由実 何よりも、温かい
短いようで、すっごく長くて、いろんな事があった修学旅行。それも、もう終わりだ。
手荷物検査も終わって、出発ロビーで理紗とおはなしする。理沙との距離が近づいたのも、つい何日か前のことで。「かわいい」と言われてから、下ろしてた後ろ髪をポニーテールにするようになった。家に帰ったら、ヘアゴムも買わなきゃ。理沙に、似合うのを選んでもらおう。早速言うと、
「うん、じゃあそうしよっか!」
「ねえ、いつにする?」
「代休の日なら人も少ないしいいんじゃない?」
「うん、そうだね!」
もう決まった約束に、心が弾む。それに、また二人でお出かけできる。手繋いだりできるかな、なんてふわふわで甘いことを思ったりする。
先生の、そろそろ行くよ、という声に気づいて、クラスメイトが集まっているところに向かう。自然に理紗と手が繋がってて、クラスメイトの一人にこっそり指摘されると、わたしも理紗も顔が真っ赤になって、でも繋いだ手を離そうとはしなかった。
飛行機の席は、また理紗の隣で、行きで寝ちゃった分、一緒にいたいな、と思う。
離陸して、シートベルト着用ランプが消えると、理紗が、
「一緒に聴く?」と、音楽プレイヤーに繋がったイヤホンの片方を差し出す。受け取って、イヤホンを見ると、右耳用で、理紗は左隣。イヤホンをつけると、自然に理紗の頭とくっつける。理紗が何か操作をすると、甘い甘い恋の歌が流れる。
あなたがそばにいるだけで
私は「幸せ」に包まれて
空さえ飛べる気がするんだ
隣にいてくれてありがとう
あなたといられるこの時が
いつか終わってしまうまで
この「幸せ」を分かちあって
二人でずっと
歩いていこう
何でだろう。理紗が歌っているように思える。この歌の歌詞みたいに、ずっとずっと、理紗の隣で笑っていられるなら。これ以上の幸せなんてない。
そのまま曲を聴いていた。流れる恋の歌に耳を傾けると、理紗と出逢ってからの、いろんなことを思い出す。楽しかったり、苦しかったり、全部、理紗と歩んだ思い出。それできっとこれからも、理紗との思い出を積み重ねていく。心の奥が、考えただけでも熱く高鳴っていくのを感じる。
乗務員さんの声で、そろそろ着陸だと分かる。窓からは、東京湾の独特の形がはっきり見える。もうすぐ、おうちに帰れるんだ。それで、理紗と、新しい「日常」を作っていくんだ。
羽田に着いて、珍しいものを理紗とちょっと見て回ってから電車に乗ることにする。普段はこんな場所、滅多に行かないし、重い荷物を肩に抱えて歩く。話してると、他のことが気にならなくなってしまうくらい楽しくて、荷物を置いていってないかたまに確認してしまうほど。
電車に乗って、ちょうど空いてた席に座ると、疲れがどっと押し寄せてきて、理沙に寄りかかってしまう。そんな私を、理紗はぎゅって抱いて、頭を撫でてくれる。気持ちよくて、しばらくそのままでいることにする。気が付いたら乗り換えの駅で、寝てしまってたんだって気づく。
「もう、由実ってば」
そうからかわれて、顔を覆っても隠しきれないほど恥ずかしくなって、でも、「こんなとこがかわいいんだから」ってぼそっと言った理紗の言葉を聞いて、舞い上がってしまう自分がいる。
帰りは行きと反対で、理紗が先に降りる。乗ってるのはわたしたちだけ。ちょうど止まって、ドアが開く。「じゃあね」と片手を軽く上げる。理紗が荷物を持ってドアの方に向かう、―――と思ったら、理沙が振り向いて、そっと私のほっぺに口付ける。「またねっ」と言う声。顔から湯気が出そうなくらい顔が熱くて、こんなの見せたくなくてうつむいた。
再び進み出した電車の中には、理紗の姿はなかった。
ずるいよ、理紗。
もっと、理紗のこと、好きになっちゃうじゃない。
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