支配ウイルス収束 応戦
予め言っておきますが、高速道路では道路交通法を守りましょう。オービスが目を光らせています。
竹島は自分のWRXの助手席に友永を乗せて急いで京都大学を出発した。直ぐに高速道路に乗って神戸へ向かった。
教授には自分の情報と画像及び先の映像を流さない事を強く訴えたが、流石にそこまでは守り通せないと断られた。恐らく現在は学長や他の関係者から事件との関係を問われている事だろう。そこで全てが露見すればそれこそ事件が会議室で起きてしまう。自分が今まで詮索してきた全てはまだ政府が知らない事象が殆どで、研究壕への潜入などは正しく違法ではないが不適切である。これは前都知事の上手な文句か。そんなことを考えていると何故だか笑えた。
「良くこの緊迫した状況でにやにやしていられますね。」
隣に居る友永は聊か不機嫌そうな口調で言った。
「本当ですね。自分でも何故だか解りません。あ、其処までピリピリしなくても大丈夫ですよ。この車の中で何をしたって状況は変わりませんから、ゆっくりと休んでいたらどうでしょう。もし引き換えさせる機会を窺っているならもう遅いですよ。高速道路に乗ってしまいましたら。あと、シートベルトしていますよね。此処で検問を食らって自慢の金色免許が剥奪されたらそれこそ神戸にも間に合わない。」
そう言いつつ追い越し車線で135kmを出している。友永は竹島を狂人ではないかと疑った。
「此処でくつろぐなんて無理に決まっています。第一これに巻き込まれれば教授も貴方も葉山さんや波多野さんも社会的身分の窮地に落とされますからね。それこそ文春砲では済まされませんよ。」
「文春砲で済まされないなら全マスコミからムスダンが撃ち込まれますかねぇ。」
「何処でそんなジョークを考えているんですか。物騒極まりない高速運転と神戸での行動を考える事とこうやって引き返せないところまで来た自分への後悔に専念してください。」
「ははっ、それこそ冗談きついですね。でも私は友永さんを見ていると、私と同じ位常識から外れているのではないかと思いますよ。あとタブレットのケースですが残り7粒くらいですかね。落ち着かないなら好きに食べて下さい。」
竹島はタブレットのケースを差し出した。
「ふざけないで下さい。というか、もう少しスピードを落としてください。此処は富士急ハイランドじゃないんですよ。それと...頂きます。」
文句を散々にぶちまけながらもとても辛いタブレットを一気に4粒口に放り込んだ。
「中々友永さん可愛いですね。そういう少し変な所を教授も気に入っているんですよ。普段は教授、人を寄せ付けない事で有名ですからね。伴侶や子供にもあの態度で接しているのだから、本当の変人は教授でしょうね。類は友を呼ぶとも言いますから友永さんと私が会ったんですよ。」
「そんなこと無いですよ。今日呼ばれたのは教授が学長に呼ばれたことと私がドイツ語が出来る事が理由なのでしょう。このウイルスの翻訳もきっとドイツ語の成績だけを見て適当に判断にしたのでしょう。内容を見て驚きましたけど、自分がこの案件に此処まで首を突っ込むなんて本当に頭が混乱しそうですよ。帰ったら、教授に貰う単位を数倍にしてもらいましょう。」
「京都大学ってそんなことできるんですか。あと、色付きパソコン眼鏡の所為で気付きませんでしたが、友永さんオッドアイですよね。実に珍しいです。」
「今はそんなことを聞いている場合じゃないでしょう。」
「興味あるんですがね。」
友永は竹島の飄々とした態度と奇妙な余裕に少し違和感を覚えた。自分はこの人に似ている筈はないと思った。
「それよりも神戸の何処に佐伯は来るんですか。」
「そんなこと私に聞かないで下さい。私は其処まで神戸に精通していませんし、姫路城くらいしか知りませんから。」
「ええっ、宛すらも無いんですか?」
「行き当たりばったりというのも今日は悪くないと思います。それに一つだけ見当がついている場所がある。」
竹島はハンドルを強く握ってアクセルを更に強く踏んだ。140kmを出しそうな勢いだ。友永は少し眩暈がしてきた。
「見当がついている場所というのは何処ですか?」
「友永さん、22年前の3/22に何があったか覚えていますか。」
「えっ、地下鉄サリン事件ですか?」
「そうです。そして今回の案件もウイルスという兵器を密閉、というよりは封鎖に近い状況で使っている。前回までの二件がそうでしたから。ただ、今回は神戸で行うと宣言された。なら神戸における孤立は高層ビルか地下鉄でしょう。」
「随分予測は単純ですね。」
「ホームズばりのそれを期待しましたか。其処まで手の込んだことよりも大規模な感染や混沌を好むのが佐伯の気性だと考えています。それなら単純な理論の方が検討をつけるときに役立つのではないでしょうか。」
「もうそろそろ神戸ですよ。時間もあまりないです。一般道ではここまで飛ばせませんからね。」
「解っていますよ。本来は高速でもこんなスピードで飛ばしてはいけないんですけどね。」
「ふっ、見なかったことにしてください。」
「オービスが見ていると思いますが。」
「まいったなぁ。でも今はもっと重要な事があります。神戸の命運が私達に託されたんですよ。」
竹島は随分と楽しそうである。実は彼は教授と大学の論戦に巻き込まれずに済んだことにほっとしているのだ。
「ええっ、私にもかかっているんですか。」
「当然ですよ。事実を知っている上に私に着いてきてしまった。もう神戸ですし、此処では本当に戻れませんね。もし嫌なら今から新幹線で京都に戻りますか?でもその中でウイルスが撒かれたらもうその時は終わりですね。」
「馬鹿にしないで下さい。それにここまで来て戻ったりしません。必ず貴方に着いていかなくてはいけません。それに・・私神戸の地理に詳しくないんですから。」
「はぁ、それは驚きましたね。貴方が私を守ってくれるんですか。」
「女性に守ってもらう積りなんですか。」
「だって今、友永さん、私に着いていくって言いましたよね。」
「竹島さんが女性である私を守って下さいよ。感染者の身体能力が極めて高い場合私では太刀打ちできません。」
「極めて高い場合以外は太刀打ちできるというのですか。いやぁ、それは助かりましたね。私は格闘や戦闘はおろか、運動も苦手ですから。」
「本当にどこまで命知らずなんですか。それでよくここまで来れましたね。下手すれば日和村で死んでいたじゃないですか。」
「まあ、そうですよね。」
竹島は前方を見つめながら短く答えた。そしてこう付け加えた。
「でも、好奇心に殺されるなら、それはそれで面白いと思いますがね。」
竹島は江戸川乱歩のファンなのか、いやにこの手の文脈の趣味が強い男である。
「さ、高速を降りますよ。シートベルトしていますよね?」
散々法定速度を無視しながら、其処だけはいやに律儀である。
本当にこの小説の竹島はどれだけ破天荒な野郎でしょうか。リアルの私はそこまで破天荒ではないですよ。
お付き合い頂き有り難う御座いました。