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残酷な俺の仕事番外編~王族の遊び~

「入るぜ」

 黒髪の少年スバルは、ノックもせず、不躾に王城の一室に足を踏み込んだ。部屋の主も特に気にした様子もなく、木製の椅子に腰掛けたまま、分厚い本に目を通している。

「ギルバート王子、クーガを仕留めたぜ。シリウス隊長は死んだが」

 そう報告した直後の事だった。部屋の主ギルバートは口を開く。

「ソーラー国王から話があるらしい。聖域の間にすぐに行け」 

「聖域の間だと……?」

 スバルは呟きながら顔を引きつかせた。

 聖域の間とは、ゲベート王城にある部屋の一つだ。悪しき心を清めるための場と言われている。それは、罪を犯した者を懲らしめるための場である。

「平たく言えば、懲罰部屋だろ? なんで俺が?」

「詳しい話は聞かされていないが、俺も呼ばれている。大した事にはならないだろう」

「何も起こらないと言ってくれないか?」

「つべこべ言わずにさっさと行け。区切りが良くなったら俺も行く」

 スバルにとって、ギルバートの命令は絶対だ。ため息を吐きながら王城を歩く。


 聖域の間にたどり着くと、先客がいた。整った顔立ちの銀髪の青年だった。琥珀色の瞳を丸くしてスバルに呼びかける。

「君も呼ばれたのか!」

「えっと……わりぃが誰だ?」

「クロードだよ! 君と同期なのに忘れたのか」

「てめぇのような端役を覚えていられるほど頭が良くねぇんだ」

「君はいつか刺す、絶対に刺す」

 クロードの殺気をひしひしと感じながら、スバルは聖域の間の門を叩く。

「お入りなさい。待ちくたびれましたよ」

 中性的な声が聞こえた。

「ルシフェル様が既にいらした!? 申し訳ありません、すぐに参ります!」

 クロードは血相を変えてスバルを押しのけて、門を開けた。

 そこには異様な空間が広がっていた。

 断頭台や、おもりの付いた無骨な鎖や、枷など様々な趣味の悪い道具が足元に広がっている。懲罰部屋に恥じない不気味な雰囲気がある。そんな部屋の真ん中に巨大な丸いテーブルが置いてあり、テーブルを囲むように、八つの椅子が並べられていた。そのうち四つは既に人が座っている。

「遅かったな」

 猛獣のたてがみのような猛々しい金髪を生やした男が口を開いた。ソーラーだ。部屋の最奥の椅子に座っている。

「儂を待たせるとはいい度胸だ」

「も、申し訳ありません! 部屋の中に既にいらしているとは思わずに……!」

 やたら威厳のあるソーラーを相手に、クロードが何度も頭を下げる。

 スバルはあくびをした。

「遅く来たのは悪かったな。さっさと要件を済ませて寝かせてくれねぇか?」

 ソーラーは眉根をひそめて、右隣に座る人物に尋ねる。

「ルシフェル、この無礼者の上司は誰だ?」

「ギルバートですね。咎めておきましょう。それとディーザ、起きなさい。レイブン、こっそりと含み笑いをするのはおやめなさい。」

 ルシフェルの右隣で、テーブルに突っ伏していた人物はゆっくりと起き上がった。両目をしょぼしょぼしている。まだ眠そうである。

 更に右隣の、フードを目深にかぶった人物は、声をあげて笑った。

 ルシフェルはジト目でフードの人物を見る。

「レイブン、堂々と笑っていいと申し上げた覚えはありませんよ」

「私は笑っていない。錯覚だ、ぷぷっ。まさかソーラー国王にこんな態度を示す者がいるとはな、ぷーくすくす」

「処刑されたいのですか?」

「笑っていないと言っているだろう、くくくくく、おっとギルバートの到着だ。座れ座れ!」

 飲み会のオッサンのノリで、レイブンは手招きしていた。

「……嫌な予感しかしない」

 言いながら、ギルバートはレイブンとは離れた椅子に座った。

「スバル、レイブンが見るからに落ち込んでいるから隣に座ってやれ」

「俺だって何となく嫌だぜ」

「場の空気を読め」

 ギルバートに威圧されて、スバルは渋々とレイブンの隣に座った。

 レイブンはうつむき加減で、深いため息を吐いた。

「私は落ち込んでいない。ガラスのハートがちょっと傷ついただけだ」

「いっけなーい、遅刻遅刻!」

 聖域の間の外から、甲高い声が聞こえた。

「ここら一帯は魔力が通じないのを忘れてたよ!」

「エイベル、言い出しっぺが遅刻してどうするのですか?」

 ルシフェルの叱責に、青い瞳の金髪美少年は頭をかいた。

「あはは、きっとどうにかなるよ!」

「まあ、いいでしょう。これで全員がそろいました」

 ルシフェルは呆れながら、話を進める。

「先ほど申し上げましたが、皆さんを集めるように言い出したのはエイベルです。理由は彼が説明してくれます」

「うん、頑張る!」

 エイベルはソーラーの左隣の椅子の上に立った。

「今日みんなを呼んだのは他でもない。反乱軍のリーダーであるクーガ討伐を記念しての事だ。いつもなら盛大なパーティーを開いてもいい。でも、パーティーを開くのはお金が掛かるし、何よりスバルが主役なのは癪だ」

「うるせぇ。何もしなくていいだろうが」

「反論が無いから進行するね。僕は思った。ひっそりと楽しいゲームをするのはどうだろうか」

 エイベルの絶大なスルースキルにより、スバルの不満は一掃された。

「……ゲームなら帰らせてもらう」

 ギルバートが立ち上がったが、どこからともなく現れた黒子二人に抑え込まれて、座らされる。

「誰も帰らないから、続行するね」

「待てエイベル、説明しろ。あの黒ずくめの二人組は誰だったんだ?」

「ギル兄、ルール説明ならこれからするよ。ちなみに、黒子たちについては深く突っ込まない方が身のためだよ。ここはお父様が作った異空間。どんな魔力も無力化される謎の空間なんだ。僕たちがこれからやるゲームは心理戦。人狼と呼ばれるらしい。これが終わったらすぐに仕事に戻ろう」

「……遊んでいる場合か?」

「ルールは簡単。村側と人狼側に分かれて対戦するんだ。話し合いで一人ずつ処刑を行うんだ。村側は人狼を全滅させたら勝ち。人狼は村側と同じ数になったら勝ち。あと、村人以外は特殊な役職がある。占い師は毎晩一人、人狼か人間か占える。霊媒師は処刑された人物が人狼か人間か分かる。狂人は占いでは人間と出るけど勝利条件が人狼チームと一緒。ガーディアンは夜の襲撃の時に、自分以外の誰かを人狼から守る事ができる。簡単だね」

 ギルバートの問いかけはガンスルー。

 ディーザが盛大に首を横に振ってルールを分かっていないとアピールするが、エイベルは強引に進行する。

「ゲームマスターはクロードにやってもらうよ。それじゃぁクロード、まずはカードを配って!」

「はい!」

 クロードは元気に返事をして、一人一枚ずつカードを配った。

「処刑投票で選ばれた人間をリアルに殺していいわけじゃないからね」

「……はい」

 クロードは肩を落として、ため息を吐いた。

 スバルは舌打ちした。

「ため息を吐きたいのはこっちだぜ」

「人狼が二人、占い師が一人、霊媒師が一人、ガーディアンが一人、狂人が一人、村人が一人です。お互いに見られないように、ご自分のカードを確認してください。レイブン様、ここでは相手の魂や記憶を読み取る魔法は使えませんのでご了承ください」

 レイブンが露骨にケッと口に出した。

「何をしようとした?」

「真っ先に逃げようとするよりはマシだ」

 ギルバートとレイブンが見えない火花を散らした。

 スバルは自分のカードを確認する。

 ガーディアン。人狼の襲撃から村人を守る役割を持つ。

 クロードが口を開く。

「それでは皆様、人狼ゲームの始まりです。処刑する人物を決めるために、話し合ってください」

 スバルは思案した。

 ガーディアンは自分の身を守れない。できれば人狼に狙われるのは避けたい。目立つ行動は控えるべきだ。

 また、人狼を守るという凡ミスも避けたい。一回目の話し合いを静観し、冷静に状況を見極めようと考えた。

 しかし、事態は思わぬ方向に進む。

「カミングアウト。俺が人狼だ」

 そう言って手を上げたのは、ギルバートだった。

「仲間はレイブンだ」

「待て、ギルバート。積年の恨みがあるからって卑怯だろう」

「俺とレイブンを処刑すればすぐにゲームは終わる。さっさとしろ」

 レイブンは見るからにうろたえた。

「ま、待て。俺は占い師だ。処刑したら村側が困る」

「いえ、占い師は私です」

 今度はルシフェルが口を開いた。

「レイブンは狂人か人狼です」

「人狼のなりすましだ。人狼の俺が言うから、間違いない」

 ギルバートが腕を曲げて両手をパーにして、降参のポーズを取った。

 ルシフェルは眉をひそめる。

「……あなたの言うことを信用する根拠もありませんけどね。あなたが狂人で、あえて怪しまれる行動をすることで、人狼を救おうという作戦かもしれません」

「試しに俺を処刑して、霊媒師に聞けばいい。俺は襲撃しない。名乗り出ろ」

「この儂に命令をするのか?」

 ソーラーが荘厳な口調で言い放つ。

「ギルバート、貴様の部下の無礼の責任も取ってもらうぞ」

「いいだろう。クロード、処刑先は決まった。さっさと進行しろ」

「本当によろしいのですか? エイベル様とディーザ様が何もおっしゃっていないのですが」

 スバルの事は忘れられたらしい。

「僕はいいけど……」

「俺もいい。さっぱり分からん」

「お二人の同意を得たので、処刑投票を行います。それでは、指差ししてください」


 ギルバート 六票

 レイブン 一票


 レイブンを指さしたのは、ギルバート一人であった。

 クロードが進行する。

「それでは、ギルバート様はこれより人狼ゲームにて発言する権利を失います。皆様の動向を静かに見守っていてください。皆様、両目を閉じて下を向いてください。恐怖の夜が来ました。人狼は襲撃先を、占い師は占う相手を、ガーディアンは守る人を選んでください。まずは霊媒師の方は顔を上げてください。先程処刑された方は、こちらです。では両目を閉じてください。続いて、人狼の方は……」

 スバルは結局、レイブンを守る事にした。

 ギルバートは人狼仲間だと言っていたが、直感で嘘だと思ったからだ。

 ディーザがいびきをかいているが、進行される。

「朝がやってまいりました。人狼に襲撃されたのは、スバルです。もっと、もがき苦しむ姿を見たかったのですが残念です」

「うぜぇゲームマスターだな」

「スバルも発言する権利を失います。やーいざまぁみろなどとは言えませんが、進行します。それでは、話し合いを始めてください」

 真っ先に手を上げたのはソーラーだった。

「やはり、ギルバートは人狼だった。儂が言うのだから間違いない」

「嘘八百で人を騙すのがこのゲームだが……そうか。ギルバートは人狼だったか。人狼が減ったなら村側に有利だ。占ったが、ルシフェルは人間だった。処刑する必要はない」

 レイブンの言葉に、ルシフェルは愉快そうに両目を細くした。

「ありがとうございます……と言いたい所ですが、本当の占い師は私です。レイブン、あなたは人狼です」

「……そう来るか。ルシフェル、おまえは狂人だ。村側は騙されてはいけない」

「でも、ギル兄は本当の事を言って処刑されたんだよね。そうでしょう、お父様?」

 エイベルが言った。

 ソーラーは両腕を組み、仰々しく頷いた。

「儂が正しい」

「ギルバートは私を陥れるために罠を仕掛けたのだ」

「レイブン、往生際が悪いですよ。ディーザも言ってやりなさい」

 ルシフェルに応えるように、ディーザは起き上がった。

「よく分からんが、レイブン処刑すればいいだろ。めんどくさいから」

「勝負を投げるな、騎士王子の名が泣くぞ!」

「とりあえず、レイブン処刑に一票。俺は寝る」

 そう言って、ディーザはテーブルに突っ伏した。

「……僕もレイブンが怪しいと思う」

「エイベル、おまえまで……!」

「やっぱり、ギル兄が嘘を言うとは思えないんだ」

「クロード、みんなに本物の人狼を教えてやれ! 第三王位継承者として命ずる」

 レイブンの命令に、クロードが両目を白黒させた。

 ルシフェルが微笑む。

「第一王位継承者として命じます。クロード、答えなくて良いです」

「とりあえず、処刑投票のお時間としてよろしいのでしょうか?」

「貴様らぁぁあああ!」

 

 レイブン 四票

 ディーザ 一票


 ディーザを指差したのは、レイブン一人だった。

「これよりレイブン様は発言権を失います。ギルバート様、笑いを堪えきれないといわんばかりに含み笑いをするのは、できればおやめいただけますでしょうか」

「……これでも堪えてる、くくくくく」

「皆様、両目を閉じて下を向いてください。恐怖の夜が来ました。人狼は襲撃先を、占い師は占う相手を、ガーディアンは守る人を選んでください。まずは霊媒師の方は顔を上げてください。先程処刑された方は、こちらです。では両目を閉じてください。続いて、人狼の方は……」

 人狼ゲームが続いているという事は、人狼が全滅していない証拠だ。

「馬鹿な、どういう事だ!?」

「ソーラー国王、今は両目を閉じて静かにしていましょう」

「ルシフェル、まさかこの儂が騙されたのか……?」

「とにかく両目を閉じましょう」

 静かになった所で、クロードが口を開く。

「襲撃されたのは、ソーラー国王です。ソーラー国王は発言権を……」

「許さん、この儂を襲撃した者は名乗り出ろ!」

 激高するソーラーを、ルシフェルがなだめる。

「これはゲームです。実戦で負けなければ良いのですよ」

「ぐぬぬ……それも、そうだな」

 ソーラーが大人しくなったところで、話し合いが始まる。

「私は占いが全くできない偽物です」

「わーいルシ様が味方なら心強いよ!」

 意気揚々とエイベルがバンザイをした。

「ディー兄寝てるし、もう処刑しようか」

「ディーザ、起きなさい。処刑の時間ですよ」

 ディーザはむくりと起き上がった。

「なんだ終わっていなかったのか」

「はい、もうすぐ終わりますよ。一緒にエイベルを処刑しましょう」

 ルシフェルが微笑む。

 エイベルの表情は凍りついた。

「え、なんで? 偽物の占い師なんだよね?」

「だって、本物の占い師俺だから」

 ディーザが言った。

 沈黙がよぎる。

 いくらか時間が経った。

 ルシフェルが微笑む。

「私はただの村人ですよ」

「え」

「占いができない事に嘘はありません。人狼の味方のフリをして、襲撃を免れましたが」

「ええええええ」

 エイベルが汗をダラダラと流す。

「そ、そんな……だって、レイブンがクロードを使って狼を暴こうとしたのを阻止したのに」

「阻止した方がゲームが面白いでしょう。ではエイベル、さようなら」

「そんなぁぁあああ!」

 

 エイベル 二票

 ルシフェル 一票


「村側の勝利となりました。おめでとうございます。それぞれの役職は、人狼はギルバート様とエイベル様、占い師はディーザ様、霊媒師はソーラー国王、狂人はレイブン様、村人はルシフェル様、ガーディアンはスバルでした」

「待って、村人は嘘をついていいルールなの!?」

「エイベル、村人が嘘をついてはいけないというルールは言われておりません。今更ルールを変えるのは見苦しいですよ」

「もう一回やろう、今度こそ負けない!」

 エイベルがムキになっているが、ギルバートは聖域の間を出た。

「レイブンが慌てるのを見たから良しとするが……二度とやるか、こんなもの」

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