4話 みぃちゃんと引っ越し
みぃちゃんが引っ越すらしいと母から聞いた。僕はみぃちゃんが一人で海外にでも住むのかなと思ったけれど、実際はみぃちゃんの母の実家に同居することになったらしい。
引っ越しの前日、みぃちゃんにお別れを言おうと、会いに行った。今日もまたマリリンモンローのトレーナーを着ている。
みぃちゃんの部屋で僕はコーラをごちそうになりながら、ジェンガでドミノを作っている。それと言うのも、みぃちゃんが何とかスイッチというのをテレビで見て、自分もやりたいと言ったからだ。なんだかよくわからないけれど、ドミノを作る方じゃなくて、人にドミノを作らせてそれを見る方がいいらしい。自分で作るのは傷つくとか言うのだけど、なんでドミノ作りが傷つくのか、いまいちよくわからない。
僕はジェンガを円に並べて脇にそれる列も作った。その脇道の先に小さな絵本とマンガの本と有名児童図書を並べて、最後に倒れた児童図書が目覚まし時計のボタンを押してベルを止める仕掛けだ。ドミノの最中ずっとベルが鳴っていることになる。
「うるさい何とかスイッチだなー。」
みぃちゃんがイチゴポッキーを僕に渡しながら言う。いや、目覚まし時計のアイデアはみぃちゃんが言い出しっぺだよ……。
「みぃちゃんにもう会えなくなるんだね。」
僕は小さくつぶやくのが精一杯だ。
「よかったじゃん。君の人生もようやく上昇するってことよ。」
みぃちゃんはツンデレみたいなことを言いながら、目覚まし時計を鳴らした。ジリジリジリジリジリジリジリジリジリッ。そして口にくわえたイチゴポッキーで最初のジェンガを倒す。カタカタカタカタカタカタ、ドミノが倒れていく。カタカタカタ、とんっとんっとん、バシャン。
目覚まし時計の音が止まった。イチゴポッキーをむしゃむしゃしながら、みぃちゃんは満足げだ。あいかわらず楽しそうに笑っている。幸せな引きこもりお姉さんだ。かわいいな。
だけど、僕とみぃちゃんの毎日もこんなふうにどたばたと終わってしまうんだ。
「寂しいよ。」
僕はみぃちゃんを見れずに言う。
「そんなことないよ。実家、すぐ近くだから。」
そう言って、イチゴポッキーをくわえた口を僕に向けてくる。何だろうか、そのイチゴポッキーを僕にくわえろと言うのだろうか。どきどき。どきどき。どきどき。
「えっ、実家はすぐ近く?」
僕は正気に戻った。あのイチゴポッキーはもうまぼろしのようだ。
「そうだよ。徒歩30分くらいかな。」
僕は持ってたイチゴポッキーを袋から一本ずつ、みぃちゃんの口に近づけて、中身を全部くわえさせた。すると、みぃちゃんは口をイチゴポッキーでいっぱいにしたまま、おかしなものを見る目で僕を見た。僕も同じ目でみぃちゃんを見ていた。