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婚外恋愛  作者: 藤沢香織
1/5

異変



最初の異変は、家に帰ると見慣れぬものがリビングにあふれていたこと。

結婚も5年たち、二人の関係も安定したと、勝手に僕が思っていたそんな矢先の出来事だった。


「綾香、これなに?」

部屋の奥の、布をかぶせた四角い何かの前で座り込む妻、綾香に僕は声をかけた。

あ、と、小さな声をこぼし彼女が振り返る。僕が帰ってきたことに今気がついた、と言わんばかりの反応。

「ごめんね、きょうくん、今片付けるね。あ、ご飯カレーでいい?」

いつも通りの様子、だからこその違和感。足元の恐らくペット用品だろう、水ボトルやペットフードなどを袋にしまい込む綾香に、僕はもう一度問いかける。

「綾香、どうしたの?」

いつか、子供ができたら犬でも飼おうと、話していた。残念ながら、その気配はなく、不妊治療も三年目。彼女のストレスも最近は、見てわかるほどになっていた。

僕はもう一度、できるだけ優しい声音で彼女に問うた。

「突然、ペットなんて、何かあったの?」

僕に背を向けるように、無言で立ち尽くす彼女を後ろから抱きしめて、その額に唇を落とす。

大丈夫だよ、怒ってないよという、意思表示。

少しだけ震えている彼女の肩をしっかりと支え、彼女の答えを根気よく待つ。


それは、数秒だったのか、それとも数分か。物音のない静かなリビングでは時間の感覚もあやふやで。それでも僕は彼女の背中を安心できるように、そっとなで続けた。

そうしてどれほどたったのか、小さく彼女が息を吸い込む音と、緊張でこわばる肩。

僕は、彼女を抱きしめその言葉を待った。


「きょうくん、ごめん。もう、不妊治療やめたい……」


それは、小さな声だった。それでも僕にはしっかりとその意味が伝わった。

「うん。そうしようか」

僕に言えるのは、それくらいしかなかった。

この時、もっと違う何かを言えていれば、僕達の進む道は変わっていたのかもしれない。


それでも、僕には震える綾香を抱きしめている以外、何もできず、何も言えなかったのだ

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