支配ウイルス収束 翻訳
このウイルスの仕組みに関しては一般的なゾンビものと被らないように少し工夫しましたが、結果大して変わっていないという(涙)
再三書くとおり竹島と宝井教授にとってこの事態は非常にまずいのだが、今は下手に動くとさらに危険になると考え、大人しく友永から論文の翻訳内容を聞くことにした。
「まず、このウイルスの効果と正体ですが、ここでは通称として『支配ウイルス』を使います。政府の仮称は『マーズ・コントローマ』でした。政府側の発表としてこの名称の由来はゾンビ化に近い形で人間の神経や脳を侵食し、乗っ取る事からつけられたとありますが、支配ウイルスはゾンビ化の効果を持つものではありません。このウイルスの特性そのものが非常にユニークなんですよ。だから政府はこの作用に気付いていないと思うんです。支配ウイルスの特殊な作用として感染者を感染者が操作するという事が可能らしいんです。」
「は?」
竹島はこの文章だけでは理解できなかったらしい。
「まあ聞いていてください。確かに私も初見の時は半信半疑でしたから。このウイルスは非常に危険で他に例を見ない作用を持っています。まずこのウイルスは一度投与すると風邪や嘔吐下痢症の様な症状を引き起こします。これは竹島さんが書いた文章にも書かれていましたね。この記述に間違いはないです。ただこの後の変化、急激に進行し、表皮に疱瘡の様な赤い斑点模様ができ、次第に意識が朦朧としていく。この時点でこのウイルスの特性が徐々に表れ始めています。体内でウイルスが急激に増殖しているんです。そして発症すると無差別に未感染者を襲撃し始める。これが記録内で書かれていて、竹島さんが現在捉えているウイルスの姿です。」
「ええ、他にも何かあるんですか。」
「他に何かというよりはこのウイルスの記述の後半が少し違うんです。まず感染者は生きています。だからこの時も脳は激しく損傷していますが、一応の生命維持機能は働いています。そして感染後に無差別に人を襲うというのが大きく違います。確かに行動的にはそう見えるかもしれません。しかし、これは実際、他者からの操作を受けて未感染者を襲うように仕向けられた状態なのです。」
「感染者が感染者を操作というのがそれですか。」
「はい、このウイルスに感染すると、ああ、感染するというのは疱瘡が生じて意識が朦朧とし始めたころの事ですよ。感染すると、自然と意識を司る神経が働かなくなります。その後自分の判断能力は失われ操作する側の感染者の命令、この命令は特殊な脳波で人間には感知できない、脳科学的なテレパシーに近い物です。これに従うだけのマリオネットに成ります。」
「随分構造が複雑そうですね。」
「ええ、実際にこの支配の脳波を送る過程が科学的に解明出来ませんが、外面から見える構造はそこまで複雑でもないです。要するに、最初の屍生島の事件では支配する側の感染者から支配される側の感染者に『未感染者を襲え』という命令が発せられていたんだと思うんです。そしておそらく他の命令も出せたと思います。例えばですよ。この事件の冒頭と日和村事件の発生段階でどのようにウイルスを食品の中に混入されたと思いますか。」
「犯人一人ではできないという事ですか?」
「ええ、其処で私は考えました。その人物が他の感染者をコントロールするために予め支配する側として感染しておきます。そして給食調理員、日和村の配給を作る人を被支配者として感染させます。そしてウイルスを混入させるように仕向けたらどうでしょう。」
「そんな複雑な事を命令出来るのですか。」
「確かに一見難しそうに見えますが、別の書類には感染者は唾液や粘膜の中にもウイルスを発生させると。接触感染はしないようですか。キスでもすれば感染してしまうでしょう。それに複雑な命令を出さなくてもいくつか手立てはありますよ。例えば給食が完成したタイミングを見計らって、こう命令を出すんです。『其処から出ろ。』と。そうすると感染者は直ぐに調理室から脱出してそこは空っぽに成りますよね。そこで犯人がウイルスを投入して何食わぬ顔で給食をクラスに回って運び、皆に食べさせる。全員に感染させるには一人当たり5gほど必要ですから投入するウイルスの原液は濃い物である必要があります。」
「成程。大体分かりましたが、それでは支配する側と支配される側は何処が違うんですか。」
「竹島さん、そう焦らないで下さい。順を追ってこの後も説明していきます。」
この友永と言うキャラクターは今後の展開に若干の影響を及ぼします。