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リレー小説:重なる世界の物語  作者: リレー小説ALLプロジェクトメンバー Ver.1.3
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十字架の光

リレー小説第8話です。


担当 :コンフェクト

代表作:なんかゲームしてたら武闘家少女が出てきちゃった(http://ncode.syosetu.com/n9670u/)

 翌日、未来はゆっくりと目を覚ました。

 窓から差し込む光が朝の爽やかなひとときを告げている。


「あ、起きましたか? 未来さん」

「メル……?」


 未来は寝ぼけ眼をこすりつつ、目の前に立っていた人間の名前を呼んだ。

 昨夜疲れ果てた末にベッドへ向かったため、すぐに眠ってしまったようだ。


「ここは……」

「ここは私の家です。覚えていませんか? もしかしてまだ頭が起きてないとか?」

「いや、そんなことはないよ」


 未来は息を吐きながら大きく伸びをすると、現状を次第に認識していく。

 ここは集落で、昨日は試練や昔の日本の話など、様々な出来事があったことを思い出していく。 


「今日はフィーと狩りに行くんですよね」

「そうだね、昨日約束したし。狩人のフィーには及ばないかも知れないけど、ボクには多少の心得があるから少しは役に立つと思うよ」


 マタギの祖父を持つ未来には少なからずの自信があった。伊達にサバイバルナイフを常備しているわけではない。


「あれ、フーリィは?」


 気づくと未来の傍にフーリィの姿が見えない。きょろきょろと部屋の中を見渡してみるが、フーリィの姿は近くに見当たらなかった。


「あ」


 間の抜けたような声を発したのはメルであった。

 メルは何かに気づいたように未来の隣を指差している。指の先には未来が体に掛けて寝ていた薄い毛布があり、一点がもっこりと盛り上がっていた。その一点がもぞもぞと不自然に動き出すと、水面から顔を出す魚のように、フーリィの顔が毛布の端から飛び出した。


「なんだここに居たのか、びっくりしたな」

「一緒に寝てたんですね」


 メルはその光景に微笑まずにはいられなかった。

 本当にフーリィは不思議な動物である。未来の意志を汲み取っているかのような行動をする。とても頭が良いのか、もしくは普通の動物ではないのか――なんにせよ、未来にとって可愛い相棒のようである。


「今朝食を作っているので、もう少ししたら来てくださいね」

「うん、わかったよ」


 そう告げて体を翻すメル。

 完全に眠気を飛ばした未来は今日の狩りの事を考え、思いを馳せた。


 


 メルが作った色とりどりの朝食を平らげた後、未来とフィーは狩りの準備を行い、家の外に出た。

 外には集落ののどかな光景が広がっている。


「さて、じゃあ出発するよ」


 フィーが張り切った声で告げる。

 未来も狩りのことを考えて胸が高鳴っていた。彼の肩にちょこんと乗ったフーリィも、何やら楽しそうに体を震わせている。


「その子も連れて行くの?」

「うん。特に影響は無いと思うから、安心していいよ」


 フィーは未来にくっついているフーリィのことを気に掛けたが、特に問題は無さそうなので同行することになった。頭の良いフーリィのことである、何か大事が起きてもしっかりと行動するだろう。


「おや、狩りに行くのかい」

「はい。今日も大きいのを獲ってきますよ」

「ははは、頑張っといで」


 ふっくらとした肉付きのおばさんが未来とフィーに声を掛けた。集落の住民の一人である。初対面である未来にも会釈をして、暖かい笑顔を送る。


「明るくて優しそうなおばさんだね」

「ここの集落の人はみんな優しいからね」


 集落の雰囲気はほのぼのとして明るく、住民も良い人ばかりに感じられる。

 未来はこの集落に身を置くことになって良かったなと心から感じ始めていた。


「でも、その優しさに甘えてるばかりじゃダメだよ?」

「えっ?」


 フィーは腰に手を置き、ちょっと不機嫌そうな顔になって告げる。


「集落に住むからには、何か自分の役割を持たないとね。助けられてるばかりじゃなくて、自分も人の役に立たないと」

「人の役に、かぁ……」


 腕を組んで難しい顔をする未来。


「集落っていうのはある意味で、閉鎖的な場所なの。本当なら、初めて来る人は受け入れがたい物なんだよ。この集落でもあんなバカみたいな試練を始めた本当の理由は、信頼に足る精神の証を少なからず、目で見ることが出来るからだと思うよ。人の心は目で見えないからね。だからこそ、ああやって形だけでも真実にしたいんだよ」


 あの試練にそんな意味が――と、未来は思った。

 が、同時に長老達の頭にガタがきているという話を思い出し、実際の所はそんなに真面目な構築はされていないんじゃないか……とも思った。いつから続いている試練なのかは、全くの謎であるが。





 木々の間から降り注ぐような、目に見える光の筋を光芒(こうぼう)と呼ぶらしい。

 そのような光が差し込む森の中――未来とフィーは獲物を求めて歩みを進めていた。

 ターゲットは、昨日フィーが持って帰ったような猪である。


「いたっ」


 フィーが小声で告げると、腰をかがめて草木の間に身を隠す。未来も同じようにしてフィーの隣から目前の光景を眺めていた。

 視線の先には、一頭の猪が居た。一メートルを迎えるようなその個体は荒々しいという表現が最も似合っている。どうやら未来達には気づいていないようで、呑気に鼻を動かしている。


「あれを狩るよ」

「……どうやって?」

「魔法だよ、魔法。まぁ、見てて」


 そう告げた後、フィーはまるで空中に十字架を描くように、右手を動かした。

 すると陽光のような、まばゆく淡い光がフィーの手の平を覆うように出現する。光は徐々にその姿を変え始め、槍のような一筋の光を作り出した。フィーの手の傍を浮くその光の塊は未来にとって全くなじみの無いものであった。


「これが、魔法!? すごい――」

「いくよ。……それっ」


 フィーは右手を自分の左胸へと寄せ、振り払うように真っ直ぐ前へと手を伸ばした。すると、固められた光はその手の動きに合わせるように宙を飛んだ。

 吸い寄せられるような軌道を描き、光の槍は安穏としていた猪の元へと駆け抜け、その胴体を貫いた。

 光の槍が刺さった猪は大きく唸りを上げ、抵抗しようとするがその損傷は大きく、体からはたくさんの血を流している。よろよろと足取りが弱いものとなっていった。


「本当に、魔法なんだ……」


 未来は心底驚いていた。フィーの言う魔法というものも、もしかしたら嘘っぱちで魔法“らしき”かがくの力なんじゃないかと思っていたが、フィーは本当に魔法が使えるようである。







「その魔法、どうやって覚えたの?」

「わからない。森で倒れてた私は、昔のことを覚えてないから……でも、その時からこの魔法の力は使うことが出来たんだよ」


 森で、倒れていた。その事実を聞いて未来は、少しばかり状況は違うけれどもフィーもまた自分と同じようにやってきた人なのではないかと脳裏に浮かんだ。


「この力で、私はメルや親父さんや集落の人達に、恩を返すんだ。とっても便利な力だよ。私は、この力を誇りに思ってるよ」


 フィーは自分の想いを吐露するように言葉を紡いだ。自信に満ちあふれているところを見ると、フィーは自分の力を強く信じているのだということがうかがえる。


「未来も、自分の力で何かを掴まないと。私みたいにね」


 ちょっと得意そうな顔でフィーは未来を見つめる。

 未来はフィーの言葉に戸惑いを見せたが、しばらくすると元の表情へと戻り、くすりと笑うとフィーを見つめ返した。


「じゃあ、ボクはボクで、ボクにしか出来ないことをやってみせるよ」

「えっ?」


 そういうと、いきなり未来は目を閉じた。

 精神を研ぎ澄ませるように四肢の動きを静止し、集中力を最大限まで高める。

 その姿にフィーは一体何をしているのかと疑問に思ったが、しばらくすると未来は目を開き、


「あっちだ」


 にやりと微笑むと、森中のとある方向を指さしたのだった。


「あっち……?」

「まあいいから、ついてきてよ」


 フィーは何のことを言っているのか解らず、未来の言うとおりに彼の後を追う。

 数分に満たない程度の時間、がさがさと森の中を歩いて行く。


「ここからは静かに」


 とある地点まで来ると、未来はフィーに静かにするように告げる。

 言われるままにフィーはゆっくりと音を立てないように体を動かす。


「あっ」


 フィーは目を見開いて驚いた。

 未来が連れて行った先には、一頭の猪がリラックスした様子で闊歩していたのだから。


「な、なんで居る場所がわかったの!?」

「ボクは耳が良いんだ。このくらいわけないよ」


 今度は未来が得意そうな表情でフィーを迎えうった。


「じゃあ、今度は私がサポートするから、未来が狩ってみてよ」

「うん、わかった」


 サポートするというフィーの言葉に、未来はどんなことをするのだろうと思ったが、その答えはすぐに明らかとなった。

 フィーは先ほどのように十字架を宙に描くと、手首の周りに三つの光の輪を作り出した。

 光の輪は徐々にフィーの手を離れていき、猪に気づかれないように近寄ったかと思うと――猪の体を強く、縛り上げた。

 前足、胴体、後ろ足――それぞれの自由を奪った光の輪は、問答無用に猪の動きをねじ伏せる。猪は強く暴れようとするが光の輪の力が強いのか、まるで思うように体が動いてないようだ。

 その隙を未来は見逃さない。自由を失った猪へ颯爽と近寄り、手に収めていたサバイバルナイフを強く振るった――






「まさか、未来にそんな特技があるなんて思わなかったよ」


 フィーは感心したように未来のことを見つめていた。

 二人はもう一頭の猪を手に入れ、しっかりと皮袋に収めた。ちなみに、皮袋を持ち歩いているのはフィーだ。しかも二頭分である。最初は未来が持とうとしたのだが、あまりの重さに数秒持ち上げるだけでギブアップしてしまった。そんな重さである猪をなぜ彼女が持ち上げられているのかというと……また魔法の力によるものだった。光の満ちた手で自分の腕を撫でるように触ったフィーは、大人顔負けの怪力を発揮し始めたのである――伊達に狩人の名を誇ってはいない。


「よいしょ」


 たくましいフィーの姿に、未来は驚きっぱなしであった。


「そんなに食べきれないよね。どうするの?」

「ん? 決まってるでしょ」


 未来の疑問に、フィーは予定調和であるかのように坦々と呟いた。


「集落の人に配りに行くんだよ。未来も丁度良い顔見せになるしね」

コンフェクトです。逆から読んだらトクェ……発音しにくっ!


後書きを書くということがとても新鮮なのですが、なんだか偉い人になったような気分になりますね、自分だけでしょうか。


お話の方は狩りに生きる……みたいになっちゃいましたが、今後どうなっていくのかとても楽しみです。

このような執筆の機会を与えて頂き、まことに感謝しています。


……猪って、重いんですね。調べてみてびっくりしたのは秘密です。


次回はルースさんです。

どうか私の話の続きをうまーく、拾ってやってください(汗


コンフェクト

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