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竜は夜に飛ぶ  作者: dora
序章 竜王と戦王は出会う。
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2.

 2.

 上等だ、聞けよ竜の王。

 俺は怒りと共に生まれ落ちた。お前が人であった記憶を持つように、俺もおぼろげながらかつての記憶がある。

 お前が幸福な記憶を持つのと違い、俺は豚同然に扱われていた。来る日も来る日も、ただ人並み以下の扱いを受けていた。平等がうたわれる世界で、一定の人間はその恩恵にあずかれない。その差異は本当にわずかだ。ちょっとしたことで奪われ、踏みにじられ、嘲笑われる。

 確かに俺は弱かった。

 だが、だからと言って奪っていい、などとされる世界ではなかったはずだ。

 家族も、家も、あらゆるすべてが蹂躙された。犯され切り刻まれ、殺されて火をつけられた。

 ただ弱いというだけで、奴等は俺からあらゆるすべてを奪い去った。


 俺は、そんな記憶を持ってこの世界に生まれ落ちた。

 赤子が泣く声を知っているか。命の喜びをうたう声だ。親からの祝福を喜ぶ声だ。

 俺は違った。怒りだ。怒りだ。全身を焼く紅蓮の怒りだ。理不尽を憎む怒りだ。奪うものを憎む怒りだ。

 二度とごめんだ。俺はもう、何一つ奪わせない。

 生まれた瞬間にそう誓った。


 だが、この世界は過酷だ。

 俺の生まれた村は小さなものだった。豊かではないが、貧しくもない。そんな小さな村だった。

 動けるようになってから、必死に体を鍛えて来た。上背は武器だ。思いつく限りの知識も駆使した。何でも食った。とにかく大きくなりたかった。知る限りの武術を、記憶の中から再現した。読みかじった鍛え方も試した。だが、所詮は蟷螂の斧だった。

 三つの時だ。村が野盗どもに襲われた。

 あっという間だった、俺は何もできなかった。母親に、井戸に突き落とされ、必死で桶にすがりついた。

 震えながら夜を明かした。

 冷え切った体は眠りを求めていた、寝たら死ぬのは間違いないだろう。そう思って、腕の肉を噛みながら意識をつないでいた。


 俺がそこから拾い上げられたのは、襲撃から三日ほど経ってからだった。

 ある騎士団が、俺の村を通った。生存者を捜す中で、俺を見つけたらしい。

 記憶にはないが、俺の養い親になった騎士は言っていた。今にも噛みついてきそうな顔をしていた。

 それもそうだろう、両親は優しかった。前の人生でも同じ、今回も優しかった。それを理不尽に奪われた。笑いながら殺したのか。笑いながら犯したのか。笑いながら焼いたのか。悪め。おのれ悪め。俺は人の悪性を憎む。悪性に囚われた者を憎む。俺の家を、村を、家族を焼いた悪を憎む。

 力を欲した。誰にも負けないように、奪われないように。


 騎士は俺を養子にしてくれた。ふん、何がおかしい? ―――ああ、お前の言う通りかもしれない。思い返してみれば、俺は人に恵まれた人生と言えるだろう。俺は弱かったが、まっとうに育ててもらえた。善を尊び、正しいを良しとする心をはぐくめた。それは間違いなく前世の両親が遺してくれた宝だ。人並み以上に頑健なこの体も、今生の両親が遺してくれた宝だ。この剣も、この鎧も、戦うすべも騎士が遺してくれた宝だ。


 養父に拾われてから十年目に、俺は復讐を遂げた。皆殺しだ、手加減はない。俺は奪われる側から奪う側に、回っていた。最悪の気分だった。命乞いを聞きながら殺す。糞尿にまみれて逃げ惑うのを殺す。死にたくないと言わせて殺す。殺す。

 何度へどをまき散らしたか覚えていない。一人斬るたびに吐いていた、くらいは覚えている。今ではすっかりなれてしまったが、最初の一人の顔を、何度も何度も夢に見る。


 それから三年で養父が死んだ。魔物との戦いの中で死んだと聞かされている。当時俺は養父と違う場所で、俺の敵ではない盗賊を追っていた。せめて俺のような子供が生れぬように、親と笑いあって暮らせるように。そう思いながら、心を錆びつかせていた気がする、な。―――なんだその顔は。くそ、なんで俺は、お前にこんなことを。

 もういい、喋りすぎた。養父がなぜ死んだかだと? ぬけぬけとどの口で言うのか。魔竜の王よ! 魔王よ! お前がもたらした軍勢が国を襲い、お前がもたらした暴力が俺の養父を殺した。

 今、俺がお前の目前に立つのはそれが所以だ! さあ立て理不尽の権化よ、父の敵よ! 俺の怒りを身に受けて死ね! お前が殺した幾千幾万の命に詫びて死ね!

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