由実 二人の時間は
「昨日買った、おそろいのにしよ?」
わたしがこう言うと、理紗が、
「えっ……っ?は、恥ずかしいよっ」
と顔をトマトみたいに真っ赤にしてるのを見て、かわいいな、と思わず笑みがこぼれる。最初、おそろいにしたいって言ったのは、理沙のくせに。
知らなかった理紗のことを、どんどん知っていく。そのたびに、心の距離が、少しずつ近づいていく気がした。
移動中のバスの中で、さりげなく繋がれた理紗の左手。ちら、っと理紗のほうを見ると、わたしと同じ水色のシャツが見える。
その手はしっとりと濡れていて、理紗も緊張してるんだな、ってかわいく思える。はじめての「デート」。とろけかけた頭が、わたあめみたいに甘い想像をいくつも作り出す。
まもなく美ら海水族館に到着します、というバスガイドさんの案内にふと我に返る。もう、おっきな建物がすぐそばに近づいていた。
バスから降りると、一度離した理沙の手が、また差し出される。わざとそっぽを向いた、桜色に染まっているのが一瞬見えた。そっと握ると、まだためらってるみたいに、ぎこちなく握り返してくれる。あったかくて、やわらかい理紗の体温を感じる。落ち着くのに、ずっと触れていると胸の奥がつんと痛む。
館内は人で溢れてて、暗くて、右手に感じる理紗の温もりが心強い。絶対に離れないという自信が、なぜだか体の奥から泉のように湧いてくる。
「わぁ……きれい……」
そう目を輝かせる理紗の目線の先には、大きな群れをつくるイワシたち。理紗の一言で、それが、巨大な万華鏡のように、銀色の光を放つ神秘的な存在になる。思わず、ほぉ、と深い息が漏れる
「本当だ。すごい綺麗だね」
と返すと、
「なんか、万華鏡みたい」
「わたしも、そう思ったよ」
思わず理紗のほうを見る。そこにあったのは、そっと微笑んだ理紗の顔。周りの喧騒が掻き消えるくらいきれいでかわいくて、思わず見とれる。その笑顔が、わたしだけに向けられてると思うと、頬が緩むのが抑えられなかった。
この水族館で、一番の目玉であるジンベエザメ。巨大な水槽の中を悠々と泳ぐその姿は、海の王みたいだ。
「なんか、かっこいいねー」
「そうだねー」
「写真、撮りたいな」
「うちらも一緒に入ろ?」
そういえば、二人で写真を撮ったことは無いな、と思う。理沙も、二人の写真が欲しかったのかな、と思うと、自然と笑みがこぼれる。
その辺にいた人を理紗がつかまえて、写真を撮ってもらう。二人が写真両端になるようにして。フラッシュが光って、できたものを見せてもらうと、二人の間をちょうど結ぶようにジンベエザメが泳いでいた。理沙の携帯から送ってもらって、壁紙に設定した。
お土産にも、おそろいのキーホルダーを買う。突然変わった距離感に戸惑って、でもその何倍も嬉しくなる。バスに戻るときには、もう、手が繋がっているのが、当たり前のようになっていた。体験場所別になったバスでも、隣になった理紗と、水族館とか、これから行く海の話をした。気が付くと、もうすぐお昼の時間だ。こんなに早い三十分なんて初めてで、これからも、理紗とこんなふうに「初めて」を重ねていくんだな、と思うと、胸が高鳴ってどうしようもなかった。
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