第37部
「じゃあ、そろそろ話を始めるか」とグリシュは言うと、さっと右手をあげた。
周りの景色がみるみる変わり、風がヒュンとなったような気がした
クリスタルは少し意識が飛んだ。
見たことも無いほど豪華な白大理石の
誰かの王族のプライベートルームのような部屋。
幾つもの燭台が部屋の壁に立てられて明々と灯が燈されている。
そんな部屋の中にいつの間にかリユとグリシュと三人で立っていた。
「グリシュちゃん? お待ちしてました」と聞き覚えのある可愛い声。
ルチアナが、女教皇の僧衣を着て、にこやかにほほ笑んでいた。
ーーここは女教皇の部屋??--
「重要なお話があるとかで、お待ちしていました」とルチアナ。
「グリシュちゃんの好きなカモミールティーをご用意しましたよ」
と笑顔で指し示す先には
豪華な色大理石のテーブルに、絹のクッションのついたお洒落な椅子があり、テーブルの上には、四人分のカモミールティと上品な砂糖菓子が置かれていた。
「わぉ♪」リユがが喜んで走って椅子に座ると、モリモリお菓子を食べ始めた。
グリシュも座ってカモミールティを飲んでいる。
「お前も座れ」とグリシュ
仕方ないのでクリスタルも座ってお茶を飲み、お菓子を摘まんだ。
お菓子はこれまで食べたことない程上品な甘みで美味だった。
「この方が聖王ジョー・デウスの息子さんなのね」と女教皇。
クリスタル「……」クリスタルは何か言い返したげだったが言い返すのをやめた。
「そうだよ。ルチアナ」とグリシュ。
二人はため口で喋っている。
「ルチアナ、君はどういう状況であの時空の狭間の領域に閉じ込められたんだ?」とグリシュ
「どうやら、私はあの時空の狭間に10年間閉じ込められていたようですね」というと、女教皇はカモミールティをごくんと、一口飲んだ。
「私は聖王様に、ある計画があるので、参加してほしい、と言われてお夕食に招待されたのです。それから覚えていないのですよ。気が付いたら、あそこに一人ぼっちで放置されてた」
「俺はジョー・デウスがルチアナをあの時空の狭間に連れ込むのを魔法の鏡で目撃したのさ」とグリシュはカモミールティを香りを嗅ぎながらゴクリと飲んだ。「良いカモミールだ」
「うふ♪」とルチアナ
「ジョー・デウスのどんな意図があったのか、俺には分からない。しかし、ろくな奴じゃないとだけは分かる……お前の話をおふくろから手紙で知らされて、それで、なるほど、と納得いったのさ」とグリシュ。
「うふ♪」とルチアナ
「♪誰かを傷つけていいわけじゃない。♪自分自身が傷ついたら~それで終わりにしないといけない♪」と笑顔でルチアナは有名な詩人の一句を口ずさむ……彼女の言いたいことはクリスタルによくわからない。
グリシュが言った
「クリスタルは産まれた時、父親に悪魔の生贄にされ、身体と魂を悪魔に捧げられた。お前の父はそうしてヴィルガルド大陸の覇王となり、この大陸に君臨する聖王とよばれる人間になった。そもそも生まれは小国の第三王子だったが、なぜか上の二人の兄が次々と死に、やつは王となった」
「聖王ジョー・デウスはどうであれ、このヴィルガルドに平和をもたらしたのよ。戦争はなくなり諸国の庶民も平和に暮らし盗賊団なんかも減ったしね。なにより善政を布いているのは事実なのよ。庶民の評判はとても良いわ」とルチアナ。
「悪魔に願って作られたこの聖ヴィルガルド帝国がかい?」とグリシュ
「手段はどうであれ、今のこの世界は人々にとって望ましい好ましい良い平和な世界よ。それが一番大事」とルチアナは言う。
「きみがそう言うとは思わなかったよ。ジョー・デウスもたぶん、そう思って、君は自分の実現しようとしている世界の邪魔をするだろう。と思って、彼は君をあの、永劫に時間の経たない世界に封印したんだろう」とグリシュ。
「そうなのかしら?」とルチアナ。
クリスタルはたまらず発言した
「……僕は……誰も恨んでない……ただ、僕はハルモニア王国で幸せに暮らしてた。恐怖の呪いを受けても、育ての母マダム・ブラスターがその呪いを封印してくれた。アナスタシアとも相思相愛でだったのに、奴らはアナスタシアをドウルガの生贄にして、ハルモニア王国にも恐怖の呪いをかけた。そしてアナスタシアを奪いにいった僕の呪いの封印を解いた。母はとっさに自分の命を犠牲にして僕の呪いを封印したんだ。僕は母と恋人を取り返す。僕の故郷のハルモニア王国もとりかえす」一気にクリスタルはこう話し切った。
「俺は、クリスタルを手伝う。君は、手伝わない。そういうことだね?」とグリシュ。
「ええ、そうなるわね」「わかったよ」とグリシュは言うと、少し何か考えていた。
グリシュは再び右手をあげた。
ヒュンと風が鳴り、クリスタルはすこしフッとなった。
周りの景色は元の宿の部屋に戻った。
「あ~ん、まだお菓子全部食べれてなかったのに~」とリユ。
「ジョー・デウスを倒して、お前は、そのフォボスの呪いを解き母親を救い、ドウルガの呪いを解き、アナスタシアを救いたいんだろう? そのために俺に手伝って欲しいんだろう?」
「うん……そうだ。よく……俺の心が分かるな」とクリスタル
「そりゃ、魔法使いだからな」とグリシュ
「俺に一任しろ。俺が作戦を立てる。しばらくこの宿で待ってろ」
とグリシュは言うと、また氷の結晶を作り出し、バタンと開いた窓から、氷の結晶に乗ってすごい速さで何処かへ飛び去った。




