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リレー小説:重なる世界の物語  作者: リレー小説ALLプロジェクトメンバー Ver.1.3
28/31

三眷族

リレー小説第28話です。


担当 :キトP

代表作:赤い小悪魔とシルバーバレット(http://ncode.syosetu.com/n9274br/)

 時はしばし遡る。各層で「魔の者」達との激しい殲滅戦が始まった頃、未来達はついに螺旋の塔へと足を踏み入れていた。


「……未来さん、皆を信頼してるのでしょう?」

「ああ……、分かってる」


 メルは背後を振り返る未来に声をかける。未来も強く頷くことで返事とし、覚悟を決めたように正面を向いた。

 後ろ髪が引かれる気持ちも残るのは確か。それでも、背中を仲間に任せたのなら未来達は前を見据えるしかない。


「――それにしても、参ったね。密かに突入したはいいけれど、早々にこんな場所に出るなんて」


 キートがぽつりと嘆く。今、全員の目の前にあるのは三つの通路に分かれる入口だった。


「三叉に分かれた道、ですか……」


 メルが難しい表情を浮かべる。サンスも応じるように言葉を紡ぐ。


「しらみつぶしに進む、というのも非効率的ですね」

「でも、それしか方法がないじゃない? 一つずつでも確実に潰していかないと……」

「いや、三つの道を同時に進もう」

「ちょっ、未来!?」


 途中で言葉を遮られ、思わぬ意見を差し挟まれたシーカは勢いよく振り返る。だが、未来は落ち着いた声で続けた。


「世界の命運が託されてる。それも、一刻も早く事態を収めないと局面はどんどん難しくなる。無駄な時間は費やしてられないよ」

「でも分かってるの、未来? 三つの道を同時に進むってことは、つまり……」

「このチームで、さらに三つに分かれるしかない」

「無茶過ぎるでしょ? だって、向こうが単独で待ち構えているとは限らない。まして、私達が相手にしようとしてるのは魔の者達の『王』なのよ」

「――シーカさんの言う通り、現状でさらに戦力を分散するのは、私もあまり得策だとは思いません」


 未来とシーカの議論に割って入ったのが『神原幸治科学武器No.EX』こと、かつての神原幸治を模した人工知能だった。実際の戦闘こそ不可能ではあるものの、未来達を導くナビゲータとしての役割を『No.EX』は担っていた。

 しかし、ここにきて『No.EX』に異を唱える者がいる。


「全てを僕達にかけたのではないんですかね」


 言葉を挟んだのはキートである。


「確かに皆でまとまった方が安全かもしれない。けれど僕達がここに来たのは誰かの背後に守られるためではない。各々が覚悟を決めて戦いに臨んでいるんです」

「それは……、その覚悟は当然私にだってあるけどさ……」


 シーカは顔をしかめる。言葉を継いだのはサンスだった。


「未来さんの言う通リ、かもしれませんね。やたらと時間をかけてしまっては、外で侵攻を食い止めてる皆さんにも迷惑がかかる。少しでも早く『王』を倒さないと、戦いはどんどん不利になりますから」

「……みんながそれでいくって言うなら私も従うけどさ」

「シーカサンは、不安なのですカ?」

「あのね、私はどんな敵が来ようと蹴散らす自信があるの。でも、バラバラになっちゃったらみんながピンチになったときに助けることができないでしょ」

「それこそ余計な心配だよ、シーカ」


 未来が真剣な表情で口を挟む。


「さっき、キートも言ってた。ボク等は誰かに守られるためにここに来たわけじゃない」


 強い口調で放たれた決意に、シーカはようやく心を決める。最後に、まだ意見を述べてない一人へと問いを投げた。


「分かった。――メルはそれでいいんだね?」

「……ええ、皆さんがその覚悟であれば。もとより、私達は最初から勝つつもりで臨んでいますからね」

「だったら、さっさと組み分けして進もう。時間がもったいないんでしょ?」


 方針が決まれば切り替えも早い。シーカは急かすように未来を見る。


「組み分けか。とすると……」

「右の通路は僕が行きましょう。残りの通路を他の皆さんでお願いします」


 突然のキートの言葉に、すかさずシーカが反論する。


「ちょっと待ってよ! まさか一人で行くつもり?」

「アムールやフーリィ、それに『No.EX』を除けば、ここにいるのは五人。いずれにせよ誰か一人は単独で進む必要があります」

「しかし、いくらなんでもあなた一人では……」


 今度はメルが心配そうに口を開いた。ただ、キートは笑って応じる。


「大丈夫ですよ、メルさん。マイペースで行動するのは僕にとっていつものこと。ただ、代わりにというのもあれですが、『No.EX』にも共に来てもらおうかと思います」


 すっと手を伸ばすキートに、メルは思わずというように手に持った『No.EX』を渡した。


「未来さん」


 話を進めるようにとキートが視線を向け、未来もはっとする。


「――メル、ここはキートに任せよう。きっと勝算があるんだろう。あとは残りの組み分けだけど……」


 結局、残りの通路のうち真ん中を未来とメル、それからアムールの背に乗るフーリィが進む。残った左の通路をシーカとサンスが進むことになった。一瞬だけシーカが諦め悪そうにフーリィのことを見たのは、きっと彼女と共に行きたかったのだろう。

 最後に未来が号令をかける。


「それじゃ、行こう」



====================



「うー、どうしてこういう組み合わせなのかな」


 未来達が各々の通路へと散開してしばらく後のこと。薄暗い通路を進みながら、シーカがぶつぶつと不満をこぼしていた。


「……私と一緒が、そんなに不満ですか?」

「別に、そんなんじゃないわよ!」


 サンスが声をかけると、シーカが食ってかかるように振り返る。


「私はただ、フーリィと一緒に来たかっただけ。どうしてフーリィ、こっちに来ないのよ?」

「やっぱり、不満なんだ……」


 ぽつりと小さく呟かれたサンスの言葉はシーカの耳には届かなかった。


「ま、でもこうして少数で行動した方が、味方への被害も考えなくていいから楽かしら」

「おや、反対していた割には随分と乗り気」

「私だって頭ごなしに反対してたわけじゃないけどね。でも、考えてみたら通路の全てに敵がいる、さらには『王』が控えてるとも限らないわけだし」

「あれ? やっぱり戦うのは不安?」

「違うわよ。私が『王』もろともやっつけちゃえば、話が一番早いじゃない。この通路が当たりだったらいいなってこと」

「それ、違うと思う……。外れだよ、死亡フラグでしかない……」


 シーカの自信の源が、飛躍的に向上した彼女の実力であることに起因するのは知っているが、それでもサンスは呆れ返るしかなかった。

 やがて二人は比較的広い小部屋へと至る。そこで待ち構える魔の者がいた。


「あら、当たり?」


 シーカは不敵に笑む。


「違うって、どちらかというと外れ……」


 天井に届こうかという背に翼を持つ魔の者を見上げ、サンスも呟いた。


「――アタリモハズレモ、ナイ。キサマラハ、ココデシスベキウンメイ。ワレハサンケンゾクノヒトリ、コンガラナリ」


 突如、無機質な声が小部屋に響き、石像のような魔の者の視線が二人の侵入者を射る。同時に背後の通路が激しく崩壊し、退路が無くなった。


「引き返す道はナシ、ってことね」


 シーカの声はどこか弾んでいる。


「三眷族、って言ったわね? ということは……」

「他の通路にも、同じように魔の者が控えてると考えた方がよさそうだね」


 その先に控えるのは、当然『王』だろう。


「……サンス、ここは私に任せてもらってもいい?」

「大丈夫なの?」

「この先に『王』が控えてるなら、あなたは余力を残しておきなさい。あなたの力は使うほどに消耗するんだから」

「それは、シーカも同じ……」

「ええ、でもあなたほどじゃない」


 この一年で伸ばした下地もある。それが自信につながってる。


「――ナガイハナシハ、オワリカ? ハヤク、コイ」

「ええ、お望み通りに。悪いけど、瞬殺よ」


 笑いながらシーカは『神原幸治科学武器No.6』を手にする。


「アジュラ! 『全展開・攻撃形態にて待機』」


 瞬間、ぶわっと無数とも思える紙が小部屋に舞った。



====================



「三眷族の一人、アチャラ?」


 中央の通路を進んだ未来達もまた、三眷族と称する魔の者と対峙していた。未来の正面に陣取るのは大剣を片手に控える、人型の魔の者。ただし、その全身は黒い鋼のように光沢をたたえている。


「――メル、ここはボクが行く。フーリィとアムールもお願いだからメルの側で待機していて」

「分かりました。ですが……」

「うん、後方支援は頼むかもしれない。三眷族ということは、この先に本当の『王』がいるんだろうと思う。解放するのは『椿』までだ。『アンフィスバエナ』はまだ解放しない」


 こんな状況下で、後のことを考えて余力を残そうとするのが吉なのか、それとも愚かなのかは分からない。ただ、ここで全ての力を費やしてしまっては、その後の苦戦は目に見えている。


「――行くよ、椿」


 未来は妖刀・椿を顕現させる。


『我はいつでも構わんぞ、主よ』


 その声に背を押されるように、未来は一直線にアチャラと名乗る魔の者へと走り出した。


「キシシ、来るか! 命知らずめ」


 魔の者が発する甲高い声が部屋に響く。両者の間合いはあっという間につまる。次の瞬間、大剣と刀がぶつかり合い周囲に火花を散らした。


「ぐっ!?」


 椿を介して相手の力が未来に伝わる。一瞬で押し潰されそうな腕力だった。

 やはりというか、強い。


『――避けよ、主!』


 地に足つけた瞬間、椿の声が脳裏に響く。未来のすぐ目の前に、金剛の拳が迫っていた。


 ――迅っ!


 椿の声が一瞬でも遅れていたら、未来の頭はトマトを潰すがごとく簡単に弾けていたことだろう。未来は後方へ飛び、すれすれで緊急回避する。


「……マジかよ。パワーもスピードも桁違いじゃないか」

『臆すな、主よ。死ぬぞ』

「分かってる!」


 やはり後方からの援護は必要かもしれない。未来はちらりとメルに視線を送る。

 一方のメルは神にお祈りを捧げるかのように、胸の前で両手を組み目を閉じている。援護の準備はすでに整っているようだった。


「――ここからが本番だ。椿、まずはあいつの背後を取る」

『その意気ぞ』


 励まされるように未来は強く地を蹴る。


「キシシ、まだ来るか。その程度の速度で俺を捉えることができるものか」


 だが、次の瞬間に信じられない現象が起こる。未来の身体が常人では到底考えられないほどの加速を見せたのだ。


「――ッ! なっ!?」


 アチャラは明らかな狼狽の色を見せる。その耳に届いたのが、優しく柔らかな歌声。


「~♪」


 歌声の主は未来の背後にいる少女、メルのものだった。


「まさか、歌声で?」

「――これがメルの力だ!」


 アチャラの目にすら留まらない速度で未来は背後を取る。光を弾く金剛の背を、未来はしっかり射程に収めていた。

 サポートの力を言葉に乗せ、歌として発することで対象の能力を上昇させる。この一年でメルに目覚めた新たなる力。これが"話す神"メルクリウスの能力に由来していることを、未来達はまだ知らない。


「勝負ありだ!」

『うむ』


 未来が手に持つ椿から、渾身の一撃が放たれた。



====================



「――それでは、あなたは最初から三眷族が立ちはだかることを知っていた、と」

「ええ。そして、今の未来君達の力をもってすれば各個撃破も可能かと」


 右の通路を進んだキートと『No.EX』。すぐ目前には小部屋の入口も見えているが、その手前で立ち止まりキートは『No.EX』の投影する神原幸治の像と言葉を交わしていた。


「三方同時の進行は、未来君が提案しなければ僕が代わりに提案していたでしょう。そして迷わずこの道を選択していた」

「……私が見込んだ者達の中でも、あなたは特に異質と感じます。それは私の持つ知識をもってしても答えを導くことができない。この際ですから聞かせてもらいますが、あなたは一体何者ですか? ――キート・エルース・ピーバックさん」


 少しの間があった後、キートは静かに言葉を紡ぐ。


「……地球外生命体、といえば分かりますか?」

「――まさか!」


 にわかには信じられない、と『No.EX』は言外に込める。くすりとキートは笑った。


「この姿は仮の姿。周囲の元素を集散し、幻のような存在を形づくっているだけ」

「しかし……、とすればあなたは本来、魔の者達の側に立つ者。そういうことにはなりませんか?」

「本来ならあなた方の立場であるはずの者が、僕達の側に立ったこともある。ならば、その逆があるのもまた然り」


 すると、『No.EX』から投影される神原幸治の表情は曇る。


「……七億年前のあの出来事は、全て私の過失によるものです。後悔してもし尽くせない」

「ええ、責任の半分はあなたかもしれません。ですが、残りの半分は僕にもあるかもしれませんね」

「――え?」

「あなた方は我々に向けて、招致のシグナルを宇宙に放った。――そしてシグナルを受け取ってしまったのが、僕だったというだけのことです。何しろ、僕も行方の知れなくなった親友を見つけ出そうとしていたわけですから」

「では、我々が発見してしまったあの謎の死体は……」

「残念な事故だった、というほかありませんね」


 キートはさらりと言い切った。『No.EX』はさらに問う。


「私達と行動を共にする、ということはあなたにも目的があるからなのでしょう。一体、何が狙いなのですか?」

「さて……、強いて言うなら僕にとって大切な存在を守るため、というところでしょうか」

「大切な存在?」


 対するキートは頷く。


「有機知性体は不完全で不安定な存在である、これが無機知性体である僕達の導き出した結論です。そして僕達の制御の下、有機知性体はその不完全性を律することにより全宇宙の理と同化する。僕達の素体たる『王』が導き出した結論です」


 ですが、とキートは続ける。


「僕は『王』の方針を是とも否とも断じません。結果がどちらに転んだとしても、僕の関心を引くところではない。長い宇宙の歴史の中で行われる、生命体淘汰の一種でしかありませんから。――ただ、僕も心というものを持ってしまった身。彼女だけは未来君達と対峙させるわけにはいかなかった」


 言ってキートは通路の先を見据える。同時に『No.EX』は全てを悟った。


「ならば、あなたの守りたい大切な存在というのは……」

「ええ、セタッカという名の三眷族の一人。そして僕の守りたい存在。――心というのは厄介ですね。理論通り、計算通りに動くことはない。そう思いませんか?」

「……それを私に尋ねますか」

「当時の事情や想いなど、到底比べものにはならないでしょう。それでも、同じ心の葛藤を味わった者同士、通ずる部分もあるかもしれないという僕の勝手な推測です」


 『No.EX』はしばし黙し、やがて言葉を作る。


「あくまで、私は神原幸治の人格を模した人工頭脳に過ぎません。神原幸治本人の再現というわけにはいかないのです。――が、あえて述べましょう。私はいわば過去にとらわれた亡霊。自由に目的を果たすことのできるあなたがとてもうらやましい」


 するとキートは笑む。


「そうかもしれませんね、僕は恵まれてるかもしれない。――そろそろ向かいましょうか。僕達のことをお待ちかねだと思いますので」

「勝算、というのもおかしいかもしれませんが、どうするつもりなのです? あなたの言うことが本当であれば、三眷族全てが倒されないと『王』の下へと続く道は開かれないはずですが」

「倒される、というのは少し語弊がありますね。正確には場の守護を守り切れなかったとき、という話です。戦闘不能のみならず相手の降参や戦場離脱もまた、『王』へと続く道が開かれる契機となります。――ちなみに一つだけ確認しておきたいことがありますが、遠隔操作による『神原幸治科学武器』の起動は可能ですか? つまりは、全てのブレインたるあなたの意思により『神原幸治科学武器』を操ることは可能かということです」

「その口調では、恐らく私の答えも見透かしていることでしょうね。答えは「可」です。――しかし、それで一体何を?」

「セタッカの動きは私が止めます。そしたら、この『神原幸治科学武器No.10』を起動してもらいたい。――転移軸は三次元ではなく、八次元で」

「――八?」


 正気かと問うような『No.EX』にも、キートは落ち着いて応じる。


「僕達にとっての時間の概念など、所詮はあなた方とは異なるものです。僕達が干渉できるのは第七の次元まで」

「だとすると、転移軸を八次元に定めてしまっては、あなた達は転移先の次元で身動きが取れなくなってしまうのでは?」


 実際のところ、キートの望み通りに『神原幸治科学武器No.10』を起動することは可能である。それは同時にキートの存在そのものを消してしまうことにも等しい。しかし、キートはそれでいいと言う。


「そのために、優秀なるあなたに同伴してもらったわけですから」

「はてさて、それはどうでしょうか。――そもそも、この世界の次元構造において第十次元まで存在するということは、二十一世紀初頭までの理論物理学の分野で証明されていました。私はその応用として『神原幸治科学武器』のシリーズを生み出したにすぎません」

「だが、それが大きかった。僕達の干渉可能次元が第七次元までということを解明し、その上で対策を取ることができたのはあなたしかいなかったことでしょうね。あなたの生み出した武器は全て、ある共通した攻撃パターンを持つ」


 すなわち、魔の者達の干渉可能次元よりもさらに上位の次元を介しての攻撃。既存の武器ではダメージを与えることすら難しかった人間側の反撃を、『神原幸治科学武器』は可能にした。『神原幸治科学武器』の最大干渉可能次元は実に第九次元である。


「あなたにとって残念だったのは、その原理を完全に理解する者が他にいなかったというところでしょうか」

「……いや、当時の襲来を食い止めることができた、という結果が出せただけでいいのです。私が生み出したのは所詮は武器、強大過ぎる力は秘匿された方が好ましい」


 するとキートはふっと笑い、先へと踏み出す。


「おしゃべりが過ぎましたね。時間です」

「――覚悟は?」


 再度、確認を取るように『No.EX』が尋ねる。


「できてなければ、この場にはいません」


 キートの答えを聞き、彼の決意が固いことを『No.EX』は知る。


「仲間を信頼し、愛する者に想いを寄せる。心という御しきれない代物をもって生まれた我々ですから……」


 呟かれた言葉は何を暗示するものだろうか。キートの戦いもまさに始まろうとしていた。



====================



 光と闇が激しくぶつかり合った。不定形な二体は絡み、ほぐれ、対をなすように動く。この戦いの場に、形を有する存在はもはやいない。


「このような変形を未来君達に見せるわけにもいきませんでしたからね」


 キートはそう笑いながら溶けるように姿を変えた。これまでの仮の姿を解放し、戦いに臨んだのである。

 異形同士の衝突は、常人による戦闘の常識を遥かに超えた。


「――うぬ、おのれ! この裏切り者め」

「それでも、これが僕の答えなのです。批判は甘んじて受け入れましょう」

「何故! 何故、『王』を裏切る?」

「僕にとって最重要な存在は貴女だったというだけのこと」

「愚か者よ。私は決して従わぬぞ」

「今はそれで構いません。いずれ僕達は一に戻るのです。隣り合い、決して交わることのできぬ次元の狭間にて」


 同時に光が一際輝き、闇を呑みこむ。キートが抑え込みに入ったのだ、ということだけ『No.EX』はなんとなく理解した。


「――今です! 『神原幸治科学武器No.10』の起動を」


 しかし、『No.EX』は動かない。


「……本当に、私が起動させてしまってもいいのですか?」


 他ならぬキート自身の決意。とするならば、起動もまたキートの手により行われるべきではないのかと『No.EX』は考える。託される側にとっても重い選択であることに変わりはない。

 ただ、キートは告げた。


「僕自身による起動は、『神原幸治科学武器No.10』もろとも異次元へと転移してしまいます。しかし、『神原幸治科学武器No.10』はこの世界に残しておきたい。いずれ、この『科学武器』は未来君にとって大きな助けとなるかもしれないですから。――時間相転移、という面においてね」


 第七の次元にまで干渉可能だからこそ、その本質を突きとめることができたのだろう。『No.EX』も理解はしていた。『神原幸治科学武器No.10』の機能を本当に有効活用すれば、空間の転移だけでなく時間軸の転移も可能だと。すなわち、過去からやってきた白河未来は『神原幸治科学武器No.10』を使って再び過去に戻ることも可能だと。

 このことを、未来達はまだ知らない。『No.EX』は理解していたが、あえて伝えてはいなかった。世界の命運をかけた大事な局面だったから、すべてが終わった後に改めて伝えるつもりだった。

 これもまた、キートの固い決意だと知る。『神原幸治科学武器No.10』なしで別次元へと旅立てば、文字通り不帰の旅路となる。しかし、もはや『No.EX』にためらう理由はなくなった。


「――おのれ! 放せ!」


 三眷族のセタッカは叫ぶ。対するキートの声は穏やかだ。


「さあ、一緒に行こう。今度こそ僕達は自由を手に入れるんだ」

「世迷言よ。放しなさい! 放せ、ハナセ――」


 しかし、既に『神原幸治科学武器No.10』は起動していた。ぼうと薄黄色に輝く球体が出現し、異形の者達を包む。騒がしい音までをも飲み込むかのように広がり――消えた。

 しんと、つい先程までの戦闘が嘘であったかのように、小部屋に残されたのは『No.EX』のみであった。もう、キートも三眷族のセタッカもいない。

 これで『王』への道は開ける。しかし、はたしてこれでよかったのだろうか。やがて『No.EX』はぽつりと呟く。


「……私は信じますよ、キートさん。この選択が正解だったということを」


 それしかない。残された者達にとって、まだ本当の戦いは終わっていないのだ。


「――やはり、彼は決断したか」


 不意に声が響く。部屋の入口に立つ者がいた。


「アイリーンさん。ここに来た、ということは第一層はすでに?」

「残りはサミール達に任せてきた。ちょいと失念していたことがあってね」


 さすがの読心能力を有する彼女も、人工頭脳たる『No.EX』の思考は読めない。これが生身の神原幸治であったなら読めたかもしれない。

 ただ、『No.EX』もさすがにという部分はある。


「未来さんなら、真ん中の道を選択しましたよ」

「それは分かっているさ。何しろ私は"見る神"なのだから」

「それでも、こちらの道を選択したと?」

「致し方あるまい。そなたを誰が運ぶ? 心配せずとも、未来達とは『王』の控える間で必ず会うことができる。その時にやり残したことを果たすだけさ」

「それは、とんだお手数をおかけしました」


 今さらであるが、キートのいなくなった現状で『No.EX』が先に進むには、別の誰かの手が必要だった。ただ、己の役割もここまでかと思う部分もあった。

 しかし、アイリーンはそうでないと告げる。


「そなたには、まだ果たすべきことが残っておる。つけるべきけじめは、ちゃんと済ませてもらわないとね。――だから、私はこっちに来たのさ」


 彼女の言う「つけるべきけじめ」とは何か、『No.EX』は漠然とながら理解できる気もした。ただ、その前に一つだけ問題が残っている。


「他のところは、はたして大丈夫なのでしょうか? 三眷族が全て片付かないと、『王』へと続く道は開かれないはずですが」

「そう心配することでもなかろう。そなたのサポートもあったのだ。強くなっている彼等を、もう少し信頼してやってもよかろうに」

「……そうでしたね」


 苦笑を浮かべる『No.EX』。アイリーンの言う通り、先へと進む道はすぐに開けることだろう。



====================



「――瞬殺って、どれくらいかかるものなの?」

「うるっさいわね! ちょっとした遊び心ってやつよ」

「シーカさん、さっきからソレを言い続けて、すでに三十分以上が経過してると思うんですけど」


 三眷族・コンガラと激しい戦闘を繰り広げるシーカの様子を、サンスは意外なほどのんびりと眺めていた。もっとも、それは一人で戦いきると宣言したシーカの実力を信じてのこと。ただ、そろそろ待ち続けているのも退屈かなと思い始めてきたところだ。


「苦戦してるなら、手を貸しますよ?」

「んもう! 大丈夫って言ってるでしょうがっ!」


 シーカが腕を振り下ろすと同時に、無数に舞う紙はコンガラへと殺到した。

 一度に操れる『アジュラ』のページ数は、単純に操者の実力に比例する。今のシーカであれば、『アジュラ』の全ページを展開することも簡単だ。

 その攻撃を受けたコンガラは、しかしながら、さすがは三眷族と名乗るだけあった。シーカの攻撃に対しても余裕で耐えていた。


「ズイブント、ナメラレタモノダ。ワレヲアイテニ、ヒトリデカカッテクルトハナ」

「あら、そうかしら? 私はまだまだ余裕だけどね」

「ナニ?」


 コンガラは不愉快そうに唸る。一方で、サンスもさすがに声を挟んだ。


「あまり時間をかけると、未来サンに怒られそうだね」

「まったく、みんなせっかちね」


 とはいえ、時間をかけ過ぎるのも問題だというサンスの意見はもっともだとシーカも理解している。だから、仕方ないと彼女は呟く。


「そろそろ決着をつけましょうか。三眷族の力というものがどれほどなのか確かめたかったんだけど、どうやらもう秘めている力はなさそうだし」

「フン、ケツマツハキマッテル。チニフセルノハ、ナンジナリ」


 すると、シーカはくすりと笑う。


「今の私が扱えるページ数は、『アジュラ』の総ページ数でもある五六二枚。――けど、あなた相手には三枚で十分」


 言いながら、シーカは三枚のページを残して『アジュラ』をデフォルトの本の状態に戻す。激昂したのはコンガラだった。


「バカニシテル! タッタソレダケデ、ワレニカテルモノカ」

「ええ、確かに。――今までみたいに無闇やたらな攻撃を繰り返しているだけだったらね」


 シーカはすっと右手を掲げる。


「知ってる? 私は魔術の使い手でもあるの。そして、術を発動するための準備時間も嫌というほどあった」


 すでに彼女の手元には七色の球状の光体が浮かび、各々が円を描くように回転していた。


「今度こそ、言葉に偽りはないわ。これで瞬殺よ。――神戯操連珠!」


 七つの球体はコンガラ目がけて勢いよく放たれる。次の瞬間、部屋全体が焼けつくような激しく、それでいて鮮やかな光に満ち溢れた。

 音の感覚がなくなる。上下の感覚も、左右も前後もあやふやになる。そんな状態からようやく復帰したサンスは、恐るおそる目を開いた。目前に浮かんでいたのは、三枚の『アジュラ』だった。


「……三枚で十分って、実はシーカさんの魔術の巻き添えを喰らわないためのモノ?」


 ようやく状況を理解したサンスが尋ねると、シーカは笑って答える。


「これでも長ったらしい詠唱は破棄したから、威力は本来の半分くらい。――でも、見て」


 彼女が示す先に視線を移せば、三眷族の一人・コンガラは地に倒れ伏していた。どちらが勝者であるのかは、火を見るよりも明らかだった。


「ね、瞬殺でしょ?」


 自慢げな表情をシーカが浮かべたときだった。どんと背後の瓦礫が崩され、一人の人物が部屋に突入してくる。


「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 敵はどこだ?」


 飛び込んできたのは『神原幸治武器No.2』こと『必勝ハチマキ』を額に巻いたアルタルだった。


「……何しに来たの、アルタル?」

「おおっ、シーカ。それにサンスも。――無事だったのか?」

「ご覧の通りね」


 シーカはやれやれと肩をすくめた。


「それで、敵は? 三眷族とかいう強敵が控えてたはずだ。アイリーンが言ってた」

「三眷族、ね……」


 ぽつりと呟きながら、シーカは部屋の隅を指差す。アルタルは従うように視線を移し、しばし言葉を失った。


「……まさかの無駄足? 必死で塞がった通路を掘り進んだ俺の努力は?」

「まあ、無駄足にはならないですよ」


 がくりと肩を落とすアルタルを励ますようにサンスが声をかけた。その目はすでに、先を見据えている。


「まだ、最後の戦いが残ってる。『王』との戦いがね」



====================



「硬い……」


 三眷族・アチャラを前に、未来は途方に暮れていた。

 皆と共に戦いたいと必死でここまで歩んできた。今の未来は強い。

 加えて、メルの援護もある。スピードだけでなく、斬撃を放つ膂力も超常の動きに耐えうる身体も備わったのだ。

 ――それでも、硬い。


「キシシ、所詮はこの程度よ」


 アチャラは笑う。メルは背後で懸命に歌う。

 未来しかいないのだ。ここを乗り越える道のりを切り開くには、未来がやるしかないのだ。


「はあっ!」


 再び未来は斬りかかる。相手の攻撃をかわし、迫る。メルの歌声の助けもあって、スピードは完全に上回っている。

 しかし――、


「キシシ、だから無駄だって」


 刀身は届いても、攻撃が届かない。椿をもってしても相手の鋼の身体が斬れないのだ。


「なんて硬さだ」


 未来はアチャラから距離を取る。このままでは埒が明かない。


『まさか、ここまでとはのう』

「……『アンフィスバエナ』を解放する」

『ぬ? しかしそれは……』

「こうなったら仕方ない。後のことなんて考えてられない」


 一気に決着をつけた方が余力を残せるはずだ。未来はそう判断し、『アンフィスバエナ』の解放に集中しようとしたときだった。


「ぐっ!?」


 不意にアチャラの胸元でクロスするように、二つの小さな影が交差する。


「――アムール! フーリィ!」


 メルの側に控えていたはずの彼女達が、二つの影の正体だった。未来の苦戦を見かねて出てきたのだろう。


「キシシ、無駄なことよ。痛くもかゆくもない」


 アチャラが吠える。

 無理もない。未来の全力の攻撃すら大して効いていないのだ。これでは焼け石に水だろうと、未来が再び『アンフィスバエナ』の解放に意識を注ごうとしたときだった。


「……何だ、あれは?」


 未来は気付く。アチャラの胸元に埋まる小さく輝く物体を。


「クリスタル?」


 先程のフーリィ達の攻撃により、隠れていたものが顕わになったのか。理由は不明だが、未来は直感する。隠されていたということは、すなわち相手の弱点であろうと。


『――未来』

「分かってる。今度こそ、勝負ありだ」


 未来は地面を蹴った。


「キシシ、まだ来るか」


 アチャラはまだ知らない。己の弱点が露出してしまったことを。


「ぅぉぉおおおおおお!」


 未来が構える椿の切っ先は、狙いを過たずに相手の胸元へと迫る。

 やがて――、


 バリィ、と。


 クリスタルの結晶は粉々に砕けたのだった。

ご指名承りました、キトPです。


リレー小説も、いよいよ終わりが近づいてまいりましたね。

クライマックスに向けての足がかりを築く、ということで壮大に何も始まらない物語を意識しながら書きましたw

前からの流れを受け継ぎつつ、次へと無難につなごうとした結果、ほとんど展開を進めることはできませんでしたけど……

そして、結局は細かいところに潜む小さな矛盾点、見つけたとしても温かくスルーしていただけるとありがたいです(^^;

それこそがリレー小説の醍醐味……(←


さて、実は愛魅さんに無理を聞いてもらい、今話のUP日として10月23日を指定させていただきました。……が、特に本編と関係があるわけではなかったりします。単純に、この日が私の誕生日だったからという理由ですw

たまたまではありますが、ちょうどタイミングが重なったので、せっかくだからとセルフプレゼンテーション致しました。

そのせいで、少しばかり期限が遅れてしまうことになりましたことをお詫びしつつ、わがままを聞いてもらいました愛魅さんに感謝です。そして、関係者の皆様方にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。好きにやることのできた私としましては大満足ですけどね(←

あとは、少しでも読者の方々を楽しませることができたなら、それこそが私にとっても一番のプレゼントです。


これで私の出番は終わりですが、最後までこの作品とお付き合いいただければと思います。私も一読者として、どういう結末になるのかを楽しみにしたいと思います。それでは、ここまでありがとうございました<(_ _)>


キトP

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