未来の日記
リレー小説最終話です。
担当 :靉靆
代表作:枯れゆく時に思ふこととは(http://ncode.syosetu.com/n6322bi/)
壮絶な戦いが繰り広げられた世界はその後、穏やかな静寂を取り戻しています。邪悪さを感じさせる嫌な気配も消え、強大な力が残した影響も少しずつ過去のものへとなってきています。
私は特に何をしたとか、何ができたと言う訳ではないですが、彼等の戦いは忘れません。それが私の役目ですから……。
そういえば、今日はこれから少し良いことが起こります。
あのアルがエドの村に帰ってくるのです。自らの力を役立てるために放浪の旅に出たのが数年前だったでしょうか。『ついでに修行もできて一石二鳥だ』と、笑っていたアルが戻ってくるのが非常に楽しみです。
でも、アルは私の事に気づいてくれるでしょうか?
アルの旅と言えば、他の方々はどうしているのでしょうか……。
メルトゥースさんは曲芸師として世界を回ると言って誰よりも先に飛び出して行きました。今では多くの仲間ができて、世界で一番有名な一座になっているようです。
シンザックさんは自分に相応しい女性を探すのだと村を出ていきました。音沙汰も便りもないのでどうなったのかは誰もわからないそうです。
サミールさんとパークさんは何故か意気投合をしたようで酒を飲みに行くと言って出て行ったきり帰ってきません。実は別れが辛くて二人で嘘をついて旅だったのでしょうか?
カーリンさんとフィガットさんは同じ村の出身だったらしく、里帰りをすると言ってました。今度村に遊びにおいでと言っていましたけど遠いのでまだ行けてません。
サンスさんは何をどうやったのかお金持ちになったようです。『大怪我までしたんだから今回の戦いからも何かしら恩恵を受けないとな』と笑っていましたが、本当にタダでは転ばない人なのだと思いました。
キートさんは死んでしまったのかと思っていましたが、『神原幸治科学武器NO.EX』が『神原幸治科学武器No.10』や、他の『神原幸治科学武器』を複合的に操作してなんとか別次元から救出したようです。救出されたキートさんは自らの事を全て語ると、翌日には姿を消していました。元気だと良いなと思います。
よくよく考えたらいなくなった人多すぎませんか……。消息不明な人ばかりな気がしてきました。たまにで良いので何か連絡をくれればなと思います。
少し話が逸れてしまいましたが、アルが帰ってくる事を教えてくれたのはアイリーンでした。
アイリーンは戦いの後、神の力を失ってしまいました。それなのに『神原幸治科学武器No.EX』の指示で、全ての『神原幸治科学武器』を厳重に封印する旅に出ていました。何故アイリーンが行くことになるのかについては、神の力を失ってもメンバーの中で屈指の実力を持ったアイリーンに頼むしかないと『神原幸治科学武器No.EX』が言っていました。アイリーンが旅に出たのは仕方のないことだったのかもしれません。
そんなアイリーンが帰って来たのがほんの数日前でした。知らせを聞いたシーカとフィーはアイリーンの帰還とアルの帰還に関する知らせをとても喜んでいました。
村のトラブルを解決するために日夜走り回っていたシーカと、食料の為に狩りを続けていたフィーが『自分から知らせないなんて、アルにお仕置きするしかないわね』と話していました。きっと照れ隠しなんだろうと思います。二人とも隠していても、ずっと寂しそうでしたから。
セルス。あなたもこの暖かい世界を生きられたらよかったのに……。これから私が――
===================
「帰ったぞー!」
アルの大きな声が響く。
「うるさーい!」
続いてシーカの怒る声が響く。どちらも多きな声なので人によってはどちらも五月蠅いだろうと答えるのかもしれない。
長い旅から帰って来たアルタルに待ち受けていたのは、シーカとフィーからのとても長い説教だったさすがのアルタルも悪いと思ったのか、地面に大人しく正座をして怒られている。
「その辺にしてやってはどうかな?」
やや呆れたと言わんばかりの表情を浮かべたアイリーンが、シーカとフィーの説教を諌めた。
「やあ、アル。どうやら無事に戻ったようだね」
「あぁ、ありが……ん? アイリーンなのか」
アルタルはアイリーンの様子に違和感を覚えて聞き返した。
それもそのはずである。アルタルが最後にアイリーンと接触したのは、アイリーンがまだ神だった時である。しかし、現在のアイリーンは神としての力は失っている。
アルタルは、アイリーンから神の力の消失の事実を聞いた。
「なるほど、それならばアイリーンに勝てるか――」
「ほう?」
アルタルにその先は言わせまいとアイリーンは魔力を込める。
「やめときなさいよ、アル。神の力を失ってても実力は私たちより上よ。残念ながらね……」
シーカの説明の通りだと言うことを肌で感じたアルタルは、冷や汗を拭った。
「ねぇ、アル」
「なんだ? フィー」
「本当に修行してきたの?」
フィーは少し俯き気味にアルタルへと質問を投げかけた。まるで修行が無意味だったかのような結果が出てきた時にこの追い打ちである。しかし、それに対してアルタルはしっかりと答えた。
「ちゃんとしてきたぞ。だが、アイリーンにだけは勝てん事がわかった」
「じゃぁ、それは?」
アルタルはフィーが自分の足元を指差しているのに気が付き、その指差す先を視線で追った。
「なん……だと……?」
アルタルは驚愕した。
年端も行かない女の子がいつの間にか背後からアルタルの服を掴んでいたのだ。
アルタルは気配もなく後ろから近付き、己の服を掴んだ女の子をじっと観察した。
女の子を見て真っ先に目を引いたのは純白に輝く長い髪だった。不浄を寄せ付けぬほどに美しく輝く髪は腰の辺りまで伸びている。やや金色がかった瞳は大きく、髪との相乗効果で神秘的な雰囲気を感じさせる。肌も女の子らしく肌理細やかであり、髪同様透き通るような白さを保っていた。
遠くから見ても目を引くであろう容姿の少女によって見事に背後を取られたアルタルは少しばかり自信をなくした。
次に目に入ったのは、頭の上から生えている猫の耳である。
「……は? 猫の……耳……?」
アルタルは思わず声を漏らした。
「お帰りなさい、アル。この姿では初めましてですね」
「アル、あんたこの子が誰かわからないの?」
シーカが女の子をアルの方から引き寄せると、アルタルに向きなおらせた。その様子を見ていたアルタルは、姿形は違えど確かに特徴が残っているとある仲間を思い出した。
「ちょっと待て。何故アムールが人になっている」
アルタルは女の子……アムールとシーカを交互に見るしかないのであった。
===================
「と、言う訳で私の神としての力もメルや未来に宿っていた神の力も今はアムールに宿っているのさ」
アイリーンはアルタルにアムールや自分の事に関する事情と経緯を一通り説明し終えると、お茶を啜った。
アイリーンが言うには、アムールは新しい時代の神として生まれてきた猫だったとの事である。かつて神から人になりたいと願った三人の神により世界に産み落とされ、代わりにその後の世界を見守るために。
だからこそ本来であれば、アムールが生まれると同時にすべての神の力がアムールに集約されるずだった。
しかし、魔の者との戦いが行われていた当時は生まれたばかりだった事や魔の者の力の影響で神の力は三人の憑代、アイリーンの場合は本人だが、が保持していた。
後に魔の者が倒され、その影響が世界から消えるに従ってアムールに神の力が宿った。
結果として、三人の神に近い姿……人の形へと変化したのだと言う。
「そういうことだったのか……」
アルタルは窓から覗く青空を見上げてそう言った。
===================
今日は何が起こったのか全くわからなかったあの日を久々に思い出した。今にして思えばあれが様々な事が起こり、巻き込まれ、目まぐるしく過ぎて行った数年の始まりだった。森での散歩が小説のような日々に変わった最初の日。
あれからの数年はまさに事実は小説よりも奇なりと言えると思う。
あの日々で知り合った人々は今でも元気なのだろうか。いや、少し言い回しが違うかな? その後も元気に暮らせたのだろうかと思う。うん。こっちの方が正しい気がする。
彼等との別れは辛かったけれど、これからを自分の為に生きていくにはお互いに仕方のないことだったと思う。
目的を持ってボク達から離れて行った人も居れば、いつの間にかいなくなってしまった人もいる。今となっては何故あんなに協力できたのだろうかと思う程、まとまりのないメンバーだったなと思う。それこそ、もしまたあんな戦いの日々が始まったらまた一緒に戦えるのだろうかと思う程に。
そう思うと長いようで短かった日々がとても奇跡的だったんだなと感じる。
そんな日々が続いたからか、戦いの後の決断にはとても時間がかかった。
『神原幸治科学武器No.EX』が、ボクが望めばもと居た時代に帰してくれると言った時は本当に驚いた。
そんな中でその言葉に一番に反応したのはシーカだったっけ……。彼女は『元居た世界に戻ったら過去の大きな戦いに未来が巻き込まれちゃうじゃない』と言っていた。確かにその通りだったが、『神原幸治科学武器No.EX』が『この世界とは違う分岐を進む平和な世界へ送る事もできる』と言った。
その言葉がボクの心を大きく揺さぶった。皆のいる世界で生き続けようと思っていた自分もいるし、元の世界に帰りたい自分も確かにいた。そんな中での一言だったから。
それからボクは悩みに悩んだ。そして――
===================
未来は小さなノート……日記帳に文字を綴っていた。久々に思い出した日々の事を思うと居ても立ってもいられず、思いを書き綴らずにはいられなくなったからである。
「こら、フーリィ!」
しかし、フーリィにじゃれつかれて手を止めざるを得なくなった。
フーリィは人へ変身する力は残ってはいるものの、今ではほとんど使っていない。フーリィの様子から見るに、空気が違うせいかとても疲れるらしい。
その代り、ちょこまかと未来に悪戯をしては元気に逃げ回っている。
フーリィは本来飼育が禁止されているエゾモモンガだが、そこはとても賢いフーリィである。誰にも見つからずに未来の所に遊びに来てはじゃれついている。
「っと、こんなことしてる場合じゃなかった!」
フーリィを追いかけまわしていた未来は、ふと時計が目に入るとあわてて出かける準備をした。未来が着替え終わるのを黙って見ていたフーリィは、終わるのを見計らいいつもの指定席……未来の胸ポケットへと飛び込んだ。
「よし、フーリィも準備はばっちりだね」
未来がフーリィへと声をかけると、フーリィは片手を上げて出発の合図をする。
「今日は街まで出るから外で飛び回ったらだめだからね? 車も危ないし」
未来の言葉を聞いたフーリィは少しがっかりしつつも、こくこくと頷いて承諾をしている。
「未来さーん!」
そうこうしている内に、未来の部屋の前から未来を呼ぶ女の子の声が聞こえた。
「今いくよ!」
未来は返事をしてすぐに外へ飛び出した。
「未来さん、今日はどちらへ連れて行ってくれるんですか?」
「まだ秘密だよ。でもね、またメルの知らない場所へ連れてってあげる」
「ジィー!」
「フーリィも楽しみなんですね」
メルは未来の胸ポケットから顔を出したフーリィの頭をちょんと撫でると、未来の横に並んでゆっくりと歩き出した。
やっとの完結です。
大変お待たせしました。
皆さんの納得いくような終わりになっているかどうかはわかりませんが、私にとっては満足いく終わりに仕上がったと思いたいです。
長々とお付き合いくださった関係者各位、企画を見守ってくださった読者の皆様。
本当にありがとうございました。




