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君のいる町  〜恋愛臆病の私の場合



――愛、元気にしている?大学生活にはもう慣れた?今日仕事が休みで、久しぶりに小田君のお母さんとお茶したんだけど、小田君はもう彼女ができたんだって!同じ学部の子。写真を見せてもらったんだけど、かわいい子だった。愛はどう?彼氏とかできた?できたらちゃんとお母さんに言いなさいよ!


そのメールが来たのは、ゴールデンウィークが始まる5日前。

「小田君」という文字を見つけたとき、ドキっとした。

無意識のうちに、期待していたんだ。

お母さんからのメールに書かれていることを。


小田雄一。

中学生の時、私の家の隣に引っ越してきた。

だから、幼馴染というわけではない。

それどころか、会話らしい会話もろくにしたことがない。


それでも私は彼が好きだった。

見ているだけで幸せだった。

彼がいるというだけで、心地よかった。


いつから私は彼のことが好きになったんだろう?

どうして彼のことが好きになったんだろう?


好きなんだと意識した時から、彼は私から少し遠い存在になった。

内気で恥ずかしがり屋の私は、顔を見合わせることもできなくなり、

席が近くになっても、他愛無い会話することができなくなった。

顔を合わせるのは、特別な用事がある時だけ。

話すのは、事務的な内容のみ。


好きだと意識する前のように、一緒に話したい。

何度もそう思った。

付き合うとかそういうのを求めているのではなく、

今よりもう一歩、友達として近づきたいだけ。


でも、遠くから見ているだけというのも、嫌いではなかった。

心の落着きを保てるし、

嫌われる心配もしなくていいから。


傷つくのが怖かった。

「告る」なんて次元の違う話。

私にはそんな思い切ったことはできない。

私は臆病だ。

そんな自分がもどかしかった。


時はあっという間に過ぎ、気づいたら受験、卒業、別れ。


認めるのは恥ずかしいけど、私は待っていた。

シンデレラのような出来事が起こるのを。

臆病な分だけ、私は夢を見る。

家が隣だから、とか

親同士が親しいから、とか

自分勝手に理由を作り

夢が実現するのを

心のどこかで待っていた。

ずっと ずっと。


無意味だったんだね。

涙がポトリと落ちる。

「小田君」の文字がぼやける。

自分が情けない。

すごくかっこ悪い。


私は県外の大学へ。

小田君は地元の大学へ。

大学別々でも、休暇に会えるから大丈夫。

同窓会で会う時には、

私は今よりうんと綺麗になってて、

おしゃれになってて、

それで……

どうしてそんなことが思えたんだろうか。

私って本当馬鹿だよね……。


泣くほど彼のことが好きだったんだ。

今になって、「好き」という感情の深さを知る。


変わりたい。

泣きながらそう思った。

もっと強くなりたい。

自分に自信が持てるようになりたい。

そして、いつか誰かに思いを伝えられるように

なりたい!


でも、今は……。

そう簡単に忘れられるわけでも

変われるわけでもない。

だから、ゆっくり焦らずに……


――もうすぐ、ゴールデンウィークだね。大学行く前には、帰省するって、愛は言ってたけど、どうするの?新幹線ですぐなんだから、帰っておいでよ!



ごめんね、お母さん。

私はメールを打ちながら、心の中で謝る。



どれくらい長くかかるのか、自分でも分からない。

だからこそ、とても不安。


とにかく今は、私は帰らない。

私は帰れない。

君のいる町へ。


読んでくださってありがとうございました。

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