理沙 想う心が
やっぱり、昨日は寝れなかったのかな。
飛行機が離陸して、安定飛行に入ると、隣の席にいる由実はすやすやと眠ってしまった。かくん、と傾いた頭がわたしの肩に乗って、やわらかい温もりを感じる。どこからか甘いにおいが鼻をくすぐる。由実のにおいだって気づいて、その時にはもう顔が熱くなるのを抑えきれない。
気が付いたら由実のことを意識していて、頭の中頭が由実のことでいっぱいになってしまう。鞄から音楽プレイヤーを取り出して、イヤホンを耳に繋げる。約3時間の空の旅は、短いようで長い。聞き流すだけだったけど、ふと気がついたときに流れていたのは、甘酸っぱい恋の歌。
言えない想いを心にしまって
薄暗い道を一人で歩く
傷つくのが恐い臆病なわたしは
「好き」の二文字も言えぬままで……
――遠い世界の向こうにあったその曲が、突然心に深く染み入る。肩の上で寝息をたてる由実に意識が向かって、また胸が高鳴る。窓の外に広がってる澄みきった青は、恋心に似ていると思った。
もう一度イヤホンに耳を掛けて、音の世界に身をゆだねようとする。隣の由実はまだ眠ったままだ。着陸まではそんなに時間が無いし、今のうちに起こそうかな、とも想ったけど、幸せそうな寝顔を見て、もうちょっと寝させてあげようかな、と思う。けれども、その考えは一瞬で台無しになった。シートベルト着用ランプが付き、搭乗員の「当機はまもなく着陸態勢に入ります。……」というアナウンスが入ったから。
由実のほうに体を向けて、肩を軽く叩く。
「んん……?あ、おはよ……」
「おはよ、もうすぐ着くよ」
「もうそんななんだー……」
窓の外を見ると、深い青の海の上に、地図でみた輪郭の島が、くっきりと見えた。
「あ、見て見て!」
と由実の向こうの窓を指差すと、「おおーっ」と声を上げる。普段はこんなにテンション高くないのにな。本当に楽しみだったみたいで、なんかかわいいな、と思う。由実は携帯のカメラで写真を撮っていた。
「あー、後で見せてー」
「うん、いいよー」
あんなに小さかった島は、もう海が見えないくらい大きくなった、あとちょっとで、沖縄に着くんだ。
機内がざわめく。着陸の衝撃があたりを揺らす。まだ実感は湧かないけど、もう着いたんだな、とほっとする。
飛行機を降りて、空港のおみやげ屋の品揃えを見て、ようやく沖縄だ、という実感がわく。由実も「やっとなんか『沖縄だー』って感じがするよ」って言うから、「そうだねー」と返す。
これからクラス別でお昼を食べてから組別で行動だったっけな、としおりの内容を頭で振り返る。もちろん由実とは同じ体験場所を巡る。それで、偶然かは分からないけど、バスの席も、泊まる部屋も、個人で選ぶ体験の選択も、全部由実と一緒。つまり、この修学旅行の間、ずっと由実と一緒にいられるんだ。
由実と二人で、いっぱい思い出、つくりたいな。窓のほうを見ながら物思いにふける由実を見ながら、そう思った。
今私の願い事が叶うなら感想ください
この駄文でどんなものが
伝わったか教えてください(切実な翼をくださいカバー)