エピローグ 理沙 二人の幸せ
2週間ほど連載し続けましたがこの回で最終話です。
あの時から、もう何年過ぎたんだろう。
あの日から積み重ねた日々は、今でもはっきり思い出せるほど、鮮やかで、楽しくて、ジェットコースターみたいにあっという間に過ぎていった。同じ女子大に入って、その時から一緒に暮らしてたっけ。それで、大学を卒業したら、二人だけの結婚式をしようって、決めてたよね。
「由実、起きて」
体を揺すっても、全然起きてくれない。昔から朝に弱かったけど、昨日の夜は遅くまで準備してたからかな。いつもならこれくらいで起きてくれるのに。
仕方なく、とんとん、と腕を軽く叩く。規則正しかった寝息が乱れたけど、
「理紗がちゅーしてくれたら起きるね……」
とまだ半分夢の中。昔見た「白雪姫」の王子様だって、驚くような事を言って。でも、そういうところを好きになってしまったのかもしれない。由実に甘えられる度に、私の心臓が、きゅんと高鳴ってしまう。
由実のくちびるに、そっとキスをする。由実とするときはいつも、胸の奥がきゅっと痛んで、それでいて甘い。これ以上くちびるを重ねたら、もう止まれなくなりそうになるまで、ずっとそうしていた。そっと離すと、すぐ間近に由実の顔。
「理紗、おはよっ」
そう言って笑う由実に、なぜだかほっとする。
「もう、結婚式するよって言ったじゃん……」
怒る気にもなれないくらい、理沙に心ときめかされた。
「あ、そうだった……、誓いのキス、もうしちゃったね」
なんて可愛いことを言うんだろう。由実の一言で、心がこんなにも揺さぶられるなんて、「お付き合い」を始めた時みたいだ。
「へっ、変な事言わないでよっ、……襲いたくなっちゃうじゃん……」
というか、今日が二人の結婚式の日じゃなかったら、多分そのまま襲ってたかもしれない。
「じゃあ、来週にする?」
ちょっと頬を赤らめて言う由実。その提案に乗りたくなる私がいて、でも部屋中に飾った、今日のために作った紙飾りとかを見ると、早く『結婚』したい、と思う。
「えー、今日にしよ。昨日飾りつけ頑張ったじゃん」
「うん、待ってて、ごはん作るから」
始めは、包丁を持つのがが恐い、って言っていた由実も、いつの間にか料理が上手になっていて、最近はずっと由実が料理担当だ。とんとんとん、と軽やかに包丁が音を立てる。ハムエッグに、キュウリとレタスのサラダとごはん。それだけの簡単な料理なのに、どんなシェフが作ったメニューよりもおいしく感じる。
それから、着替えて、二人で買い物をして、いよいよ、、ささやかな式が始まる。
「うちと、幸せになってくれますか?」
「ち、誓います」
お互いに結婚式に呼ばれたことなんて無いから手順とかはもうめちゃくちゃだろうけど、――二人がお互いを本当に好きで、愛し合っているなら、そんなのもは、もう関係ないと思う。
二人で半分こしたケーキを、並んで食べる。ホールケーキのでは一番小さいのにしたから何とか食べられたけど、お腹が重くなりそう。
「理紗―、お腹いっぱいだねー」
「そうだね」
と由実のほうを見ると、口の横にクリームがついていた。それを、口で吸う。
「な、何っ」
「クリーム、付いてたから」
「ありがと、でも」
お返しとばかりに、由実にも同じことをされる。
「理紗にも、ついてたよ」
「え、そ、そうだった!?」
「ははは、理紗ってばーっ」
由実がそう笑うと、私もつられて笑う。この時間が何て甘くて、特別で、楽しいんだろう。
「ねえ、由実」
「何?」
当たり前みたいなことだけど、確かめたいことが一つだけ。
「ずっと、一緒にいようね」
「うん!」
もう一回重ねた、誓いのキス。ここだけ、甘いものが満ちているような気がする。
きっと、それは、うちと、由実の幸せな気持ち。
そして、こんな気持ちになれるのは、……由実の隣にいられるから。
番外編(いちゃいちゃ成分マシマシ)を明日から連載するのでそちらもよろしくお願いします。




