第36部
クリスタルはグリシュと話がしたかったが、グリシュは「俺も酷い格好だな」と言うなり左手を振ると、大きな氷の結晶が眼の前に現れて、それに飛び乗ってすごい速さで何処かへ飛び去った。
次の日、女教皇ルティアナからリペナの町の宿屋に使いが来た。
宿の前に六頭立てのアンクの紋章の入ったワイン色の金縁の豪華な馬車が止まっていた。
馬車の窓から女教皇がチョコンと顔を出すと「みなさん、どうぞお乗りください」と可愛い声で言った。
「わあ、すごい馬車だ」とリユがはしゃいでいる。
クリスタル、リユ、ハミル、ステラ、ジョイと女教皇ルティアナを乗せて、六頭立ての金縁のワイン色の馬車は街道を走る。
女教皇市について、馬車は女教皇宮殿の前で止まった
女教皇宮殿の最奥の謁見の間で、五人は暫く待たされた。
きっちり着替えて正装した女教皇ルティアナによって五人に褒賞が行われた。
人狼の僧侶ジョイには、大僧正への任命と、さらに神聖魔法騎士への任命が行われた。
クリスタル、リユ、ハミル、ステラには金貨500枚が報償として支払われた。
クリスタルはグリシュを捜したが、彼はそこには現れなかった。
「みなさん、がんばって活躍してくださってありがとうございました」と女教皇が謁見の間で玉座に座ったままチョコンと頭を下げた。
「グリシュに報償は出ないんですか? 彼はどこにいるんですか?」とクリスタルは女教皇に聞いて見た。
「グリシュ・ルドさんは、自分は報償は要らない、とおっしゃってます。いま何処におられるかは、わたくしにはわかりません。ごめんなさいね」と小首をかしげて瞳をクルンと回してすまなさそうに答えた。
女教皇庁市の宿の部屋で、リユは金貨を幾度も数えている。
「1ま~い、2ま~い、……199ま~い……399枚……500枚! うふふふ♪」
クリスタルはリユと女教皇市の中クラスの宿で二人部屋を取っていた。
今、下の食堂に注文した紅茶をおばさんが持ってきてくれたところだった。
部屋に置かれている背もたれの無い木の椅子に座り、質素な木のテーブルに肘をつきながら、またグリシュに会うのはどうすればいいか、と考えていた。
すると、閉じられていた窓が急にバタンと開き、突然、つむじ風が部屋の中に入り込んでリユが、欲しいものリストを書き込んでいたメモの紙を巻き上げた。
「きゃーーなにーーこの嫌な風めーー!」とリユが癇癪をおこして叫ぶ。
部屋の中に、世界一の天才魔法使いでルド公国の王太子、グリシュ・ルドが立っていた。
服装も髪型も一新していたが、相変わらず髪を黄金の百合の魔具の簪で束ね、シルクの様な緩やかな服にズボンと編み上げのサンダルを履いていた。
顔は少し上気していて酒を少し飲んでいるようだ。
まるで化粧したように頬と唇が紅く、
それが一層、この男の女顔を引き立て息を呑むほど美しく見える。
「よぉ、今度はお前の要件を聞きにきたぜ。だいたいは聞かずとも分かってるが」
とグリシュは、もう一つの空いている椅子に座り頬杖をして、クリスタルの顔を見つめて言った。




