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第三十七工業地区

この小説には流血、各種人体の欠損、人殺、精神に不調をきたした者や戦闘の経緯からなる嘔吐、排泄行為が描かれたりします。

これらの描写が苦手、嫌いな人はブラウザの戻るボタンもしくはブラウザの閉じるボタンをクリックしてください。

 俺の中には渦巻く怒りがあった。それは、俺そのものを焼き焦がすものだった。

 だが、それはあの日、全て消えてしまった。全て終わってしまったんだ、俺自身が。

 全てこのときの為だと思っていたのに。全てを変えられると思っていたのに。

 なにもかも、ただの幻想だった。ただの子供の戯言だったんだ。

 そうだ、やっぱり俺はただの子供だった。あの日、本当の意味で敗北したんだ。あいつに。




           NOVA I - a f t e r . s t r i k e . -




「おい、ウェラルト。こっちの資材はメヌス公社用だ、運んでおいてくれ」

「ああ、他は?」

 上司の言葉に青年、ホロウ・ウェラルトは汗とオイルに塗れた顔を拭う。薄い褐色の肌に汚れのついた黒髪とそれに似合うような汚らしい作業着姿であるが、他に並び立ち荷物を運ぶ男たちと比べると線が細く、整った顔立ちをしている。

 だが、そのどこか荒んだ眼差しのせいで初対面の者は彼から、暗い印象しか感じ取れないだろう。ペンキのついた白の防護帽を被り、同じ物を頭に乗せた上司、ガエンに指示を仰ぐ。

「それなら、マックスのところに寄りな。そっちにもメヌス公社の資材が運ばれてるはずだ」

「分かった。ガエンさんよ、こいつの燃料費も馬鹿にならないんだからまた小さいの運ばすなよ」

「そいつにとっちゃ小さくても、俺らにとっちゃでけえんだよ」

 ならばこその鍛えた体だろうに。そう言って青年は背後に立つ機械を見上げた。そこには配管をむき出しにした無骨な容貌の汎用人型起動兵器があった。通称をバレットと呼ぶ。

 この兵器が施設用機械として一般に普及されるようになったのはごく最近のことで、それまでは様々な戦場に姿を見せた高級品である。そのため、他の戦闘用バレットと比べれば見るまでもなく小型で不細工な格好、操縦者を守る装甲も必要最低限のものしか装着されておらず、当たり前だが武器も装備されてはいない。

 ホロウはこの工業施設用バレットの操縦者であり、ガエンの指揮する施設の一部工区を任されている者である。

「おい、あんまり生意気言ってねえで、とっとと仕事を片付けろ。まだまだ次が立て込んでるんだからよ」

「はいはい、言われりゃやるさ。他ならぬガエンさんの為だもの」

 溜息混じりの言葉に工具を投げるガエン。危ういところでそれをかわして、ホロウは身軽にバレットを駆け登り操縦席に体を預けた。

 基本的なバレットの操縦はフットペダルによる歩行動作と、腕部連動グラブによる上半身の駆動からなる。これは兵器用、一般工業用共に変わらない操縦方法であるが、兵器用にはこれに更に各武装への通信装置、機構操作用の各種開閉器と大分複雑になっている。

 ガエンの悪態に言葉を返しながら、慣れた動作でバレットを操縦するホロウ。その目は、施設の天窓から覗く人工の陽光により細められていた。



 これで何度目の出撃か。狭い操縦席で顔面を締め付ける呼吸器が鬱陶しいが、これを外す訳にもいかない。

 舌打ちして準備を進めるその者の顔はまだ幼さが残り、成人してもいないであろうことが容易に知れた。

「どうしたイザム、不調か」

「……問題ありません、ザロフ長官」

 操縦席に響く声に平静を装いつつも少年、イザム・ロレンツは返す。しかしその声音から苛立ちや不安の音は隠せていない。

 実戦はこれで三度目になる。とは言え未だ未熟な子供だ、そう簡単に慣れるものではないだろう。彼は実戦に耐えうる兵士を育成するための教育機関でも特に優秀な成績を修め、この地下都市(アフター・ヘヴン)を統治する中央管理政府の一員としての活動を許可されている。

 長官と呼ばれる男の名はガブラー・ザロフ。兵士育成教育機関(スクール)も彼の指揮の下に発足されたものである。

「イザム、状況を」

「……反中央管理政府組織“ブラックマン”、第三十七工業地区での活動を確認。ひいては彼らの排除とその活動内容、目的を確認すること」

「そうだ、情報部によればだが、おそらくはメヌス公社関連だろう。こちらの再三の忠告を無視しテロ組織と繋がり、足元を見た商法や敵対組織へ情報の横流しなどなどなど……」

 まあ、それで奴らもお構いなしの襲撃さ。困ったものだとガブラーはさして感情もこめずに言う。そんなぼやきを流しつつ、イザムはこれから行う戦闘を想像する。テロ組織との戦闘はいつも市街地戦となるが、今回は事前の避難勧告も出されていない。

 ましてや工業地区、施設の破壊により施設動力炉や生産品などが誘爆しないとも限らないのだ。今回の任務は人的被害だけを考える内容ではなく、訓練はもちろんのこと、今まで体験したことのないほど精神面に圧迫を受けると予想できた。

「いいか、今回はテラナド、ノックス・エイジのからなる複合部隊だ。前よりナンバーゼロワンからゼロスリー、後ろはゼロワンからゼロツー、お前はテラナドのゼロスリーだ。確認し各員と通信を繋げ」

「了解しました」

 バレット・テラナド。地上での最後の戦争となったディノクライド抗争――――、クァーバゼィル帝国残党軍と元は同じでありながら帝国の在り方に疑問を持った反乱軍との戦闘、その後期において生産、量産化されたギガントの後継機にあたる。

 そしてノックス・エイジ。こちらは第一世代で生産されたバレット・ハピネスの直系であり、テラナドよりも性能が高く、飛行形態へと変形可能な高機動型である。変形時もその推進力や装甲が前面に集まる形から防御能力も高く、一撃離脱を主とした戦法を得意としている。

 政府の主力兵器はこの二機であり、機関の養成兵たちもこれらバレットにより操縦訓練を受けている。また現在、地下世界に存在するバレットの中でも最も高い性能を誇るのがこのバレットだ。最も、この世界の治安を維持するためにそれは必須なことではあるが。

「おお、ロレンツ養成兵。そろそろ機関卒業の目処はたったかな?」

「この夏、教育期間を終えますのでそこから正式に軍へ配備される予定だとザロフ長官から伺っております、ギース部隊長」

「君が無事機関を卒業した折には、ギース部隊長は君にノックス・エイジの搭乗権を与えるそうだ。同じ部隊に配属されると、俺たちも嬉しいよ」

「恐縮です、レイマー部隊員」

 そういう堅苦しい挨拶はなしにしよう。ノックス・エイジの操縦士であるギース・テイマ、レイマー・サージの両名の言葉にイザムの緊張も緩む。この二名とは先の実戦二回とも一緒に行動しており、イザムの実力を高く評価しているのだ。

 しかしガブラーをそれを甘やかすなと叱咤し、出撃準備を終えたテラナドの操縦士、ベイク・ハリィ、ソソム・エナの両名が通信を繋げると同時に作戦内容の説明を始める。

「各員、事前の情報は確認しているな。第三十七工業地区において反中央管理政府組織“ブラックマン”の活動を確認した。

 現在、彼らは破壊工作用のバレットを資材に偽装し作戦エリア内部に潜入している。これらの機体数は全て把握している訳ではないが、この地区へ搬入された資材コンテナから少なくとも六機のバレットとの戦闘になると考えていい」

 そのどれもがガエン・トレマーズの管理する地域を中心に搬入されている。ガブラーはここで言葉を切り、この状況から彼ら中央管理政府の治安維持機構が行う最善の行動を最も簡潔に答えるようにイザムに求めた。

 ならばとばかり単純至極、速やかな敵戦力の撃滅を唱えるイザム。ガブラーはそれに頷き、それを行うにあたって部隊が注意すべき点はなにかと続けて問う。

「部隊の被害を抑える為の迅速な行動、対象の撃破数の確認、そして撃破後の索敵です」

「その通りだ。確認されている敵機を速やかに撃破し、入手した情報以前から敵が潜伏している可能性も考え、周囲の索敵を怠ってはならない」

 ガブラーの言葉と同時に各機に送られた情報を操縦席前部に配置された画面で再生する。第三十七工業地区の平面地図と、例の六機のバレットの現在地がマーキングされている。それらを立体的に投影した情報に切り替えるよう、ガブラーは指示を出す。

 六機のバレットは現在、全てコンテナに格納されている。恐らく工作員は近くに待機しているだろうが、唐突な奇襲へ即座に対応することはできないだろうとガブラーは唸る。

「そこで、今回はシェルによる移動は行わず、ライド・ユニットを使う。ノックス・エイジは後方待機、まずはテラナド三機による対象への接近を行う」

 第三十七地区西部入口より青の線が引かれ、対象への進行ルートを表す。ガブラーは対象にそれぞれ赤の印を入れ、最初期に接近する一機をゼロワンとし、時計回りに残りのバレットにゼロツーからゼロシックスまでの数を書き入れる。

 しかし、そこまで接近されれば偽装されているとはいえ、気付かないはずもない。特に敵機に工作員が搭乗していないとも限らないのだ。これはテラナド操縦士のソソムの言葉であるが、長官であるガブラーは心配するなと情報に添付されていたライド・ユニットの詳細図を開くように言う。

 ライド・ユニットとは一般的な荷運搬用機械のことであるが、兵器利用にあたって武装されたものやそれ自体が兵器として調整された物が多々あるのだ。とは言え、武装されたライド・ユニットを堂々と使用すれば敵にこちらの存在を知らせるようなもの。

「このライド・ユニットには対索敵用撹乱幕を使用している。ライド・ユニット自体は索敵機に反応するが、その他資材と同じく中身は反応しないということだ」

「なるほど、しかし大事なことを忘れてはいませんか?」

「回りくどい言葉は好かんな、テイマ部隊長」

 ガブラーの言葉に失礼を、と鼻で笑う。ギースの言う大事なこととは、人的被害のことである。ガブラーの説明と共に作戦概要を読み進めていた各員の共通の疑問であった。この電撃作戦を行うにあたって、避難誘導に対する言葉がどこにも載っていないのだ。

 つまり民間の被害を考えずに戦闘を行えということだろう。思わず感情を高ぶらせたギースの行動も最もであり、これでは治安維持機構の名が泣くというものだ。答えを求めるギースに対し、その必要はないとガブラーは一蹴する。

「長官!」

「ギース・テイマ部隊長、君は勘違いをしている。それは戦闘を行う、現地で指揮する者にとっては危険な考え方だ。

 我らは命を守るのではなく、命を秤にかけて戦うことが使命なのだ。それを決めるのは情に流され易い末端ではなく、冷静に、冷徹にそれを見定めることができる頭が行うべきことなのだ」

 つまり、この作戦には人命を無視するほどの価値があると。ギースの冷たい言葉に、ガブラーは当然だと頷く。

 作戦は、お前たちが考えている通りの単純なものだと、そう言葉を置き。

「状況は、末端が知る必要はないと、上がそう判断するほど重いのだ。そう、ギース部隊長、いや、各部隊員、貴様らが頭で思い描くどんなことよりも遥かにな」

 威嚇するような言葉にすっかり押し黙る面々。ガブラーは時間が惜しいと、作戦内容の説明を再開した。



 それから時間にして二時間の後、第三十七工業地区西部入口に一台のライド・ユニットが停まる。大型のライド・ユニットで、運天するのは治安維持機構の構成員だ。対索敵用撹乱幕をコンテナに被せ、ゲートにて入場手続きを行っている。

 その中身は当然、臨戦態勢でイザムらが搭乗しているテラナド三機である。

「しかし随分と大きなライド・ユニットですね。最近も搬入があったし、メヌス公社さんも大分、儲かってるんでしょう?」

「はは、いやあ、開発部の連中はそうでしょうが、俺たちは専属契約しているだけのただの運び屋ですからねえ。ああでも、他の比べればお給金は割高ですよ」

「羨ましいなあ。あ、ここにサインお願いします。退場時間の予定も。退場の際は必ずこのゲートからお願いしますよ」

 警備員とにこやかに言葉をかわし、助手席へ飛び乗る。運転手の男は短くクラクションを鳴らし、敬礼する警備員へ手を振った。

 さきほどまで笑っていた助手席の男は笑顔を消し、運転手へ警備員の住民階級を確認したかと尋ねる。

「いや、興味ないな。見てないよ」

「あいつ、グレーのラインセンスだった。アウターだぜ、ふざけやがって、なにが羨ましいだ。ここで暮らせるだけ有り難く思えってんだ。……まあ、ここらに住む奴等は全員がそうだろうけどな」

「おいおい、そんなことより仕事に集中しろよ、仕事に」

 興奮する男を宥めすかす。

 彼の言うアウターとは、この地下都市の先住権がない者を指す俗語である。ディノクライド抗争末期にて地上が荒れ果てた姿へ変わったとき、このことを予測して先に避難していた人々の他、戦闘のどさくさに紛れてこの地下都市に侵入した者がいた。彼ら先住権を持たない非正規の住民を総じてアウターと呼んでいるのである。

 公にアウターを雇うこと、そしてアウター自体が取り締まりの対象であるが、膨れ上がった現在の地下都市を支えるためにも労働階級の確保は必然であり、アウターの存在は黙認されているに近い状態である。

 高い金額で先住権を得て最下級にいる人間もいるのだから、アウターが好まれる存在でないのは確実であるが。未だ悪態をつく男に適当に頷きながら、運転手の男は目的のレッドゼロワンが潜伏している場所へとライド・ユニットを走らせる。

 現在、各地で確認された偽装バレット付近に動きがないことは彼らと同じ治安維持機構の面々が随時報告を入れている。ぬかりはないと、そう彼は考えていた。

 しかし、そのライド・ユニットを見送る者が一人。一台の機械を携えて道端に座り込む作業着姿は近くの工場の人間にしか見えないだろう。薄汚れた体でむず痒くなるうなじを掻き、通信機をズボンから取り出す。

「……クーオか、俺だ」

 声の調子からはまだ若い、少年である。恐らくはイザム・ロレンツと同年代か。少年はライド・ユニットを見送り、機械を片手にその場から早足で移動する。

「ああ、立体透過出力機にも中身が映ってなかった。レーダー対策してメヌス公社に偽装した治安維持機構の攻撃部隊だろうな。大きさからしてバレットが二、いや三機はあるかも知れん」

 奴ら、やる気だぞ。低く抑えた声に、通信相手は嬉しそうな反応だった。それもまた予想通りと少年は口元を歪める。

 それからと、喜び勇んで暴走しそうな相手、クーオに言葉をかける。

「お前らのバレットの周りにいる犬は確認できたのか? もう十分だ、とっとと殺して配置につけ。奴らが向かったのはチェナのバレットだ、あれを囮にする。花火が上がるまでエンジンかけるなよ」

「そりゃ良かった。俺のところに来てたら即座にゴーサインだったからな」

 応対する者もまた、声が若い子供だ。チェナという者に対してはこちらから連絡を入れるとしてクーオは一方的に通信を切った。傍受を考えてのことだろうが、どちらにせよ勝手な奴だと嘆息する。

 通信機を道端に投げ捨てて、少年は作業着の下に入れていた携帯食を口に運ぶ。ライド・ユニットの速度を目算してチェナのバレットに到着するのが約十五分と考えた少年はこちらも準備をと道端に停まっているライド・ユニットに目を向けた。

 こちらは資材運搬用ではなく、人が移動用に使う小型の物だ。颯爽と跨り、始動鍵を持っていないため所持していた工具で回路を弄っていると持ち主と思しき男が走ってやってくる。

「おい、お前なにしてやがる。降りろ」

 肩を掴んだその手を逆に少年が掴み、身をひねって手首にナイフを刺す。腰に目立たないよう括り付けられていた物だ。大降りのナイフに手首を抉られて悲鳴をあげた男を突き放し、丁度良いとばかりにナイフをちらつかせて鍵を寄越すように命令する。

 白昼堂々ととんでもないことをする。が、工業地区は地下都市の中でも治安の悪い暗部にあたり、誰もが生活のために恐喝紛いのことを行っている。このような光景は日常茶飯事であり、しかしながら人命を奪えばそれなりの制裁があるのだ。だからこそ流血沙汰はあっても大事に至らないことが多い。

 この日も少年の行動を多くの人間が見ていたが、誰もがまたか、と思うだけである。それよりも自分に課せられたノルマを解消することを優先して道を右往左往するだけだ。

 誰も助けに入らないことは明白で、男は少年へ素直に鍵を渡した。それを受け取り、少年は礼を述べて男の喉元に刃を沈める。迷いなく淀みなく、流れるような動作でそれを行い、刃を引き抜いた動作に気付く者はいなかった。

 痙攣する男を尻目にライド・ユニットに跨り、少年はエンジンをかけた。



「あーっ、あっちいあっちい」

 屈ませたバレットから飛び降りて、熱風吹き荒ぶガエン工場の往来で上着を脱ぐ。汗を搾り、それをタオル代わりにして体を拭くホロウの目に、一台の大型ライド・ユニットが映った。メヌス公社の社紋を側面に、それは砂誇りを巻き上げる。

 ホロウは再びバレットに駆け上がり、減速するライド・ユニットの運転手に軽く頭を下げて邪魔にならないようバレットを移動させた。再び速度をあげたライド・ユニットの巻き上げる誇りが顔と言わず髪と言わず全身に張り付き、気持ち悪さに舌を出す。

「うへえ、ぺぺぺっ。酷いなこりゃあ。用水路にでも体を洗いに行くか」

 汗ではりつく砂粒を手で払いながら、こちらも砂塗れの上着を肩にかける。他の同僚より細いとはいえ筋肉質な体には無数の細かな古傷があり、ただの喧嘩ではなく、命を賭した戦闘経験のある人物だと容易に知れた。

「ホロウさん、どうしたの、て……うひゃ、凄いねこれ」

 青年に声をかけたのはガエン工場長の一人娘であるメリィだ。ホロウは彼女に笑顔で応対し、走り去るライド・ユニットを指して、あれにやられたのだと言う。

 こりゃまた随分と立派なもんだ。その大きさに思わず感心しながらも、ホロウへと向き直る。

「今夜は家にきなよ。工場のほうも早上がりなんでしょう。親父も喜ぶよ」

 もちろん、私もね。そう言ってこちらの胸を撫でる女に対して、参ったなと頬を掻くホロウ。

 逃げの口実を探して体を洗うとその場を離れようとする青年に、逃がすものかとその腕を掴むメリィ。工場内やその近辺で野宿するような真似は止めて、いい加減に家族になれと迫る彼女に大胆な物言いをするなと押し退けるホロウ。

「ホロウさん、あんたにゃ感謝してるんだよ。バレットの操縦は上手いし、頭はいいしさ。うちがお隣と合併しても主導させてもらってるのだって、あんたのお陰なんだよ」

「……感謝してるのはこっちのほうさ。ガエンさんに拾われなきゃ、俺なんてどこでのたれ死んでたか。それをこんな役まで貰って、感謝してもしたりないよ」

 そう言って、上着に貼りつく名札、そこに記されたガエン工場二工区分長の文字を指す。メリィはならばこそ恩返しに結婚しろと抱きつくが、絡みつく砂に呻いて身を離す。ホロウは馬鹿にして笑い、女は顔を赤らめてそっぽを向いた。

 その瞬間、轟音が轟く。

 地面が揺れ。凄まじい振動に膝が砕けたようになり、咄嗟にメリィを庇って地に伏せたホロウの背中を熱風が通り過ぎる。

 やや間をあけて体を起こしたホロウ。彼らと同じく地に転がっていた人々も、状況を理解できずに呆然としている。が、この中でおそらく状況を理解していたのは。

「まずいな」

 振り返った先、大型のライド・ユニットが向かった先では火柱が上がり、それを背に鋼の巨兵が立ち上がる。

 バレットだ。それも彼が普段操縦しているようなちんけな代物ではない、文句なしの戦闘用に調整され武装した兵器が、その場にいるのだ。

 それはこの場所が戦場になることを意味していた。

「おい、あんたら無事か、動けるか。急いでシェルターに避難しろ!

 メリィさん、工場のみんなを避難させるぞ。中は俺がいくから外回りしてる奴らに連絡を。ラジオつけて、シェルターの空きを常に確認して、間に合わないようなら急いでこの地区から逃げるんだ」

「え、あ、……戦闘が始まるの。こんな場所で?」

 人が争うのに場所など関係あるものか。吐き捨てるホロウは急いでバレットの操縦席へ向かう。どうする気かと問うメリィに、あの爆発で資材の下敷きになった者がいないか見て回ると言葉を返した。

 起動した機人で、衝撃により歪んだためか開かない工場の入口をむりやりこじ開ける。工場へ進入するホロウは振り返り、立ち尽くしているメリィに急ぐよう叫んだ。

 続いて通信をガエンへ向ける。

「もしもし、誰だ?」

「俺だよ、ホロウだ。ガエンさん無事だったか?」

「俺はな。さっきの衝撃でトイレのドアが開かなくてな、このおんぼろめ! どうしたんだ、外はどうなってる?」

 思っていたよりは落ち着いている。思わず笑って、ホロウは自機の騒音から必要以上に声を大にして状況を説明した。戦闘用バレットを見たこと、爆発から恐らくテロ活動があったであろうことと、今からバレット同士の戦いが起こるであろうことを。

 それからメリィの無事を伝えて、近くに工場の作業員がいるようなら彼女と一緒に避難誘導の手伝いをさせるようにと。

「お前はなにを?」

「工場の見学だよ、今ので漏らしてる奴がいないかどうかな。ついでにあんたも助けてやる」

 ああ、それはどうもありがとうよ。ガエンは言葉を返して、こちらに助けは必要ないと、すでにトイレから脱出して徘徊する間抜けなバレット見ているところだと唸った。

「今日は早上がりだと言ったろう、他の奴らは外回りついでに上がってるよ」

「はあ、こんなに早いとは聞いてないぞ工場長!」

「お前を逃がさん為だからな、当然さ」

 豪快に笑うガエンに頭を抱え、場内二回の作業員用通路に立つガエンを睨みつける。ガエンはすぐにメリィと合流してシェルターに向かうとし、ホロウにもバレットから早く降りろと指示する。このままでは戦闘に巻き込まれかねないと思ったのだ。

 それはホロウも考えていることである。できるだけ資材に巻き込まれたり、壊れないであろう場所に持っていくと青年はガエンに心配するなと言葉を残してバレットを進めた。

 しかし、工場地区でのテロ活動とは。ホロウはどうにも腑に落ちないと眉を潜める。この第三十七工業地区は兵器製造、生産を行っている場所ではなく、食料生産も行っていない。基本的に建築資材や工場用機械部品の取り扱い、発送を主としている。ここを攻撃してもちろん経済的な被害は大きいが、果たして危険を冒してまでそれを行う意味があるかどうか。

 どうせ危険を冒すのであれば、もっと狙うべきものがあるだろうと。

「まあ、テロ屋の考えはわからんね、と」

 資材の空きを見つけ、こまめに工場内の整理を命令するガエン工場長に密かに感謝しつつ、バレットを屈ませる。とりあえずはここに置くしかないだろう。外では火事場泥棒に運ばれるかも知れないし、工場自体が潰れてしまうという最悪は考えないほうがいい。

 今だ断続的に続く小規模の爆発を耳にしながら、まだ戦闘がこちらへ及んでいないことに感謝しつつ出口へ向かう。

「…………、これ、メヌス公社の奴か」

 資材に記された社紋に思わず足を止める。あの爆発の直前、メヌス公社のライド・ユニットがその場所へ向かったのを思い出し、妙な胸騒ぎを感じた。

 メヌス公社は建設事業だけでなく、兵器開発にも力を注いでいる大企業だ。ホロウは嫌な予感を胸に抱きながら、木箱の隙間に転がっていたバールを差し込む。力を込めてこじ開け、あの衝撃で木箱は壊れたことにして知らぬ存ぜぬを通そうなどと、ガエンへの言い訳を考えつつ。

「……こいつは……」

 木箱の中から現れた鉄の塊。それはただの部品だろう、駆動系の一部だろうか。丸みを帯びた滑らかな表面と、凹凸のある裏面とを見比べて、この地区に来てから初めて見る代物だとホロウは思った。

 いや、むしろ、この地区に来るまでは頻繁に見ていたような。

「兵器の、一部……外装か。いや、装甲じゃないな。どっちにしろ建設用の資材じゃあ、ないか」

 まさかこれを狙ってか。舌打ちして、戦火が及ぶ前に撤退すべきと判断したホロウは、この工場の明日を考えて、沈みかける気持ちをむりに払拭する。

 そんなことを考えている場合ではないと自分を叱咤し、こんな不穏な物をよくも運んでくれたなとメヌス公社に恨みに近い感情をぶつけながら一瞥する。その視線の先に刻み込まれた文字に気付いてそれに触れる。

「……エックス、ピー、サン、ロク、ハチ……?」

 この部品の識別番号か、続く文字を指でなぞるホロウの顔色が変わる。

 エー、ジー、エヌ、アイ。その四文字に。

「エックスピー三六八……ア、アグニ・ドライヴだと!」

 まさかがよもやの大当たりだとホロウは感情のままにその鉄の塊に拳を叩きつける。鈍い痛みが拳を伝うが、そんなことは今、彼には関係ないことだった。この工場に運ばれたメヌス公社の資材は他にもある。大手業者ということもありその数量も多い。

 これほどの資材の山ならば、バレットのひとつやふたつ、解体して中に紛らせることも可能だろう。そして、それを超える大きさの物も。

 さきほどのバレットを思い返す。爆炎を背に立ち上がったのは治安維持機構のバレット、テラナドだった。治安維持機構が来ているにも関わらず、中央管理政府主導による避難勧告がなされておらず、未だ地区自治体による独自の避難活動しか行われていないのはどういうことか。

「知ってやがったな。こんな危険な物があるから、民間にどんな犠牲を払ってでも場を治めようって腹づもりだな!」

 嘗めやがって。ホロウは自らのバレットを見上げる。武装などはない、非力なバレットだ。戦闘用に調整されていないのだから当然であるが、突然の事故対策の薄い装甲が一部にあるだけで武装すらない代物だ。

 だが、彼はこのようなバレットで戦闘した経験がある。

「テロ組織に手を貸す訳にはいかない。癪だが、場を迅速に治める為には治安維持機構に協力するしかないか」

 その言葉はもはや、気が狂った者の妄言であった。

 しかし青年の両の瞳には夢などはなく、確かに現実を見つめていた。



「畜生、今の爆発は……おい、エナ、ロレンツ、無事か」

「はい、無事です!」

「……駄目だ、脚部に異常確認。踏ん張りが効かない!」

「糞ったれ!」

 ベイクの言葉にイザムも思わず同じ言葉を呟く。作戦通りに資材置き場に安置された目標のレッド・ゼロワンへ接近したとき、コンテナが爆発したのだ。ライド・ユニットは吹き飛び、近くにいた作業員やライド・ユニットの運転手たちは絶命したろう。

 バレットの装甲と彼らを囲うコンテナの壁が盾となり、操縦士に怪我はないが、問題はソソム・エナの搭乗するテラナドだ。先程の言葉通り左足が動かないようで、ライド・ユニットの残骸から立ち上がれずにいる。

 そしてそれを見逃すような敵でもないだろう。イザム機が即座に空へ打ち上げた索敵機により、レッド・ゼロツー、ゼロフォーの二機がこちらに近づいているのが確認できる。範囲外ではあるが、おそらくは残りの機体も同様だろう。

「この移動、ダッシュローラーか。ブラックマンの犬どもだな。ロレンツ、急いで長官に通信、ノックス・エイジがないと……!」

「了解です!」

 敵機の接近まではまだ時間がある。そして爆発で吹き飛んだとは言えこの資材の山だ、すぐにはすぐに攻撃には移れないだろう。

 最も、それはこちらも同じであるが。ガブラーに状況を報告しながら、額に浮かぶ脂汗を拭うこともできずにグリップを握る手に力がこもる。敵バレットはベイクが断じたようにブラックマンの主力バレットだろう。丸みを帯びた厚い装甲にその体重を支える為に従来のバレットよりも肥大化した脚部には、地上を高速で移動するためのダッシュ・ローラーと呼ばれる装備がある。

 これによりその見た目、重量からは想像できないような速度で移動できるが、反面空中戦闘は完全に考慮から外されており、地上戦専用のバレットである。そして、その機動性能から市街地戦では無類の強さを誇り、それらに対抗するために製造されたのが空中戦闘を主軸としたノックス・エイジなのだ。

「既にギース・テイマ、レイマー・サージの両名を向かわせている。だが第三十七地区に非常事態警報がなされたためにバレット用のゲートを開くのに三分、いや五分は必要だ。持ちこたえろ、イザム」

「り、了解!」

 簡単に言ってくれるぜ、長官殿は。嫌味ったらしく言葉をつけるベイクに、その言葉を諌める余裕もなく、腰元に装備されたライフルを中腰に構えるイザム。頭上の索敵機がレッド・ゼロスリーの姿を捉え、グリップを握る手に更に力が篭る。汗が目に滴り落ちて沁みるが、それを気にする余裕はない。

 限界まで目を見開くイザム機の隣に並び立ち、ベイク機もまたライフルを前方に構えた。まず先に眼前の倒壊寸前のビルから顔を覗かせるのはレッド・ゼロツーであろうとして、ベイクは迎撃にイザム、ソソムの両名に命じ、自らは別方向から接近するレッド・ゼロフォーの迎撃にあたるとした。

「待ってくれ、ハリィ、ロレンツ。私のバレットはもう動けそうにない、二人は撤退して時間を稼ぐんだ」

「ばっかやろ、女を置いて逃げられるかよ。それにスコアはまだお前が上なんだ、勝ち逃げなんか許さねえからな」

「スコア云々はおいといて、右に同じくですよ、エナ部隊員」

「……だ、そうだ。お前は援護射撃にだけ集中して、敵がきたらスラスター使って死ぬまで逃げろ」

 そっちはまだ動くだろう。ベイクの言葉にソソムは格好をつけてる場合ではないぞと声を張り上げるが、これは任務だとベイクは切り捨てた。

 彼らの長官は援護が来るまで持ち堪えるように命令したのだ。この場に敵機を釘付けにする。こちらが持ち場を離れる、移動などすれば追撃と恐らくは彼らの目的である目標物の接収とに分かれるであろう。

 今、この場で動かないからこそ、あの犬どもは猛り狂って襲い掛かってくるのだ。だからこそ、彼らはこの場所から移動する訳にはいかないのだ。

「けっ、養成兵のでも、もう格好つけやがって……来るぞ、お前のスペシャルな腕前、噂以上と期待するぜ!」

「了解!」

 ベイクの言葉に力強く頷き、ビルを鋏んで目標との距離二十五メートルと迫る。レーダーの動きからビルの左脇より躍り出る敵機の姿を予測して発砲するイザム。だが、敵機レッド・ゼロツーはそれを予測していたのだろう。探索機に自分の姿を晒すことで出鼻をくじろうとする相手にあわせてその動きを止めた。

 突然の停止にイザムが一瞬の硬直を見せ、同時にレッド・ゼロツーはその装甲に身を任せビルを押し破り直進する。黒塗りの装甲に頭部に覗く二本の探知機。これを耳になぞらえて、治安維持機構の面々が犬と呼ぶ由縁である。

 しくじった。イザムは呻き狙いを定めるが、後手に回った射撃も弧を描く軌道で接近する犬を相手に捉えることができない。しかし、続け様に放つ銃弾と、それをかわす機動を読んだソソムの援護射撃が犬の装甲を捉える。

 彼女のテラナドが装備しているライフルには大口径の砲弾が仕込まれており、いくら厚い装甲を持つブラックマンの犬と言えど無事ではすまない。

 左肩を損傷し、構えていたライフルを取り落としたレッド・ゼロツーは盾に装備されていた鉄鋼刃を引き抜く。しかし、一度体勢を崩したその隙に息を整えたイザムは機体を跳躍させ、推進機を少量吹かして上空から射撃を行う。

 この高低差では点で捉えないといけない地上戦での強みを失う。レッド・ゼロツーは苦し紛れに鉄鋼刃をイザム機へ投げつけ、回避している間に左腕に装備されていた盾を取り外し、右腕に構える。

 注意を惹きつける算段だろうが。イザムは思わず口元を歪める。すでに姿を見せたレッド・ゼロフォーを足止めしているベイク機。彼を援護するべく放った銃弾、上空からの攻撃に驚いたであろう敵機はこちらを警戒しながら距離を取る。同時にベイク機はレッド・ゼロツーへと接近、未だこちらに注意を向けていることでがら空きとなった背後に迫り、刃発生装置(ブレイド・ユニット)を構える。

 その手に光りが灯ると同時にレッド・ゼロツーが振り返るが、すでに遅い。

 刃を腹部と腰部の装甲の間に捻じ込まれて、ベイク機の離れ際の蹴りにより地面に転倒する。こうなってしまっては打つ手は無い。続くソソムの砲撃によりその装甲はひしゃげ、爆発により弾け飛ぶ。こうなっては操縦者も生きてはいないだろう。

「レッド・ゼロツー撃破!」

「でかしたぞロレンツ、――――!」

 意気込み、レッド・ゼロフォーへ向き直るイザム。戦闘の最中でありながらひとつ目の危機を脱したことに声を張り上げたベイク。だが、次に放たれた言葉は怒りと焦りに塗れていた。

 上だ、養成兵。その言葉に画面に映し出されたレッド・ゼロスリー。見上げた空には人工の陽光ではなく、巨大な鉄の塊だった。

 恐らくは倒壊したビルや資材を足場としてダッシュ・ローラーによる加速、跳躍を行ったのだろう。即座に反応して後退するも間に合わず、犬の下敷きになり墜落するイザム機。凄まじい衝撃がイザムを遅い、胃の中の物をマスクの中にぶちまける。

「うぐぅ……、は……あ……」

 揺れる視界、霞む世界の中でレッド・ゼロツー、ゼロフォーと違い赤い線の引かれた頭部を持つレッド・ゼロスリーがこちらを見下ろしていた。その左手が展開し、炎が灯る。

 火炎放射器、こちらの各関節を焼く気かと意識を覚醒させたイザムだったがこの質量差である。警告音の鳴り響く操縦席で必死にもがいても犬の下からは抜け出せない。

 イザムの視線の先で、犬の左手が唸りを上げる。そこで彼の考えが間違っていたことを知る。ガス溶断機だ。火炎放射器などで間接を焼くつもりではない、こちらの機体を無力化するのではなく、装甲を引き裂き操縦者を直接殺すつもりなのだ。

「……うっ、うああああ! 動けえ!」

「させるかよぉ!」

 今まさにと振り上げたレッド・ゼロスリーの横面に推進機を起動して高速接近したベイク機が蹴りを見舞う。機体が泳ぎ、テラナドの上からよろけ落ちたレッド・ゼロスリーへソソム機の砲弾が迫るが、片足だけでダッシュ・ローラーを使い、姿勢を保ち砲撃をかわす。

 その動きに思わずソソムは旋律する。

「こいつは、やばいぞ!」

 その言葉と同時に、レッド・ゼロフォーの射撃がイザム機、ベイク機を狙うが、即座に反応したベイクがテラナドの肩に装備された盾を構えて銃弾から自らとイザム機を守る。

 好機と見たレッド・ゼロスリーはソソム機の死角から大量の弾丸をばらまくが、精度の良い射撃ではない。互いの背を守り合うようにイザム機の盾が自らとベイク機を守る。

 盾を構えて応戦するベイク機であるが、機体に大量の負荷を加えられ損傷したイザムのテラナドは立ち上がることすらできない。

 ソソムは推進機を起動させ、テラナドを鋏み円を描くように移動する敵二機の内、レッド・ゼロフォーに向かう。レッド・ゼロスリーのあの動きから、まだ組み易しと判断したのである。

「エナ、無茶をするな!」

「無茶をしたのはあんたらだろう!」

 決死の体当たりにより動きをレッド・ゼロフォーを押さえ込むのに成功するソソムのテラナド。しかし、その背後にレッド・ゼロスリーが肉薄する。

 左手に炎を灯し、その足が唸りを上げる。砂埃を巻き上げて、まるで地に飢えた獣が獲物に食らいつくように猛進した。ベイクの言葉が届くよりも早く、その左手がソソムのテラナドの背後に突き刺さる。

 推進機の噴射口から脆い背後を狙われ、易々と装甲を引き裂かれたテラナドは動力炉を焼かれて、ソソムの悲鳴と共に爆散する。その直前に盾を構えて離れていたレッド・ゼロスリーは爆風に押し流された程度であったが、至近距離にあったレッド・ゼロフォーはその装甲の甲斐なく爆発に巻き込まれて機体前面を破壊されている。

 仲間諸共か。思わず息を飲み込んだイザムに対し、激高したベイクがレッド・ゼロスリーに向かって突進する。独特の軌道でベイクの射撃をかわしながら応戦するレッド・ゼロスリーに、彼はライフルを投げ捨て、盾の裏に装備された二本目の刃発生装置をその手に取る。

 相手の銃弾を防ぎ、加速するベイクのテラナド。盾ごと体当たりして刃を突き刺すつもりなのだろう、しかし、レッド・ゼロスリーもベイク機に向かって加速し、あろうことか回し蹴りを放ったのだ。

 その質量差とは言え、衝撃により倒れるレッド・ゼロスリー。だが、ベイク機は受けた衝撃に耐えられない。盾を支える左肩の支柱が折れ、空を仰ぐように転倒する。即座に立ち上がろうとしたベイクだったが、そこへ到着したレッド・ゼロファイブがその頭部を蹴り飛ばす。

「……ち、畜生ううううっ」

 再び地に伏したその機体を嬲るように二機の犬が回り、容赦なく銃撃した。守る物もなく、弾丸の雨に曝されてはバレットの装甲とは言え役に立つはずもなく、装甲を引き裂かれて動きを停止する。レッド・ゼロスリーは容赦なく、動きを止めたベイク機に向けて腰元の手投げ炸裂弾を使用し、完全に破壊する。

 燃料に引火し時間差で爆発する。四散した機体から離れ、レッド・ゼロスリー、及びゼロファイブは赤く光る眼を地面に転がるイザム機へと向けていた。



「いやあっほーう、二匹目げーっつ!」

「はあ、ふざけろよクレオ、今のは俺んだろ!」

「言ってろカーク、マーシー・ストロークは俺んだよ」

 まだ甲高い子供特有の声。彼らこそ反中央管理政府組織、ブラックマンの工作員である。幼い内から組織に拾われ、駒として育成された彼らは機関出身のイザム・ロレンツと同様と言えたろう。

 ただひとつ違うのは、イザムとは違い、常に死と隣り合わせの戦場を渡り歩いたことによる戦闘経験だろう。更にゲーム感覚で戦闘を楽しむ彼らは組織の幹部以外は全て駒だということを自覚しており、自らの命を軽視しないが、他者の命は軽視している。その為、さきほどのように自らの仲間を構うことなく攻撃できるのだ。

「さあて、手前でエンディング・ランだな、蛆虫め」

「クレオ、こいつは俺がやるぜ」

 舌なめずりするクレオ、クーオと呼ばれていた少年に対し、カークはそれを遮る。いつもならば実力で奪ってみせろと言うところであるが、彼が固執する同僚が戦場に出ていないため撃墜数を競う意味はないかと息を吐く。

 任せるとばかりに肩を竦めるクレオに、歓声を上げるカークだが、即座に動きを止めて後退する。それはクレオも同じだった。

 高速で接近する機体の反応。この乱雑な地形を無視して一直線に迫る軌道は。

「ちいっ、ノックス・エイジか!」

「おうい、カァーイ! 出番だぞ出てきやがれこの糞野郎!」

 空中からの爆撃に、建物の影へと避難するクレオ、カークの駆る重量級バレット・トングァ。そしてクレオの言葉にカイ、さきほどライド・ユニットを監視していた少年が答える。

 任せろ。その一言。擬装用に使用されていた最後のコンテナが弾け飛び、上空より爆撃支援する二機のノックスエイジよりも更に上空へとレッド・ゼロシックスとされた機体が舞い上がる。トングァと同じく黒のカラーリングをしたその機体。

 ノックス・エイジと同じくハピネスの直系である第四世代型可変機ペセルウスである。ノックス・エイジと比べれば骨董品のような代物だが、空中戦闘に間に合わせるためにブラックマンが入手した戦力だろう。ノックス・エイジ二機もペセルウスの登場と同時に二手に別れ応戦する。

 その二機の間を挑発するように機体を旋回させながら抜けるペセルウスに対し、即座に機体を反転させて追撃するノックス・エイジ。それを地上よりクレオ機とカーク機が攻撃する。

 ノックス・エイジの飛行形態は前面に装甲を集中させているが、後方はその殆どが推進機と火器携行部となっており装甲が極端に薄い。追撃よりも後方からの射撃をかわすべく飛行するノックス・エイジの内の一機に狙いを定め、ペセルウスが機体を反転させる。

 天地逆さの状態でノックス・エイジの上部すれすれを駆け抜けつつ変形を始め、同時に碗部に刃が発生する。

 変形と同時にノックス・エイジの尾翼を切り裂き、姿勢を崩した機体へ至近距離から容赦なく射撃を行うカイ。攻撃を受けたノックス・エイジは即座に変形し、カイのペセルウスと正対して盾を構え、同時に携行するマシンガンを乱射する。

 ノックス・エイジと同じく盾を構えて初撃を防ぎ、下降する敵機とは違い、変形して上昇する。

 それを見越したように、ノックス・エイジの影からもう一機が飛行形態のまま突撃する。機体下部に取り付けられたマシンガンを放ち、カイのペセルウスもまた被弾する。

 そんな程度か、浅知恵を。侮蔑の言葉を吐き、機体を旋回、推進器を断続的に使用し複雑な軌道でノックス・エイジの射線をかわし、下方からすれ違い様に射撃する。

 圧倒的なほどの技量の差だ。機体の性能を物ともせず、二機の最新鋭機を手玉にとっている。分断された二機のバレットの位置を確認しながら、先に下降していたノックス・エイジには盾を構えた。まだ飛行しているノックス・エイジの方向にはクレオ、カーク両名のトングァがある。

 敵がそちらを警戒している間に、俺はこちらを仕留めるか。機体を、最早変形できぬであろうノックス・エイジに向ける。

 装甲の厚さはテラナドにも劣る。刃発生装置でずたずたに切り裂いてやろうと息吹くカイが自由落下中に背面の推進器に火を灯した刹那、ペセルウスが大きく揺れて姿勢を崩す。

「……な……なにっ!」

 旋回する機体に推進剤を切り、好機とばかりに銃撃するノックス・エイジに盾を構えながらも姿勢を正すことができずに墜落する。その衝撃に思わずむせたカイは、他のバレットよりも一際小さな反応を確認した。

 最初はカイにより戦闘不能に追い込まれたテラナドかと思ったが、違う。主観画面の先には、ペセルウスの足に巻きついたワイヤーと、それを辿った先に随分と小型のバレットが見えた。頭部もなく、剥き出しの操縦席にへばりつく操縦者の姿。

 ホロウ・ウェラルトである。

「……さ、作業用バレットだと……! ちぃっ、カーク、クレオ!」

 思わぬ横槍に舌打ちし、手元に発生させた刃でワイヤーを切断する。墜落したノックス・エイジの破壊を命じ、自身は建物の影に隠れて機体の各部機関に警告が出ていないか確認する。

「異常はない、まだ飛べるな。もう一機は俺がやる、落ちて動けない奴はお前らの仕事だ。妙な作業用バレットもうろついているから気をつけろ」

「はあ? なに、作業用だと?」

「おいおいおいおい、なに言ってんだカイちゃんよお」

 小馬鹿にした嘲りの言葉に対してカイっは怒りを見せるでもなく内心、肝を冷やしていた。

 自由落下中とは言え、弾道制御もないような機体であの距離から攻撃を当てる者。一体、何者なのかと。

「これは妙な雲行きだな。ブレイブ・ハート、準備しておけ」

「……了解」

 カイの言葉に、眠たげな少女が返事をした。



 カイに危機感を抱かせた当の本人と言えば、自分の股座に消化し始めの胃袋の中身を広げているところだった。

 幾ら安全帯を装着していたとは言え、落下するバレットに巻き込まれて転がり落ちた鉄の塊の中にいたのだ。視界は回り、衝撃のあまり頭痛と吐き気に涙する。

 しかし問題は己の体調などではない。ホロウが動きを止めたバレットの操縦者である。

「はあ、はあ、……ぐ、く、そ……あいつ、すぐにワイヤー切って逃げやがったな」

 眼前の敵に対しての対処や、墜落時の対応もそうだが、反応と思考の切り替えが恐ろしく早い。第四世代のバレットで第六世代のバレットに対応できるその腕、並ではない。ノックス・エイジの登場と同時に出撃したことといい、これはまだ策がありそうだとホロウは頭を振る。

 異臭の中で心臓を落ち着かせる彼に対し、怒号が響いた。

「おい、そこの民間人、なにをしているか! ここはすでに戦闘区域だぞ、早く避難しなさい!」

 その民間人に助けられたんだろうが。外部拡声器からの言葉に返事を返す気力もないが、このまま地面に転がり続ける訳にはいかない。遠目に砂塵を巻き上げ、公道を疾駆するふたつの影を認めたからだ。

 もうおいでなすったか。額に浮かぶ汗を払い、機体を起す。機動力では第一世代のバレットと比べてすら劣る代物だ。まともな戦闘に耐え切れるものではない。

 そう、まともな戦闘には。

「……ふん、見てろよガキども。俺だってガキの頃はやんちゃしてたんだよ」

 先行する頭部と肩に赤の線を引いたトングァが、腰元の手投げ炸裂弾を引き抜きノックス・エイジ目掛けて放り投げる。飛行形態での空中戦闘はできなくなったとは言え、動く分の余力は十分にある。しかし、トングァの後方に続くもう一機がライフルを構えている。機動力の落ちたノックス・エイジが空中に飛んだところで、あのライフルの餌食になるのは目に見えていた。

 ならば打つ手はひとつ。作業用バレットの右腕に設置された鉄芯打ち機から鉄芯を射出、トングァの放った炸裂弾を後方へ弾き飛ばす。

 即座に右方向へと滑走するトングァだが、後方に続くもう一機は対応できずに爆発に巻き込まれた。この程度で戦闘不能には陥らないだろうが、至近距離での爆発だ。頭部は損傷し主観画面にも異常が残るだろう。

「……な、何者だ……」

 まだ拡声器が繋がっているのか、呆然とした男の呟きが耳に入る。ホロウはこちらも作業員に指示を出すために積んである携行型の拡声器を取り出してノックス・エイジに向けた。

「おい、まだ敵はいるぞ。もう一機もすぐに動けるようになる、迎撃してくれ」

 叫びながら、接近するトングァに目を向ける。炸裂弾を弾いたその直後には反応していた。このバレットの操縦者もさきほどのペセルウスと同じ程度の腕と見て間違いないだろう。

 そして、それはこちらも危険と判断している。左手の装甲が展開し、炎が灯る様に背筋から冷や汗が垂れるのを感じつつ、ホロウは腰部のアンカーを放つ。

 一本はさきほどのペセルウスにより切断されたが、もう一本は無事だ。その装甲から作業用バレットの攻撃などに損傷はないと高をくくったのだろう、射出されたアンカーを受けながらも接近するトングァに、かかったとばかりにホロウは笑う。アンカーを巻き、直進するトングァに対し一本しかないことから姿勢を崩した作業用バレットは転がりながらもトングァの一撃をかわし、後方へ逃れる。

 そして、盛大に空振りしたトングァの目前にはマシンガンを構えたノックス・エイジの姿があった。銃撃を受け、一瞬は減速したものの、後退するだけではそのまま銃弾を受け続けると判断したのだろう、装甲に任せてノックス・エイジに体当たりを行う。

 ホロウは再び自らを襲った衝撃の波に揺れる視界の中、バレットを立たせてむりやり歩を進める。なにもただあの一撃を逃れただけではない、戦闘を行うノックス・エイジにその技量の差から、しばらくは持ち堪えてくれと祈るホロウ。

 目指す先には倒れたテラナドと、その傍らに散らばる銃器があった。すでに作業用バレット自体、機体に負荷がかかりすぎていつエンジンが止まってもおかしくない状態だ。ようやく辿り着いた先で、ノックス・エイジが蹴り倒されるのを身ながらも、ホロウは拾い上げたライフルを構える。

 ソソムの搭乗していたテラナドが装備していた物だ。他のライフルと違いその口径から、大玉を期待してこれを持ち上げたのだ。碗部そのものの造りがテラナドや戦闘用バレットとは違う為、装弾の動作は行えないが、引き金を引くことならできる。

 ホロウはその銃口をノックス・エイジを踏みつけるトングァではなく、未だ動けずにいる頭部を損傷したトングァに向けた。

 砲弾が残っているよう祈りながらの一発。無事に発射されたその弾は狙い違わずトングァの脇腹に突き刺さり炸裂した。衝撃に揺らぐ機体の装甲は弾け、自らの危機にダッシュ・ローラーでの移動を試みる。だが、視界は回復していないのだろう、ビルや資材にぶつかりながらのめちゃくちゃな軌道だ。

「悪いとも思わないが、外さねえよ」

 続く二撃は疾駆するバレットに易々と突き刺さり、内部にまで潜り込んだ砲弾は装甲の下で爆発し、トングァの上半身をばらばらに吹き飛ばした。



「……んな……馬鹿な……」

 余りと言えば余りの光景に、目下の敵に止めを刺すことすら忘れてクレオが呟く。

 作業用バレットが戦闘用バレットを破壊した。それも自分たちのバレットと治安維持機構のバレットを利用してだ。バレットの操縦技術だけではない、民間の作業用バレットでありながら、搭乗者は恐ろしく練度の高い一流の兵士であるとクレオは断定した。

 アウターか、そう呟いて顔をしかめる。ディノクライド抗争の生き残りだろう。あの混沌とした戦場を渡り歩いた人間でなければ、これほどまでに場の掌握はできないだろう。

「クーオ、カークは撃破されたのか」

「……ああ、例の作業用バレットだ」

 クレオの言葉にそうかと頷き、カイは撤退を口にする。それに納得できないのはこの少年だ。相手がどれほどの腕前であろうと、高が作業用のバレットなどに遅れを取る訳にはいかないとしたのだ。

 だが、カイはその言葉を曲げることなくもう一度、撤退を口にした。

「落ち着け、クーオ。例の物資もブレイブ・ハートが回収した。これは敗走じゃない、俺たちの勝ちだ」

「こんな勝ちが認められるかよ! ……くっ」

 視線の先で銃口を向ける作業用バレット。足元でもがいていたノックス・エイジもクレオが他所に気を取られている内に脱出し、彼に叩き落されたマシンガンの代わりに刃発生装置を構えた。

 それだけではない、さきほどまで機関の異常のために動けずにいたテラナドも手動で回復させたのか、上体を起してライフルをこちらに向けたのだ。そして、遠間から接近するのは満身創痍のノックス・エイジ。

 カイめ、元から時間稼ぎだけを目的にしていやがったな。死に体のぼろ雑巾のような機体に囲まれたところで、いつもの少年であれば強気でいられたが、ホロウの駆る作業用バレットはクレオにとって余りにも未知な代物であった。

 そのため、彼は攻撃に移ることができなかったのだ。

「畜生、覚えてやがれよな」

 月並みな台詞を操縦席で転がして、クレオはトングァを後退させる。治安維持機構の面々もまた、追撃する気はさらさらないのだろう、そのまま撤退するクレオを見送り、ただ形上、銃口だけはこちらに向け続けている。

「畜生、四機だぞ、こっちは四機のバレットをぶっ壊されたんだ。なのに二機しかやってないんじゃあ元が取れねえ!」

「安心しろ、クーオ。こちらにはそれ以上の価値があるさ」

 そうかよ。毒づくクレオを宥めるようにカイは彼の戦績を褒めたが、そのような上っ面だけの祝福は更に少年の機嫌を損ねるだけだった。



 十日後の第三十七工業地区。すでに復興作業や、戦闘で破壊された資材の発注やらでてんてこ舞いだ。ガエン・トレマーズもご多分に漏れず、失った資材の確認や工場の整理、機械に不具合は起きていないかの確認など、連日残業続きである。

 結果的には人的被害もなく、資材の紛失も少量ですんだガエンの工場であるが、ホロウはメヌス公社関連の資材の紛失だけは黙して、ガエンにさえ報告していなかった。

 あの戦闘の後、治安維持機構の制止も聞かずに戦場を後にしたホロウはバレットを工場内に捨て置き、シェルターへ向かった。ようやくの到着にガエン親子や仕事仲間は泣き怒りして青年の無事を祝ったが、当人としては無事と言える状況ではなかった。

 異臭のする衣服に、やはり戦闘に巻き込まれたかと気遣う仲間から離れて非常警戒態勢の解除をひたすら願ったものだ。それから後の工場では、やはり無理を効かせた作業用バレットは故障して使い物にならず、工場の施設だけでなく外部からの応援も呼びこみながら人力での工場整備を行っていた。

 そんな彼に呼び声が掛かったのは、昼の休憩時間のことだった。寝る間も惜しんで走り回る作業員に混じり、自分は手の空いた時間にはバレットの修理を行っていたのだが、そろそろ動作確認でもするかというときだ。

「一体誰だよ、俺なんかに用事なんてのは」

「それが、治安維持機構だって」

 メリィの言葉に、ホロウは表情を堅くした。

 彼女とともに工場の応接室にやってきたホロウは、中から怒鳴り声が聞こえて慌てて中へと入った。その先では案の定と言うべきか、ガエン・トレマーズがあろうことか治安維持機構の構成員に掴みかかっていたのだ。

 ホロウが声をかけるよりも早く、治安維持機構の面々によって取り押さえられるガエン。それをまるで、塵でも見るような無感情の瞳で見下ろしてスーツを正す女。彼女はホロウへ目を向けて、ずれた眼鏡を指先で引き上げた。

「こんにちは、ホロウ・ウェラルトさん。私は」

「治安維持機構だろ。話すことなんてなにひとつねえ。ガエンさんから離れてとっとと俺の目の前から消えやがれ」

「あら、そう」

 ホロウの言葉に女は口の端を持ち上げる。ガエンを指し、自らに暴行しようとしたことと公務執行妨害の現行犯だとし、ガエンを連行するように言い放つ。

 余りに一方的な言い分だが、それがまかり通るのが中央管理政府直下の機関だ。ホロウはすぐに彼らを止め、歯噛みしつつも話だけならば聞こうと女を睨みつけた。

 最初からそう言えば良いのだと、女は鼻でホロウを笑う。

「おい、ウェラルト。そんな奴の言うことを聞く必要はない」

「口を慎め、トレマーズ工場長」

 女の付き人の言葉に舌打ちする。人の弱みにつけこんで脅すやり方は気に食わぬ。ホロウも同じ気持ちであるが、だからと言って拒否すればこの工場自体が取り壊されるかも知れない。この第三十七工業地区の中でもそれなりの地位を誇る工場だが、中央管理政府の権威の前には無力だ。

 そしてなにより、たかが自分の意地のために同僚やこの親子の食い扶持を潰す訳にはいかなかった。

「改めて自己紹介をしよう。私は治安維持機構情報部担当、クサカ・ウヴェッツだ」

 犬、お前の名前はなんだ。たっぷりと侮蔑を含んだその言葉に、しかしホロウは顔も歪めずに素直に名乗る。

 その名。すでに知ってはいただろうが、クサカは口の端を引き上げた。

空ろ(ホロウ)とは、これまた気が利かない偽名だな。貴様、ディノクライド抗争時の戦闘兵だな?」

「そんなことはどうでもいい。とっとと用件を言え」

 用件などは決まっているだろう。女は笑う。先日の戦闘は見事だったと、特に作業用バレットでの大立回りを指して。

 その言葉に驚きの声をあげたのはガエンとメリィだ。まさか先日の戦闘に工場の人間が関わっているとは思うまい。それも作業用のバレットで、戦闘用のバレットを相手に。

「では、単刀直入に言おう。お前が欲しいのだ。勿論、嫌とは言えないな?」

 その視線はガエンに向かう。

 ホロウはただ黙して、その言葉を受け入れるしかなかった。

書く、暇が、ない。




機体紹介


テラナド

ディノクライド抗争後期にクァーバゼィル帝国残党軍により生産された第四世代型バレット・ギガントの直系にあたる。

その設計思想である汎用性は損なわれておらず、機体各所に設置されたレールにより簡易な武器の取り外しや携行、様々な装備の変更が可能である。

また厚い装甲や大型化した機体の随所には空きスペースがあり、これにより衝撃の吸収や、内臓武器の設置を行う。

また短時間であれば飛行も可能であり、空中戦闘用のバックパックも追加装備として設計されたが、ノックス・エイジの作成や大型化する装備から地上での機動力に支障が出るためこの案は削除されている。

治安維持機構の現主戦力である。



ノックス・エイジ

第一世代より脈々と受け継がれるハピネスの直系にあたる。

その設計思想は軽量さからくる高機動とコストパフォーマンスの高さにあったが、第四世代であるペセルウスからその思想はなくなり、地上戦闘には対応しきれていなかった部分を可変機という形で補ったもの。

コストも高く、その分性能も底上げされており、テラナドよりも数段高い制圧能力を備える。

しかし装甲は薄く、従来のバレットとは操縦方法も異なり、兵士がその性能を引き出し辛い機体となっている。



トングァ

反中央管理政府組織ブラックマンの主戦力機。

厚い装甲と特筆すべきはその脚部のダッシュ・ローラーで無類の地上戦闘能力を持つ。反面、空中戦闘適正はまるで考慮されておらず、中央管理政府の新造したバレット、ノックス・エイジにはまるで対処できていない。

武装としてライフルや盾裏に仕込まれた鉄鋼刃、腰元にふたつの炸裂弾を持つ。左手にファイヤー・トーチを装備しているのはクレオ機のみであり、更に彼のライフルに装填される弾頭には発火装置が仕組まれ、銃身下部に設置されたグレネードランチャーにより発火性の液体をぶちまけて火達磨にし、戦闘不能とさせることが多い。



ペセルウス

ディノクライド抗争時の第四世代型バレット。ハピネスの後継機であり、初の完全可変型バレットである。

武装は翼部外装であるミサイル発射装置以外は碗部に内臓された刃発生装置と銃器である。

すでに現行兵器とは比べるまでもない性能であるが、カイの搭乗するペセルウスの内部構造にはテラナドの物が使用され性能が著しく向上しており、それもあってノックス・エイジ二機と渡り合う空中戦闘を可能としている。



作業用バレット・アッシー君二号

トレマーズ工場の二代目作業用バレット。性能としては歩けるようになったフォークリフトとでも呼ぶべき代物。

これだけではむしろフォークリフトより性能が低そうではあるが、ホロウの努力により走れるようになっている他、リベットガン、資材固定用のアンカーワイヤーなど随所に努力の痕跡がある。

がんばれアッシー君二号。いつの日にかエイリアンのクイーンを宇宙に放逐するんだ。



用語説明



地下都市(アフター・ヘヴン)

ディノクライド抗争以前に発見された広大な地下空間に埋設された施設。人工の陽光や新鮮な酸素を送り続ける機能、水の配給などが行われており、クァーバゼィル帝国の一部の人間により移住計画が進められていた。

ディノクライド抗争が勃発してからその動きは盛んになり、現在ではほとんどの人間がこちらに移住している。



ディノクライド抗争

内乱によりクァーバゼィル帝国が解体された後、王であったスファルス・ディノクライドの実子であるアルズディッシュ・ディノクライドの下、再び天下を統一せんと帝国残党軍が旗揚げした戦争。

クァーバゼィル帝国反乱軍やその他の解体前に吸収できなかった小国連合との戦闘となった。この戦争は長い間続いたが、後にアルズディッシュの子であるフレアイルズの手により戦争は終結される。

が、同時に地表は砕け、砂塵が舞い踊る生物が生きていくにはあまりにも過酷な環境となってしまった。



バレット

この世界では機動兵器を指す呼称であり、戦闘機や無人の小型兵器をショット、中型の兵器をバレット、大型の兵器をシェルと呼んでいた。

もともとは隠語であったが一般に普及し、多くの場合、バレットは人型の機動兵器を指す言葉となっている。



ブラックマン

反中央管理政府二大組織のうちのひとつ。組織力としては強固と言えないが、拾われた戦災孤児などのアウターを中心に戦力が形成されており、保有する兵の練度が高い。

また容赦のないことで知られており、その活動はバレットによる破壊工作だけではなく、中央管理政府の人員を直接殺害や拉致、監禁など活動範囲が広いことで知られる。

特にバレットによる破壊活動よりも、こういった工作の方が多く、旧式のバレットを使用するなど保有している機体が少ないことも伺える。

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