逆ハー(仮)を卒業します。
長いな…これ、分けるべきだった?でも、プロローグを分けるなんてきいたことないし。じゃあはしょる?でもここまで書いちゃったしなぁ。よし!面倒だ!このまま投稿しちゃえ!
「どこを見ているの?オレだけを見ていてほしいんだけど。」
仕事してください。暇なんですか?王子さま。
「そんなやつ見なくていい。こっちを向け。」
国のナンバーツーに『そんなやつ』呼ばわりは良くないと思いますよ。次期宰相さま。
「……ぼくだけみて。おねがい。」
とっても可愛いけど出来かねるね。魔術師さま。
「まどろっこしいなぁ。俺だけしか見えないようにしてやろうか?」
爽やかな顔して一番危ないこと言うのやめません?騎士団長さま。
「無理強いは良くないよ。私は見てもらえるまでずっと待ってるから。」
それが一番イヤです。庭師もとい、隣国の王子さま。
この、国一番の権力&美形集団に囲まれてるのを、遠くの柱の影から睨んでいる美少女。恨まないで。これはあんたのせいだから。むしろ私が盛大に文句を言ってやりたいわ。
いい加減にして。
***********
どうも。私です。
えっ?私じゃわからない?名乗るの?めんどいなぁ。
新居より子です。
さん付けはいい。でもちゃん付けしたら殴ります。容赦はせん。私は女だ。
日本で普通に働く25歳。かなりの面倒くさがりのため、恋人は今までいたことない。欲しいとも思わない。本と海外ドラマがあれば生きていける。ミステリー、サスペンス、青春、ドロドロ愛憎なんでもござれだけど、最近は1話完結のミステリーにはまってる。観やすいしね。
あの日も、TSU○YAさんで大好きなドラマの新シーズンが出てたから、3泊4日だけど借りに行って、ホクホク顔で帰っていったんだ。そして、我が城(一人暮らしの1DK)のドアを開けてみれば、そこは本物のお城でしたーっと。
つまりは現在、巷で流行り(?)の異世界トリップしております。落ちたとかではなく、明確な意図を持っての異次元誘拐です。拉致でもいい。
端的に言えば召喚されたわけだ。まぁドアがこの世界と繋がったというだけだが。なぜか?勇者とか巫女とかではなく、王族の結婚相手としてだって。なんじゃそりゃ。
王子さまは言ったらしい。『この世界の女と結婚する気はない』と。訳せば、『一生独身族でいる』と宣言なさったそうだ。それに慌てたのはもちろん、王子さまの父親である国王さまと、家臣たち。この世界が駄目ならと、異世界から女の子を召喚。それに私は巻き込まれただけだ。
だって、扉が2つ現れて、しかも女の子も2人出てきてびっくりしてたもの。予定では1人だったらしい。なんでも、初めての試みで上手くいくかさえもわからなかったとか。
とりあえずパニックになってる美少女女子高生と、パニックを頭の中で起こしている平々凡々な25歳の私を落ち着かせると、事情を話し出した。主に美少女の方に。
まぁわかってたけどね。そのテの話も雑食な私は読み漁ってたし、恐らく王道展開であろう王子さまに気に入られるヒロインは彼女だろうなと。ってかそうであってほしい。私は早く帰ってDVDが観たいのだ。手元にあるのに観れないなんて、なんたる拷問。
私の読み通り、あれよあれよという間に王子さまの婚約者に仕立て上げられそうになっていた。しかもこの娘、それが存外嫌じゃないらしい。
涙を眼に溜めつつも、『知らない人と結婚なんて出来ない』だの、『結婚なんてまだ早い』だの、『もっとお互いのことを知ってから…』だのと、結婚を嫌がる振りだけをしてる。普通なら『元の世界に返して』が先じゃない?女の嘘は女がよく分かるもんだ。結構な強かさをこの娘は持ってる。
でも応援してるよ!だから私を返してね!という念が家臣に届いたのか、フードを口元まで隠してる小柄な人に返すすべはあるのかを聞いていた。ナイスだちょいハゲ。
「元の世界に戻す方法は……すみません、ないです。」
魔術師さま、なんて呼ばれてるから、てっきりお年を召してるのかと思いきや、声は少年っぽかった。若作りか?簡単なら教えて。
ってか、巫山戯たこと抜かしたね?あまりにも人をバカにしてる答えが返ってきたから、お姉さん吃驚して漢字変換しちゃったよ。
帰る方法がない?勝手に連れてきておいて?あんた達がどんだけ偉いのか知ったこっちゃないけど、こっちにはこっちの生活がある。皆がみんな、この娘みたいに好意的ならいいけど、そうじゃなかったらどーすんの?王子と結婚するのが嫌だって言ったら?王子が嫌だって言ったら?この世界で勝手に暮らしてくださいとでも言うの?右も左も、常識もわからないのに?え、人のこと舐めてんの?いくら面倒くさがりで大抵のことはいいよで済ます私だって、怒るときは怒るよ?
立ち上がって小柄な魔術師さまと呼ばれる人の前に立つ。こういうとき、ヒールっていいね。威圧感がバリバリ出る。
この人に手挙げたらどうなんのかしら。偉い人っぽいし、もしやの死刑?それはイヤだなぁ。痛いの嫌いだし。まぁとりあえず、
スパーン
と、勢いよくフードだけ取り払ってみた。お話をするときは、人の顔を見てしようね坊や?って言おうとしたのに、彼の顔を見て開口一番、
「かわいい……」
と言ってしまった。
いやだってめっちゃ可愛いんだよ!?一片の混じりっけもなさそうな白髪は光の加減でキラキラしてるし、おっきなクリクリお目目はルビーのような赤。170㎝ある私よりちっちゃくて、私の迫力に怯えてるのか、口元をキュッてしめてぷるぷるしてる。
ナニコレ!ウサギさんみたい!可愛いすぎる!なでなでしたい!すりすりしたい!!もふもふしたい!!!
その欲求に抗えず手を頭にやろうとしたら、ビクッ!と震えさせてしまった。
そっか。数秒前まで怒ってたんだった。叩かれると思われたのかも。よし!
「触ってもいい?」
なるべく柔らかめに言ってみたんだけど、伝わってるかな?
「さ、さわる?……ぼくに?」
「うん。」
「…………きもちわるくないの?」
気持ち悪い?なんで?むしろ私が気持ち悪いってか危ない人認定されそうなんだけど。
「気持ち悪くないよ。ってか可愛いすぎてびっくり。」
「…………」
「で、触ってもいい?」
「…………うん」
よし!言質は取った!私になで回されても文句言わないでね!
最初はそっと髪を撫でてたんだけど、そのうち我慢出来なくなって抱き締めて頬擦りしまくった。もふもふぅ!ふかふかぁ!
髪の毛はとても柔らかくて、本物のウサギを触ってるみたいだ。あぁ~可愛い!家に欲しい!帰れるかわかんないけど!
面倒くさがりもウサギ愛には勝てないほどウサギ好きの私は、週末は電車で片道1時間かかるウサギカフェに通ってる。基本引きこもりの私がだ。そこにいる可愛いウサギさんたちを思う存分可愛がり、甘やかし、なでくりまわしてようやく満足する。これには友人たちもびっくりしてた。でも可愛いんだから仕方ない。悪いのは可愛いすぎるウサさんたちだ!
この少年はそう、
「アルビノ…」
にそっくりだ。真っ白な毛と真っ赤な目を持った、ウサギらしいウサギさん。ネザーランドドワーフの次くらいに好き。だって綺麗だし。
「なんでぼくの名前……」
「え、アルビノなの?」
この子もしや神?ウサギの神さま?かみうさぎなの?ロ○じゃない方の。○ペ好きだけど。
「ち、ちょっとちがうかも。ぼくはアルキノ。アルキノ・シュバレイ。この国の魔術師をやってます…」
そうかそうか。アルキノくんね。まさに君にぴったりの名前だと思うよ!
「私は新居より子。こっちで言うならより子・新居かな?名前で呼んでね。」
頭をなでなでしながら頼んどいた。間違ってもちゃん付けで呼ぶなよ。そんな歳じゃないのはわかってるけど。
「ヨ、ヨリコさん?でいいですか?」
うんうん。ほんにお主はかわゆいのぉ~。顔を赤らめながら首傾げるとか、女の私でもやらぬぞ。
おっと、親睦を深めてる場合じゃない。
「ところで、どうして私は帰れないのかしら?用があるのはそちらの娘だけじゃないの?」
離れがたいけど、さすがに撫で繰り回しながら話す気にはなれない。一歩後ろに下がって聞いてみれば、アルキノくんは困っているのか、眉尻を下げて答えを口にした。
「この召喚も、成功するかは五分五分…というか、成功しないだろうとの見方が強かったのです。なにせ前例が百年以上前のもので、信憑性もあまりなかったものなので。ですからこのような簡素な場で、実験的に行っただけなのです。もし成功するとわかっていれば、ちゃんとした広間で王族の方々の目の前で行っていました。でも召喚は成功し、なぜか二人もの人を喚んでしまいました。ぼくにはなぜ成功したのかさえもわかりません。なので帰る道筋もわからないのです。……ごめんなさい。」
言いたいことはわかった。私たちは"偶然"の賜物だったわけだ。ただ、その"実験"でこっちに来てしまった私たちはたまったもんじゃないけどね。
でもその道筋とやらを探してもらわなくてはならない。だって私は向こうに大切な用事を置いてきた。それを果たさなければ……
「じゃあ帰る方法を探してもらえません?出来れば元いた時間のところで。」
「そ、それは……国王さまが命を出さないと、ぼくだけの判断では出来ません……」
あぁ泣きそうにならないで。また撫で繰りまわしちゃうから。顔が怖いのはどうしようもないんだよ。
「なら国王さまに頼んでください。私は向こうに帰らなければいけないのです。」
「か、かえっちゃうんですか……?」
可愛い顔して可愛いこと言うな!ものすごく心が抉られる!
私たちがこんなやり取りをしてる間でも、美少女女子高生を口説き落とすことを忘れてなかったちょいハゲとでっぷりお腹が嫌そうにこっちを睨んできた。私が帰ると言えばこの娘も帰ると言うと思ったのだろう。
でも安心してほしい。彼女は帰る気がなさそうだ。キラッキラした眼で今後のことに想いを馳せている。だから、
「お願いします。国王さまにご進言を。」
「その必要はない。」
私が真摯に頭を下げたというのに、それをぶち壊す声が一つ。剣をぶら下げた騎士の中からあがった。
だれ?
そいつは他の騎士を脇に寄らせ、横に並ぶ男と一緒に私とアルキノくんの前までやってきた。この展開でいくと恐らく、
「貴方が王子さま、でしょうか。」
国王さまにしては若すぎるし、ちょいハゲやでっぷりお腹がびっくりして頭を垂れているところから見るに、件の王子さまだというのがわかる。しかし、
「いや、おれは側近だ。」
側近かよ!随分偉そうだな!いや王子さまの側近となれば偉いのかもしんないけど!
「そしてこっちがこの国の第一にして唯一の王子さまだ。」
顎で示すなよ!おま、どんだけだ!小説の中だったら確実に『俺様王子さま』なのにな!
「ティール、彼女が戸惑ってるよ。」
もしやこれが常!?怒る様子すらない、ってか気遣われてんだけど!
「ごめんね。側近がこんなだったらびっくりするよね。オレがこの国の後継者、リーデル・ヴァンヘイトだよ。この度は、こっちの事情に巻き込んでしまって申し訳ない。心からお詫びする。だけど返すことは出来ないんだ。ごめんね?」
そう言って国のナンバーツーのわりにはあっさりと非を認め頭を下げる王子さま。
なんだ、常識が通じる人か。と安心しかけて……え?
「返すことは出来ないって、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。本当に申し訳ない。」
言葉では謝ってるのに、顔はにこやかすぎるほどに爽やかスマイル。
え?え??ええぇぇぇぇぇぇ!?
***********
盛大な抗議(と言う名の文句)をしようとしたところ、騎士の中でも一際体格のいい男に抱き上げられ、別室に連れてこられた私、より子さんです。人生初のお姫さま抱っこは、空腹からの揺さぶられ攻撃で気持ち悪いの感想以外持ちませんでした。胸がときめくなんて、眉唾物だな。
別室にて、王子さまから話されたことを簡単にすると、
『結婚なんてまだまだしたくないから恋人のフリをしてほしい』
とのことだった。
なんでも、異世界からわざわざ人を喚び出すくらいの国王さまと家臣の執念に恐れ慄き、しかも成功しちゃったもんだから逃げることが出来なくなっちゃったので、私と偽装恋人を経て『やっぱり性格合いませんでしたー』と別れる算段らしい。
えー面倒くさいー。なんで私がー?あの女子高生に頼べばー?をオブラートに包んで進言してやれば、あの娘は本気にしそうだから却下だと。
召喚の儀を最初っから騎士に扮して見ていた彼らは、あの女子高生の本質をすぐに見極めたらしい。つまりはこの国の結婚を迫ってくる貴族女性と代わらないという本質を。大体が、鬼気迫る女性の攻防が醜すぎて女性不信になり、『一生独身宣言』が出たそうだ。
そこで白羽の矢が立った私。まぁ興味なさげな、しかも帰りたいと駄々を捏ねた私なら大丈夫だろうと、この話を持ちかけたとのこと。
頗る面倒だし、今度は私がその女性たちの嫉妬や嫌がらせの対象になるし、百害あって一利なし。で断ろうとしたんだけど、報酬は出してくれるみたいだ。しかも、可能であれば私が向こうに置いてきた用事を済ませられるようにしてくれるらしい。これには心が揺れた。だって、本当に大切な用事なんだもの。
う~ん。どうしよう。ここでこの話を蹴って、私に良いことあんのか?う~ん。
悩んでいると、付いてきてた側近・アルキノくん・私を担いだ騎士が待ったをかける。やっぱり得体の知れない私では勤まらんのか?
「それならおれも依頼したい。」
「俺も。」
「…ぼくも。」
は?なにを言って……
「ダメだよ。オレが先に頼んだんだ。横取りはなし。」
「なに言ってる。決めるのはこいつだ。お前はいい加減観念してさっきのやつと結婚すればいい。子を為すのも王族の務めだ。」
「そういうティールこそ、彼女と結婚してみれば?案外いい家庭が築けるかもよ。」
「はっ!大体リーデルは……」
あっちで言葉の応酬を繰り広げられていれば、こっちは抜け駆けか。
「俺は騎士団団長のヘルトだ。よろしくな、ヨリコ。実は俺のところも結婚をせっつかれててな。ヨリコさえ良ければ偽装恋人をやってほしいんだ。リーデル王子並みの贅沢はさせてやれないが、王宮住まいじゃなくて俺の邸に住んでもらうから、それなりに自由だぞ?お前はそっちの方が良いと思うんだ。どうだ?悪い条件じゃないだろ?」
それは確かに。こんなとこで窮屈な暮らしをするのはごめん被る。
「……ぼくも、両親が見合いを薦めてきます。たぶん、やっかいばらいがしたいんだ。ぼくは好きでもない人と結婚なんてしたくないのに。ヨリコさん、ぼくじゃ、ダメ?」
んな!そんな可愛い顔でお願いしないで~!思わず頷きそうになったよ~。……いやしかし、アルキノくんのとこに行ったらもふり放題?それはそれでいいかも。もふもふ、もふもふ…
「アル、お前卑怯じゃないか?そんな同情誘うようなことして。確かに昔は『色なし』で苛められてたが、今は魔術師長になってそんなことも言われなくなっただろ?しかもお前んとこの両親はお前のことすごい可愛がってるじゃないか。そんな酷いこと言ってやるな。」
「……じゃましないでください。」
「いーや、今日だけは黙ってられないな。大体お前は……」
あれ?いつの間にか私そっちのけで言い合いをしてる。……ま、いっか。面倒だからほっとこ。
***********
あれから結局口喧嘩は終わりを迎えそうになかったので、まだちょいハゲたちいるかしら?と思って席を立ったところを押さえられた。『さあ誰を(偽装)恋人に!?』と聞かれて、面倒だった私は、
「…全員」
やる気はないと伝えようとした。伝えようとしたのだ私は!なのに!あいつらが!勝手に!
「選べないのか!それはそうだな。まだ知り合ったばかりで、お互いのことをよく知らないからな。」
「いえ、そうじゃな」
「じゃあこういうのはどうだい?みんなでヨリコを口説く"フリ"をするんだ。そうすれば、オレたちが彼女に夢中で結婚どころではないと周囲に知らしめられるし、ヨリコは悩まなくてすむ。いい考えじゃないかい?」
「だから!そういうことじゃ」
「そうだな。リーデルにしては良い考えだ。それでいこう。」
「人の話を」
「ぼくも賛成です。」
なんだそれ!誰得だ!私損だ!嫉妬の目が×4に増えるだけだろ!ぜっっったいそんな茶番には付き合わないからな!
そう言ってやろうとしたのに、結局は色んな好条件(王宮の図書館使い放題とか、城下町ご案内とか)を出されて頷くしか出来なくなった。
だって!本読み放題だよ!異世界の本なんて、滅多に読めないんだよ!
まぁ、ご令嬢からの脅威からは守ってくれるらしいし、今さら異世界で就活も面倒だし。しばらくこの茶番に付き合えば帰れる手段もわかるかもしれないし。様子を見てみるか、って面倒くさがった過去の私。ちょっと面貸せや。さらに面倒なことになったぞおい!
**********
この茶番に庭師もとい、庶民勉強をしに来ていた隣国の王子、ネイトさまも加わり、総勢5人の逆ハー(笑)を築いた私、より子さんです。
口説くって言ったって所詮"フリ"なんだし、そんな大層なものじゃないだろうと思ってたのに、こいつらところ構わず甘い言葉を吐き続ける。誰もいないでしょ!って言ってもどこ吹く風。聞く耳持たず。なんだこの状況!
「ほら、ヨリコが好きなケーキを作らせたよ。口あけて?」
そう言ってケーキが刺さったフォークを差し出す、この国の後継者。リーデル王子。
優しい物腰に合う、柔らかい笑顔をバラ撒いてご令嬢たちを虜にするらしい。ステータスは言わずもがな、容姿も超逸品だ。
サラサラ~な深緑の髪を後ろで緩く一つに纏め、柔和な顔立ちに合う甘い声。この声で囁かれた日には天にも昇る気持ちなんだとか。メイドさん談だけど。
「……食欲がないので結構です。」
「そう?ならオレが食べちゃおうかな?」
クッ……卑怯な!私が食べたいのを知っているくせに!
「……少しだけなら。」
「じゃあ口あけて?食べさせてあげる。それとも、口移しの方がいい?」
ぜったいイヤだ!
おとなしく口を開ける私に、リーデル王子は『残念。また今度にしようね。…二人っきりのときに』と激しく誤解を招く発言をして、ケーキを口に入れてくれた。ちなみに、日常茶飯事です。
また別の日は、
「ヨリコ、この案件をどう思う。」
1枚の紙を渡しながら聞いてくる次期宰相、ティールさま。側近は側近だけど、将来的にはリーデル王子の右腕となるお方らしい。というか、
「何度も申し上げてますが、国の重要書類を私なんかに見せないでください。」
あと意見も聞かないで。
そう言外に込めてやれば、
「リーデルもヨリコを認めてる。問題はない。それに、お前の言うことは斬新で面白い。この国には新しい風が必要だ。」
そう言っていつもはしかめっ面ばかりの顔を少し綻ばせる。チッ、イケメンはなにをやってもイケメンか。
ティールさまは、口調こそ偉そう(態度もだけど)だが、一応リーデル王子に敬意は払ってるらしい。…私にはわからないけど。
そして大変有能。顔面偏差値も有能。金髪碧眼(いやだからこっちが王子なら王道なのに)に似合った美形で、常は眉間に皺を寄せてることがほとんどだけど、王子や他の幼馴染み(王子・騎士団長・魔術師長・隣国の王子はみんな昔っからの知り合いだそうで)に見せる笑顔はレアすぎて、見れた日は3日間の幸せが約束されてるとかされてないとか。なんだそのパワースポット。
でもどんなイケメンに頼まれても、面倒なものは面倒だ。大体、向こうでだってあんまり選挙に行かなかったのに、なんでこっち来て政治の中枢にいるんだ。意味わからん。
「手伝ってくれたらうちの書庫のもので好きなのをやろう。この間欲しいのがあるって言ってなかったか?」
こいつも卑怯だ!人の足元ばっかり見やがって!
王宮図書館使い放題はこっちでの生活を大分潤わせてくれてる。あらゆるジャンルの本が揃ってて、飽きが来ないのだ。しかし!ティールさまのお屋敷には、最新の、しかも娯楽小説がたんまりある。さすがに王宮図書館には置けないようなファンタジーやらミステリーやらロマンスやら。ちょっと息抜きしたいときはティールさまの書庫に籠ってたりもする。そこで気に入ったものは譲ってくれたりもするが、だしにも使われる。うぅ~。あのシリーズ好きなんだよなぁ~。ぜ、全巻くれるなら、
「全巻あげようか?」
乗った!
「そのかわり、」
そのかわり?
「今日はオレの家に泊まってけ。母上が会いたがってる。それから、オレが寝るまで朗読してもらおうか。あのシリーズ全巻と引き換えなら安いもんだろ?」
そう、私の腰を抱きつつわざわざ耳元で腰にクる低音ボイスで囁くティールさま。誰も見てないのにくっつく必要あります!?
でも私はこの提案に頷くしかない。ティールさまのお母さまとは本を通じての仲良しさんだから。書庫の本を揃えてるのもお母さまの趣味だし。ちなみに、これも日常茶飯事です。
またある日は、
「ヨリコ!本ばっかり読んでないで、今日は外で訓練しよう!」
騎士団長のヘルトさまに無理矢理外の訓練場まで抱っこされてしまった。あの日、私たちがこの世界に喚ばれた日にお姫さま抱っこされて以来、ヘルトさまは抱っこがいたく気に入ってしまったようだ。ことあるごとに抱き上げようとする。私にとっては吐きそうになった覚えしかないけど。
「ヨリコ、今日は何をしようか。剣?弓矢?槍?馬術がいいか?」
「……馬術でお願いします。」
まぁ外に連れ出してくれるのはいい。最近、お菓子の食べ過ぎが太った気がするし。この歳になると簡単に落ちなくなるしね。ただ、選択肢が如何せん騎士と一緒なのがイヤだ。もっと、テニスとかバスケとか爽やかなのがしたい。
だから大概が馬術になるんだけど、
「そうか!ヨリコは本当に馬が好きなんだなぁ。さ、乗れ。」
私が馬に乗れば、後ろにぴったり沿うようにヘルトさまも乗ってくる。何度ももう少し離れて欲しいって頼んだけど、聞いてもらえた試しがないため諦めてる。
そのまま私の手に自分の手を重ねて手綱を繰り出した。パカパカいい具合に揺られていれば、顔を横にぴったりくっつけて話し出すヘルトさま。特に甘い口説き文句とかはないけど、たまに頬に唇があたるのはよろしくない。でも聞いてもらえた試しが以下省略。
ヘルトさまも、他の方に負けず劣らずのイケメンさん。海のような青い髪に柔らかな金茶の眼。訓練する時は、金の眼がキラリと鋭く光る。ガッチリムッチリではなく、流行りの細マッチョ。爽やか系お兄さんに見えるけど、発言が一番危うい。
「ヨリコ?俺達が結婚して、子どもが出来たら、こうやって馬術を教えてやろう。動物好きなヨリコに似れば、大喜びだぞ。まぁでも、しばらくは二人っきりの時間を大切にしたいよな。」
それは大声で言わないと意味がありませんよ。虎視眈々と恋人の座を狙ってるご令嬢に聞こえるように言わないと無駄です。ちなみに、またもや日常茶飯事です。
また全然関係ない日は、
「ヨリコさん、ぼくを抱き締めて…?」
イヤらしい意味じゃないよ!決して少年をたぶらかす悪いお姉さんじゃないよ!魔術にとって必要なだけ!
私の大事な用事を済ませられるように、なんとか向こうの世界と繋がろうとがんばってくれてる魔術師長のアルキノさま。うん、騎士団長と変わらないぐらい偉い人だって聞いて、敬称を変えました。本人は気にしないって言ってるけど、やっぱ周りがね。
そのために、私が持ってる向こうの記憶とかが必要なんだとか。だから触れあって中身を共有してるだけで、手を繋ぐだけだっていいはずなのに…
「ぼくのこときらい……?」
ウサギさんみたいな真ん丸お目目をうるうるさせながら言われたら、より子さん、逆らえません。ギュギュっとしながらなでくりまわします。もふもふ、もふもふぅ。
これも言わずもがな日常茶飯事です。
またもういい加減疲れたなっていう日でも、
「ヨリ、見てごらん。君みたいな綺麗な花が咲いたよ。」
カユイことを言ってくれるのは、隣国の王子、ネイトさまだ。
ネイトさまは、下々の生活ぶりや、どんなことを国に求めてるのか調査しに来たらしい。いずれは自分の国を継いで、より良い生活を与えるためだとか。ご立派です。
じゃあ自国でやればいいんでないですか?と問うたところ、自国は顔がバレちゃってるから出来ないそうだ。だから隣国まで渡って王宮の庭師なんてものをやってる。しかもそこで完璧に庭師をやってのけてるところが凄い。
でも、やっぱりかなりのイケメンさんのため、身分差に燃える(萌える)ご令嬢の方が後を絶たない。この場合は自分だけに跪く庭師という設定になるが。
たんぽぽのような黄色い髪と、鮮やかな緑色の眼がネイトさまの暖かさを醸し出していて、この人に直視されたら何も言えなくなってしまうんだとか。え、調査出来なくね?
「まぁほんとに。ネイトさまのような美しい花ですね。」
「私を綺麗だと言ってくれるのかい?光栄だな。でもヨリの美しさには敵わないよ。この美しさを他の誰にも知られたくないと思う私は、欲張りだろうか。」
カユイ。カユスギル。正統派な口説き文句は、シチュエーションに酔えるタイプじゃないと辛いものがあるね。私には無理。
後ろでこっそり聞いていたメイドさんたちがバタバタ倒れる音が聞こえる。これが悩殺スマイルなのか?ちなみに、当然の如く日常茶飯事です。
とまぁ、こんな(決して有り難くない)日常を送っているより子さんですが、そろそろ限界を迎えつつあります。
貴族のご令嬢方からの嫌がらせはほぼない。メイドさんたちや騎士さんたちが守ってくれてるから。でも、人の口には戸を立てられない。出てくる出てくる私への罵詈雑言。簡単に訳せば、『このビッチが!』というもの。うん、私もそう思う。ビッチなんて言葉、こっちにはないけど。
しかも、筆頭にいるのが一緒に喚び出された女子高生だというからなんとも言い難い。彼女がちゃんとヒロインの立ち位置にいてくれれば、こんな面倒なことにはならなかったのに。と思う私は責任転嫁する大人げない大人。
ということで、そろそろ『ビッチ』卒業しようと思います。つまりは、恋人(仮)を一人に決めようと。他の方には悪いが、私も自分が一番なのだ。さて、どの方に頼むとするかな。
遠い目をしていれば、冒頭の彼らの台詞。私は悩んでるんだ。少し黙っててほしい。
私の手には一つの袋。私が向こうに忘れてきた、大事な用事だ。
……延滞料金って、この場合どうなるんだろ。
ヒーローたちは本気でより子さんを狙ってます。でも人を見る眼がありすぎて、このまま口説いても迷惑がられそうなのがわかって、こういう弯曲した口説きかたをしてるという裏設定。もし恋人(仮)に選ばれれば、離す気皆無。デロデロにする気満々。