の鼓動を早くしたのだが。

見えていようが見えていまいが、そんなものを央が知る由もない。

「お前って、罪な女だよな」

「へ?」

「若、そういう時は俺以外の前でそんなかわいい顔すんじゃねえっていうんですよ」

「うるせぇ!飛竜」

2人に関心ありませんというかのように雑誌を読んでいるくせに、突っ込みだけは入れてくる。

そんな飛竜にうるさいという茅もいつもの事だった。

「今度、度の弱いコンタクトもらってきてやるよ。それで順に見えることに慣れていけばいい」

「お金、払うよ。いつもいつも払ってもらってばっかり……」

「いいんだよ。弁当代」

弁当代にはジュースをもらっているのに。そういって茅いつも央を甘やかしてくる。

同年代との付き合い方なんて、あまりよくわからないけれど、それでもこれは異常だと央は思っていた。

「でも!」

「いいんですよ。若はただ好きな人に尽くしてやりたいって思ってるだけなんですから」

笑えますよね。と言いながらやはり雑誌を読んでいる飛竜に向かって飲み終わったジュースのパックが飛んでくる。もはや、これもいつもの通りだった。

「仲良しですね」

「どこが!」

心底嫌そうな顔をする茅だが、央にはうらやましかった。

自分には、こんな言い合いできる人などいないから。

友達と呼べる人だっていない。

いや、いなかった。

茅と仲良くなる前までは、友達と呼べる人はいなかったのだ。

だから、今は幸せだなと思う。



「飛竜」

「なんです?若」

家に帰って、飛竜を呼ぶ。

一応、家に帰れば飛竜が自分をお守りする必要はない。

まぁ普段からお守りされる必要もないのだが、茅は飛竜を認めているので、傍に置いておきたかったのだ。

自室に帰ろうとする飛竜を呼び止め、茅は最近自分にしてはよく悩んでいると思う悩み事を相談してみようとした。

こんな気持ち初めてで、どうしたらいいのかわからない。

だが、相談できる人を飛竜以外には知らない茅には、飛竜しか選択肢もない。

「あのよぉ、央って……」

またその話か。

茅の最近の話は央一色だ。今度は何の話をされるのだろうと飛竜は思う。

楽しいことが大好きな彼で、2人の関係を面白がっている節がある飛竜は、だからといって話を率先して聞きたいわけではない。

むしろ、完璧に興味はない。

だが一方で飛竜は知っている。

茅には自分しか相談できる人がいないということを。

もちろん、飛竜もそうだけれども。

「どうしたんです?彼女が」

「あいつってさ……」

よほど言いにくいことなのか。

茅はそういってあーとかうーとか唸っている。

早くしてくれないかなぁ。

そう思いつつ、茅の言葉を待ってしまうのは飛竜の癖といってもいい。

茅は少しの間そうやって、そして意を決したように言った。

「あ、あいつって好きな奴いるのか?」


あぁ、どうしよう。

飛竜はとても迷っていた。

こんなことを言ってもいいものか。仮にも主であるこの男に。

そう、彼は仮にも(いや、実際仮ではないが)主なのだ。

こんなことを言ってしまうのは、長年積み上げていた信頼を落としてしまうかもしれない。

だが、だが、だ・が。

もはや飛竜には我慢できなかった。

「何バカなこと言ってんですか?」

他に好きな人がいたら、自分が茅と央で遊んだりしないだろうが。

この人は、どこかでバカだ。



「最近、いいことあったの?」

え?

そう言われて、央はボールの中身をかきまぜるのをやめた。

明日の昼食に入れるおかずと、今日の夕食を作っている最中にいきなり言われた言葉だった。

「だって、央ちゃん最近楽しそうなんだもの」

「たの、しそう?」

「えぇ、とっても」

にこにこと笑うのは、母だ。

嬉しそうににこにこしている母の雰囲気は柔らかい。

その柔らかさが、央は大好きだった。

「あの、ね」

この人に隠し事は通じない。

央はそのことを知っていたし、何より誰かに言いたかったので母親の話に便乗することにする。

「友達が、できたの」

「本当!」

まるで自分のことのように喜んでくれる母親に央も笑う。

そして話しているうちに、央はすべてを洗いざらい話してしまっていた。

もちろん、央はそのことに全く気づかず、にこにことしていたのであった。


「茅くん、か。ちょっと調べてみる必要がありそうね」

くすっと笑いながら、母親は独り言を言った。



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