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リレー小説:重なる世界の物語  作者: リレー小説ALLプロジェクトメンバー Ver.1.3
30/31

vs魔の王 戦いの果てには

リレー小説第30話です。


担当 :唄種詩人

代表作:終極限界のクレアツィオーネ(http://ncode.syosetu.com/n3878bj/)

『我が主よ。奴が片腕を(しっ)している今が好機。アンフィスバエナの力を()()解放するのじゃ』


 久々の出番に息巻くキュアノエイデス・アンフィスバエナの歓喜の声に紛れて、やや(たかぶ)っている椿の声が独特な空気を持って(りん)と未来の耳に届く。


 セルスの身体を持つ魔の王は、太刀“椿”と西洋剣“キュアノエイデス・アンフィスバエナ”を帯びた未来を警戒しているのか、あわよくば片腕の再生を膠着(こうちゃく)状態で待とうとしているのか、隙を見せないようにしつつも積極的に動こうとする素振りは見せない。


 未来はアンフィスバエナの鞘と柄に手を掛けていつでも抜けるようにしながら、わずかな時間を利用して話しかけてきた椿に、


「アレにはたくさんの魔力を使うって話じゃなかった……?」


 小声でそう囁く。


『魔力だけじゃなく、使い手であるお主の力量にも解放度は左右されるがの。後者に至っては今のお主なら限界突破の119%も可能じゃし、前者はことここに至っては話は別じゃ。理由はわからぬが――おそらく魔の者どもが自由に使えるようにじゃろうが、この場にはアンフィスバエナを解放しても余りある魔力が充満しておる。この量と質であれば、(わらわ)の力を同じく全て解放しても(なお)お主には負荷なく戦えるじゃろう。アンフィスバエナは()()を持っておるからの。それの解放を許可するだけで、以前の(わらわ)のような面倒な呪文は必要ないから心配は無用じゃ』

「本体……?」

『両刃の長剣という姿は、謂わば仮の姿。あやつを操る剣士を必要とする。じゃが、本体は全く異なる、自らの意思によって敵を討つ自律砲台と成りうるのじゃ。どんな姿かは……ふふ、見ればわかるじゃろ』


 未来はこの期に及んで何処か悪戯っぽく笑う椿から、手元のアンフィスバエナに視線を落とす。その時未来の目には、薄蒼い光の膜に見える金属光沢を放つ銀色の鞘――そこにあしらわれた深い蒼色の宝石がキラリと光ったように見えた。


「キュアノエイデス・アンフィスバエナ。力を全部解放して」


 未来がそう(つぶや)くとその瞬間、アンフィスバエナの様子が――――その刀身に纏っていた空気が豹変した。


 シャリンッとひとりでに鞘から抜けたアンフィスバエナが中空でヒュッと一回転して落下し、カツンッと小気味いい音を響かせて床に突き立った。


――誇り高い蒼き鋼鉄の竜キュアノエイデス・アンフィスバエナ――


「ッ!?」


 未来はいつも頭の中で聞いていたものとはまるで違う、立体音響のように不思議な余韻を残してぶるぶると震えるアンフィスバエナの声に驚きを隠せなかった。いや、驚いたのはそれだけではない。


 その声は――――空気を震わせた。


 セルスの姿を借りた魔の王はその一瞬、目の前に立つ少年――未来の気が逸れたのを敏感に感じ取り、先手を取ろうと筋肉にぐっと力を込めた。しかしその次の瞬間には、未来とは別の存在感を感知し、攻撃行動を咄嗟(とっさ)躊躇(ためら)った。


――超次元空間間移送ハイパー・ディメンション・トランスファー――


 ミシ、ミシミシ……。


 再び空気中に音として放たれたアンフィスバエナの声に重なるように、まるで空間が軋むような音が響き渡る。


「な、何、この音……」


 未来のやっていること(正確にはアンフィスバエナのやっていることで、未来もできているわけではないのだが)を知らないシーカから、緊張の色が混じった呟きが漏れる。


――原子変換実体構成アトミック・コンバーション――


 アンフィスバエナの声が楕円のようなドーム状の閉ざされた空間の中に響き渡る。そして未来の頭上で首をもたげるような体勢で現れた()()は、まさにドラゴンと形容すべきものだった。


――これが僕の本当の姿だ――


 しかし、その姿は同じくドラゴンを元にしているアイリーンとは形の上でも大きさの上でも一線を画していて、その存在自体もやはりドラゴンとは別の物だった。


(わらわ)にはようわからぬ感覚じゃがな。神原(かんばら)幸治(こうじ)はこれを美しいと言っておったぞ』

「うん、ちょっとわかるかも……」


 身の丈五メートルはあるアンフィスバエナの本体はドラゴンのようなフォルムの()()だった。


 それもそのはず、魔剣キュアノエイデス・アンフィスバエナはただ魔雷を操る魔剣ではない。元々は魔剣と竜を模した本体から成る古代兵器――史実外遺物(オーパーツ)だったものを“稀代の天才”神原幸治が当時最先端の魔法じみた科学を総動員して現代改造(アップグレード)を施したのだ。


 とは言え、その天才を(もっ)てしてもアンフィスバエナの核心機構に手を加えることはできなかった。できたのは強力な兵装を付属させた特殊装甲で武装させることと、本来本体の召喚に必要な様々な手続きをショートカットするために(あらかじ)め召喚しておいた本体を魔剣と分離し、本体だけを異次元に設置した格納庫内で保管することで単動作(ワンアクション)の疑似召喚を可能にしたことぐらいだった。


 太く見るからに頑丈そうな両足を地面に衝いて立つアンフィスバエナは、左右の腕の手首に装着された錨型の(アンカー)ブレードとバルカン砲を魔の王に向けて威嚇するようにキシキシと顎を震わせる。両手両足のそれぞれ4本ずつの指先には蒼い光沢を放つ鋭い爪が並んでいた。


 さらに両肩と腰に付けられた魔雷砲のガンポッド4基もそれぞれが独立して魔の王に狙いを定め、無数の細長い平行四辺形の金属刃が重ねられた装甲で守られた翼は動作確認のためか滑らかに開閉した。


 そして尻尾の先にはもうひとつの頭が装着されていて、どちらが頭でどちらが尻尾なのかわからない造形になっていた。


 無論、未来が『美しい』と思ったのは、その造形ではない。全体を覆う装甲板の透き通るような銀色とそれを覆うアンフィスバエナの刀身と同じ蒼い光の膜、その色彩と透き通る金属光沢のコントラストに清廉な神々しさ――それに似た美しさを感じたのだ。


 その実体が神云々(うんぬん)とはかけ離れた科学的な産物であることを考えれば、やはりよくわからない感覚だが。


「そンナ玩具(おもチャ)デ私を止める気カ? 強靭な肉体ヲ持たナい、進化途上の下等生命体風情が」


――強靭な肉体を進化の強者と考えてるような原始的な思考回路を持つ生物に、玩具呼ばわりされる筋合いはないよ――


 互いに挑発のような言葉を交わした魔の王とアンフィスバエナのちょうど中央でパチッと火花が散った。


『アンフィスバエナ、お主の全力を()ってそやつを(ほふ)れ!』


――任せて――


 椿の声もちゃんと聞こえているらしいアンフィスバエナはそう言って、機械とは思えない滑らかな駆動で12砲身ガトリング式30mmバルカン砲を魔の王に向けた。


 如何(いか)に人に似ていたとしても擬似的な人格でしかない椿とアンフィスバエナは、(たと)え相手が味方(セルス)の身体を乗っ取っていても未来たちほど躊躇うことはない。むしろ先程球状から人型に変化したことによって、味方の姿を模してこちらの戦意を削ぐ作戦である、と極めて合理的で機械的な思考判断で動いていた。


 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ――――ッ!!!


 アンフィスバエナの左腕バルカン砲が火を噴き、毎分9000発もの無数の劣化ウラン弾が魔の王に向かって放たれた。突然頭上で轟いた落雷のような撃音に、未来は思わず耳を押さえてその場から飛び退く。


 着弾地点付近は劣化ウラン弾の飛び散った微細粉の燃焼で発生する炎と煙で魔の王の輪郭すら(ほとん)ど見えなくなり、着弾音も発砲音に掻き消されてしまっていた。


『我が主よ、気を抜くでない』

「いや、これは気を抜くとかじゃ……!」


 椿の凛とした声すらも殆ど聞こえないぐらいのけたたましさにビリビリと空気が震え、アンフィスバエナの目が蛍光灯や懐中電灯のような白色の光を放った。途端、アンフィスバエナの左腕も左右に揺れ始め、同時にバルカン砲の射撃は掃射に変わる。


――魔雷砲(ケラヴノス)放射――


 再びアンフィスバエナの立体音響の声が響き、4基の魔雷砲の砲口から蒼白い光とバチバチと唸るスパークノイズが漏れ始め、同時にギュィィィィと駆動の余韻を残して射撃を中止したバルカン砲は、わずかに赤熱した砲身束の回転が緩やかに減速していく。


 そして、ガチンッと音がしてバルカン砲の回転が止まった瞬間――――バチバチバチッ……(ゴウ)ッ!


 魔雷砲4基全てから蒼白い色のスパークが瞬き、次の瞬間にさっきまで魔の王の輪郭がうっすらと見えていた場所が轟音と共に蒼白く光る爆炎に包まれた。


「くっ……!」


 咄嗟(とっさ)目映(まばゆ)い光からから目を守りつつも、未来は爆風に押し負けないように何とか踏み止まる。


 そして、爆風が収まると、


「やったか……!?」


 何処からかアルタルの声が未来の耳に届く。具体的にはアルタルは後ろにいたはずだが、閉じられた空間に音が反響しているのか急に大きな音を聞いたせいで耳が変になっているのか、未来にはそれがどの方向から聞こえてくるのか判別できなかった。


 しかし――


「この程度の攻撃で私をどうにかできると思ったのかい?」


 ――唐突に聞こえたその声に、未来は戦慄(せんりつ)し、バッと顔を上げる。


「セルス!?」


 そこには、残っている左腕を未来たちのいる方に突き出し、結界のようなもので全ての銃弾と魔雷砲の猛撃に耐え切った魔の王が当たり前のように佇んでいた。


 その結界はセルスが使っていたものだ。


『どうやらあの身体は確かにセルス=クライリストのモノに間違いなさそうじゃな。身体だけでなく、精神まで魔の王の邪気に当てられたか。あれで賢者とは笑わせるの』

暢気(のんき)なこと言ってる場合じゃないよ、椿! セルスがっ……」

『止せ、我が主様よ。今のあやつはセルスではない。侵略者の王、相容れぬ存在、討ち滅ぼさねばならぬ人類の仇敵じゃ。何があったのかは知らぬが、一度敵に堕ちた時点でその責任は取ってもらうしか他にない。そもそもここにいるものは命を賭してもこの世界を守ると決めているはずじゃからの。躊躇いも迷いも敵意に変えよ。腹を(くく)るのじゃ、我が主――白河未来よ』


 椿の(さと)すような声に、未来はごくりと喉を鳴らした。


「次ハこちラカら行カセて貰ウぞ……」


 また元の喋り方に戻った魔の王の周囲に、黒い(もや)を固めたような蠢く球体が4つ浮かび上がる。


掴め、魔蝕の黒き手シャミル・キリエ・シャムエルエ


 ぞわり――と、未来は全身を冷たい手で撫でられたような悪寒が走るのを感じた。


(かわ)せ、我が主!』


 椿の警告で未来が咄嗟(とっさ)に横に跳んだ瞬間、その空間を()()が物凄い速度で通過していった。


「い、今の何……!?」

『わからんが、触れるなっ!』


 椿がそう叫んだ瞬間、未来はその視界に、信じられないものを捉えた。さっきまで未来の後ろに立っていたキュアノエイデス・アンフィスバエナ――――そのバルカン砲が左手ごと消失していたのだ。


「皆、それに触らないでッ!」

『主、次じゃッ!』


 皆の方を確認しようと振り返った直後、また余裕のない椿の警告が飛んで魔の王に向き直る。その瞬間に目の前に迫った黒い何かを咄嗟に頭を低くして避け、同時に鞘から引き抜いた椿で頭上を弧月状に斬り抜いた。


 ブシッ、と生々しい噴出音が短く響き、もやもやと(うごめ)くその黒い塊が風で散る灰塵のように崩れて消えた。


 かなり危険な賭けだったが、椿の刀身も無事なままだ。


「中に実体があるよ、皆!」

「それがわかればこっちのものよッ」

「おうよ!」


 シーカとアルタルの応声に、アジュラのページが(めく)られるような音とアイギナのメイスが振るわれる風切り音、そしてゴッという打撃音が続く。


『アンフィスバエナ!』


――わかってるよっ……! 轟雷砲(アストゥラピ)放射――

 

 ぐぐぐっ、と持ち上がったアンフィスバエナの尻尾の先の頭が口を開ける。


 パチパチッ、バヂィッ!


 上顎と下顎の間で稲妻のようにスパークが何度も行き来し、一瞬遅れて目映(まばゆ)い光が(またた)いたかと思うと赤紫色の光球が出現した。


 ドンッ!


 次の瞬間、巨大な光の線がその光球から放たれ、魔の王の身体を呑み込んだ。


――第2段階(セカンドフェイズ)吼魔砲(アフティダ)放射――


 同じような青紫色の光球がアンフィスバエナの咥内(こうない)に出現し、2本目の光線が追撃とばかりに魔の王を襲う。が、魔の王は光線を受け切れないと判断したのか、横っ飛びに飛び出してきた。


吼魔・轟雷砲アフティダ・アストゥラピは通用しそうじゃの。(ぬし)よ、(わらわ)も解き放て。アンフィスバエナは(わらわ)より大雑把じゃからの。とてもあやつだけに任せてはおけぬわ』

「う、うんっ」


 未来は科学武器NoEXが妖刀“椿(つばき)”と魔剣“キュアノエイデス・アンフィスバエナ”を含めた全科学武器のリミッターを外して以降、新たに使えるようになった椿の第3形態――紅蓮色の大太刀、妖刀“誘い椿”を解放した。


 これで単純な能力だけでも刃の長さ1.3倍に重さ1.2倍。そして、重さが大きくなれば比例して当然威力も上がる。


「たかガ子供に何ガでキル!」

「このために研鑽を積んできたっ!」


 魔の王に肉薄した未来は、中段に構えて左に傾けていた椿を袈裟斬りで振るう。


 未だ右腕が再生していない魔の王はそれを後ろに飛んで(かわ)すが、未来はさらに踏み込み、右下に振り下ろしていた椿を最低限の動きで内側に返すと、逆袈裟斬りで左上に斬り抜く。


 手応えは――――重い。


「グ……っ」


 胸を横切って斜めに引かれた鋭い傷口からブシュッと赤黒い液体が噴き出し、魔の王の身体が一瞬よろめいた。


(あるじ)!』

「わかってるっ! 誘い椿・双極紅蓮(そうきょくぐれん)!」


 椿の刀身から紅白二色のオーラのようなものが噴き出し、瞬く間に未来の身体の周りを螺旋状に回り始める。


紅蓮凍土(ぐれんとうど)!」


 白いオーラの先端が瞬く間に伸び、咄嗟に顔を庇った魔の王の左腕に絡み付いた――――ピシピシ……ッ。


 魔の王の左腕の表面が霜のような氷に覆われ、それが二の腕までを凍り付かせた。そして極寒の限度を軽く凌駕する超低温の酷寒が凍り付いた腕の表皮を引き裂き、滲み出てきた魔の王の血すらも()てつかせ、表面を赤黒く染めてゆく。


紅蓮焦土(ぐれんしょうど)!」


 赤い方のオーラが同じように伸び、氷の塊と化した魔の王の左腕を覆い――


 カッ、シャーン……!


 ――砕いた。


「……ッ!?」


 両腕を失った魔の王の表情が歪む。


『腕を上げたの、我が(ぬし)よ』

「次は足だッ!」


 魔の王の腕を粉砕した紅白のオーラが消滅すると、ほぼ同時に中段で刃を横に寝かせるように未来は刺突の構えを取る。


「それはどうかな、未来くん」


 セルスの声――――慣れ親しんだ仲間の声に思わず気を取られ、未来の突き出そうとした手が躊躇(ちゅうちょ)で止まる。


導け、魔蝕の黒き腕サムル・キリエ・サマエルエ


 その隙を突いて何事か唱えた魔の王の両肩から、魔蝕の黒き手(キリエ・シャムエルエ)と似たような黒い靄で形作られた大きな腕が一対出現した。形すら人の物ではない。六本指で、指先は鋭く尖っていた。


「まずこの腕を落としてからにしてもらおうかな。勿論(もちろん)そう上手くはいかせないけどね」

「セルスの声でっ、セルスの言葉でッ! ふざけたことを言うな!」

「おやおや、酷いな。君とは案外仲良くできたと思ってたのは私の勘違いだったみたいだね」

「お前はセルスじゃない!」

「いいや、私は彼で、()()で、()自身だよ!」

「黙れ!」

『主よ、落ち着け!』


 椿の声も耳には届かず、未来は魔の王に向かって上段から斬りかかる。


「私ヲ舐めルナよ、小僧!」


 魔の王はそう叫ぶと、左肩の魔蝕の黒き腕(キリエ・サマエルエ)で振り下ろされた椿を掴んで止め、もう一方の右肩の腕を振り上げた。


(わらわ)を手放して逃げよ!』


 切迫した声色の椿の声を無視して、未来は咄嗟(とっさ)()()――魔の王の懐に飛び込んだ。


――轟雷砲(アストゥラピ)放射!――


 未来が魔の王の鳩尾(みぞおち)に肘を突き出すようにタックルした瞬間、魔の王の右肩の魔蝕の黒き腕(キリエ・サマエルエ)が、未来の背後から撃ち放たれた赤紫色の光線に貫かれて霧散した。


塞げ、魔蝕の黒き翼ラセル・キリエ・ラシエルエ!」


 魔の王の背からコウモリのような翼が開き、ガシャガシャと騒がしく羽搏(はばた)いて魔の王は後方で受け身を取る。


 その翼の出現と同時に魔蝕の黒き腕(キリエ・サマエルエ)がひとりでに霧散し、椿を取り戻した未来は一歩また一歩と魔の王から距離を取りつつ体勢を立て直す。


 その時、ずるりと生々しい音がして、魔の王の失われていた右腕が再生した。


「3分程度カ。やはリ本調子とイウ訳にハいカナさそうだナ」


 魔の王は確認するように腕を動かしてみながらそう(つぶや)いた。


『我が主よ、いけるかの?』

「……勿論。セルスだからって躊躇ってたら殺られるのはこっち――人類側なんだ。僕がやれるのは、今ここで王を倒すこと。それ以外にはないんだから」

『その意気じゃ』


 未来は再び椿を構え直すと、魔の王との距離を詰めるべく走る。


穿て、魔蝕の黒き爪ウルア・キリエ・ウリエルエ!」


 魔の王がそう唱えた途端にその背中の翼が再び霧散し、生えたばかりの右手に漆黒の爪付き手甲が現れた。刃渡り30センチはあるその凶々しいフォルムに、未来は思わずゾッとする。


 そして未来と魔の王が至近距離で対峙した瞬間、シーカの操るアジュラのページが縦3列に並んで移動してきて、半球を形作るように2人の周りをぐるぐると巡り始める。


 その総数――ジャスト100枚。


 未来はシーカの意図を考えようと思ったものの、魔の王がその刹那の隙を狙って右腕を振り上げたため、すぐに思考を切り換えて目の前の魔の王に集中する。


 ギィンッ!


 椿と魔蝕の黒き爪(キリエ・ウリエルエ)が打ち合い、火花が散る。


「思えば君は、一度も私に勝てたことがなかったね、未来くん」


 セルスの声、セルスのような台詞一つ一つに未来の心臓が――心が揺れる。


「っ……誘い椿・八重(やえ)剣樹(けんじゅ)!」


 未来の手の中で、椿の刀身がしゃりしゃりと不気味な音を奏でながら形を歪ませていく。そして、次の瞬間椿の(つば)から独鈷杵(どっこしょ)の切っ先のようなものが四本生え出た。そして硬い金属であるにも拘わらず蛇のようにうねったそれはさらにバキバキと異音を発して伸びていき――――ドスドスドスッ!


「グっ……!」


 魔の王の右腕の爪を掻い潜り、4本の鋭い金属鎗の尖端が魔の王の左胸を貫いた。その嫌な感覚が椿を通して伝わってくる。


 シャリンと鈴の音のような音が響き、魔の王の心臓を貫いた四本の牙が氷のように細かい破片に砕けて消滅した。そして支えを失った魔の王の身体がぐらりと傾いた――――()()()()()()()


 何処かで、ざくりと呆気ない音が聞こえた。


 未来は左脇腹に冷たい何かが差し込まれるような感覚を覚えた。冷たい感覚の直後には火傷でもしそうなくらいに熱くなり、その後でまた冷たさが繰り返されるような不思議な――不自然な感覚。


 そして、()()が未来を襲う。


主様(ぬしさま)!』


 未来の脇腹に、魔の王の魔蝕の黒き爪(キリエ・ウリエルエ)が深々と突き刺さっていた。


「あ……」


 一瞬倒れそうな素振りを見せて未来がわずかに椿を引いた瞬間、そのわずかな隙を狙って手傷を負わせにきたのだ。


 魔の王の左胸の傷口がグジュグジュと生々しい音を立てて収束し、逆に未来の脇腹の傷は魔の王の爪に抉られ、ぼたぼたと血をこぼしながら苦痛を響かせる。


「未来さん!」

「未来!」


 メルとアルタルの声が未来の背後から響いた。そして同時にシーカの舌打ちがそれに続き、周囲を(めぐ)るアジュラが1ページ移動してくる。


 それは魔の王と未来の目の前で止まると――――ボッ!


 突然燃え出し、閃光を瞬かせた。


 視界が白転した瞬間、未来の脇腹から体内に侵入していた魔蝕の黒き爪(キリエ・ウリエルエ)がずるっと引き抜かれ、背後から未来に歩み寄ったアルタルが未来を強制的に下がらせる。


「メル、未来を頼んだ。出るぞ、シーカ!」

「言われなくってもわかってるわよ!」


 アルタルが必勝ハチマキこと『神原幸治武器No.2』を起動し、全身の筋力を高めると、『勇者一行の遺物』アイギナのメイスこと木製バットを振り(かざ)した。


 無論、この時アルタルには「未来と同じく視界が塞がれている今なら、一方的にボコれる」という理由があって短絡的な攻撃に移ったわけだが、しかしアルタルは焦りのあまり忘れていた。


 セルスは元々()()だと言うことを。


 しかし、無理もないと言うものだ。視覚に頼らず周囲の状況を精密に把握する千里の魔眼を有するセルスの普段の挙動は普通に視覚のある者のそれとほぼ同じなのだから。


 ガンッ!


 アルタルの握るメイスの一撃が、当たり前のような自然な動きで魔蝕の黒き爪(キリエ・ウリエルエ)に防がれる。


 その時点で忘れていた事実を即座に思い出したアルタルはアイギナのメイスに溜めておいた重さの一部を解放する。


 一部、とは言ってもその重量は――


「ぐッ……」


 ――10トン。

 アルタルがこの決戦に備えて、長い間地面の――つまり地球の重さを吸い取っていった結果その重量プールはおよそ8000トンに及ぶ。地球の重力にはそれほど影響を与えないが、その全てを一度に解放したら物理的な破壊力は計り知れない。

 ゴキリと嫌な音を立てて魔の王の抵抗がなくなり、その右腕がぶらりと下がる。そして、アイギナのメイスが魔の王の身体に触れる直前、ギリギリのところでその身体を後ろに下げて(かわ)した。


「シーカ!」

「わかってるってばッ!」


 アルタルと魔の王を取り囲んでいたアジュラのページ99枚が急激にその動きを変え、びたびたと魔の王に貼り付いていく。


「出し惜しみなんかしてらんないわよッ!」


 アルタルがバックステップで飛び退()くと、その瞬間、魔の王を覆い尽くした無数のページが光を放ち――――ドォォォォォォンッ!!!


 99枚のページ全てが大爆発を引き起こした。


 アルタルは咄嗟に腕で顔を庇うが、熱風に全身を吹きつけられてその激しい風圧に1メートル以上後ろに押し戻される。


「今!」


 爆風と爆炎が収まるタイミングを見計らっていたシーカがアルタルにそう告げると、アルタルは間髪容れずに地面を踏み込み、前に跳んだ。振りかざしたアイギナのメイスは9.8トンに減っていた重さに加えて8トン分を加算した17.8トン。


 その重量に加えて底上げした筋力によって飛躍的に上昇した攻撃力が今まさに魔の王の頭部に打ち下ろされる、という時だった。


弾け、魔蝕の黒き鱗ミケル・キリエ・ミカエルエ


 ゴキリ――――と嫌な音がして、アイギナのメイスがアルタルの手から離れて宙を舞った。


「がぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 直後、アルタルの喉から発せられる、咆哮にも似た絶叫が空気を震わせた。そのアルタルの右手首は不自然な方向に曲がり、手首から先はうっすらと紫色に変色してきている。


 そして、アイギナのメイスに打ち抜かれたはずの魔の王はびくともしない様子でそこに立っている。しかしその全身は、鱗模様のぴったりとした黒いスーツに覆われていた。


 アルタルの一撃は魔蝕の黒き鱗(キリエ・ミカエルエ)によってその重さ任せのダメージそのものを反射され、それがアイギナのメイスを支えていた手首に集中して粉砕骨折を引き起こしたのだ。


 ぐじゅる、と音がして、魔の王の左腕が再生する。と同時に、さっき関節を折られた右腕もすぐに再生してしまい、周囲の空気がざわざわと(うごめ)く。


『アンフィスバエナ!』


 椿がそう叫ぶと、性質上近接支援が出来ずにじっと機会を窺っていた機械竜――キュアノエイデス・アンフィスバエナが右腕を魔の王に向けた。そしてその次の瞬間、ガンッと音がして右手首に装着されている錨型の(アンカー)ブレードが射出される。


「こノ程度」


 魔の王は軽く地面を蹴ると、宙返りをするようにヒュンッと跳んでアンカーブレードを(かわ)す。


――魔雷砲(ケラヴノス)轟雷砲(アストゥラピ)吼魔砲(アフティダ)各個放射――


 太い硬質ワイヤーがアンカーブレードを回収するのとほぼ同時に、4基の魔雷砲と尻尾先端と頭部からのドラゴンブレスがほぼ同時に空中の魔の王を襲った。


「ガ、甘イな」


 魔蝕の黒き鱗(キリエ・ミカエルエ)が再び魔の王へのダメージを反射し、アンフィスバエナの上体が突如(とつじょ)爆炎と黒煙に包まれ、一時的に機能停止に追い込まれる。


 そのカラクリを知らない未来たちは勿論、当事者のアンフィスバエナすら謎の攻撃による被撃にしか見えないのだった。


「――穿て、魔蝕の黒き爪ウルア・キリエ・ウリエルエ――」


 アルタルの視界に、両手の鋭い爪付き手甲を妖しく光らせながら暗い笑みを浮かべる魔の王の――セルスの顔が映る。


 そして、その爪は瞬く間に空気を切り裂き、アルタルの目前(もくぜん)(せま)った。


「アルッ……!」


 血の華が、散った。


 アルタルの耳にシーカの悲痛な声と肉が裂かれる音が微かに届いた直後、アルタルの身体は冷たい床の上に倒された――――(いな)()()()()()()


 そしてアルタルは、目を剝く。


「……よかった、アルが無事で……」


 目尻に涙を浮かべながら、震える声で呟くシーカ。


 アルタルを庇うように飛び出したシーカが、魔の王の魔蝕の黒き爪(キリエ・ウリエルエ)の鋭い切っ先でその背中を引き裂かれたのだ。


 肉が裂けるほどに、深く――。


 その傷口からはどくどくと血が溢れ出し、黒い床に広がっていく。シーカの体温を刻々と奪いながら、生命力のように流れ出していく。


「馬鹿ヤロウ! なんで、お前……!」


 アルタルが、折られた右手の痛みも忘れて崩れ落ちるシーカの身体を支える。


「アジュラ、じゃ……間に合わなくて……ううん、気付いたら……身体が勝手に動いてたの……」


 絶え絶えの息を必死に整えようとしながら、シーカは今にも消え入りそうな(かす)れた声で(つぶや)く。


「ふっ、ざけんなっ! 今は俺なんかよりお前の方が必要な――」

削れ、魔蝕の黒き脚ザケル・キリエ・ザキエルエ……」


 アルタルの声を(さえぎ)って、魔の王のおぞましい声が静かに響き、目にも止まらない速さで振り抜かれた漆黒の脚が2人の――アルタルとシーカの身体を横薙ぎに蹴り飛ばした。


 手負いの2人に反応なんて出来るわけもなく、みしみしと危なげな破砕音を響かせながら2人の身体は空間を横切り、壁に強く叩きつけられた。


 悲鳴すら、悲鳴にならなかった。回避も、反撃も、抵抗すら許されずにぐしゃりと嫌な音を立てた2人の身体は力なく床に落ち、ぴくぴくと痙攣(けいれん)を始める。


「こレデ4人……くっクッく、これで我ラを止めヨウとしてイタノなら、随分と舐めラレたものだネ。もう少シ骨ノアる人間はいなイモノか」

「嘘……嘘、そんな……」


 脇腹の痛みでまだ動けない未来を支えながら2人の痛々しい姿を目の当たりにしたメルは、信じられないものを見たかのように声を震わせて立ち上がった。そして、未来の手から妖刀“椿”を手に取ってふらふらと歩き始める。


(あるじ)よ、止めぬか! この娘では(わらわ)を使いこなすことなどできはせぬ!』


 意識が朦朧(もうろう)としてきていた未来の頭の中に椿の声ががんがんと響き、床にうつ伏せになっていた未来は何とか顔を上げる。


「やめるんだ、メル……」


 しかしその声はメルの耳に届くことはなく、未来が立ち上がろうとしてもその身体が動くことはなかった。


「私だって……ちゃんと戦える……!」


 メルは椿を構え、魔の王との間合いを詰めて振るう。しかし、その刃は魔の王に届くことなく、魔蝕の黒き爪(キリエ・ウリエルエ)に防がれる。


 メルは決して弱いわけではない。魔の者に対抗する力を持っている分、一般人と比べればその戦闘能力は当然、格段に高い。しかしそれはあくまでも下級眷族に対するものであって、やはり魔の王に勝てるほどには強力なものではないのだった。


 メルは渾身(こんしん)の力で椿を持つ手を押し込み、ギリギリと金属同士が擦り合う不快音を鳴らしながら魔の王と鍔競(つばぜ)()う。


『今すぐ離れるのじゃ、メルクリウス! お主では、腕力ですらそやつには(かな)わぬ!』


 メルには聞こえていないのに、椿も随分と焦ってるんだろうな――――と未来は思った。思いつつ、無理矢理、それこそ気合なんていう曖昧なもので腕に力を込める。隣にはフーリィが応援でもするかのようなきらきらとした瞳を未来に向けているが、アムールはというと、いつの間にか姿を消していた。


 しかしその次の瞬間、未来は自分の耳を疑った。


()()()! 私だって、皆を守れます!」


 椿の言葉に、メルが言葉を返した。偶然では説明が付かないぐらい的確で自然な応答をしたのだ。


 そしてその途端、メルの身体が光を放った。


「えっ?」

『何じゃ、これは……!? この、力は……! 何故じゃ、契約が……主との契約が書き換えられてゆく……!』


 メルの長い髪の毛が、突然吹き上げる風の中に晒されたかのように逆立った。服も激しくはためき、しかしその身体の芯は微動だにしない。


 そしてその背中に、複雑な光の線が――いつか見たことのある月の紋章が浮かび上がった。


(契約が、書き換えられる……?)


 それはつまり、妖刀“椿”の主人が未来からメルへと変わることを意味している。


 月の紋章――“話す神”メルクリウスの直系の子孫であり、月の巫女であることを示すその模様は――


(――そうだ……! 椿の(つば)の紋様に似てるんだ……)


 確かにそんなことを思ったこともあったはずなのに、随分昔のことのようですっかり忘れていたのだ。


 事実は未来の思った通りだった。


 妖刀“椿”は本来メル――メルクリウス=ゼ・ティリエントワールの持つべき神具なのだ。実際のところ、本来の主人ではない未来は、本来の性能限界の70%ほどしか引き出せない。


 実際のところ、椿がずっと訴えていた()調()は長い眠りについていたせいではなく、本来の主であるメルではなく未来が契約してしまったために引き起こされたものだった。


「行けそうな、気がします……!」


 メルは知っている。


 椿を使いこなそうと頑張っていた未来をずっと傍で見守ってきたメルなら、椿の技の発動条件も自然と覚えているのだ。無論、未来がどんなに練習しても使うことの出来なかった高威力の大技も――――今のメルなら使えるのだ。


「誘い椿・陽炎雪花(かげろうせっか)


 メルが舞うような仕草で椿を振るい、その動きに合わせて紡錘形の小火が散る。その刀身が纏う空気はさっきと同じように凛と張り詰めたものだったが、さっきまでとは格が違っていた。


 空中に散った小火はその場に滞空し、花が開くように()()へと変じていき、メルがその刀身を撫でた瞬間――――ボンッ。


 火の華が()ぜ、空気中に散った。


「誘い椿・百八花繚乱ひゃくはっかりょうらん!」


 花弁(はなびら)のように舞い散った大量の炎の欠片が、魔の王の周囲を囲む。


「こンナもノが私に通用すルものカ。貫け、魔蝕の黒き尾レルア・キリエ・レリエルエ


 バキバキッと異音を発した魔の王の背後から先端にアイリーンと似たような大きな尾爪の付いた鞭のような尻尾が出現したかと思うと、目まぐるしい速さで、滞空する火の花片を一つ一つ切り裂き始める。


 しかし、陽炎(かげろう)稲妻(いなづま)水の月――いくら切り裂かれても火の花片は分裂するだけで一向に散ることはない。それどころか、両断されて小さくなった欠片すらそれぞれが元の火の華の花弁と同じ大きさを取り戻し、無尽蔵に増えていく。


(わずら)わシイ――塞げ、魔蝕の黒き翼ラセル・キリエ・ラシエルエ


 魔蝕の黒き尾(キリエ・レリエルエ)が消滅し、再び黒く禍々しい翼がその背中に出現する。


 そしてその次の瞬間、薙ぎ払うように振るわれた片翼から生まれた風圧により、(ほの)かな輝き呆気なく周囲へ飛ばされてしまう。その最中にも大きな火の花片は小さく千切れていき、儚げで弱々しい火の粉となって広がってしまう。


 しかし、その魔の王の行動こそが、百八花繚乱ひゃくはっかりょうらんの発動条件を整えてしまうことになる。


「燃ゆる天顕(てんけん)環刃(かんじん)!」


 幾重にも千切れた総数108の火の花片がそれぞれが激しく燃え上がり、その赤い火の中から円弧状の鋭い光沢を放つ刃が現れた。


「こレハ……弾け、魔蝕の黒き鱗ミケル・キリエ・ミカエルエッ!」


 魔の王が身構えると同時にその108の環刃が四方八方から――全方位から魔の王に襲い掛かった。


 『外部から保護物に向けられるあらゆる干渉(ダメージ)を遮断し、そのまま相手へと返す』効果を持つ魔蝕の黒き鱗(キリエ・ミカエルエ)は魔の王の使用できる能力の中でも唯一受け身である分、強力無比と言って差し支えない絶対防御の力だ。


 そこに理論的な何かは存在せず、ただそういうものとして存在している馬鹿げた能力。論理的な説明を机上の落書きへと変えてしまうというのは、実際のところ王だけに限らない魔の者全体の特徴ではあるのだが、それは逆に魔の王の物事を論理的に観察する思考すらも奪っていた。


 絶対防御は()()的な()()だからこそ成り立つのであり、故に魔蝕の黒き鱗(キリエ・ミカエルエ)が破られることは絶対的にありえない、と盲信していたのだ。


 絶対防御というのは、その人物の認識において絶対であると結論付けられているだけのものでしかないのに。


 無論、それは椿の力の一端である“燃ゆる天顕の環刃”の『触れた物体の根本的存在証明を切断抹消する』効果についても同じことが言えるのだが、この時行われただろう()()()()()()()()()()()は、偶然椿に味方した。


 シャラン……。


 まるで鈴が鳴るような澄んだ音が空間に響き、魔の王の上半身と下半身が鋭い断面で滑断された。


「ナに……!?」


 シャラン……。シャラン……。


 澄んだその音と呻き声以外にはまったく音を立てることもなく、魔の王の身体を無数の肉塊へと解体していく環刃。それは魔の王の肉を切断する度にひとつひとつ消えていき、108全ての環刃が消えた頃には魔の王は108の肉塊となって床の上に転がっていた。そして唯一無傷だった頭部がごろんと転がる。


「はぁっ、はぁっ……未来さん、これで……!」


 環刃を操作するのに精神力を激しく消耗したメルが息苦しそうにしながらも振り返り、何とか脇腹の痛みを堪えて身体を起こしたばかりの未来に駆け寄ってくる。


 未来と同等の知識を持ってはいても、未来ほど訓練を積んだわけではない。故にその扱いは、下手に手を出さなかった方がむしろマシだとも思えるほどに雑で荒削りで、椿の強大な代わりにリスキーな力を使うにはメルは少し弱過ぎた。


「未来さ――」


 メルの言葉が途切れ、次の瞬間、メルは椿を握ったまま「あれ……?」と首を(かし)げて、ドターンと引っくり返った。激しい目眩(めまい)で視界は歪み、上と下の区別もわからない。


「メルさーん!?」


 未来が慌ててメルに歩み寄ってその顔を覗き込むと、やや青ざめているがちゃんと息はある。だが体内の魔力が、生命力に多大な影響を及ぼすほどに著しく消耗していた。ちゃんとした椿の指導を受けていないメルは、この空間内の魔力を使うべきところで、体内の魔力を使ってしまっていたのだ。


 それもそのはず、70%の性能しか引き出せていなかったとはいえ、未来でさえ長い時間をかけて椿とアンフィスバエナ使用の負荷に身体を慣れさせ、やっとのことで扱っていたものだ。本来あるべき主であったとはいえ、それらの必要なプロセスをすっ飛ばしていきなり最大出力を強いられて、無理の出ない方が無理がある。


 ひとまずほっとしつつメルの手から椿を取り上げると、未来は魔のだったものに目を向ける。それは魔の王であったと同時に、それはセルスでもあったはずのものなのだ。そう考えると、息が詰まる。


――下がって、未来君。その残骸は僕が片付ける――


 ズーン……!


 地響きのような足音と共に、背後から機械竜キュアノエイデス・アンフィスバエナが歩いてくる。


「アンフィスバエナ……もう、大丈夫なの?」


――原子変換実体構成アトミック・コンバーションで自己修復したから大丈夫だよ――


 なんかもうオーバーテクノロジー。


――魔雷砲(ケラヴノス)轟雷砲(アストゥラピ)吼魔砲(アフティダ)。出力119%、オーバーリミット・ブーステッド。各個放射まで5秒前。5――


 未来は、ズンと胸の中の横隔膜の辺りに重いものを落とし込まれたように苦しくなるのを感じた。アンフィスバエナの活動を支えている魔力のエネルギーは、未来を介して彼に送られている。主砲1種1基に側砲2種5基の同時使用に加え、それが限界突破した最大出力。負荷も高まって当然だ。


――4――


 4基の魔雷砲(ケラヴノス)が淡い光を放ち始め、尾の先の轟雷砲(アストゥラピ)、そして頭部咥内の吼魔砲(アフティダ)には上顎と下顎の間に青紫色と赤紫色の光球が出現した。しかし、今度はすぐに放たれるのではなく、少しずつ大きくなっていく。


――3――


 (にわ)かに光を増した魔雷砲がバチバチッとスパークノイズを周囲に散らし始めた。


――2――


 パリパリと乾いた音が次第に大きくなっていき、大気を震わせ始める。


――1――


 溜めるように首をやや上方に上げたアンフィスバエナの側砲と尾砲が目映(まばゆ)い光を放ち、それと同時に吼魔砲(アフティダ)が勢い余ったのか、天井に向けて青紫色の光線を撃ち出した。


 その直線の軌道は首の動きに従って、蛇行しながら天井を焼き焦がし、やがて床の上の魔の王の身体の残骸へと近付く。


 そして、側砲5基が今にも撃ち放たれ、主砲と同時に魔の王を消し飛ばそうとする――――その直前だった。


開け、魔蝕の黒き口ケモル・キリエ・ケムエルエ


 魔の王の声が、深淵から聞こえてくる悪魔の囁きのように不気味に響いた。


――まだ生きてるなんて、どれだけ化け物なのさッ――


 魔の王のいた場所をアンフィスバエナの光線が襲う。


 しかし、その目映(まばゆ)い光を侵蝕するように、魔の王の残骸から黒い闇が(ほとばし)った。


 光線はそのどす黒いもやもやとした塊に遮られ、反射されることもなく飲み込まれていく。


 そして次の瞬間――――ゾグッ。


 アンフィスバエナの咥内から発せられていた光線もろとも、その頭部が欠落した。


「なっ……!?」


 未来の目の前で、頭部を何処かに持っていかれたアンフィスバエナの巨体が、激しい金属音を掻き鳴らしながら崩れていく。


 その向こうの黒々とした背景から、浮き出るように元の形を取り戻した魔の王がゆっくりと歩いて近付いてくる。未来は咄嗟に椿を構えるが、脇腹の痛みに堪えかねて思わず膝を衝いてしまう。


崩せ、魔蝕の黒き骨サレル・キリエ・サリエルエ


 バキバキバキ、という怪音と共に魔の王の両手が変形し、肉の中から幾重にも折れ曲がった黒い骨の刃が出現する。その骨の刃は腕の横に大きく張り出し、大きさが30センチを超えても尚、成長と変形が収まらない。


「ククク……」


 バチンッ!


 ぐぐっと歪んだその骨の刃が跳ねるように空を裂き、未来の手から椿を弾き飛ばした。その衝撃と痛みで未来は咄嗟に手を引いてしまい、弾かれた椿は少し離れた床に落ちる。


「他愛なイ。永き眠リから覚メテみれバこの星ノ人類ガここマデ弱体化しテイタとハ」


 魔の王はさらに魔蝕の黒き骨(キリエ・サリエルエ)を振るって風切り音を響かせる。


「まズハ部隊の再編カ。しカシ情けナイ。こノ程度の連中ニ私ノ三眷属ガ破らレルトは。しカシ、それモ今や無意味カ。ココデ朽ちルガいい、無謀の勇ナル者共ヨ」


 バキバキバキ……。


 魔の王の両腕の魔蝕の黒き骨(キリエ・サリエルエ)が木の枝の成長を早回しで再生したように加速し、まるで壁一枚隔てた向こうから聞こえてくるような破砕音が空間内に響く。


「ン……?」


 いや、実際に壁一枚隔てた場所からその破砕音は響いてきていた。


 ドンッ!


「……ッ!?」


 突然螺旋の塔を途方もない衝撃が襲った。床全体が激しく揺さぶられ、バランスを崩した未来は思わず尻もちを衝いた。


 その次の瞬間、側面の壁の一部が段々と色味を帯びてきて、見る見る内に赤く明るく――赤熱化した。


 轟……ッ!!!


 瞬く間に部屋の中に飛び込んできた業炎の柱が未来たちと魔の王の間を横切って空間を二つに分断する。


「な、何……!?」


 そう叫んだ未来の視界に()()()()()が映りこむ。


「いや、間に合ってよかった」


 背中の翼が大きく風を孕み、大きな尻尾が足元に降りる。


「本当はもう少し早く追いつくつもりだったのだけれど、増援を片付けるのに思いの(ほか)手間取ってしまってね」


 圧倒的な存在感を放つその声の持ち主は、太陽神の化身にして、比類なく強靭な竜の肉体と可憐な少女の容姿を持つ“見る神”リッカ=アイリーンだった。


 神炎の裁き(プロミネンス)が消えると、アイリーンは後ろへ飛んで距離を取っていた魔の王を――別の意志によって支配されたセルスの肉体を見据える。


「アイリーン……!?」


 セルスの知識からアイリーンのことを把握した魔の王が、アイリーンを見て驚いたような声を上げる。いや、未来たちには区別が出来なかったが、それは魔の王ではなく、未だ自我が消滅してはいないセルスによる発言だった。


「しかし、無論()()はいたけれど――」


 アイリーンはそんなセルスに何処か憐れむような視線を向けて(つぶや)く。


「――(あわ)れなものだな、セルス。セルス=クライリスト。よもや君とは何の関係もない幻影の亡霊に踊らされ、心身闇へと引きずり込まれるとはね」

「何……!?」

七光(ななひかる)(なぎ)は確かに実在していた。しかしそれは、それこそ七億八千年前の話。本人は神原幸治と吉田真夜の戦いに於いて絶命している。彼女と敵対しつつも執心していた吉田真夜は、彼女を手に掛けた自責の念で(たが)が外れた……いや、箍が弾けたと言う方が正しいのかもしれない。箍は最初から外れていた……ただ、後戻りが出来なくなったのだよ。そして彼女は――――人間であることを止めた」


 アイリーンが渾々(こんこん)と紡ぐ言の葉に、セルスは口を(つぐ)んだまま全ての動きを止める。しかし、彼の中の魔の王は話を聞く気はないようで、時折ぴくりと動く度にセルスに抑えられていた。


「吉田真夜は自らの能力を全て捨て去る代わりに科学と魔の者の持ち得た力を用いて、自身を高次の存在へと昇華させた。死ぬことも老いることもなくただ彼女は無為に精神を消費するままに生き続ける存在になった。それが凪を殺した自分への正当な罰であると信じていた、と言えば多少は察することもできるだろうね。しかし、そんな最中に、セルス……君が生まれてしまった。七光(ななひかる)(なぎ)と同じ容姿を持つ人間が生まれてしまった。無論、七億年も経てば同じ容姿を持つ人間など掃いて捨てるほど生まれるだろうけれど、君は同時に魔の王の素体としての適性まで持って生まれてきてしまった。その()()に、狂信者であった真夜は君が凪の生まれ変わりであると本心から信じ込んだ。思い込んでしまった、というわけだ」

「でも、私には記憶が……」

「記憶がある、と言うのなら、それはもちろんあるのだろうね。しかし七光凪とはまったく別の存在である君の記憶とやらは無論、真夜が植えつけたものだろうけれど、君には判別が出来ないはずだ。だから私の言葉の真偽を確かめる方法は君にはない。だが、君の心に付け入る隙が生まれたとすれば、その記憶と真夜の語った言葉との合致ぐらいだろう。同じく根拠はない、とは思わないかな?」


 アイリーンが言葉を並べる。


 真偽も、正当性も、説得力もかなぐり捨てて、話しながらセルスに近付いていく。


「信じろとは言わないけれど、どちらも信じるに値しない話だよ。君の最初の立場を考えれば、私が君に与えた力を鑑みれば、そしてこれまでしてきたことを省みれば、むしろこっちにいてしかるべしとも思うけれど、今それを問うのは(いささ)か意地が悪いかもしれないね。()()()()()()()()だから」


 魔の王のすぐ目の前――およそ3メートルの位置まで近付いていたアイリーンが突然、指をパチンッと鳴らした。刹那(せつな)、魔の王の――もといセルスの姿がぐらりと揺らいだ。


 その輪郭がぼやけるように揺れ、『ドクン……』と心臓の鼓動のような音が空気中に拡散し、同時にセルスは、その場にがくんっと膝を衝いて崩れ落ちた。


「済まない、セルス……」


 アイリーンは、何処か悲痛そうにそう言った。


 今の合図と同時に、“見る神”アイリーンは、かつてこの決戦を見越してセルスに与えていた“遥か遠くの未来を見るための能力”を奪ったのだ。


()の都合で生き永らえさせておいて、()が殺すことになるなんて……。さすがに心が痛むけれど、私はこう見えて神だからね。聞こえてしまった()()()()を聞き入れないわけにはいかない」


 未来すら見通すことのできるある種の千里眼――つまり何時如何なる未来をも見続けることのできるアイリーンの権能に基づく能力が消滅した今、それによって結果的にもたらされていた副次的能力“不老不死”の力がセルスから流れ出していく。


「あはは、少し長く生き過ぎたかな。うん、悔いはないよ。やるべきことは全部やれたし、会うべき人にも会うことは出来た。私はもうそれだけで満足だよ」


 セルスは、最後に微笑んだ。 


「――ごめんよ、アムール……」


 最後にその笑顔を未来たちの記憶に焼き付けて、セルスという一人だけの存在はただの人に戻り、本来の寿命を巻き直して――――()()()


「あアアあああアあアァぁぁぁァァァ――――ッ!!!」


 力が抜けて前に倒れ込むように膝を衝きかけたセルスの身体が、突然咆哮した。


 その雄叫びは、小柄な身体から発せられたとは思えないほどぴりびりと室内の空気を震わせ、未来たちはまるで螺旋の塔全体を揺るがしているかのような錯覚を覚える。


「よくも(なぎ)を……我ガ素体を……ッ! 許さない……! 許サナい……!」


 セルスの体表面が、ザザザッとノイズが走ったようにブレる。その中では、呑み込まれていた真夜と魔の王の自我が混在し、入れ替わり立ち替わり怨嗟の言葉を吐きながら、少しずつ少しずつ身体を変形させ――――(ひず)ませていく。


「許さナイ……! 許さない、絶対に……!」


 死んでしまったセルスの姿を保てなくなったのか、魔の王の姿は見る見る内にさっき呑み込んだ吉田真夜のそれに変化していく。少年から成人女性のシルエットに変わっていくその様は、違和感を通り越して気味悪さの極致とも言える光景だった。


 そして、アイリーンはその隙に、バックステップを繰り返して未来の隣に戻ってくる。


「少し痛むよ、未来くん……」


 未来の脇腹に当てられたアイリーンの手から煌白色の光が漏れ始め、未来はじわじわと広がる温かさに思わず身を(よじ)った。途端、つきんと引き攣るような痛みに身体が強張る。


 しかし次の瞬間、全ての感覚が患部から消え、同時に傷も塞がってしまった。


「これは……」

「あの時は結果だけだけれど、君は見ていたはずだろう?」


 初めて会った時にアイリーンは、ヴィカラーラとの戦いで傷ついた一行を治療している。やっている事自体は治療ではなく、事象の前後における変化の修正術式――所謂(いわゆる)魔法の一種なのだが、古来より不死と再生の象徴とされてきた太陽の神格に基づくその術式は、フィーやセルスの用いていた“()()”とは桁違いの効力を持っていた。


「そうだッ。アイリーン、シーカとアルタルを……!」

「いや、彼らには悪いけれどそれは無理だ。君一人ならともかく、アレがそれほど待ってくれるとは思えない。先に大事な用件を片付けさせてもらうよ」

「二人より大事な用件なんて……!」

()()()


 次の瞬間、アイリーンの右手がひゅっと空を切り、アイリーンよりやや身長の高い未来の頭を引き下げた。そして、すっと寄せられたアイリーンの唇が未来の額の真ん中に軽く触れる。


 ――――あるべき場所へ――――


 アイリーンの身体からストンと抜け落ちるように喪失した“聞く神”ラカワミ=ライの力が、まるで元から未来の身体の中にあったもののように存在感を膨らませ、その神格が内側から出現する。


「な、何……!?」


 未来は自分の中から湧いてきたものに戸惑いながらも、()()が大きく変化したことを何となく理解した。と言うのも、何故かアイリーンがいつもより小さく見えるのだ。


 実際にサイズが縮んでいるわけではない。いつもアイリーンが醸し出していた、神として、ドラゴンとしての――――つまり上位者としての風格が霧散していたのだ。


「説明すれば長くなるからここですることはできないけれど、私は今、預かっていたものを君に――君の内に眠るラカワミ=ライに返した。本来この世界に落ちた時から君が持っているべき、神と同格たりえる力をね。つまり今の君は神の権能を使役する人間――もとい神そのものと同化した人間だよ」

「え、何それッ……!?」


 未来は息を呑んで驚いた。


 無理もない。自分の中に神がいると言われて、驚かない人間はいない。概ね全てとすら言える大多数が信じる信じない以前に馬鹿馬鹿しいと切り捨てる程度の話だ。


 だが今回に限っては切り捨てられない。


 その事実を口にしたのが至って真面目な神そのものであり、そして今は冗談では済まされない怪物が目の前にいる――――敗北がそのまま世界の破滅を意味する最終決戦。


 極めつけの極限状態なのだから。


「でも、ど、どうして今になって……」

「うっかり忘れていてね」

「神様がそれでいいの……?」

「私は視神。語神と違って、話し忘れることくらいはあるだろうね」


 まるで他人事みたいな言い方に、未来はやや肩を落とした――――が、不意に感じたその()()に視線を戻す。


 魔の王は完全に吉田真夜と同化し、その全身から煙のようにどす黒い闇を噴き出しながら(たたず)んでいた。


「セルスと違って、魔の王と真夜では完全同調ができない。一番厄介な魔蝕の黒き技々キリエ・テラエルエーゼは今まで通り使ってくるだろうけれど、単純な身体能力は格段に落ちているはずだ。何れにせよ、これ以上の好機はないだろうね」


 アイリーンの椿の切っ先のように鋭くなり、バキバキと異様な音を響かせながらその腕がドラゴンらしい鱗に覆われたものに変化していく。


「行くよ、椿」


 未来が手にしていた椿を構え直すと、その刀身が鋭くも曖昧な光を放った。


「椿?」


 椿の応答がないことに気が付いて視線を下ろした時、未来は改めて自分と椿との契約が切れていることを思い出した。


「契約がなければ椿を十分に使うことはできない。それはメルの守り刀として置いておいて、こっちを使うといい」


 アイリーンがそう言った瞬間、玉色の鱗に覆われた尻尾が鞭のようにしなり、鋼鉄の竜(アンフィスバエナ)の残骸の中から一振りの西洋剣を跳ね上げた。


 その剣は狙い澄ましたように宙を舞い、未来の手元に落ちてきて、風切り音を奏でながら足元の床にカツンと突き刺さる。


 元々のフォルム――雷の魔剣のアンフィスバエナだ。


 未来がそれを床から引き抜いた途端、原子変換実体構成アトミック・コンバーション機能により自己修復を行っていた鋼鉄の竜(アンフィスバエナ)の残骸が動作を停止し、ガラガラと崩れ落ちて完全に動かなくなる。


『椿も今は使えないみたいだし、仕方ないから僕が君の剣になってあげるよ、未来くん』


 少し拗ねたような口調でそう言ったアンフィスバエナはしゃらんと鈴のような音を鳴らして、薄蒼色の光塵を放つ。


「椿、メルを任せたよ」

『――任せるがよい』


 椿は未来の言葉にそう返したが、その音無き声は未来に届くことはなく、椿はその声が唯一聞こえる今の主――気を失って倒れているメルの傍の床に突き立てられた。


 実のところ、現在“聞く神”ラカワミ=ライの権能を持つ未来であればその声を聞くことも可能なのだが、その力に慣れておらず、無意識で行使するには自覚が足りなかった。


「行くよ、アンフィスバエナ!」

「未来くん、前は頼んだよ」


 未来が同時に前へ出た魔の王の魔蝕の黒き骨(キリエ・サリエルエ)と切り結び始めると、アイリーンはその数歩後ろに陣取り、空中で十字を切った。


「万象に与えられし平等なる光よ。其は輝き、其は慈愛、其は(しるべ)、其は力。何事にも揺るがず、ただ沈み、昇り続ける不滅の象徴。集うべきは 我が手の内。性質は火炎、役割は殲滅。眼前の闇を掻き消す事を(こいねが)う――」


 アイリーンの掌の上で小さな炎の塊が生まれ、それが刻々と輝きを増して、徐々に白熱していく。


「――照らし――」


 パッと瞬くように白い光を放つ。


「――照らし――」


 再び瞬く。


「――照らし――」


 瞬く。


「――照らせっ!」


 アイリーンが叫んだ瞬間、掌上の炎塊がカッと強く瞬き、周囲に無数の炎塵が散った。


()は神の炎(なり)。駆け抜け()ぜよ。全てを飲み込み 無に帰せ――」


 詠唱文を紡ぎ出すにつれて、空気中を舞う火の粉はアイリーンの足元から吹く熱い上昇気流に乗って天井付近まで吹き上がり、天井を逆さまに這うようにして未来と魔の王の頭上へと流れていく。


 そして、アイリーンが右手をひゅんと上へ上げた瞬間、見計らっていたようなタイミングで未来が魔の王から離れて後ろに飛ぶ。


「――神炎塵爆発(スピキュール)ッ!」


 アイリーンの指がくんっと下に向けられ、それに連動するように炎塵がサーッと下に降り――――ボンッ。


 ボボボボッボボンッッッ!


 小爆発が連鎖的に積み重なって、全体として魔の王の周囲を含んだ狭い範囲のみを爆炎と爆風が蹂躙した。


「ガァァァぁぁぁぁぁァァアッ!!!」


 頭では即座に認識していても適性の低い真夜の身体が枷となり咄嗟(とっさ)の回避行動が取れなかった魔の王は高温高圧の中でその身を焼かれながら咆号する。


「行くよ、アンフィスバエナ――魔雷砲(ケラヴノス)!」

『僕はキュアノエイデス・アンフィスバエナだってば』


 アンフィスバエナの切っ先から放たれた魔雷の槍がようやく炎から解放された魔の王の胴体を刺し貫き、走る電流がさらにその身を焦がす。


「ぐぅゥゥゥウゥゥ……!」


 全身から蒸気を立ち上らせる魔の王は、がくんと膝を折ってその場に崩れ落ちた。


「貴様ら……っ」


 魔の王は憎々しげな目で未来とアイリーンを睨みつけると、突然その右手を高く振り上げ、ドンッと床を殴りつけた。


「「……ッ!?」」


 次の瞬間、その部分に大きな亀裂が走り、その場所からドロドロとした黒い何かが噴き出した。


「な、何、あれ……!?」

「濃い魔力のようだね。とてつもなく嫌な感じがするよ」

「濃い魔力……!? そんなもの何処から――」


 未来がそう訊ねると、アイリーンはスッと目を閉じ、


「下の連中だ。アイツは自分の下級眷族を魔力に変換して食っている。だが、あれだけの魔力――生物の許容できる範囲を超えるぞ……! 魔の王(中身)が耐えられたとしても、元々ただの人間である真夜の身体では――」


 アイリーンがそう言ったのと、魔の王の依り代となっている真夜の口から黒々とした血のような液体を吐き出したのはほぼ同時だった。


 グシャ。


 呆気ない音と共に、魔の王の――真夜の身体が押し潰されるように砕けた。


「え、ちょっ、何これ……!?」


 しかし、崩壊と同時にその肉体が瞬く間に膨れ上がり、徐々に大きく姿を変えていく。

 

 その身体は見る見る内に身の丈4メートルを超え、手足は大きく膨れ上がり、隆々とした筋肉がビシビシと硬い甲殻に覆われていく。


 その指先には巨大な爪が生え、全身には(こぶ)のような塊が隆起し、目は赤々と光る――――醜い怪物に成り果てていた。


「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」


 魔のだったものは両腕を振り上げ、濁った声で咆哮する。


「随分と醜い姿になったものだな。(おの)が精神すら闇に食わせたか。見下げ果てたぞ」


 アイリーンは何処か面白くなさそうに呟いた。


「ダマ……レ……」

「ほう、まだ喋れるとは思わなかったぞ」

「ダ……マ、レ……」


 口ではない、何処か別のところから響いてくるような声でそう言った魔の王は、黒煙を口から噴き出しながら一歩前進する。


「所詮、その姿ではマトモにその場から動くこともできないだろう。未来くん、この程度ならすぐに片付けられそうだ。そろそろ全て終わらせようか」

「――崩せ、魔蝕の黒き骨サレル・キリエ・サリエルエ――」

「ん?」


 丸太のような腕から、バキバキと怪音を上げながら黒い枝のような骨の刃が肉を突き破って出現する。


穿て、魔蝕の黒き爪ウルア・キリエ・ウリエルエ貫け、魔蝕の黒き尾レルア・キリエ・レリエルエ掴め、魔蝕の黒き手シャミル・キリエ・シャムエルエ導け、魔蝕の黒き腕サムル・キリエ・サマエルエ塞げ、魔蝕の黒き翼ラセル・キリエ・ラシエルエ弾け、魔蝕の黒き鱗ミケル・キリエ・ミカエルエ削れ、魔蝕の黒き脚ザケル・キリエ・ザキエルエ開け、魔蝕の黒き口ケモル・キリエ・ケムエルエ――」


 魔の王が呪文のようにぶつぶつと唱えた途端、今までに使ってきた魔蝕の黒き技々キリエ・テラエルエーゼが全て同時に適用され、ゴキゴキと異音を上げながら、その肉体がさらに変貌を遂げていく。


 大きく、大きく、さらに大きく――。


「アイリーン、コレ、ホントにすぐ倒せる……?」

「ん、むー……厳しいかも」

「状況悪化で口調変わってる!?」


 アイリーンが口ごもるのも無理はなく、何よりも厄介なのは受けるダメージを相手に直接返す魔蝕の黒き鱗(キリエ・ミカエルエ)。そして、前方一定範囲内に存在する全ての存在を異次元へ転移させる魔蝕の黒き口(キリエ・ケムエルエ)と、触れたものを完全に抹消させる魔蝕の黒き手(キリエ・シャムエルエ)だった。


「最終変化形態になった魔の王……そうだね、変態魔王とでも呼ぶことにしよう」

「それは色々とどうなの!?」


 悪意たっぷりの命名に、未来は思わず叫ばずにいられなかった。


「シ……ネ……」


 しかしその一瞬の隙を突いて、魔の王はもやもやと宙に浮く黒い球体――魔蝕の黒き手(キリエ・シャムエルエ)を未来とアイリーンに向かって飛ばしてきた。


「気を付けて、アイリーン! さっきアンフィスバエナのバルカン砲がそれに持っていかれたッ」

「昔、アレに両腕を持っていかれたことがあるからよく覚えているよ」


 未来と同じタイミングで直線的なその魔蝕の黒き手(キリエ・シャムエルエ)(かわ)したアイリーンは、反撃の言の葉を紡ぎ出す。


「天空に輝く大いなる恵みの象徴よ。日輪を纏いて万物を照らす我が力の象徴よ。あらゆる罪を裁き、邪悪を滅する聖なる灯火を我が(もと)に降ろせ――――神炎の威光領域オーバーウェルム・ヘリオスフィアッ!」


 アイリーンの身体の周囲に光冠(コロナ)に似た超高温の空間が出現し、同時に光塵を纏った白銀色の髪の毛が煌々と光る炎に包まれた。


「ソノ火……キサマ……アノ時ノ眷族神カ……」

「ほう、まだモノを考えることができるか。しかし、確かに私はアイリーンだけれど、あの頃の私と同じだと思うなよ?」


 アイリーンは目尻を吊り上げて魔の王を睨みつけると、一歩――――前進する。


「神は人間の想いによって具現化し、その力は神を信じる人間の数に比例する。あの時代――科学文明が全盛期に入っていたあの時期、科学より()を信じる者はごくわずかだった。故に私は――私たち三神は三眷族程度の()()()()に苦戦を強いられた。だが今は違う。高度な科学はほぼ完全に衰退し、その信は我ら神族に傾いた。その力比は数倍では済まないだろうね」


 アイリーンが動くと、その周囲の空気は急激に熱されて蒸気を上げ、まるで空間が歪むように背景が揺らぐ。


「烈火の獅子、戦舞の鳳翼、()は紅炎に紛れし暗条の神炎。神具の誉れを捨て去り、陰に降りた破魔の刃よ。我に仇為す者に神威を(あらわ)せ」


 アイリーンの周囲に黒い何かが無数に出現し、円環状に並んでくるくると回り始める。


「その中途半端な形代(かたしろ)で受け切れるというなら試してみるといい――――穿(うが)(つらぬ)け、黒き太陽の棘槍ダーク・フィラメント・スピア


 不定形の黒い刃が炎のように揺らめき、四方八方から巨大な肉塊と化した魔の王に襲い掛かる。


 しかし――――ザシュッ。


「く……ッ」


 魔蝕の黒き鱗(キリエ・ミカエルエ)に阻まれ、そのダメージがアイリーンに返る。しかし、魔の王自身もその魔蝕の黒き技々キリエ・テラエルエーゼを制御し切れてはおらず、実質的なダメージは半々でアイリーンと魔の王に分配された。


「ほう……これはありがたいね。自爆覚悟で行けば、一番厄介な(ミカ)()けそうだ」


 全身の肌が露出している部分の無数の切り傷を負いながらも、アイリーンは不敵な笑みを浮かべて魔の王と対峙する。


「やれるかな、未来くん」

「アイリーンほど身体も強くないし、痛みにも弱いけど……やるしかないなら」

「いい返事だよ。未来くんも男になったようだね」

「僕は最初から男だよ!?」

「そういう意味じゃないのだけれど。そう、強くなったねと言い換えようか?」

「あ、うん……」


 そんな遣り取りを交わしつつ、魔の王の魔蝕の黒き尾(キリエ・レリエルエ)による振り下ろし(スウィングダウン)を左右に分かれて(かわ)した未来とアイリーンは、互いの間合いを計りながら各々の武器(エモノ)でもって攻撃を開始した。


 一方――。


『目を覚ますのじゃ、メルクリウス。今こそ(なれ)が必要じゃというに……』


 その後方では、音無き声――すなわち体内魔力の過消費で意識を失った新しい主人をその(しのぎ)に込められた結界術で守護する椿による呼びかけが続けられていた。


『起きぬか、メルクリウス。(ぬし)じゃ、聞いておろう。ええい、ややこしいの。早う目を覚ますのじゃ、メルクリウス!』


 椿が音無き声でそう言うと、まるで都合良くその声が届いたかのようにメルクリウスはぱちっと(まぶた)を開いた。


『ようやく起きたか。相変わらず目覚めが遅いの。(わらわ)流石(さすが)に慣れたものじゃが』


 やれやれと声のトーンを落とした椿を尻目に、メルクリウスはスッと上体を起こしてきょろきょろと周りを見回し、最後に椿に視線を戻した。


()()()()紅椿(べにつばき)

『今は誘い椿なのじゃが』


 自分で銘打っておいて忘れるとは何事じゃ、と愚痴った椿に外見年齢に見合わない(なまめ)かしい微笑みを返した“()()()”メルクリウスは、怪物と化した魔の王と戦うアイリーンと未来に視線を向けて、「ふむ」と納得顔で椿に向き直る。


「それで今はどういう状況かの?」


 魔の王と必死に戦っている未来とアイリーンに視線を遣りつつ、メルクリウスはやや暢気(のんき)な語調で訊ねる。


『今の納得ずくの空気は何だったと言うのじゃ……。アレがラスボスじゃ。大量の高濃度の魔力を喰らってあんな姿になり果てたが、元は魔の王じゃ。知性も9割方消し飛んでおるが、見ての通り魔蝕の黒き技々キリエ・テラエルエーゼはその肉体に残っておる』

「それはまた面倒だの。それで今代(こんだい)の月巫女――我が名(メルクリウス)を継ぎしこの娘御(むすめご)何故(なにゆえ)失神しとるのかの?」


 メルクリウスは自分の――もといメルの身体をしげしげと眺めて訊く。


(わらわ)が魔力を食い尽くしてしまったのじゃ。そんなことよりメルクリウス。(なれ)も早う力添えせぬか』

「一神器の身で相変わらずの態度だの。お主とて1人では何もできぬのであろ?」

『何をたわけたことを……。所詮(わらわ)は刀に過ぎぬのじゃから当然じゃ』

「そう拗ねるでない。(わし)は寝覚めて間もない(ゆえ)、至らぬところもあろうがの。補い合ってこその神と神器よ。のう? 紅椿(べにつばき)

『補っておるのは(わらわ)だけのような気がするのじゃが……』


 『(わらわ)は誘い椿じゃと言うに』と不服そうに呟く椿を支えに立ち上がったメルクリウスは、同時に床から刀身を引き抜くとそれを水平に捧げ持つ。


玉垣(たまがき)(うち)御国(みくに)(つひ)の三柱神、右天の月神(つきがみ)が捧げ奉る。我が神籬(ひもろき)、従属神たる神通刀(じんづうとう)“誘い椿”の銘を(もっ)て命ずる。神意の調(しらべ)を奏し、破魔の気()()りて、(なんじ)が敵を討ち払え――――神辰奏想(しんしんそうそう)


 メルクリウスがそう唱えると、椿の刀身にゆらゆらと波紋のような模様が映り込み、同時に淡い光が足元から瞬いた。


(おん)(かみ)(かみ)(ほむら)(むすび)(おん)(くら)(くり)(いくは)(かなで)心身(しんしん)刻咒(こくしゅ)雷神之足(らいじんのはこび)!」


 話す神ことメルクリウスの権能は、言葉を用いた事象干渉能力――――つまり言霊(ことだま)だ。簡単に言えば口にしたことを実現させる力。制約も多く万能ではないものの、絶大な力であることに変わりはない。


 ちなみに今、使用した“雷神之足(らいじんのはこび)”は高速駆動を可能にする言霊。


 その効果対象は勿論未来だ。魔剣アンフィスバエナの加護を受けているとは言え、それを除くと生身と言える未来はメルのサポートがあって始めて魔の者と対等の身体能力を得ることができる。


 正しく効果が伝わった未来が即座に高速機動も生かした戦い方に切り替えたのを確認すると、メルクリウスは再び言霊を紡ぎ出す。


(おん)(かみ)(かみ)(ゆかり)(むすび)(おん)(から)(くり)直霊(なおひ)(くずし)荒魂(あらたま)呪従(しゅじゅ)荒神之依代(あらがみのよりしろ)!」


 メルクリウスがそう叫ぶと同時に未来の身体を薄金色のオーラが包み、まるで生きているかのように規則的な脈動を見せる。


 その時、背後のメルクリウスの動きに気付いたアイリーンがチラと振り返った。


「さっきから何かと思えば……ようやく起きたか、メルクリウス」

「主も相変わらずだの、アイリーン。蛇神にでも転生したかの?」

「いいや、言うなれば龍神だよ」


 アイリーンは片手間にメルクリウスにそう返しつつ、尾爪の一閃で魔の王の右腕を斬り飛ばした。


「ギシッ……」

「む……ふむ。腕の一本は覚悟していたけれど、やはり前ほどの力はないか」

「アンフィスバエナ、轟雷砲(アストゥラピ)!」

『――轟雷砲(アストゥラピ)放射――』

 

 魔の王の肥大した頭部に向かって魔剣の刃から放たれた蒼白い光線は、魔の王のもう片方の手に装着された黒い手甲――魔蝕の黒き爪(キリエ・ウリエルエ)に受けられ、同時に未来の左手にスタンガンをくらったような痛みが走る。


 勿論ダメージ反射能力“魔蝕の黒き鱗(キリエ・ミカエルエ)”の効果だ。


 未来は思わず取り落としそうになったアンフィスバエナを右手だけで何とか支えると、焼かれて赤くなった左手に視線を落とす。


「……?」


 負傷から間も空けず、火傷のようになっていた傷口はじわじわとむずがゆい感触と共に綺麗さっぱり消えてなくなった。


 これがメルクリウスの言霊“荒神之依代(あらがみのよりしろ)”の効力だ。長くは続かないものの、対象者はノーリスクで身体強化と自動回復の恩恵を受けられる。ちょっとした火傷で済んでいたのもそのためだった。


 未来はそのことを――つまり自身の身体を覆っているオーラの効力を知らなかったが、即座に“雷神之足(らいじんのはこび)”同様深く考えずにそういうものだと理解した。理解して、それも加味した戦い方を選択できるだけの覚悟が今の未来には宿っていたのだ。


『――属性付加、轟雷剣(アストラプスィテ)――』


 アンフィスバエナの声と共にその刃がバチバチと弾ける蒼雷を纏い、未来は手にしたそれを一拍下げて、そのまま魔の王の背中をなぞるように振り抜いた。


 ブシュッと斬り筋に沿ってできた傷から血が噴き出し、雷撃に一瞬魔の王の身体が仰け反り、赤々と光る目が未来をギロリと睨みつけた。


小僧(コゾウ)ッ!」


 魔の王は振り返りざまに魔蝕の黒き骨(キリエ・サリエルエ)だらけの腕を横薙ぎに振るう。未来はその攻撃を避けきれないと判断し、咄嗟に骨だけを(かわ)しつつ、アンフィスバエナの刃を盾にしながら後ろに跳んだ――。


(おん)(かみ)(かみ)(くさび)(みそぎ)(おん)(きり)(きり)(みこと)(つなぎ)国士(こくし)奉納(ほうのう)神之御力(かみのみちから)

威光領域(ヘリオスフィア)内で私に背を向けるとはさすが魔の者の最上位種。余裕の姿勢も見上げたものだ――――“神炎の裁き(プロミネンス)”」


 ――直後、突如出現した業炎の柱が横から魔の王に直撃し、その表面を激しく焼きながら反対側の壁まで瞬く間に吹き飛ばした。


「言霊による神能強化……君との共闘は久々だね、メルクリウス」

(わし)はまともに戦えんがの。所詮(しょせん)月は太陽の陰に隠れて霞む微かな光よ。してライは何処かの?」


 メルクリウスはきょろきょろと周囲を見回しながら、アイリーンに訊ねる。


「そこにいる未来()だよ。やはり消耗しただけあって、未だに彼の内から力の一部を貸すことしかできないようだけれど」

「力の一部……。“聞く”権能は残っておるのかの?」

「さすがにあるだろうね。ライの力の根本的な部分だ。それすら失っている状態では、()()()()()である未来くんに魔の者と戦う力があるはずがない。アンフィスバエナとの契約もそれを下敷きにしているようだし、問題はないはずだ。それより月の巫女たる依代(メル)の意識は未だ覚めないのか?」

(わし)がこの身体を使役している限りはそういうことになるかの。逆に言えば、娘御が目覚めれば(わし)の加護も上手く作用せぬ。手早く仕留めるが吉よ」

「そのようだね。今ので倒せていればそれに越したことはないけれど……そう上手くも行かないようだね」


 アイリーンの視線の先――そこには巨大な炎柱と共に壁に叩きつけられ、今にも立ち上がろうとしている魔の王の姿があった。


「次こそやるよ、アイリーン」


 雷の魔剣(アンフィスバエナ)をやや下段に斜めに構えた未来が、先に前に立って殺気を(ほとばし)らせる。


「君はホントに成長したね、未来くん……そう、色んな意味で」


 少し嬉しそうな笑みを浮かべて呟いたアイリーンは、メルクリウスに負傷して未だに動けないアルタルやシーカたちのことを任せると、再び竜爪を光らせながら未来の後を追って魔の王に歩み寄った。


「――黒き太陽の棘槍ダーク・フィラメント・スピア――」


 アイリーンがヒュッと手を振ると、次の瞬間空間に出現した無数の黒炎の槍が空を駆け、ザクザクと生々しい貫通音を残しながら魔の王の巨体を壁に縫い付けた。


 その傷跡はシューシューと蒸気のようなものを上げるが、背中や腕の傷も含めて再生する様子はまったくなかった。


「これ以上は再生しないみたいだね」

「体内の魔力が許容量を超えたんだろうね。身体の代謝機能にも支障をきたしている。ついさっきまでは最強の生物と謳われるに相応(ふさわ)しい姿だったが、ここまで来ると最早別の生物だ」

「結局は自滅……なのかな」

「その側面も確かにないとは言えないけれど、ここは我ら地球防衛軍の頑張りの成果としておくのが適当かつ妥当な判断になると私は思うけれど」

「そっか……それもそうだね」


 未来は納得したように頷くと、痙攣するようにピクピクと震える魔の王を静かに見下ろし、ピッと空を裂くようにアンフィスバエナの切っ先を向ける。


「気をつけて、未来くん。この部屋の膨大な魔力はそのほとんどをこの怪物が食い尽くしてしまった。今、アンフィスバエナを支えているのは君自身の魔力だよ。いくら内に私の同胞がいるからといって、あまり無茶をするものじゃ――」

「わかってるよ。アンフィスバエナ、吼魔砲(アフティダ)

『――吼魔砲(アフティダ)放射――』


 放たれた雷弾は黒炎の槍(ダーク・フィラメント)の一部を消し飛ばしながら魔の王に直撃し、その肉を大きく(えぐ)る。


最大威力(アフティダ)でもこれだけ……。アンフィスバエナ、次は魔雷砲(ケラヴノス)轟雷砲(アストゥラピ)吼魔砲(アフティダ)全部」

『――魔雷砲(ケラヴノス)轟雷砲(アストゥラピ)吼魔砲(アフティダ)各個放射――』


 放たれた幾つもの雷弾や光線が魔の王を直撃し、さらにその身体を削り取る。しかし、その欠損は全体を考えれば大したダメージは通っていなかった。


「腐っても魔の王、生存能力は侮れない。死ぬまで殺すにしても何処まで耐えられるかわからないからね。ここは私がやることにしよう、未来くん」


 身体の各所に煌々と輝く炎を纏ったアイリーンがまた一歩前に出てそう言った。


「酷い怪我もしてるけど、大丈夫なの?」

「私の神炎の威光領域オーバーウェルム・ヘリオスフィアは一定期間内に使った神属性魔法を詠唱なしで行使できるだけでなく、私のいるこの空間を一時的に神域――()の領域へと引き上げることができる。これが適用されている間はこの程度で行動不能になったりはしないさ」


 アイリーンはそう言って微かな笑みを浮かべると、魔の王の前にしゃがみこんだ。


「種族が違ってすまないとは思うけれど、私に(いだ)かれて逝くといい、魔の王よ」


 アイリーンの体表面をぼんやりと輝く薄い膜が覆い、アイリーンはそのまま魔の王に擦り寄るように身を寄せた。


 途端――


「グゲャァァァァァァァァ――ッ!」


 魔の王とアイリーンの身体が一瞬で炎に包まれ、その内の魔の王だけが焦げ臭い匂いを発しながら黒く変化し、ボロボロと崩れ始めた。


 太陽(アイリーン)が纏う百万度の光冠(コロナ)に、魔の王の身体は瞬く間に蝕まれ、濁音で構成される悲鳴を上げながら、内も外もなく壊されて消し飛んでゆく。


 未来は三歩下がったところに立ち、アンフィスバエナは構えたままでその様子を眺めていた。


 その時、未来の耳がズルリと湿った奇妙な音を捉えた。そして気になった未来が耳に意識を傾けようとした時だ。


 バキバキバキッ。


「……ッ!?」


 アイリーンの背中から、黒い枝のような物が生えてきた。


 黒い枝のような――魔蝕の黒き骨(キリエ・サリエルエ)が。


「アイリーン!」


 切羽詰ったメルクリウスの声が空間内に響き、同時にロウソクの火を吹き消すように、アイリーンの身体を覆っていた薄い光の膜や髪や肩に纏っていた炎が掻き消えた。そして、貫通した腹部の傷から赤い色の血が流れ出す。


「か……はっ……」


 アイリーンが血を吐き出すと、ゆっくりと立ち上がった魔の王はアイリーンの腹部から魔蝕の黒き骨(キリエ・サリエルエ)を引き抜いた。


「キリイエ・ルエ・カリキレアロ・ルル・リアロ・アルルルイエ・キリカロ・アイロ・アイルイエ・イロカロ・ピリ・クロロリリエ・ピライロ・ルル・リアロ……」


 何語かもわからない言語のようなものを吐いた魔の王は、がくんと崩れ落ちるアイリーンの首に左手をかけると、ぎりぎりと強く締め上げ始めた。


『未来くん!』

「わかってるッ。やめろおぉッ!」


 魔雷を纏ったアンフィスバエナを振りかぶり、未来は魔の王に斬りかかる。


「カリ・キルアロ……サレル・キリエ・サリエルエ」


 右腕のない魔の王は、その未来の攻撃を新たに生やした魔蝕の黒き骨(キリエ・サリエルエ)で受け止めた。同時に刃に触れた部分から魔雷が魔の王の体表面を駆け巡り、無数の火傷のような跡を残すが、魔の王は意にも介さずアイリーンの首を圧し折ろうと力を込める。


「くっ……!」


 尾爪一閃。魔の王の左腕を肘の辺りから斬り落とすと、アイリーンは残っていた手を首から剥がして、膝を折る。


「まさかここまで来て油断していたよ……。仮にも竜の身体を一息に貫通する余力があったなんて……がはっ」


 吐き出した血が黒い床を赤黒く濡らす。


「アイリーンっ。くそっ……アンフィスバエナ!」

『――多連装轟雷砲(ポラ・アストゥラピ)放射――』


 バチバチバチッ!


 (ほとばし)った青紫色のスパークが魔の王を(あぶ)り、立て続けに浴びせられた雷弾が魔の王を壁際ぎりぎりまで押し戻す。


 その隙にアイリーンに駆け寄った未来は、アイリーンの小柄な身体を抱くようにして魔の王から少しでも引き離すように引きずって移動する。


 すると、アルタルたちを看ていたメルクリウスが慌てたように駆け寄ってきた。


「メル……」

(わし)に任せて、(ぬし)はあれを片付けよ」

「えっ!? メル……じゃないの?」


 驚いた未来は、一瞬面食らったように目を見開く。


(わし)は確かにメルクリウス。しかし、この身体の娘御とはまた別…………(ぬし)の中にもライがおろうが、このアイリーンと同じく神と呼ばれる存在かの」

「は、はぁ……」


 一人事態を吞み込めない未来は、さっきと同じくそういうものとして把握だけしておくことにして頷いた。


「それは今はどうでもよい。それより(わし)のいうことをよく聞け、小僧。今からお主はあの異形(いぎょう)の王にトドメを刺さねばならん。無論、(わし)もサポートに入るがの。それに当たって、主に必要な素質がただ一つだけある」

「必要な……素質……?」

「難しく考えずともよい。易しく言えば“聞くこと”かの」

「聞く?」


 未来はアンフィスバエナの刃に背後の様子を映して確認しながら聞き返す。


「うむ。(わし)は話す神、そして主の中にいるのは聞く神である我が旧友ラカワミ=ライ。主にもライの聞く権能が備わっておる(ゆえ)(わし)の言霊の恩恵を最大限に受けられるのじゃ」

「どういうこと?」

「理解が遅いのう……。つまり、(わし)の送信と主の受信を直結させることで、本来なら分散してしまう(わし)の力を最大限に利用できるということよ。ただし主にライの力を使いこなすことができなければその策は(つい)えるがの」

「メル……クリウスは戦えないの?」

(わし)は所詮(うつわ)ありきの儚き存在。この娘御が子を成せねば深き闇に吞まれて死に逝く運命(さだめ)よ。この娘御の肉体が壊れぬ程度に力は抑えられておる。それこそ(わし)にできることといえばこの言霊――話すことぐらいかのう」


 メルクリウスはそう言うと、ゆらりとその視線を未来の背後へと移し、


(おん)(かり)(かり)(くちなわ)(しばり)(おん)(たま)(たま)曲輪(くるわ)(ちぎり)魂魄(こんぱく)縛符(ばくふ)兆鬼之縛(ちょうきのしばり)


 キンッと涼しげな金属音が響いたかと思うと、周囲の床や壁から半透明の黒い腕が無数に現れ、起き上がろうとしていた魔の王の身体を壁に繋ぎ止めた。


「最初からこれできたんじゃ……」

「否定はせんがの。仮に(わし)が主らに手を貸していれば、脅威を退けるのが早まる代償にそこの連中は死んでおったが」


 メルクリウスはアルタルやシーカの寝かされている方を指差してそう言うと、アイリーンの腹の傷を一瞥する。


「これなら死にはせぬ。やはり魔の王が先決かの。お主、未来とか言ったか、(わし)の歌に意識を集中せい」

「歌?」


 未来がそう訊き返すと、メルクリウスはその未来の腕を引き、背中を押して魔の王の方に振り返らせる。


「本来の言霊は歌だからの。あれが相手では(わし)が本気を出さぬわけにも行くまいよ。とにかく耳――聴覚を意識することに従事せい。主が望めば、主の内に眠るライが自ずと導いてくれるであろう。その(つるぎ)を構えよ」

「う、うん……。わかったッ」


 未来が促されるままにアンフィスバエナを構えると、『轟雷剣(アストラプスィテ)』と声が響き、再び刃に蒼白い電流が流れ始める。


(わし)の歌が終わらぬ内に、其奴(そやつ)を塵一つ残さず滅せよ」

「はいっ」

「では――」


 未来は視界に魔の王に収めつつ、背後から聞こえてくるであろう旋律や歌声に意識を集中させる。


 ()()()()()()()()()()()


「……メルクリウス?」

「は、はいっ?」


 返ってきたのは、やや上擦った疑問調のメルクリウスの声。未来が振り返ると、メルクリウス――もといメルはきょとんとした表情で未来を見つめ返す。


 未来は一瞬でその事態を悟った。


 かつてないレベルで最悪の偶然が、最悪のタイミングで起こってしまったことを。


『あちゃあ……』


 アンフィスバエナの嘆息が、事態が限りなく悪化しているのを顕著に表していた。


「ど、どうしよう」

『もっかいメルを気絶させれば!』

「そんなのできるわけないでしょ!?」


 実のところ未来の体術は椿かアンフィスバエナ――つまり武器ありきのもの。無手の戦闘能力では、素人と言う理由でメルには遠く及ばない。かといって、背後で魔の王が拘束を振りほどこうとしてる今、懇切丁寧に説明している余裕はない。


『未来くんの残った魔力を全部轟雷砲(アストゥラピ)に変換して撃ってみる?』

「それ、耐えられたらホントに詰みなんだけど……!?」

『そうなった時はそうなったで……』

「詰んだらそれで終わりだよっ」


 何処か能天気なアンフィスバエナの台詞に怒鳴り返していると、未来は急に耳の辺りに違和感を感じ、聴覚に意識を集中させた。


『――未来、未来……聞こえておるか、(ぬし)よ。聞こえておれば返事をせぬか、ヘタレ顔の小僧』

「誰がヘタレ顔だっ!」

『ようやく繋がったようだの。聞く神の権能を得ても(なお)その程度の同調しかできぬとは、お主(まこと)にライの依代(よりしろ)か?』


 失礼なこと言われた上に無礼なことまで言われた――――と未来がやるせない気持ちになっていると、メルクリウスの声は未来に構わず聞こえてくる。


『この娘御(むすめご)に歌を歌わせよ。何かの想いが乗った歌が良いが、この際何でも構わぬ、その歌に乗せて(わし)の言霊を送り込む』

「歌を……!? そんなことできるの?」

「あの、未来さん、さっきから何を……」


 困惑の表情を浮かべるメルにはどうやら神の存在を認識できないらしい、と結論付けた未来は、集中が途切れないように気を張りつつも魔の王の方を見遣る。


『理論上は可能なはずだがの』

「神様が理論上とか……なんかヤダ」

『お主、神を何だと思うておるか』


 未来はとりあえず神様の方は置いておくことにして、メルクリウスの言った通り、メルに後衛で言霊の歌を要請する。


「メル、今歌える?」


 メルは一瞬はっとしたような表情を浮かべたが、すぐにこくりと頷いた。


 そして、すっと目を閉じる――。


『未来くん、メルクリウス様の兆鬼之縛(ちょうきのしばり)が解けるよ』

「おっと」


 未来が魔の王に向き直ると、後ろからメルの奏でる綺麗な旋律が聞こえてきた。


「あなたと出会ったあの瞬間(とき)に、全て始まっていたんだね……」

(初めて聞く曲……?)

「あの時は知らなかったけど、今ならわかるから……」


 未来は何処かから湧いてくる高揚感に戸惑いつつ、それこそがメルクリウスの言っていた言霊の力だと確信した。


「偶然だとか、必然とか……違うよ。きっとね――――運命だよ」


 メルの語りかけるような、何処か暖かみのある優しい歌声が空間を満たし、未来の意識がその歌に引き込まれるにつれてその動きも鋭敏に研ぎ澄まされてゆく。


「世界と世界が重なって……生まれた奇跡、きっと何かが変わる~」


 未来は“雷神之足(らいじんのはこび)”の高速駆動で魔の王との間合いを瞬く間に詰めると、半ば叩きつけるようにアンフィスバエナを振るう。その目はただアンフィスバエナの切っ先と魔の王に向けられていた。


 そして無駄のない動きで肉を割き、アンフィスバエナを通してメルクリウスから伝えられた言霊の力を――破壊の光を魔の王の体内へと注ぎ込む。魔の王の身体は瞬く間に未来の連撃を受け、差し込まれるようにその体内まで貫かれた傷口から何故かぼんやりとした白い光が漏れ始めた。


「未来が闇に隠されても~。諦めないで、きっと光は差すから……」


 メルの歌声に同調して脈動した白い光がさらに輝きを増し、魔の王の身体がミシミシと軋む音を立てながら歪み始める。


「これで終わらせるんだっ!」


 未来は叫んだ。


 想いを――願いを、メルの歌声と話す神(メルクリウス)の言霊、そして一太刀一太刀に乗せて、誓うように叫んだ。


 そして祈るように手を組んだメルは静かに即興で最後の(ことば)を紡ぐ。


「諦めないで……。私が傍にいるから~♪」


 魔の王の身体から光が(ほとばし)り、全身の傷口が光に侵食されるように広がって亀裂のように割れていく。


「グギギャァァァァァァァァァァ――――ッ!!!」


 魔の王の断末魔と共にそこにいた全員の視界の色彩が消え、輪郭が掠れるようにぼやけて、全てが一度消えた。


 そして、世界が再び息を吹き返した時、ただひとつだけ――――侵略者の存在だけがこの世から消滅していた。


「終わった……のかな」


 未来は脱力するように手にしていた魔剣キュアノエイデス・アンフィスバエナを取り落とすと、その場にどさっと尻餅を衝いた。アンフィスバエナは塔ごとわずかに傾いた床の上をガランガランと金属音を響かせながら滑り、壁に当たって止まる。


 そして、つつっと同じように床を伝って流れてきた赤い液体が少しずつそこに溜まり始めた。


『未来くんっ……』


 アンフィスバエナの声が未来の頭の中に響き、ずきん、と不意に痛んだ頭を抑えようと持ち上げられた未来の腕からもふっと力が抜ける。


「未来さん!」


 駆け寄ってきたメルが名前を呼ぶ。


「メル……勝ったよ。僕たちが勝った……」

「わかってますっ。わかってますからっ、喋らないで下さいッ」


 メルの目から涙が溢れ、未来の腹部に()()()()()()()()()魔蝕の黒き骨(キリエ・サリエルエ)の破片の上に零れ落ちる。


 魔の王が遺した最後の一撃は、今、未来の命を刻一刻と削っていた。


 メルクリウスの加護の言霊――荒神之依代(あらがみのよりしろ)の効果はその直前で切れ、治癒の段階を飛ばした再生は発動しない。


「メル、未来くんをこっちへッ!」


 自身の腹部の傷を抑え、床に這いつくばったままのアイリーンが血を吐きながら叫ぶ。


「勝った、勝ったんだ……世界はもう大丈……」

「未来さん、しっかりしてくださいっ。今、アイリーンさんが治してくれますからっ。こんなところで死んだら今日のご飯抜きですからねっ!」

「それは……勘弁してほしいなぁ……」


 未来は急激に視界がぼやけ、薄れていくのを感じ――――そこで意識が途切れた。

 恥の多い文章を書いてしまいました(違

 初めましての人は初めまして、またお前かの人はまた私だ。(三度目にして最後)


 お久しぶり過ぎて申し訳ない気持ちでいっぱいの「リレー小説:重なる世界の物語」最終(決戦)話担当、立花詩歌です。


 リレー小説30話目。極めて王道で締めようと努めました(自称)

 結果、文字数は37000文字になってしまい、その関係で自身の連載がストップするというダメ作者の王道突っ走ってしまいました。

 そして随分と読みにくくなりました(時間が空いたのと文字数が多いのとダメ文章という意味で)。

 最終話(エピローグ?)はまだ誰が書くのかわかりませんが、おそらくは後日談になるかと思います。後日というのが、あるいは作中の日付的には同じ日になる可能性も十分にありますが。

 それに辺り、私から最終話執筆担当者の方にお願いがあります。

 こんな終わり方をしておいてなんですが……


 ハッピーエンドでお願いしますorz


 ここで未来くんがアレなことになったら非難の嵐です(;==


 では読者の皆様、次話までよろしくお願いします!


唄種詩人

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