第15部 ウィルガルド大陸伝奇
クリスタルはベリラに売りつけられたウィルガルド世界地図を広げた。
ーーこれを金貨10枚で売りつけられたので(残金がリユの食費で所持金がかなり減ってた)ルド町を出るとき、所持金は金貨2枚だった。
この獣人の住んでるあたりは地図にペナイ荒野と記されていた。
ペナイ荒野と聞けばクリスタルはお馴染みの家政婦のミルルさんから4、5歳の頃、寝るときに聞かされたおとぎ話があった。
家政婦のミルルさんが4,5歳のクリスタルに寝る前に語ったおとぎ話は
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むかし千年の昔、ペナイという都がペナイ荒野にありました。隣国には戦争好きの悪しき王ファヌという暴君がいて、幾度もペナイの都に戦争をしかけてきました。ペナイの都の近くの鉱山ではたくさんの宝石が採掘されペナイは豊かな都だったので、征服して重い税金をかけ自分が他の国を侵略する資金源にしようと思っていたからです。幾度となく、戦争が続き、ファヌ王の軍がペナイの都に迫りペナイ軍はもう負けるのは時間の問題となりました。その時、全身甲冑の戦士が現れ、隣国の暴君ファヌ王の本陣に切り込みファヌ王の首をとり、ペナイ王の前に持ち帰りました。そのおかげでファヌ王軍は総崩れとなり、撤退していきました。ペナイ軍は勝ちました。ペナイの都は熱狂し、ペナイ王は予てよりファヌ王の首をとった者には何者であろうと、自分の一人娘ウェア王女の婿にする!と約束していたので、その英雄を、ウェア王女の夫にすると宣言しました。その全身鎧の英雄が、兜を脱いだ時、それは人ではなく、ウェア王女の飼っていたペットのオス狼ウルフだったのです。その狼は魔力を持った狼でした。ペナイ王と王妃とペナイの都の人々は態度を豹変させ、ウルフを殺そうとしました。しかしウェア王女はそれを庇い、ウルフと共にペナイの都を脱出し、人跡未踏の荒野へ逃げてそこで暮らしましたとさ。ウェア王女とウルフの間には獣人と呼ばれる子供たちが産まれ、ペナイ荒野には獣人と呼ばれる人々が暮らすようになりました。
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「確かこんな話だったな」
クリスタルは思い出した。
クリスタルはザムドに聞いてみた。
「あんたらの先祖はウエア王女とウルフかい?」
「ああ、そうですよ。その二人が俺たちの祖先ですよ。
千年前のことですね。この下にある地下洞に二人のお墓があります。
ご案内しましょうか?」
クリスタルは墓参りまでする気はなかったので
「いいよ」と断ろうとしたが、
リユが口を挟んだ。
「わーい、行きたいな」
リユはいそいそとザムドをせかして行こうとした。
クリスタルも仕方ないのでついていくことにした。
ザムドの家の巣穴の奥にその地下洞へ降りていく狭い洞窟の道があった。
ザムドとクリスタルとリユは松明を持ち、その狭い地下道を延々と下へ下へと降りて行った。
大きな水の流れる音がしてきた。
地下道を一番下へ降りると、そこにはすごい大きな宝石の原石がゴロゴロしている地下の大空洞があった。
まわりの壁はすべて色んな宝石の原石で埋め尽くされていて、松明の炎に照らされ、キラキラと輝いた。
宝石の原石で埋め尽くされた大空洞の先に大きな崖があり、その下を地下の河がすごい勢いでごうごうと音を立てて水が流れていた。その崖の上に二人の墓があった。
千年前の墓とは思われないほど手入れが行き届いていて、周りにはその洞窟に生えるヒカリゴケが集められ、敷き詰められていた。
ザムドが言った。
「ここは俺たち獣人の聖なる場所なんだ。みんなこの場所を大事にしてるんだよ」
ザムドが膝まづいてその墓に祈りをささげた。
クリスタルもその墓の前で、ザムドの付き合いでひざまずいた。
「あたし、ヒカリゴケのお花お供えするね」とリユがクリスタルの後ろで言った。
クリスタルが後ろを振り返ると、
その時、リユは崖に咲いているヒカリゴケの花を取ろうとして身を乗り出したのが見えた。
地下洞はコケで滑りやすかった。
一瞬、リユの手がヒカリゴケの花をつかんだ!と思ったが、そのままリユは
「きゃあああ!助けて!」
と悲鳴をあげ、そのまま下の地下の激流に飲まれていった。
クリスタルはそのまま崖に走っていき、急流に飛び込んだ。
しかし、水の流れはすさまじくリユに泳ぎ着き、ただしっかり抱きしめるのが精いっぱいだった。
そのまま二人は激流に飲まれ、クリスタルは意識を失った。