由実 胸にいるあなたのせい
ちゃんと毎日一話掲載する物書きの加賀美
もうちょっと話したかったけど、電源を切る。声が上ずっちゃう前に。眠気なんて吹っ飛んで、ちゃんと眠れるか不安になる。
初めて聞いた、優しい声に、まだ鼓動は高くなったまま。「自分だけに向けられてる」なんて考えちゃったから、余計に。
ラインの理紗とのトーク画面を開くと、「いつぐらいに着きたい?」とメッセージが届く。9時に集合だけど、トラブルとかがあったら大変だから、「8時半くらいかな」と送る。送った途端に既読がついて、「ちょっと待ってて」と返事がくる。
修学旅行の4日間、ずっと理紗のそばにいられるんだ、と思うと、心がときめくのを抑えられない。
本当に「ちょっと」の時間で、路線に関しての詳細が書かれていた。返信を打つと、すぐに返ってくる。「おやすみ」と打って、話を切ってから、添付されていたURLに飛ぶ。
思わず笑みがこぼれる。検索結果で、一番乗る時間が短いルートだったから。私が朝に弱いのを知ってて、それでちょっとでも遅くに出られる方法を選んだのかもしれない。その心遣いが嬉しい。でも、そこまで気を使わなくてもいいのに、と思うけど。
理紗との約束なら絶対起きるのに、なんて、口が裂けても言えない。
ぽかぽかとした体を、布団に埋める。柔らかな温もりに包まれて、瞼を閉じた。
ぴぴぴぴぴ、と目覚ましの声。重い体を起こして、カーテンを開けると、白い光が部屋を射す。小鳥たちの声に耳を傾けていると、眠いのもどこかにいってしまった。
寝間着のままリビングに向かうと、もう朝ごはんが出来ていた。あと一時間もすれば、理紗と会える。それだけでもう心が幸せで満たされる。
食べ終わって、クローゼットを広げて、どんな服にしようかなと考える。体験先の関係でズボンになるからまだ楽だけど、トップスは一番お気に入りのものを旅行鞄に入れてしまった。鞄は昨日のうちに送っておいたから、取りに行くこともできない。海に行く2日目にそれを着ることにする。結局、ベージュのインナーに水色のチェックを合わせることにして自分を納得させる。黄色がアクセントのソックスを穿いて、お気に入りの腕時計を着けて、いつも持っていく斜めがけのバッグを肩にかける。持ってる中で一番のお気に入りの靴を履いて、まだ暑さの名残が消えない外に飛び出した。まだ乗る予定の電車には早いけど、理紗と会いたいと思うと、自然に足が早く進んだ。
理紗と早く合いたくて、一本前の電車に乗る。電車の中で落ち合ってもいいけれど、ラッシュに入るか入らないかという時間だから、車両を間違えると乗り換えまで会えないかもしれない。理沙が乗る駅で待っていれば、絶対に逢える。
ホームに降りて、電車が出るのを見届けて、ホームと改札を結ぶ階段の前に行く。すると、階段の上に由実がいた。まだ人も多くないから手を挙げてみると、理紗がいそいそと階段を下りる。
あと数段ってところで、「おはよっ」ってわくわくしてる理紗。そういえば、理紗の私服を見るのは初めてだったな、と気づく。学校じゃいつも制服だし、美術部の活動でたまに土日に学校に行くけれど、その時の理紗はいっつもジャージか部で作ったシャツを着ている。
おはよう、って返しながら由実のコーディネートを見る。パステルカラーで、かわいくまとまっていて、ちょっときゅんとする。理紗の服って、もうちょっと大人っぽいのかな、と思ってたけれど。
「どうしたの?早いね」
「楽しみだからつい早く来ちゃってさー」
「確かに、修学旅行って一度きりだもんねー」
修学旅行も楽しみだけど、理紗と一緒にいられることが一番楽しみ。実際には言えないから、心の中で言う。
「うちはもう昨日はもう興奮しちゃって寝られなかったよー」
「移動のときもそんな寝れないもんね」
いつもと変わらないみたいに、あっという間に過ぎる時間。あっという間に電車が来るというアナウンスが鳴る。
「あ、もう電車来ちゃう」
「電車の中でも話せるじゃん」
「うん、そうねぇ」
理紗といると、頬がちょっと熱くなる。気のせいか、理紗の顔も、ちょっと赤くなってるように見えた。
感想を死ぬほど待ちわびています。