支配ウイルス収束 涙痕
ここから時系列が進み、舞台は広島に移っています。広島も私好みの綺麗な街です。悲しい歴史を背負っている場所ですが、それを忘れない意味でも世界的に貴重で価値ある街です。
神戸での決戦から2か月が経ち、残暑の中にも秋の面影が垣間見える季節になった。事件の現場となった神戸市ポートアイランド、日和村、屍生島は今でも封鎖されていて、一般人は入ることが出来ない。ただ、神戸は主要都市なのでこの措置を取ることは出来ず、一部を警備員付きで開放し、市の運営に支障が出ないように工夫がなされている。
神戸で感染し、支配側を亡くした感染者は殺害措置が取られずに、拘留されていると聞く。彼らがどうなったのかを一般人である竹島が知る由は無い。
ただ、今日竹島は友永と宝井教授と共に広島を訪れたのは、政府が感染して殺害措置が取られた遺体の追悼式典に参加する為だった。本当は遺族及びその関係者のみの参加なのだが、事件に深く関与した参考人として、解決者として1か月に及ぶ事情聴取を受けた末に今日の参加が決まった。
「教授と友永さんは新幹線で広島に来るみたいです。私達は暫く此処で待っていましょうか。」
「ええ、そうですね。」
葉山と竹島は広島駅前の喫茶店の外テラスで二人を待っていた。葉山はゆっくりと抹茶ラテを啜った。あまり珈琲は好きではないらしい。竹島は珈琲を飲みながらこう言った。
「しかし、友永さんに言われて初めて気づいたのですが、煙草の様に燃やして摂取していく事で抗体を作るという事、あれは凄いですね。」
「私は全く気付きませんでした。彼は元々煙草が好きなので、それが抜けないだけかなと思っていたんです。」
「私もあそこを記録に書いたのは何でもない事なんで、対してその行動に察しがあったとかないんですよ。」
「友永さんは何処であれが解ったのでしょう。中々思いつかないですよ。研究者とは言え、感染経路の予測何ていうのは簡単な事ではないって言いますよね。」
「ええ、そうでしょうね。ただ、どうして解ったか聞いたんですよ。でもこれはきっと専門的な知識ではなくて、閃きと呼ぶ方が相応しいでしょう。葉山さんは学校で理科を教えていますよね。だったら解ると思います。」
「おっと知識を試してくるとは、自信ないですね。でも少し聞いてみたいような気もします。」
「グリフィスの実験、ご存知ですよね?あれと同様に一度熱処理をして殺したウイルスを混ぜて日頃から吸っていくんです。そうしたら微弱ながらも抗体としての支配ウイルスが体内で生成されていくということらしいです。その先は医学的で解らなかったんですがね。」
「へぇ、私もグリフィスの実験は知っていますが、あれが瞬時に浮かんで新しい発見のヒントに繋がるかって言われたら出来ないですね。友永さん、やっぱり頭良いですね。」
「全くですよ。京都大学で教授の助手というだけあるなと思いました。」
「そう言えば、竹島さんは何処で教授と知り合いに?」
「ああ、あれはもっと前の事件に私が首を突っ込んだ時に『君は中々面白いね』って言われてそこからですよ。」
「昔から変な事件に首を突っ込んでいたんですか。」
「変な事件とか言いつつ、きっと掘り下げればこうなってくるんでしょう。今日までの事みたいに。」
「本当はあって欲しくないんですけどね。」
「それは私も同じですよ。でもいくら此処が日本だからと言って犯罪件数0じゃないんだ。きっと今日も誰か殺されているんです。そしたら少しでも何か解らないかって体が動いてしまうんです。」
「全く、いつか刺されますよ。」
そうですねと相槌を打つと竹島は珈琲を啜った。そして遠くを見つめながらこう言った。
「きっとこのウイルスで苦しい思いをした人が沢山いるでしょう。残された貴方も、犯罪者の妹になってしまった波多野雅さんも、私に付き合ったが故にこの一か月間警察の御用になった教授と友永さんも、その他大勢の感染者と神戸で感染後に治療を受けている人達。私は大勢に迷惑を掛けてきました。最後には友永さんの手を汚してしまいました。葉山さん、貴方もです。此処まで私に付き合ってくださって、協力してくださって本当に有り難うございました。」
葉山は少しの間黙っていた。
「硬いなぁ、でも今、何か生徒の事思い出してしまいました。そしたら...何か...」
葉山の頬には雫が流れていた。テラス席に差し込む日差しがそれを透明なプリズムの様に映し出した。
「私は生徒に会った事もないですから、貴方の気持ちが解るなんて安易に言えません。でも、今日は真剣に追悼を捧げてきます。」
竹島の顔には涙は無かった。ただ、いつもの様な不気味な笑みもまた見えなかった。
お付き合い頂き有り難う御座いました。次回は愈々最終回です。もう第4部はありませんから、これで本当に終わりになります。今回は試験的に章分けに挑戦してみます。
(あくまで試験的な物なので、今後に生かされるという事以外、気にしないで下さい。)




