支配ウイルス収束 再発
再発と言うタイトルは少し捻っています。本来は少し納まったものが再び発生するという意味でこの言い方はあまりしません。
葉山礼輔、友永飛永、竹島兆はゆっくりと町を歩き始めた。何の変わりも無いような静けさに嫌に警戒してしまう。海の中で音も無く近寄る捕食者を探す熱帯魚の様に辺りに神経を張り巡らせる。そうしろ体が勝手に動く。起こると解っていながら現場に来たのは竹島にとっても初めてである。
此処に何があるかなど知る由もない船舶の群れが海洋に反射する光の中を漂う。出来かけたような残暑の中の蜃気楼が表面を覆うように映える。雲の合間から太陽が此方を照らし、その一つ一つが光線の様に島の形をしたコンクリート一帯を銀色に彩る。商用の車が工場や大学の周辺を行き交う。大学生と思われる集団が道端で何かを話している。公園の方へ歩くと乱立したビルと赤いタワーが見えた。町はいつも通り過ぎて次に起こる嵐を全く思わせない。着実に忍び寄る地獄を考えさせない景色が不自然に思えるのも此処に呼ばれた理由が聊か特殊なこの3人だけである。
「本当にこのあたりで何かが起きるのでしょうか。」
葉山は緊張を含んだ声で竹島に尋ねた。竹島は間違いないでしょうと言いながらスマートフォンを差し出した。其処に移っていたページの内容は驚くべきものであった。
『神戸ポートライナー 運行停止 中公園駅構内の集団暴動事件』
『神戸大橋臨時封鎖 ポートアイランド北公園で暴徒逮捕』
『ポートアイランド内の全公園 緊急封鎖 島内滞在者に緊急退避命令 同時多発テロか』
『神戸国際展示場 緊急避難場所として指定』
「そんな・・・」
友永も葉山も驚嘆を隠せなかった。もう始まっていたのだ。此処に来たという事さえ手遅れかもしれなかったのだ。
「この他にも島内の商業施設及び他の島への移行船は全て封鎖、停止されています。さらに空港への橋も現在は通行止め状態です。こういうテロの場合感染者をこの島の中に残すんだろう。私達が乗ってきた電車を最後に封鎖が決定したそうです。もう結構まずかったということでしょう。」
竹島は何時になく真剣な顔でそう言った。
「まんまとこの島は本当の島同様の孤立に追い込まれたという事ですか。」
友永は悔しそうに唇を噛む。
「予想はしていましたけど、佐伯は予め何人かを感染させておいて時刻を見計らって感染者を暴れさせたんでしょう。そうなれば神戸側の対応も早い。きっとこの島と他の島の接続部分に検疫の様な門が仕掛けられていると思います。」
竹島は的確かつ冷静に話した。
「でも、こうなれば俺達はもう黒幕と決着をつけなくてはいけないという事ですか。」
葉山は何処か寂しそうに言った。佐伯の名前は口にしなかった。
「直ぐに此処には警察の特殊部隊が駆け付けて感染者を一掃します。一先ず島の水を飲まない事と出来るだけ感染者に近付かないという事を第一に考えて下さい。追記しますが神戸国際展示場を避難所として指定させたのは大変まずいです。感染者は単純なゾンビではない。あの展示場に集られるかもしれません。」
友永は目を見開いた。
「感染者は現在何人でしょう。この島の警察で対応できますかね。」
竹島は直ぐに答えた。
「憶測の域を出ませんが、現在は100人いないと思います。しかし、此処から一気に増える、或いは一気に正体を現すかもしれません。さらにまずい事には、感染者が避難所に入り込んだ時の事を考えて下さい。あそこには無防備な人間が大量に居ます。」
今いる此処、ワールド記念ホールも狙われることは間違い無かった。竹島は取り敢えず感染者に近付かれない場所を探そうとした。
「竹島さん、全ての感染者を支配しているのは佐伯です。佐伯さえ叩けば何とかならないでしょうか。」
「解っていますよ。ただ、佐伯の狙いは私と葉山さんの命です。佐伯が情報を全て知っているとすれば自ずとこちらに近付いてくるのではないでしょうか。」
緊迫を伴う心理的な脅威は三人の身にも接近していた。
現代は情報の回りも早くなりましたね。やっと時代が人間の便利に追いついたと思ったら、人間が便利に振り回されている時代が来るのかもしれません。便利の発信源も人間ですが。
お付き合い頂き有り難う御座いました。