過去との邂逅
リレー小説第5話です。
担当 :ルパソ酸性
代表作:天海甘太郎といちごミルク戦争(http://ncode.syosetu.com/n9325bd/)
学校でやったら確実に不登校になるであろう羞恥プレイを終えた未来はメルの家に案内されて行くと、そこには綺麗な花が咲く庭の中に木の家、少し大きめのおしゃれなログハウスが建っていた。
「どうぞ、あがってください」
「失礼します」
未来が頭を下げるとフーリィもなぜか頭を下げていた。
絶対に言葉を理解しているだろうと思いながらもすぐに聞かねばならないことを思い出す。日本はどうなったのかを。椅子に座ったメルに向き直って二、三他愛もない話をしていた未来は尋ねた。
「ところで、七億八千年前の日本はどうなって滅んだんだ?」
「ああ、それは……実は、そこまで詳しいことは知らないんです」
「え? でもさっき」
「あまりにも昔なので、今ではおとぎ話のような伝承でしか残っていないんです。私が知っていたのも、この村がそういった類いに縁のあるところだからなんです」
目眩がしそうだった。
自分のいた日本は最早おとぎ話でしか語られないような時代の、いや、七億八千年経ってまだおとぎ話でも残っているのなら僥倖だろう。
「でも日本に関わるおとぎ話はかなり信憑性あるんですよ? 村にも勇者ジーコ・ラーバンカが持っていたっていう武器があるくらいで──」
(日本に勇者はいないし武器なんて持ってたら捕まるよ。なによりその名前で日本人はないな)
おとぎ話だからと割りきった未来はそのおとぎ話を詳しく聞くことにした。
* * * * *
見渡す限りの砂の丘。いや、砂を固めたような大地がそこには広がっていた。
不気味な月の光だけが辺りを照らしている。
『凍京』
そこはそう呼ばれていた。
世界に生きる全ての命を代償に、魔物の王を召喚しようとした魔女が儀式の為に選んだのがその場所だった。
だが、勇者にとってはもういいことだった。この凍京に繋がる門を開くために何人もの魔導師が命を犠牲にして自分と仲間を送ってくれた。
共に来てくれ、最後まで戦ってくれた仲間も凄まじい激戦の後で無事な者は一人もいないが、皆生きている。
この魔女を殺し、魔物の王の召喚を阻止するため、沢山の人が犠牲になっていった。
だが、その全てが今終わったのだ。勇者の剣は間違いなく魔女の心臓を貫き、絶命させた。
自分に伝わる感触で、突き立てた剣が悪夢のような世界に終止符を打ったことを再び実感して、剣を引き抜いた。達成感からか、散った者達に自然と言葉を贈ってしまう。
「これで、安心して眠れるだろ、みんな──」
誰にも聞こえない位の小さな声。後ろにいる仲間にも聞こえない言葉には誰も答えなかった。
「あ、甘いな……」
──たった一人を除いて。
「なっ……!」
ぞっとなる。
確かに殺した。息もしていなかった。なのに、目の前の魔女は完全には死んでいなかった。体は段々と砂のように崩れていっている中で、怒りに満ちた目を勇者に向けていた。
「戦いだけに生きてきた者から武器を奪ったら……何が残る……? アハハハ……! 私を殺した貴様を私は許さん……! 護る為に武器を握りたくとも……忌まわしきその手に武器など握らせん! 仲間も護れず、更なる絶望が来たとき、己の無力を呪うがいい……アハハハ……アハハハハハハハ……!」
魔女が絶叫にも似た笑い声を上げた瞬間。
自分の背後から仲間の声が聞こえた。
悲鳴。
焦燥。
断末魔。
そのどれとも言えない声が上がり、背後を見た。
弓の名手であり、口数は少なくても優しかった青年、セルジオが。昔はよく魔法を暴発させて周りを巻き込んだものの、今では賢者と呼ばれるまでに強くなった魔導師、アルティリアが。そして、聖職者でありながら喧嘩っ早く、盾とメイスを持ち、パーティーの回復役を一手に担いながらも前線で戦った女性、そして勇者が愛した女性、アイギナが……足下から次第に石になっていく。
「みんな!」
勇者が駆け寄る間に、もうセルジオとアルティリアは全身が石になってしまい、アイギナももう体の半分が石になっていた。
無意識に剣を捨て、愛した者の元へ向かう。戦いの中鎧は破壊され、勇者はもう走れる力すら無かったが何かに突き動かされるように走った。
また、アイギナも動けぬならせめて愛した者を抱き締めようと両の武器と盾を手放し、少しでも早くと腕を伸ばし、涙が溢れる目で勇者を見て叫ぶ。
「ラーバ……!」
「アイギナ────!」
だが、彼女の肌に勇者の手が触れることは無かった。あるのは、石のような感触だけ。
「アイギナ……アイギナ……!」
苦しい。
勇者は自分が呼吸もまともにできないほど動揺していることに気づいていてもどうにもできない。
「私の……最期の呪いさ……アハハハ……」
息も絶え絶えでもう胴体と頭しか残っていない魔女の声でようやく自分を取り戻した。
そして間欠泉の如く溢れ出る殺意を止める術を勇者は知らなかった。
「貴様ぁああぁぁぁ!!!!」
目の前のアイギナの手から離れたことで石とならなかったメイスを掴む。と同時に金属と何か固い物がぶつかる音がして、メイスを落としてしまう。持っていた腕は痺れて震えている。
事態を把握できず、とにかくもう一度取ろうとしても、同じように弾かれる。
「アハハハ……ざまあみろ……。
……ほとんど王の召喚儀式は終わっていた……いつか私のような者が少し力を加えれば王の召喚は成功する……武器の持てん貴様に防ぐ術はあるまい」
やりようのない怒りが体を支配していく。もう目の前の魔女は胴体も砂になり、頭を残すだけだった。ただここで死を待つだけの自分にすらラーバンカは怒りを感じていた。
だが、魔女は頭だけとなっても、例え死んでも恨みを忘れない。
「……貴様は容易には殺さん……! 武器を持てぬ貴様は、絶望の中で死ぬのがお似合いだ! 王の世界を見る私の夢を奪ったのだ……貴様の希望も道連れだ! ……アハハハ……アハハハハハハハハ!!!」
膝をつくラーバンカに魔女の頭が砂となる一瞬で、闇がこちらに向かって広がった。
抵抗する力もない。
体の感覚が溶けるように消え──。
全ての音が一瞬だけ消えて、風の音が響く。
闇が、勇者を呑み込んだ。
* * * * *
「そうして元の世界で目が覚めた勇者ラーバンカはその時の悔しさを糧に来るべき戦いに備え、自らの居た世界を……ってどうしたんですか!?」
「ううっ……いや、だって……悲しすぎる話でさ……しかも日本は魔法とか使えるようになった挙げ句東京が……続きは?」
盛大に泣いている未来に面食らいながらもメルは続きを話す。
「そ、それでですね。元の世界は魔女によってかなり荒廃してしまっていたのですが、死ぬ間際まで勇者ラーバンカが全力で、今の世界を作ったっていうのが、このおとぎ話の締めなんですが……」
「ですが?」
「その時に、勇者は故郷が無くなったのは自分のせいだとよく話していたそうなんです。『俺のかがくがもっと早く実っていれば日本も無くならなかったのに』って。かがくっていうのが、なんなのかはわかりませんが、勇者があったらもっと早く魔女を討ち取れると言ったのですからかなり凄い力ではないかと今では言われて……」
その瞬間から未来には何も聞こえていなかった。
科学。
間違いない、かがくとは科学だ。さっきまでは魔法とかいろいろ馴染みの無いものが出てきたせいでどこか他人事のように聞いていた未来はその話がおとぎ話であることを失念していた。
おとぎ話なんていうのははっきりしているところはそのままでも不明なところは歪んで伝えられて当然なものだ。
この世界に魔法があるのかどうかは知らない。が、わかるはずの魔女についてはなんなのか、全く触れていないのだ。
「未知の敵……? そいつのせいで……? なあ! その勇者の武器はどこに!?」
「え? あ、裏手に……ち、ちょっと!」
未来はすぐに外に飛び出した。
見たくない、だが、確認しなくてはならない。未来は葛藤をしたまま走った。そして村の端にひっそりとそれはあった。
石の台に、金属の棒がささり、プラスチックで作られた平らなプレートが付けられている。細かく数字が書き込まれ、一番上には大きな文字で、「H24年度新宿バス案内」と書かれていたそれはかつて未来があちこちで見かけていたもの。そしてこれなら日本では見た目は武器ではないし置いておくだけなら捕まるはずがない。例え中をどういじってあったとしても。
「八時二十五分……」
『バス停』がそこにあった。
愕然としながら時刻表に目を移していた未来はあるサインを見て、最早立っているのも辛くなっていた。書かれていたものがなんなのかを理解したが故だった。
汚い文字で、『神原幸治科学武器No.3』と。
「勇者……ジーコ・ラーバンカ……」
違和感がゆっくりと氷解していくと同時に頬に涙が伝った。
ジーコ・ラーバンカ。
カンバーラ・コージ。
かんばら・こうじ
神原 幸治
その名はあまりテレビ等を見ない未来でさえ知っている。
世界に貢献した者に与えられる賞、ノーベレル賞を過去最年少で受けた若き天才化学者。神原幸治しか思い付かなかった。いや、同姓同名の可能性はあったかも知れないが、時刻表の「H24」の表記とサインでほぼ間違いなく本人だと確信していた。
おとぎ話で出てきた他の三人は誰かはわからないが、少なくとも神原幸治は自分の科学力を集め、魔法という未知の力を使う魔女と言われている「何か」と戦い、そして、その結果「何か」を危惧していたらしい。
また、未来は別の事も思い至っていた。
彼は確かに自分と同じ時代に生きていた。
そしてその神原が七億八千年前の日本にいた勇者だとして、その神原が日本が滅んだと言ったなら。
「あの地震は……生き残ったのは……」
自分のいた時代、幸せに生きていたあの年に、魔女と言われている「何か」によって日本は滅んだのかもしれないと。理由はわからずとも別の時代にとばされた自分はあの年に生き残った最後の日本人なのかもしれないと。
立ち尽くす未来に、メルもフーリィも近づくことはできなかった。
初めましての人もお久しぶりの人もおはこんばんちは。ルパソ酸性と申します。
前回前々回とギャグ色があったのであえて真面目っぽく書いて逆にカオスにしようと目論んだ次第です。
いや、それでも私らしさは失われていませんよ?
バス停を武器にしようと思ったのは単に剣とか出すよりいいかなと思ったからですね。たとえハイテクな物だとしても見た目は面白いでしょうww
使うもの使わないも次の方次第ですのでワクワクして待ちましょう。
それでは。
ルパソ酸性