第14部 ウィルガルド大陸伝奇
ジナナ村の人が森の中で迷っていたクリスタルの馬を見つけて連れてきてくれた。
クリスタルは荷物を整え、ジナナ村の人たちに総出で見送られて、出発した。
ジナナ村で水筒を1つもらって今度は水筒はクリスタルとリユが1こづつが持った。
森が終わり、また荒野が延々と続く。
岩山やまばらに生えている雑草の景色がどこまでも続く。
所々に、枯れた木や草がある風景が果てしなく続く。
あてどもなく馬に揺られて歩くうち、クリスタルは夕方、渓谷に出た。
まわりは高い断崖絶壁で、その谷底を馬に乗って
後ろにリユを乗せてカポカポ歩いていた。
断崖絶壁には無数の穴が開いていた。
そこから鳥が顔をだした。
鳥はカラスに似ていて身体が金属製の彫像みたいだった。
それが生きて動いていた。
鳥は一斉に空に飛びあがると、羽を震わせた。
下から見ると、たくさんの羽が抜けたように見えた。
その羽がクリスタル達めがけて、羽のついた矢のようにいっせいに落ちてきた。
めちゃくちゃヤバイ。
クリスタルは馬の腹にけりを入れて走らせた。
自分は剣を真上で水平に回転させて矢を防いだ。
それで走り抜けて突破するつもりだった。
リユが気に入らさなそうに言った。
「性格悪い鳥ね。そんな悪い鳥は、あたしの美声をプレゼントしてあげるわ」
リユは大声で歌いだした。
♪かわいい蝶々と~きれいなお花~ニコニコお日様♪
♪こうさぎ~こいぬ~こぐまがなかよし~おさんぽおさんぽ♪
ウィルガルドの良く知られた童謡だったが
すごい調子はずれのひどい歌だった。
最悪!
剣を回転させているクリスタルはメンタルまでダメージうけるほどの
ショックを受けたが、踏ん張って剣の回転を維持して逃げ続けた。
馬も狂乱状態になりスピードはすごい暴走状態になった。
上を見ると、鳥は逃げ去って、1羽もいなくなっていた。
「どう、あたしの美声に聞きほれた?」今度は馬をなだめるのが大変だった。
目の前にいきなり獣人が現れた。
獣人が馬に向かってうなると、びくっと馬はおとなしくなり止まった。
獣人が話しかけてきた。
「ありがとう、おかげで巣穴を取り返すチャンスを貰えた。無事に家に帰れたよ」
リユが聞いた「なんのこと?」
「お嬢ちゃんの歌のおかげで鳥が逃げ出したその隙に巣穴を取り戻せた。
あの断絶壁の無数の穴は俺たちの家だったんだが、
子供たちにも狩りを教えるために全員が
狩りにでて留守にしてたあいだに、
あの金属鳥たちに乗っとられたのさ。
そのせいでずっとここ数週間 野宿だったんだが、助かったよ。
どうだい、今からうちに来ないか?お礼がしたいんだ」
よくわからないが、知らない間に人助けしていたようだ。
お言葉に甘えて、獣人の家に世話になることにした。
谷の下から断崖の巣穴に登る細い道があった。
馬をおりてたずなを引いて登った。
獣人に案内されて登ると、崖の穴の一つにでた。
穴の中は広くて暑くもなく寒くもなく快適だった。
彼の名前はザムドと言った。
中に入ると、奥さんが肉を焼いて出してくれた。塩かげんもちょうどいい。
リユは遠慮なくたらふく食べた。
クリスタルは、ザムドが見たところあまり裕福そうではないように見えたので
遠慮していた。
「これはお礼なんだから。俺は代表で恩人の接待を
することになったんで、食べてほしい」と言われ、ようやく肉を食べた。
水は貴重品のようだったが、すぐ下に地下の洞窟があり、
そこに水源があるそうだ。
毛皮を何枚も重ねた寝床でリユと折り重なって寝た。
馬も水を飲ませて干し草を食べさせてくれた。
つぎの日、目を覚ますと、獣人の巣穴に
木のドアをつけるために、獣人達は
夜通しドア作りをしていたらしい。
ゆうべ、夜中にトントンカンカンうるさかったのはそのせいか。
朝、外に出てみると、巣穴には全部、木のドアがついていた。
これなら金属鳥に……大丈夫だろうか?
獣人がリユにあの歌を教えて欲しいと、余計なことをいった。
リユは調子に乗ってまた歌いだしたが、
真似できるものではないことは獣人にも分かったようだ。
全員が耳を塞ぎぶった。一人がひきつけを起こしながらようやくリユにすまなそうに言った。
「ありがとう、もういいよ」
外で「おぃ、ザムド、鳥がまた攻めて来たぞ!」
という獣人の大声が聞こえた。
獣人は子供も含め77人いたが、全員で鳥を迎え撃った。
金属鳥は40羽ほどいて強く、子供たちがケガし、
それを助けようと大人もケガをして、みんな家に逃げ込み、
結局ザムドとリユとクリスタルだけになった。
リユは、また歌った。
ところが鳥はそれよりもっとすごい金属音をだし、リユの歌声を打ち消した。
様子をみていたクリスタルはつぶやいた。
「仕方ないか」
クリスタルは大きく崖の一番高いところからジャンプすると、
一番低いとこにいた金属鳥を踏み台にして、階段のように登り
上にいた鳥たちに攻撃を加えた。
上から1羽づつ、妖刀ダイモスで軽く攻撃すると、
金属鳥はすぐに叫び声をあげて、光の粉になって消えた。
3羽ほど倒して、1羽の上にのっかって様子をみた。
すると、なんとその1羽が話しかけてきた。
「お前の強いのは分かった。許してほしい、もうこの断崖の巣穴は狙わないよ」
クリスタルは金属鳥の言葉を信じることにして、
ジャンプして断崖の上に降りた。
すると、喉に痛みを感じた。
喉からポロリと大きなエメラルドが落ちた。
クリスタルは自分の声……声帯が本来のものに戻った感じがした。
クリスタルはエメラルドをジャケットのポケットにしまった。