無機質な鼓動
こういった、匿名ゆえの情熱もあるのかもしれない。
なにも感じることのないデジタルな画面。
無表情にちらつくあなたは、いつも冷たい。
伝わることと言えば、
まやかしな文字と空虚に綴る言葉ばかり。
少し。苛立つわたし。
瞳に映らないあなたをわたしは想う。
わたしはなぜ。好意をもってしまったのだろう。
声も、肌から伝わる温もりすらないのに。
瞳に映らないわたしを愛でるあなたが見える。
あまく口溶ける果実のような妄想。
文字でしか現れることのない、あなたの断片をかき集めただけ。
それは甘美な媚薬……
わたしのなかは、あなたの接吻と抱擁で熱く高ぶり、
身悶えるからだを抱きしめ、狂おしい情欲をおさえて偲ぶ。
だけど。それだけでは、この燃えあがる炎が満ち足りることはない。
あなたを求める飽くなき渇望が、わたしの肉体を焦がしているのだから。
それは切なく、そして苦しい。
堪えきれず、逃げようとするわたしを糖蜜のような妄想がささやく。
( あなたの腕に抱かれたなら )
肌から香る、かぐわしい異性のにおい。
ひたと寄り添い、からだを伝わる心地よい鼓動が、
わたしを捕らえ決して逃しはしない。
わたしはアナログなあなたを求めているのだろうか。
その答えは、たぶん……理解していると思う。
そっと。わたしは無機質な窓を指でなぞる。
あなたに知れることはないが、わたしの紡ぐ文字は恋の詩。