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第17部 女傭兵奇談前日話

   ビシュヌ王国の城門の前で領主の代理人らしい貴族の服を着た髭を生やした官僚らしき人物が言った。


「大儀であったとベル王妃様よりのお言葉である。ではこれで」


「ちょい待てよ。金貨400枚の仕事料はまだもらってないぞ!」とリンダが語気を荒げている。


「そのような約束した覚えはない。その方らが義侠心とやらで参戦したのであろう?」


「いいかげんにしろよ。おれらは傭兵だぜ! そんなもんで飯食えるわけねえだろが! 金払えよ!踏み倒そうってのか?ぶっ殺すぞ!」

 とギニーンが剣のツカに手をかけて貴族の官僚ににじり寄るのをリンダが間に入って止めた。


「ボロボ、どうなってるんだい?」団長で傭兵隊の経営者のボロボはしょげ切っていた。伊達で生やしている似合わない髭もシュンと力なく垂れている。


 ベル王妃に直談判に行ったのだが、知らぬ存ぜぬで白を切り通され、挙句に城を追い出されたらしい。

 さっさと、『依頼者の代理人』という城側の貴族の官僚は引きあげてしまった。

 城門には城の警備兵が1000人、バリケードを作り、守っている。

 臨戦態勢の警備状態である。


 さっき、もしも、ギニーンが貴族の官僚を傷つけていたら、おそらく1000人のビシュヌ軍は躊躇なくボロボ傭兵隊にとびかかり、戦闘になっていただろう。

 城門はものものしい警備状態であった。

 商人や町人は通しているが、武装した傭兵らしき者は通行できない。


 ビシュヌ国の辺境の荒野で野営することになったボロボ傭兵団のところになじみの商人が必要な商品を数頭の馬に乗せて運んできた。しかし町に入れない足元を見ているのでいつもよりかなりぼったくりの値段である。


 ギニーンとリンダがハルナのために真っ先に荷馬車の幌を直した。

 ボロボは今度は鉄の箱に金貨をしまいなおしたらしく、荷馬車の隅には元の木箱と同じくらいの大きさの鉄の箱が置かれていた。


 この戦闘で8人のボロボ傭兵隊の兵士が戦死したそうである。

 生き残った傭兵たちは、その死体を穴を掘り葬り、ボロボが幌馬車にある唯一の本である聖書の祈りの言葉を述べて、簡単に葬式を済ませた。


 炊事当番の兵士が大鍋でうまそうなシチューを作っている。

 薄い塩味に豆と玉ねぎと野菜と薄く切った干し肉が入っている。

 大きなパンが1個配られ、ギニーンがコップを1個渡してくれた。

 そのコツプに順番にシチューをもらう。

 岩山からちょろちょろと清水が湧きだして落ちているその場所はシャワーで身体を洗う男たちの順番待ちだ。

 492人の兵士たちに給料が払われる。一人銀貨100枚づつだ。あといろいろな褒章が銀貨20枚単位で出て傭兵たちは上機嫌だが、肝心の依頼者からの金貨400枚の仕事料をもらえなかったボロボはしょげ切っていた。

 傭兵は、各自自分の毛布に包まりあちこちで焚かれているたき火の周囲に眠り始めた。たき火の周囲ですり切れたカードでかけ事をしている連中もいる。もらったばかりの給料をかけているのだ。

 幌の直った荷馬車の中で女剣士で傭兵隊隊長のリンダが言った。


「この仕事もってきたのはボロボ、おまえだろ?」


「わかってるよ。姉貴。俺をそう攻めるなよ。ベル王妃からこの話を持ち掛けられたときは破格の値段なんで、やった!と思ったんだよ」


「良過ぎる報酬の話は無視しろ!ていうのは傭兵仲間の常識だよ。おまえがしつこく言うんで引き受けた仕事だったけど、案の定、焦げ付いたねぇ」


「とほほほほ。大損害だよ!」

 ボロボの口調で副隊長のギニーンがおどけて言った。膝の上で眠ってしまっているハルナの頭をがさつな手つきでなでながら、

「何とか言うあいつが反乱を企てて失敗し自分の城に立て籠ってたんだよな」


「バルヌ公」とリンダが即座に突っ込んだ。


「王が死んだ後、バルヌ公が幼いリリン王子とその摂政のベル王妃とその側近のビビット大臣に反乱を起こし、反旗を翻したんだが予想に反して他の貴族がいして蜂起しなかった。ジリ貧で負けちまい、自分の城に立て籠ったけど、それが堅固な城で、ベル王妃側の将軍と兵士が半年たっても落とせず、傭兵団を募集して、特攻させて城を落とそうと計画した。その仕事がうちへきた!という訳だな?」とギニーン。


「で、きっちりその仕事をしたのに、契約した仕事料を白ばっくれて払わない!という王妃様なのさ」とボロボが小さな声で言った。


「まあ、そういう訳だけど、このままってのも寝ざめが悪いけど仕方ないね。相手は一国の王妃さまだからねえ」


 クリスタルは熱すぎるシチューを啜ってパンを齧りながら馬車の隅で3人のその話を聞いていた。

 まわりを見ると、リユがいない。

 仕方ないので、パンとシチューをもったまま、荷馬車の外にでて、リユを探がした。

 傭兵たちがたき火の番をしている当番の者を除いて、みんな毛布を1枚ひっかぶって熟睡しているので、その邪魔をしないように小さな声で


「リユ!おーい、どこにいるんだ?」とリユの名を呼んだ。


「ここだよ。うふふ、友達見つけて連れてきちゃったの」

 見ると、王冠を被った豪華な子供用の貴族の衣装の8歳位の男の子がリユの後ろからおずおずと


「リリンです、こんばんは」と頭を下げた。


 3人が荷馬車の中にはいると、ボロボがこっちを見るとは無しに見て、いきなり素っ頓狂な大声を上げた。


「リリン王子だ!なんでこんなとこにリリン王子がいるんだぁ?」


 リユの話では、リユは荒野の岩陰に隠されてた城への隠し通路の入り口を見つけたらしい。

 その秘密の抜け穴を探検して、王宮に侵入したら、そこは王子の部屋だったらしい。

 王子はしくしく泣いていた。そのままにしとくと可哀そうだと思い、連れてきたというのがリユの話だった。


「なんで泣いてたんだい?」とクリスタルが聞いて見た。


「お母さんが怖いんです。夜中にお母さんの部屋からジュルジュルという音か声かわからない音がして。あとお母さんの様子がおかしくなってから、一週間に一人、王宮の召使か兵士が消えるんです。原因不明で」


「お母さんがおかしくなったのはいつから?」


「お父さんが亡くなった直後からです。それまではとても優しいお母さんでした。野菜食べろ!とかは厳しかったけど……」


「最近、僕を見て、うひひひ。あれが済めばおまえを食ってやる!と僕を見て呟くのが僕に聞こえたんです」


「怖えぇ~~!」


「そりゃ、怖いわぁ!」


「僕、お母さんの部屋に入ってベッドの下を見たら、人骨があったんです。その人骨は小さい頃僕がお母さんの誕生日にプレゼントした僕の手作りのビーズのブレスレットがつけてました。僕のお母さんは僕がプレゼントしたビーズのブレスレットを肌身離すことがなかったんです。もしかしてその人骨は……わぁーーん!」


「王子の話から推測するに、王妃はすでに化け物に食われてて、王妃に化けてるその化け物は次にリリン王子も食おうとしてる!ということだな」とクリスタル


「だねぇ、どうしたものかなぁ」とリンダ


 クリスタルが言った。

「王子は嘘言ってないと思う。それならとんでもない話だ。もともと揉め事あって後腐れのある、あんたらはここにいときな。ここで何の縁も無い俺が片してくる。このまま城に王子を返したら、王子が化け物に食われるのを見殺しにしちまう」


 クリスタルは「リリン王子のためにリユと王宮に侵入する」と告げて、

 リユを伴って、リユに案内させて、

 荒野の岩陰にある秘密の隠し通路から王宮に侵入した。


 目的はーーリリン王子の安全のために、王妃を食い殺した魔物が姿を変えている王妃の暗殺だった。

 王宮の構造に慣れたクリスタルは検討をつけてほとんど迷わずに、

 むしろリユを大人しくさせるほうに苦労しながら、

 王妃の部屋へと侵入した。



 王妃のベッドを見ると、そこには2メートルもある毛むくじゃらのサルの化け物が

 王妃の冠をつけて寝ていた。

 クリスタルはダイモスで眠っているサルの化け物を切ろうとしたが、妖剣ダイモスが反応しない。

 リユが、「これ幻影だね」と言った。


「鏡に映すとわかるよ」と教えてくれた。


 クリスタルはダイモスの剣に映っている部屋を見た。

 天井にサルがぶら下がって、ランランと光る眼でクリスタルを見ていた。

 口を開いて、今にも飛びかかるその前に、

 クリスタルは剣に映ったサルを

 妖剣ダイモスで素早く切り裂いた。

「ぐはっ!」

 妖剣ダイモスにうっつたサルの姿を見ながら、

 サルの頭にダイモスを渾身の力で突き立てた。


「ぐぎゃああぁぁあぁーー‼」


 すさまじい絶叫が上がり、サルの化け物がぴくぴくとしたかと思うと、動かなくなり息絶えて横たわっていた。

 クリスタルはそのまま、うずくまった。舌に痛みを感じたからだ。

 口から大粒のアメジストの宝石がコロンと転がり出た。

 リユがそれを拾うより早くクリスタルは拾うとポケットに入れた。


「うわぁあ!」叫び声がした。


 クリスタルの後ろに、リリン王子が何時の間にか戻ってきていて、

 サルの化け物の姿を見て腰を抜かしていた。


「これで王子さま、あんたは安全になったはずだな」


「すいません、ありがとうございます」リリン王子は小さな声でクリスタルに礼を言った。

 クリスタルはそのままリユをつれて王子の部屋の隠し通路から荒野の傭兵隊の馬車へ帰った。


 つぎの日ビシュヌ王国の王宮は大騒ぎになったが、リリン王子が無事だったので、騒ぎはじきに収まり、ベル王妃が病死したという発表がその日のうちにビシュヌ王国であった。

 リリン王子より、その日のうちに使者がボロボ傭兵隊の元に来て、

「王宮に来て欲しい」ということだった。


 クリスタルがリユ、リンダ、ボロボ、ギニーン、ハルナと共にリリン王子が王座に座る大広間に入った。

 全員が膝まづき、頭を垂れて王子に挨拶をしている間にリリン王子はビビット大臣に何事か命じた。そしてすぐにビビット大臣より、リンダに約束の報酬の金貨400枚が支払われた。

 そしてリリン王子より、クリスタルに


「おにいちゃん、僕を助けてくれてありがとう」

 というお言葉が笑顔でクリスタルに直接述べられた。


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