一章2
車の中では、先程話せなかったことについての会話が行われていた。
「そういえば、式くんの好きなミステリー作品って何?」
吉野が式に話しかける。
「えっと…俺、ミステリーとかよくわかんなくて」
「え?じゃあ何でこの合宿に参加したの?」
「隣の榊さんに誘われてきたんです」
式は榊をちらっと見る。
ちなみに席は8席あり、真ん中の3席に式、榊、吉野が座り、後ろに2年生の3人が乗っている。
「そうなんだ。榊さんはミステリー好きなのよね?」
「はい。私が一番好きなのは…」
そんな風に会話が始まってしまい、式は会話に混ざれなくなってしまう。後ろを見ても、3人とも会話に夢中だ。
「式くん、喋れなくなっちゃった?」
そんな式の様子を察してか、佐倉先生が話しかけてきた。
運転中なのに器用だな、と思いつつも少しほっとしていた。
「だったら、私とお話ししない?」
「別にいいですけど」
「じゃあ聞きたいことがいくつかあるんだけど。まず、君は学校に来ない日は何をしているの?」
「特に何も。趣味とかもないし…寝てたりですかね」
「ふうん。じゃあ今回この合宿に行くときに両親に結構驚かれたんじゃない?」
「俺、両親いないですから」
「え?」
佐倉先生は驚く。
「中学生のときからずっと一人で暮らしているんです」
「一人で暮らしてるって…。生活費とかどうしてるの?」
「それは…ええと、お、親の保険金がまだ残ってるんですよ」
「じゃあ両親は事故とかで亡くなったということ?」
「まあ、そんなとこです」
と、式は若干しどろもどろになりながら語った。
「……」
佐倉先生は、少し怪しんでいるようだ。
(まずいな…、誤魔化せてないかも)
と、式は冷や汗をかいた。
「なるほどね。君には何か事情があるみたいね」
何がなるほどなのかよくわからなかったが、とりあえずは誤魔化せたようだ。
「じゃあ次なんだけど、得意な科目とかあるの?」
「ないんですけど、しいて言えば歴史ですかね」
「あら偶然ね。それとも、私の前だから?」
「いえ、本当に好きなんですよ。日本史なら明治時代の近代的な雰囲気が好きですね。世界史なら大航海時代がロマンがあって好きです」
式は目を輝かせながら語る。その言葉に偽りはなさそうだ。
「好きな歴史有名人はいるの?」
「そうですねぇ…エンリケ航海王子とか好きです。彼は大航海時代の重要人物の一人ですからね。いつか発見のモニュメントを見に行きたいなって思ってます」
「ポルトガル語は喋れるの?」
「喋れませんが、理解することはできます。喋るときは英語でなんとかなるかなあって…」
「ちょっと厳しいと思うけど」
と、佐倉先生は少し呆れているようだ。
その他にも式は様々な質問をされたが、式はほとんどの答えをはぐらかし、結局佐倉先生は式のことを深く知ることはできなかった。
出発してから二時間近くたった時に、
「あら、見えてきたみたいね」
と、佐倉先生が言ったので、式たちは窓をみた。
「あれが…」
「うん。俺たちが泊まる灯篭館。俺たちミステリーファンからは殺人館と呼ばれている」
松田が言った。心なしか、楽しそうに見える。
しばらくして車が駐車場に停まった。
「……」
車から降りた式の目に留まったのは、旅館の近くにある大きな紙灯篭だった。その灯篭を見た式は、言いようのない不安感に襲われた。




