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白とカフェと彼女とピンク  作者: 水夜原 奈月
1/1

駅での出会い

桜舞う四月。

暖かな日差しが肌を温め、心地の良い風が吹く。


よく晴れた日。俺は駅の改札を出ると真っ直ぐ正面のロータリーに向かった。しばらく周りを見渡していたが、大きな溜息を吐くとポケットからスマートフォンを取り出した。

そしてある人物を呼び起こす。数回のコール音の後その人物は出た。


「はい、ん? あれ、どうした莉斗くん、電話なんかしてきて。珍しいね」


その声を聞いた俺は、絶頂まで高上った心中の思いを抑え返答する。


「瑠衣さん、今どこですか?」

「今? 店だけど」

「今日何の日か分かりますか?」

「エイプリルフール?」

「違います。それ昨日です」

「何?」

「忘れたと?」

「忘れました」


「はぁー」俺は今日2度目の溜息を吐いた。そして告げる。


「瑠衣さん、よく聞いて下さい! 今日は俺が白根に引っ越して来る日です! だから! 時間になったら瑠衣さんが迎えに来てくれる約束だったじゃないですか!」


「……」


沈黙、のち爆音。


「えェェ!? 嘘! それ明日じゃ無いっけ!」

耳が痛い。唐突に叫ばれた俺は反射的にスマートフォンを耳から離した。


「違います。今日です」

「ちょ、ちょっと、待っててすぐ行くから」

「早く来てくださいよ」


スピーカーの奥から激しい物音が鳴り響いた後、通話が切れた。


彼女は冴島瑠衣。俺の叔母だ。もう少し詳しく言うと俺の母親の姉にあたる。


そして俺は佐々木莉斗、この高一の春からこの白根の町で一人暮らしを始めることになっている。


なぜ高一から一人暮らしを始めるかというと、両親が今年からしばらく海外に長期出張することになったのだ。

俺も高校生だし一人暮らしをしても何ら問題はなかったのだが、この白根でカフェをしている瑠衣さんが、一人暮らしは不便だし、不安も多いから周りに少し身内がいた方が安心だということで白根に引っ越してくるように言われた。

両親もそれについて多いに賛成したため、瑠衣さんのカフェの近くに小さなアパートを借りてくれた。


そして、俺は今日この町に引っ越してきたのだが迎えに来るはずの瑠衣さんがまだ来てないのでしばらく時間を潰さなくてはならない。


しかし白根は小さな町だけに駅も小さい。なので、駅周辺に時間を潰せるような所は無い。この駅にあるものといえば綺麗に咲いた桜、色とりどりに花が咲く花壇、それとベンチくらいのものだ。


「はぁー」俺はまたひとつ溜息を吐くとブラブラとベンチへと向かっていった。


自販機でコーヒーを購入した俺はベンチに腰を下ろし桜の散る景色を眺めた。

「ニャー」


不意に聞こえた声に俺は足元を見ると、毛並みの白い猫が俺の足に体を擦り付けていた。よく見ると首輪を付けているので飼い猫のようだ。


「飼い猫か? どっから来たんだ。よいしょっと」


俺はその猫を自分と同じ目線まで抱き上げると、猫の目をマジマジと見つめた。


「ニャー?」


不思議そうに首を傾げる猫を見て俺は思わず笑った。


「はは、お前かわいいな。可愛いすぎて食べちゃいたいくらいだ」


気のせいかどうか一瞬猫がビクリと震えた気がした。


「冗談だよ。はぁー」


猫を膝の上に乗せると今度は猫と桜の散る景色を眺めた。

今日の天気の丁度いい暖かさを感じてか猫は俺の膝の上で丸くなった。


そのネコを見て俺も猫を撫でながらその暖かさを感じ浸る。


「あの……、うちのチョコを返してください」

ふとそんな声が聞こえた。チョコを取られたのか? と、少し気にはしたものの俺はそのまま目は開かずに日向ぼっこを続けた。


しかし少ししてからまたーー

「あの……、チョコを……」

と、また声が聞こえた。


チョコごときをまだ返さないのか。どんだけそいつ食い意地はってんだよ。


そう内心呆れながら俺は日向ぼっこを続けようとした時ーー

「あのチョコを……」

「うお!! 何!?」


突然の出来事に俺は驚きベンチから飛び退いた。

突然耳元で声をかけられたのだ。


「え、何? チョコって俺?」


知らない少女だが耳元で声をかけられたのだ間違いようが無い。間違いなく彼女は俺に喋りかけた。


「いえ、あなたじゃないですけど。チョコ返してください」

「いや、そういう意味じゃないけど。え? さっきから言ってたチョコって俺のこと?」

「他に誰がいるんですか? さぁ、早く誘拐犯」


静かな声音が俺を焦らせる。


「誘拐犯? ちょ、待て。チョコってお菓子の事を言っているじゃないのか?」


「何言ってるんですか? 常識考えて下さい。チョコはあなたの足元にいる猫です」


そう言われ足元を見るとさっき俺が立ち上がった拍子に落ちた猫がそこに居た。


「これお前の猫なのか? 」


「そうですよ」


「てか、猫の名前を常識的に付けない奴に常識を語られたくねぇーな」


「そんなことはいいので早くチョコを返してください」


「すぐ足元にいるんだから別に連れてけるだろ。お前の猫なんだから俺に許可とる必要もねぇんだし」


「あなたの足元から離れないので」


「へいへい、そうですか。ほら、ご主人様がお迎えだぞ」


「ニャー」と、鳴く猫を拾い上げ俺は飼い主に引き渡した。


「ありがとうございます」


そう言った飼い主と違い猫は、飼い主の腕の中でバタバタと暴れていた。


「おい、引っかかれてるぞ。どうすればそんなに嫌われるんだ。お前ほんとに飼い主か?」


「別に嫌われてないですけど」


そう言って、素で首を傾げている。


「いや、嫌われてるだろ! どう見ても!」


「まぁ、何でもいいですけどって、あっ、誘拐犯にチョコだけじゃくな時間も奪われました」


「上手いこと言ったみたいにドヤ顔すんな」


「それでは失礼します」

「お、おう」


小さな背中をこちらに向け彼女が去っていくーーーー、

「てっ、おい! 前見ろ!」


ゴンッ、という鈍い音が響き、彼女の腕から落ちた猫が俺の足元に来る。


「お、おい……。大丈夫か?」


電柱の前で頭を抱え縮こまる彼女に俺は同情をよせる。


「く……、私の前に立ちはだかるとは……」

「いや、お前から向かってったんだろ!」


涙目になりながら必死に電柱を睨みつける彼女を見て俺はただ、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。




四月二日とある一日のこと、僕の手のひらに白色の花びらが舞落ちた。


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