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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

永遠無限のゼロ

作者: 猫の人

 ステータスやレベルやスキルに経験値、ダンジョンやモンスターといったものがある、まるでゲームのようなとある世界。


 そんな世界のとある王国の研究所。

 研究所の主は一人の少年を自身の仕事場に呼び出し、退去処分を言い渡した。



「クビ?」

「そうだ。君の研究だけ、ロクな成果を出していない。確かに君に渡す研究予算は少ないが、我々はもう君の研究に価値を見出していないのだよ。我々の研究室が行っているのは見込みのない研究に金を出すような慈善活動ではない。

 それに研究所の宿泊施設など、君がいるだけで余分なリソースが消費されたままなのだ。このまま君を置いておくより、新しい研究員にリソースを明け渡す方が有益とは思わないかね?」

「しかし、俺の研究はちゃんとした結果を出しています。現に俺が提唱した理論に基づき、魔装の――」

「その5年前の功績があったから、今まで在籍を許したのだよ」

「――っ!」


 研究室の主たる老人は、処分に納得がいかないという少年を論破する。

 少年は言い返すことができず、言葉に詰まる。


 老人はそれに満足すると、少年にトドメを刺す。


「そうそう。君の研究室にあった実験動物並びに研究資料は置いて行くように。あれは研究所の物だ。君の私物ではない。

 私も鬼ではない。これまでの功績をたたえ、僅かばかりだが報酬を出すとしよう。

 では――出て行きたまえ」


 少年は何も言い返さず、無言で老人に背を見せ、そのまま静かに出て行った。

 老人は少年を見送ると、すぐに机の書類に目を向けて自分の仕事に着手した。



 少年の研究室にいた実験動物が暴走して研究室にあった研究資料などが全て駄目になったと老人が報告を受けるのは、それから3日後のことである。









 辺境都市【カスール】は地か迷宮(ダンジョン)を主産業とする地方都市だ。

 人口約1万人のこの都市は、その半数以上をダンジョン関係者が占めるほどダンジョンに全てを頼っている。


 ダンジョンはモンスターという肉だけでなく、食べられる山菜や金属なども手に入る。

 中には希少なお宝が入手できることもあり、日々の糧を求める者から一獲千金を夢見る者まで、さまざまな者たちがダンジョンをさまよう。


 そうやってダンジョンに挑む者が増えればそれを管理する組織が置かれるのは必然であり、【カスール】には『迷宮管理組合』という組織があった。



「おーう! ねぇちゃん! こっちにエール2杯!!」

「俺はオーク肉定食だ! 肉多めで頼むぜ!!」


 『迷宮管理組合』の近くには酒場が置かれることが多い。迷宮に挑む者、『探索者(シーカー)』の中でも戦闘を生業とする者は、戦いの後に酒を飲みたがるのが一般的だからだ。酒と塩がきつく濃い味の飯、それを愛するのが探索者だ。

 さすがに組合の建物と同じ建屋で飲食はできない。書類を扱う所に酒場を併設するのは愚かでしかなく、組合のカウンター付近でもめ事を起こす馬鹿などいない。


「今日も稼いだなぁ!」

「おう! あそこで『月光草』が見つかるなんてなぁ! 幸運の女神様に感謝しなくちゃなぁ!」

「おう!」

「「幸運の女神様に、乾杯!!」」


 しかし、それは組合の建屋の中の話である。

 酒場で酒を飲み、気分が大きくなった探索者が騒ぎを起こすのは良くある話だ。


「そこの女! ちょっとや酌をしていけや!」

「ちょ! 困ります、お客さん!」


 酔った新人の一団が、酒場で注文を取っていた若い娘の腕を掴んだ。

 娘に絡んだのは10代後半の少年で、まだ新しい装備を身に付けている。若者が成功の美酒によって前後不覚に陥るまで飲んだのだろう。その顔は酒気を帯び真っ赤になっている。

 同じテーブルにいる5人の男たちも娘に対し「さっさと来い」「いい体してるじゃねぇか」などと囃し立て、男を止めようともしない。むしろその蛮行を歓迎している。


 酔漢(よっぱらい)が酒場で暴れるのは珍しい話ではない。

 そして周囲には同じ探索者、それも彼等よりよっぽど腕の立つ人間が大勢いる。中には店の常連もいて、従業員と顔なじみの者も少なくない。


 だから、酔漢たちを止める者がいるのは当たり前だった。


「小僧ども、そこまでにしようか」

「ああ!?」

「ゼロさん!」


 他の誰よりも早く、頭に猫を乗せた一人の男が娘を助け出した。

 ゼロと呼ばれた男は娘の腕を掴む手を軽々と剥がし、酔漢と娘の間に身体を滑り込ませる。


手前(テメェ)の酒量も把握できねぇガキンチョはさっさと帰ってママのオッパイでも吸ってろよ」

「なんだとゴルァ!! 頭に猫とかふざけた格好しやがって!」


 ゼロは酔漢たちを嘲笑し罵倒する。

 酔漢たちは安い挑発に激昂し、椅子を蹴って立ち上がった。


 その様子を見たゼロはニヤリと笑い、手を振る。

 彼らの後ろにいる(・・・・・・・・)仲間たちに(・・・・・)向かって(・・・・)


「おう坊主。元気が有り余ってるなら俺たちも相手してやるぜ?」

「そうだなぁ。ゼロ独りじゃものたりねぇだろ」

「一回限りってのも勿体無いな。今日からしばらく、俺たちが鍛えてやるとしようぜ」


 大声を出せば酒場の誰もがこの騒ぎに気が付く。

 酔漢たちはすでに酒場の常連たちに囲まれており、30人近い厳つい男たちが臨戦態勢で酔漢たちに侮蔑の視線を向けていた。

 中には女性探索者も混じっており、絡まれた娘を同性の仲間として数人が保護している。


 それを理解し、酔漢たちの顔が一気に青褪めた。

 どうあっても逃れられない状況になったのを理解してしまったのだ。


「お前ら」

「ひぃっ!」


 そこに酒場の店長が現れた。


「さっさと飯代を払って出て行くか、それとも――」

「「「すんませんで()たーー!!」」」


 店長が軽く脅すように声をかけると、「元」酔漢たちは有り金を全て捨てるようにその場に置くと、脱兎のごとく逃げだした。

 周りの探索者たちは道を開け、わざと馬鹿たちを逃がす。本当に酒場で制裁をした場合、自分たちが店長に怒られることを知ってのことだ。


 店長はお金を拾い、中身を数える。

 店員の一人にこれで会計に足りるのかを確認すると、その余剰分の金額の分より少し多めに酒を出すよう指示した。


「よーしお前ら! 若造の奢りだ! 飲め!!」

「「「うぉぉーーっ!!」」」


 意外と中身の入った財布に気を良くした店長から、従業員を助けてくれた常連への振る舞い酒。

 気を良くした探索者たちは喜びの声を上げた。





「相変わらずすばしっこいよな、お前は!」

「ちくしょう、いいところを持っていきやがって! お前ばっかりずるいぞ!」

「そうだ! ターニャちゃんに色目を使いやがって!」


 先ほど絡まれた娘【ターニャ】を助けた男【ゼロ】は、顔見知りの探索者から嫉妬過多の手厚い洗礼を受けていた。

 その様子は険悪な雰囲気でないため、それが彼らにとって慣れ親しんだ距離感から来るものだとすぐに分かる。


「【骨折り】ゼロのくせに生意気だぞ!」

「「そうだそうだ!」」

「ニャンコ先生はこっちよー」

「おいでおいでー」


 探索者ゼロ。彼の通り名は【骨折り】と呼ばれるもので、その通り名は彼の探索者としての在り方に起因する。



 探索者に限った話ではないが、彼らのレベルは0から始まる。

 レベルはわりと簡単に上がり、レベルが上がるとBPという人間や装備を強化するポイントが1ポイントもらえる。貰ったポイントを「能力値」「スキル」「装備」のいずれかに割り振ると、割り振ったポイントに応じて能力が伸びたり、スキルを得たり、装備が強化されたりする。

 そうやって強くなってはより深くダンジョンに潜るのが探索者の常である。

 なぜならレベルが上がると同じことをしても経験値の入りが悪くなり、また次のレベルアップに必要な経験値が増えるからだ。何度もレベルが上がると、同じことをしても経験値が入らなくなるという事情もある。


 ダンジョンのより深い所を目指すのは経験値を稼ぐためには必須であり、深い階層で戦うには相応の強さが必要で、それができる数少ない探索者は巨万の富を得る事が出来る。



 低層、10階未満なら一つの階層で1ヶ月も戦えば次の階層に狩場を移すのが常識なのだが、ゼロは7階までしか下りないことで有名だ。すでに7階で10年近く戦っている。

 7階に出るモンスターは骨のモンスター(スケルトン)がほとんどだから【骨折り】と呼ばれているのだ。


 なお、7階では15レベルが上限と言われていて、10年近く7階から降りないゼロは例外として17レベルぐらいではないかと言われている。


 この場にいる探索者で酒場の常連なのはほとんどがレベル30以上である。レベルが高い者であれば50を超える者も僅かだが存在する。

 しかしゼロはそんな彼らの中でも侮られる事無く、ちゃんと人の輪に溶け込んでいる。普段からああいった行動をしている事もあり、それなりに信用もある。


 ゼロが7階に拘る理由を「特殊能力(タレント)」――厳しい条件を満たした者にのみ与えられる強力な能力――目当てだと推測されているが、その真偽は定かではない。



「よっしゃあ! こうなったら酒で勝負だ!」

「おおっ! いいぞ! やれやれ!!」


 今回のもめ事でターニャの株を上げたゼロ。その株を少しでも下げてやろうと他の探索者が勝負を挑んだ。周りの連中も面白そうに囃し立てる。

 それを見守る女性冒険者は、ゼロの頭の上に載っていた猫【ニャンコ先生】の手を振り、楽しそうに見守っている。ニャンコ先生もゼロを助けようとはしていない。


「まて! 俺はおまえ等ほど金を持ってないんだよ!」

「奢りだ! 俺が払うから逃げんじゃねー!」

「ああもう! 分かったよこの酔っ払い!」


 この程度の騒ぎであれば、店長は何も言わない。

 酒場の夜は賑やかに、そして笑い声が絶えないほど平穏に更けていくのであった。





 酒盛りがあった翌日。

 ゼロはいつものようにダンジョンへと向かった。ニャンコ先生も連れてきている。


 酒を大量に飲んでもそこは探索者。明日の仕事を考え昨晩はダンジョンに潜れるギリギリで負けを認めていた。

 勝者は本日おやすみの為、かなり無理をして逆に醜態を晒している。そのためターニャの中でゼロの株は上昇し、勝者側の株を大いに下げていたのは皮肉な結果だろう。



 ゼロはいわゆるソロ探索者である。

 同じレベル帯の他の探索者よりも低い階層しか挑めなくなるが、報酬の分配などでもめる事が無くなるため、低層中心の探索者であればそこまで珍しくないスタイルだ。

 この日も転移魔方陣――行った事のある階層にショートカットできるダンジョン特有の不思議な装置――を使って7階に挑む。


 ダンジョン7階は石畳の洞窟で、廃坑のような場所だ。中は暗く、カンテラや≪灯火≫や≪照明≫の魔法といった灯りが必要になる。一部の壁からはそれなりに良質の鉄鉱石が入手できるので、鉱石目当ての採掘者が挑むことが多い。

 主にスケルトン系のモンスターが出現し、それらは4~6体で徒党を組んでいるため、初心者には優しくない。しかしスケルトン系モンスターは体が脆く、ハンマーの一叩きが上手く胸のあたりに当たれば戦闘の素人でも倒せる程度に脆弱である。そのため、勝てると勘違いした初心者がよく殺される事件が起きる程度に高難易度だ。暗い事で不意打ちを受ける者が出るのも特徴の一つである。



 ゼロにとって7階は庭のようなものだ。

 目を閉じたままでも迷わないし、戦いで困る事も無い。当たり前のようにスケルトンの気配を察することができるほど7階に適応している。


 だから。

 自分を狙う愚か者が潜んでいたことにも当たり前のように気が付いた。


「ニャー」

「おいおい、男の尻を追いかけるとか。お前ら昨日のに懲りてホモに走ったのかよ?」


 ゼロは人気の少ない場所まで移動すると、後ろを付けてきた連中に「気が付いてるだぞ」と馬鹿にするような言葉を投げかけた。

 出てきたのは昨日酒場で蛮行に及ぼうとした馬鹿一同で、彼らは一様に憎々しげな視線をゼロに向けた。


「いくら手前らのケツが汚ねぇからって、俺を追いかけるとか。身内でサカってろよ、カス」

「ニャー!」

「クソッ! ふざけやがって!」


 ゼロはニヤニヤと馬鹿にした笑いを顔に張り付け、男たちを挑発する。ニャンコ先生もその流れに乗った。

 男たちは猫にすら馬鹿にされ、額に血管を浮かべて武器を握る手に力を込めた。


 しかし、男たちのリーダーは大きく息を吐き、逆にゼロを馬鹿にするような顔を作った。


「おいおい、そっちこそ状況が分かってんのか? 俺たちは全員レベル20以上の探索者なんだぜ? 勝てると思ってるのかよ」

「そうだ! 土下座して有り金全部置いていくなら、命だけは助けてやってもいいんだぜ!」

「とっとと頭下げろや、この【骨折り】!」


 リーダーに続き、男たちからゼロを馬鹿にする声が上がる。

 彼らは昨日全財産を置いて逃げ帰ったため、素寒貧になってしまったのだ。一文無しの彼らはてっとり早く金を手に入れるべく、ソロで探索をするゼロを得物に、探索者狩りをすることにしたのだ。

 もちろん昨日の復讐もするつもりである。よってここでゼロが何をしようと見逃すはずも無く、確実に殺す気でいた。


 殺意丸出しの男たちに対するゼロは、彼らが自分を見逃すはずがないと分かって笑みを消し、目を細めた。

 戦いを挑まぬよう、『迷宮管理組合』の名を出して思いとどまらせようとする。


「お前らさぁ、自分が何をやってるのか分かってる? 『迷宮管理組合』敵に回したいわけ?」

「はぁ? お前みたいな低層専門の小物のために、組合が動くわけねぇだろ! 吹かしてんじゃねぇ!」


 ゼロはリーダーの言葉を聞いて呆れたようにため息を吐き、他の連中も同じであると判断して小さなペンダントを取り出した。


「最後通告だが――」

「うるせぇ! やっちまえ!!」

「「「うぉぉーーっ!」」」


 ゼロは最後まで「このまま立ち去るなら見逃してやろう」と言葉を重ねようとしたが、それよりも探索者崩れの暴漢たちが武器を手にゼロを襲った。


「ま、一応警告はしたよな?」

「ニャー」


 ゼロも、彼らが大人しく従うとは思っていない。最初に挑発した通り、この展開を分かって言葉を重ねていた。

 それでも形を整えるのは大事だ。その事を頭の上の相棒に確認すると、ニャンコ先生も肯定するように一鳴きした。



「じゃ、()りますかね」


 最初の犠牲者はリーダーだった。

 先頭となりゼロに挑んだ彼であったが、ゼロが右手を一振りすると、その頭を刎ねられ一撃で絶命した。

 ゼロの手には先ほどまで持っていたペンダントではなく、一振りの剣が握られている。

 ≪武装魔法≫と呼ばれる系統の魔法で、所有物を武器や防具にして戦う特殊な魔法使い専用の魔法を使ったのだ。十字架の付いたペンダントを剣に変え、ゼロは舞うように次の男の首を斬り裂く。

 ≪武装魔法≫はかなりレアな魔法で、男たちは何をされたのかも分からずに硬直した。


「ニャー! ニャニャー!」


 ニャンコ先生も負けていない。

 ゼロの頭にしっかりとしがみ付き、奥にいた男に向けて≪氷結槍≫の魔法を放ち、一撃でその命を奪う。

 当たり前だが、普通の猫は魔法を使わない。そんな存在がそこらにいたら、世の中は猫狩りをしないといけなくなる。大戦争の勃発だ。つまり、ニャンコ先生は非常識な存在なのである。



「テメェ! なんで、なんでそんな事が出来るんだよ!」


 この暴漢たちは、2年かけてレベル20以上という力を手にした。しかも6人がかりで挑んだ。

 目の前の(ゼロ)はレベル17以下のはず。そして一人ぼっちで、猫しか連れていない。

 負けるはずなど無いと、当たり前のように略奪できると思って軽い気持ちで襲ったはずだった。


「自分の能力を敵に説明する馬鹿がいるか、ボケ」


 ゼロは叫んだ男を切り捨てる。ニャンコ先生ももう一人、魔法で倒している。

 レベルも人数も上回っていたはずなのに。楽な殺しだったはずなのに。そんな事を考えつつ、ゼロに切られた男の意識は黒に塗りつぶされた。



 これを見た男たちの生き残りは何が起きたのか理解することを放棄し、戦意を喪失する。楽な仕事のはずが一瞬で地獄絵図だ。戦う気など起きない。


「待て! 待ってくれ! 俺たちが悪かった!」


 事態が理解できなくても、自分たちが勝てない事は理解できた生き残り。全員武器を捨て、命乞いを始めた。

 戦意が無い事を示し、必死になって頭を下げる。


 しかし、すでに命を賭けた戦いは始まってしまったのだ。そして命が係っているだけにその終わりは血を望む。

 ゼロは無言で残った最後の1人の首を刎ね、剣をペンダントに戻した。


「戦いを始めたらさ、自分たちが不利になったからって負けを認めたってさ、意味ないだろ」

「ニャァ」


 自分たちの都合だけで他人の命を奪おうとする連中を信用できるはずもない。そして自身の力の一端を見せた相手を見逃すほどゼロは甘くない。

 ()も馬鹿にしたように吐き捨てると、その場を後にする。

 ニャンコ先生もつまらなそうに一鳴きした。





 ゼロは幼い事、とある研究室で一つの理論を研究していた。

 その理論は「レベルアップ時に得たボーナスはレベルダウンで失われるのか」という内容である。


 レベルダウン時にレベルアップで得たボーナスは失われる。例えばボーナスで≪回復魔法≫スキルを覚えてもレベルダウンで≪回復魔法≫に注ぎ込んだボーナスが失われれば、≪回復魔法≫スキルも失われる。

 これはこの世界の常識の一つだ。



 ゼロはレベルを下げる罠【デジェネレーター】に引っ掛かった時に「レベルアップでスキルを覚え、スキルを使えた時の感覚を再現すれば、BPを消費せずにスキルを使えるようになるのではないか」と考えたのだ。


 たとえば≪剣術≫スキル。

 剣術をレベルアップ以外の鍛錬で磨き上げれば、BPなど無くても剣術を修める事ができる。

 だったら他のスキルでも同じことができるのでは?

 また、BPで覚えるスキルを使っていた時の感覚があれば、普通に技術を覚えるときの手助けになるとも考えた。


 この考えは装備の強化などにも応用され、何度も強化されたアイテムはBPによる強化を失っても≪錬金術≫で高レベルなマジックアイテムの素材になることが確認された。

 ≪テイム≫スキルで従えた動物にも同じことが言え、【ニャンコ先生】は魔法を使えるようになるまでBPで鍛えた実験動物だった。何度もレベルアップによる強化を体験したニャンコ先生は、BPによる強化が無くとも素で魔法が使えるような謎の、知性ある猫に進化していた。


 レベルに関係なく多くのスキルを保有するゼロは、レベル詐欺としか言いようのないハイスペックを誇る。スキルを考慮してレベルを考えると、正味20レベル相応の実力を持つ探索者だったのだ。

 こちらの研究成果についてはまだ検証途中で、ゼロ達以外の研究素体などはいない。途中までまとめた研究結果もニャンコ先生が研究所から逃げる為に暴れたから、そのほとんどが失われている。



 『リアルスキル』と名付けられたこの強化があっても、先ほどまでの無敵ぶりは発揮できない。

 ゼロにはもう一つの強みがあった。


 数えきれないほどのレベルアップとレベルダウンを行った経験から、ゼロは「任意でレベルを上げない」タレントを手に入れている。

 レベルを上げない時でも経験値は溜まる法則(しよう)らしく、ゼロはソロ0レベルの限界である7階で経験値稼ぎをしている。低いレベルで深い階層に潜るほど経験値は多く手に入るからだ。


 先ほどまでは経験値を消費してレベルを10ほど上乗せし、暴漢たちを圧倒できる強さを得ていた。

 これがゼロの余裕の源(タレント)、『レベルオーダー』だ。


 『レベルオーダー』は任意でレベルを下げる使い方はできないので、ゼロは7階にあるデジェネレーターでレベル0を維持している。

 これもゼロが7階に拘る理由の一つである。





 『リアルスキル』と『レベルオーダー』。

 ゼロはこの二つを使い、一つの夢を追っている。


 ゼロがいつか、いつか経験値を一気に消費してレベルを上げた時。その時自分が何レベルになるかを知りたいのだ。


 感覚的にだが、今のゼロは100レベルを超える事を可能にする経験値を溜めこんでいる。

 それでもまだ溜める事が出来る経験値。

 あと何年も経験値を溜め続け、そのすべてを解放したときに見える世界はどんなものなのか。

 それはきっと誰も見た事の無い世界が広がっているだろう。いや、確実に未知の光景が広がっている。



 レベルを0に戻したゼロは、今日も7階でスケルトンと戦う。

 好奇心の赴くままに。

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