由実 繋がった気持ち
「おやすみー」
奈緒さんの声に、おやすみと返したけど、体が熱くて眠れない。風邪じゃないし、お風呂に入ったのは一時間も前のことだ。どうしても、頭の中は隣のベッドにいる理紗のことでいっぱいになってしまう。
フットライトがついていて、薄茶色の光が辺りをただよう。隣の理紗は、もう、すやすやと寝息をたてている。なぜだか分からないけれど、不意に、理沙の顔が見たくなった。眼鏡を取るのももどかしく、横になった理紗を見る。――近い。お互いの熱が感じられそうなほど。きっと体の熱がさあらに上がったのも、きっとそのせいだ。
綺麗で、かわいい寝顔を見ていると、理沙のまぶたが震える。
「ん……、由実……?」
どうやら起こしてしまったみたいだ。さっき見た携帯ではもう0時を回っている。
「起こしちゃった?ごめんね?」
「ううん?……由実のにおいがしたから」
そう言う理紗の顔が赤く見えるのは、きっとオレンジっぽい照明のせい。だけど、「わたしのにおい」って……?頭の中がコーヒーカップみたいにグルグルと回って、わけがわからなくなる。体ももう全然動かない。ただ、背中に回された理沙の腕の柔らかさを感じることしか。
「り、理紗?」
訊こうとしたけれど、改めて考えると、頭にやかんを載せたら沸騰しちゃいそうなほど熱くなってしまう。
「なぁに?」
言い訳できそうな言葉を頭の中をひっくり返して捜す。考えるのがおぼつかなくなってる状態で、なかなか見つからなかったけど。
「ん、えっと……、もう遅いし、おやすみしよ?明日、楽しみだね」
慌てて自分のベッドに逃げ込もうとしたけど、かくんと途中で止まる。それどころか、逆に理紗の方に引き寄せられる。
「あ、待って」
「な、何……?」
目の前の理紗が固まる。わたしも、理紗の背中に腕をかける。お互いの吐息がかかりそうなくらい近くにいる理紗の言葉を待ったのは、ずっと長い時間のようで、一瞬のような時間。
「由実……、好きだよ」
時が、止まった気がした。気がつくと抱きしめられていて、柔らかい温もりに包み込まれる。体が熱いのは、ドキドキして熱くなってるからなのか、それとも理紗に温められてるからなのかもわからなくて、ただ理紗の背中に掛けた腕をきつく絡める。この温もりを離さないように。
でも、言わなきゃいけないことが一つ。わたしからも想いを言わなきゃ。
「理紗……、夏休みの前に、下駄箱に手紙入ったの覚えてる……?」
「もちろん、だよ」
「あれ、わたしのだったの。恐くて言えなくて、……」
涙声になるのが抑えきれなくて、ぬるい涙がいくつも流れる。こらえようとしても、川のように流れて、布団を濡らしていく。
「ううん、嬉しい」
一瞬理紗の腕が離れる。そう思った途端ぽんぽんと背中を叩かれる。その心地よさに溺れたくなる。
「うち、あの手紙くれたの、由実だって思ってたの」
え。それって。頭が真っ白になる。考えなんて全部吹っ飛んで、わたしと理紗だけ、別の世界にいた。
「由実のって気づいて、自分も由実のこと好きって気づいたのに」
その声が今にも泣きそうで、――もう、耐えきれなかった。何かがぷつんと切れて、いつの間にかくちびるに触れる柔らかいもの。目を開けると、理紗の長いまつげが目に入りそうな距離で。
自分が何をしたのか、気づいてしまった。何てことをしてしまったんだろう。からめた腕を抜いて、慌てて自分のベッドに飛びずさる。
「ご、ごめっ……、そんな訳じゃなくて」
気が動転しながらも言い訳しようとしたけど、理紗は全然怒ってなさそうで、四つんばいでわたしのすぐ傍に来て、耳元でささやかれる。
「うちも、していい?」
拒否権なんてもう奪われたも同然で、こくん、と頷く。瞼を閉じると甘いにおいがして、理沙のにおいだって気づいたときにはもうくちびるが重なっていた。
理紗のキスは、甘くて、優しかった。私が強引に奪ったようなものじゃなくて、もっと、私を包み込んでくれるような。
絡まった指と指がきつく繋がって、永遠に離れないような気さえした。胸の奥がちくんと痛んで、その何倍も気持ちいい。
やがてくちびるが離れる。力が抜けて、理沙の体にうずくまる。それを、やさしく抱いてくれる。
「理紗……、好き……っ」
心の奥にある熱い何かは、そんな一言じゃ全然伝えられない。だけど、卵を温める親鳥みたいに優しく抱いてくれる理紗は、何もかもわかってくれるような気がする。
あったかくて、意識がどこか遠くに飛んでいく。顔を埋めた胸の柔らかさと、理紗の肌からただよう香りに身を任せた。
序盤のシリアスっぷりを放棄したようなくっつきぶり。
とりあえず感想ください。




