主人公は遅れてやってくる
リレー小説第29話です。
担当 :ルパソ酸性
代表作:TRPG MMO 白紙の世界(http://ncode.syosetu.com/n2043bk/)
最初は、なんてことのないことだったのかもしれない。でも今はかけがえのないものなんだと、改めて彼が認識するのは、数億年越しになったが、難しいことではなかった。
また、あの頃みたいに。
そう、願っていた。
倒した先全てが王へつながる訳ではなかった。もしこの世界がよくできた物語で、未来が主人公だとしたら彼の進む道に王へとつながる道ができるのが筋だろう。だがそんな筋書き通りの事など起こるはずもなく、壁が消え、道が現れたのはシーカ達の道だった。
「どうする? みんなを待ってもいいけど」
「待つ気なんて無いだろお前」
「へへへ」
「シーカさんの性格からしてあり得ませんからね」
本来なら待つべきなのは理解はしている。しているが、だからと言って大人しくなんて待っていられるメンツでもない。倒せればよし。倒せなくとも、後続としてくるであろう未来たちに王の情報を少しでも多く与えられる。
その考えに、アルタルが少しだけ、ほんの少しだけ異を唱えた。
「シーカは待機だ」
「はっ!?」
「俺らの中では一番死ににくいだろ。ページ飛ばせば逃げるくらいはわけないだろうし」
「いやいやいや! はいそーですかと納得できるわけないでしょ!?」
この大一番でお預けをくらうなどごめん被るといった風のシーカだが、勤めて冷静にサンスは理由を述べる。
「全員が死んだら、誰が伝えるんです?」
「ッ……それは……死ななきゃいいだけでしょ!」
全員が死んだら先に行って王の手の内を少しでも多く暴いたところで死ぬ前に未来に伝えられねば意味がない。そう言ってもシーカは引けなかった。侮られているのでは。足手まといはごめんだ。挫折も経験した彼女の中では置いていかれるというのはそう言った意味も持っていた。自分の実力を疑われるのは何よりも辛い。
それでも、サンスとアルタルも譲るわけにはいかなかった。二人とも逃げるのには向かない力のために、戦況がまずくなってもすぐに逃げられるわけではない。倒せればよしだが、そんな簡単にいくはずもないのだから。
結局、長く話す時間もなくシーカは後方で待機しながら観察を行うことになった。
* * * * *
「これが……王?」
その呟きは誰のものだったのか。進んだ道の先にあった開けた場所にあったのは、一つの玉だった。
完全な球体。それが脈動している。
「……敵がこんな近くまで来てるってのに、動かないなんて。舐められてんのかしらね」
「あるいは」
「まだ目覚めてないってこともありえますよ」
幾つかの憶測が飛び交うが、どれも所詮は憶測に過ぎない。観察されているにしろ目覚めていないにしろ、舐められているにせよ、初手を譲っている。それがアルタルにとっては重要だった。
「かもな……まあやることに変わりはねえけどよ。万全で叩けるんだからありがてえや。シーカ、入り口付近で観察しててくれ。サンス」
「了〜解」
軽い返事とともに、サンスの両腕が青黒い液体に覆われていく。それに合わせ、アルタルも力を込めようとするが不意にその動きが止まった。
「王に触れさせると思う? 筋肉は筋肉らしくしてればいいのに」
「真夜か……! セルスをどこにやった!」
「……誰よ、あのいけすかない女は」
「御伽噺の中の魔女ご本人だ」
唐突なその回答にサンスとシーカは声を揃えて「はっ?」と抜けた声をあげたが、アルタルはそれを気にしている暇もない。抱きかかえて行ったはずのセルスがいないことに気が気ではなかった。
「あの子をその名で呼ぶなと言ったのにね……筋肉には言葉も通じないのかしら。」
「どこにいる!」
「せっかちね。あの中よ。王の器には最高の素材だもの」
指をさした先にあるのは、あの玉。
「王は、昔私が幸治に阻まれたときに復活する一歩手前まで来てたのよ。でも、王は体を持たない。入れ物が必要だったのよ。アイギナって、聞いたことない? それが凪のことよ。私の可愛い後輩」
「てめえ、セルスを……後輩を生贄に使ったのか!」
「王を操って私たち三人だけの世界にするためだもの。凪だって王から取り出す術も作れたし、何ら問題ないわ。でも、ダメだったけど。王に取り込ませる前に妨害に来た幸治と戦いになってね、その時に、あの子自分で命を絶ったのよ。取り込まれて、自我がなくなる前に」
なんてことのないように話すその内容は、とてもではないが看過できるものではなかった。シーカもサンスも殺意が抑え切れていない。アルタルですら、ふとした拍子に溢れてしまいそうになっている。
だが、まだ。
必死に蓋をしてでもまだ攻撃するわけにはいかない。気分良く相手が語ってくれているうちに、少しでも情報を得たかった。セルスが取り込まれているなら、取り出す方法なりを考える時間も必要だった。
「動揺してたのがいけなかったのね。そこで幸治に私は別次元に飛ばされた。戻ってくるのに果てしない時間がかかったわ」
「なんで、またセル……凪とやらを選んだ! 器なら別の奴でもよかっただろう!」
「最初はね。でも、今はもうあの子じゃないとダメなの。過去に一度取り込まれて体を王のものに、男の体に作り変えられている最中に幸治に邪魔されたから、王の一部が凪の中に残っているのよ。でも、今回は違う! これで王は完全になった! 私たちの理想の世界がーーー」
「人間が、ワタシヲ、操れると思ウなよ」
『えっ?』
突如声が聞こえたと同時に、脈動していた玉……王から幾つもの手が伸びた。三人も、真夜も、反応ができなかった。手に絡め取られた真夜は、それ以上言葉を発することもできず王の中に取り込まれた。
「な、何が……?」
「永かッた……
数億年待たさレたのだ、意趣返しも込メた食事をしたダケだ」
脈動が止まる。
辺りの空気を掻き毟るように腕が蠢く。
邪悪で、歪み、汚泥のような気配が玉から発せられる。
浮いていた玉から泥がこぼれ落ち始め、形を作り始めた。
「あ……」
「嘘……」
「ふむ、此度は成功カ。我が軍勢達相手になカナか良い戦いをヲしていルようだナ貴様達は。三眷属もやられテいる……面白い」
髪が足元まで伸び、肌に黒い紋様が浮かび上がっていたが、それは紛れもなくーー
「遅かったか……!」
「遅イ? 私の降臨ニ立ち会えたノだ、むシろ最高のタイミングだ」
ーーセルスだった……
「これは……やりずらいですね」
「それでもだ。やるぞ」
「そ、それなら」
「くどい! お前は生きろ。絶対にだ。こいつの強さを、俺たちが少しでも暴く。未来がくるまではなんとしてでも持ちこたえるーー」
「話しテいる暇があるノか?」
一瞬だった。
隣にいたサンスが壁にまで吹き飛ばされた。
壁は轟音をたてて崩落し、壁にめり込んでいた者もろとも押しつぶす。
王の体勢からサンスが殴られたのだと気づくまで、何の反応もできなかった。
「サンス!! このぉ!」
「フフフ、こレでは勝負にモならんか? 本調子に戻るまデの準備運動のつもリだったガ」
王が完全に舐めていると気づいたアルタルとシーカはこれをチャンスと取った。未来が来る時に、舐め切った今なら自分たちでも大ダメージを負わせることが出来るかもしれない。
それに、今飛んで行った男もただでは死なない男だ。
ブシュアアアァァァァ……
気味の悪い溶けるような音とともに王の右腕が腐り出し、肩から先が地に落ちた。
また、瓦礫も溶解しだし、埋れていたサンスが現れた。血だらけで倒れており、起き上がることもできないが、中指を立てて王に向けていた。
「……ヌ?」
「ゲハッ……て、手癖のわるい王様だが……右腕はもらった……!」
「ホう、酸を使えルのか。だが、コレ程度ならしばらくしていれば生エるぞ」
言葉通り、落ちた肩から先はだんだんと中から肉が出来上がり始めている。
だが、サンスはそれを鼻で笑う。
「バーカ……お前の手は二の次さ。かっこ良く勝つのは主人公の役目だろ」
崩れた瓦礫の後ろには、大穴が出来ていた。
「穴……まさか!」
「さすが、ただでは死なない奴ね!」
「あれが王か……みんな、遅くなってごめん。穴が空いたおかげでスグに来れた」
もし、この世界を一つの物語とするならば、主人公となるであろう人間が。
「主人公の到着だ……あとは任せるよ」
「任されたよ。この戦いを終わらせるぞ、アンフィスバエナ起動だ」
『久々の出番だ、派手にやろう!』
白河未来が、来た。
どうもお久しぶりですルパソ酸性です。
今回スランプのなかヒーコラいいながら書きました。それでも、今できる精一杯でやったつもりです。
みなさんとこうして一緒に作った作品ももう終わりに近づいていて、そのすぐ手前を任していただいたことは最高の経験となりました。こうしてまた一緒に作品を作る機会があれば、ぜひやりたいものです。
キャラは手元を離れ、様々な人たちと共に成長していきました。未来君も、作者である皆様や読者の皆様とともに成長して、いまや立派な主人公として嬉しい意味で個として手元を離れました。
願わくば、この作品が皆様とのつながりの一端を担えることを……
とまあ真面目くさったことを言いましたが、ようは皆様、最終回までお付き合いくださいねってことです!
私の出番はここまでです。
それではみなさん、また別のリレー企画を愛さんがやってくれるまでさようなら^_^
ルパソ酸性




