魔女
リレー小説第27話です。
担当 :長谷川 レン
代表作:ヒスティマⅣ(http://ncode.syosetu.com/n1924bs/)
「大きいね。まるでアルタルを十倍ほど巨大化したみたい」
「なんでそこで俺の名前が出てくるんだ?」
アルタルは睨みを聞かせてセルスへと向けるが、セルスは軽くスルーして人型の体長十メートルはあろうかという魔の者を見上げる。
他に特徴をあげろと言うのならば、その魔の者が一つ目だと言う事と、その魔の物全てが強靭な肉体と共にそれ相応の武器を持っている事だ。
ある者は刃こぼれしている剣を。ある者は錆が少々目立つ斧を。またある者は殴ったことで変形したハンマーを。
それぞれが決して綺麗とはいえない。だけども共通して血がへばり付いている武器を右手や左手に携えていた。
とてもじゃないがあんなのを普通の人間が相手をすれば一瞬で血だまりが作られてしまうだろう。
しかし、今ここに居るのは今日のために自分の武力を鍛え上げてきた戦士達。
――魔の者の血だまりを作りに来た者達。
「行くぞお前ら!」
「はい!」「おう!」「了解!」
アルタルの喝を入れる出撃にフィー、フィガット、そしてカーリンが息をそろえて返事をする。
「みんなあんまり深追いしないでね」
「たまにはお前も声をあげてみたらどうだ? セルス」
「あははっ。無茶言わないでよ。私は昔からこうなのだから」
「確かに、お前はいつでも冷めている、なッ」
アルタルが地面を蹴って強靭な肉体を持つ魔の者に真正面から突き進む。
「ついてこいフィガット!」
「オーケー、旦那!」
フィガットがアルの後をついて行く。
「「「GYAaaaaaaaaaaeeeeeeEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!!!」」」
やっとのことでこちらに気がついた魔の者達が唸り声をあげる。
それは此処第二層の大気を揺らすほど大きな物で、フィーとカーリンはあまりにも強大な大気の揺れに思わず耳を塞いだ。
しかしそんな物をモノともせずに突き進むアルタルの影を縫うようにして走るのはフィガット。ダルそうに走っている割にはアルタルの影を完全に利用して魔の者の死角を走っている。
「私が魔法で援護します! セルスさんとカーリンさんは別方面からの強襲をお願いいたします!」
「了解。セルスさんテレポートをお願いします」
「場所は?」
「高くて見通しがいい、それでいて一方的に攻撃できる場所をお願いいたします」
注文が多いなとセルスは笑い、フィーの指示でその場からセルスとカーリンの姿が消える。
「お願い、私に力を貸して……」
フィーは左手で十字架を握りしめ、右手で十字を描く。
それは魔力を更に足したものであり、眩く光る槍がその一つの作業で数十はくだらないほど大量に生成された。
「行け!」
右手を振り払い、その光の槍を全てを魔の者達に向かって飛ばした。
アルタルとフィガットを越して行く光の槍を魔の者達は叩き潰そうとしてそれぞれが武器を振るった。
一振り。
それだけで突風が起きるほどの速さで振り抜いた化け物。
フィーはその速度を予想していなかったのでほとんどが落とされる事になったが、これで魔の者達がその武器をどれだけ早く振り抜く事ができるのかがわかった。
知らないと知っているのとではとてつもなくハンデがあり、こう言う事に対しても知る事によって対策はいくらでも作れる。
否、作らなければならない。
「フィガット、死角に入りつつ深追いせずに着実に攻撃して行け!」
「おう! 任せとけ旦那! 俺の力見せてやらぁぁああああああああッ!!」
アルタルに指示されてフィガットがアルタルの影から高速で魔の者に向かって走って行く姿がフィーからは見えた。
しかし、魔の者はそのフィガットの姿が見えていなかった。
その理由は――ヒュンッ。
「GYAaaaaAAAAAAAAAAAAAッッ!!」
ザクッと血が噴き出す音を立てて魔の者が一体、一つしかない目を両手で押さえて暴れまわっていた。
何事かと魔の者達が一斉に攻撃した者を探し始めると、また一体が目を抑えて叫び始める。
魔の者はついにその攻撃していた正体を掴んだ。だが、それは魔の者達が攻撃できる範囲にはいなかった。
――場所は目の前に居る魔の者達でも絶対に届きそうもない高さにある穴。塔の壁がいくつか壊れているその内の一つにカーリンは居た。
「僕が矢を外す時はわざとそうした時だけです!」
言い放つと同時に体の半分ぐらいはありそうな大きな弓を、矢を持って引き絞り放つカーリン。
その矢に狙われた魔の者が避けようとして足を動かそうとするも、足が動かないどころか体がまったくと言っていいほど動かない事に今更気がつく。
「チェイン。鎖魔法だよサイクロプス。……と言ったところかな? その姿は」
いつの間にかその魔の者の足元に居るセルス。それに気がついた頃には、カーリンの矢がその魔の者の目を貫いた。
「GYAaaaaAAAAAAAAAAAAAッッ!!」
「うるさい悲鳴だ。黄泉の国へと旅絶てばいいと思うよ。あ、これ誤字じゃないから」
セルスが誰に言ったのかもわからない説明を行い、次の瞬間にはその魔の者の首と胴体とが離れ離れになってしまった。
仲間を殺された怒りからか、セルスへとそれぞれの武器が同時に振る魔の者達。その同時に振るわれた武器がセルスの頭上で止まった。
「俺の事を忘れてもらっては困る! ぬんッ!」
全ての武器を受け止めていたアルタルは、邪魔だとばかりに全ての武器を跳ね返し、魔の者達は大きく仰け反って行った。
「わぁ。まるで筋肉でできた塊……。まさか脳まで……」
「セルス。貴様は俺にケンカを売っているのか?」
「からかってみただけじゃないか。あと、私のケンカは高いよ? 一回一万貰うから」
「ふんっ。ならば全てが終わった後に一万払ってやろう」
「あらま。正気なの? アルタル」
「はいは~い。二人ともダベって無いでこいつらに止め差しましょうや」
「「差すったって……」」
二人して仰け反った魔の者達を見てみる。
全員が全員。すでに死んでいるのである。理由は簡単だ。フィガット以外にはあり得ない。
二人が言い争っている内にフィガットが全部の魔の者にその手に持っているダガーで首の頸動脈を正確に掻き切ったのだろう。それぞれの喉元から血が噴水のように飛び出ている。
「意外とあっさりと終わったな旦那」
「いや、まだだよフィガット」
カーリンがそう言うと、目の前に魔法陣。大量の魔の者がその魔法陣から現れていた。
しかも、先程とは比べられないほどの力を感じる。
それだけじゃない。その召喚された魔の者とは別に、更に強大な力が現れたと感じる。
「回廊の先があるんだ。何かあれば来るに決まってるだろう。お前ら、気を引き絞れよ」
「アル……。うん。絶対に此処の魔の者を全滅させてすぐにでも未来達の後を追おう!」
フィーがその手に十字架を握りしめて決意する。
そうだ、こんな所でいつまでも時間をくっていいのではない。できればさっさと倒して最強がいるだろう未来達の元へと行けばいいのだ。
ただ……此処に居る誰もが行く頃にはきっと終わっているだろうと思っている。
なぜならそれは、この一年で一番実力を伸ばしたのが未来だからだ。
尋常じゃないほどの成長力を見せた未来は今まで個人戦の内で最強だったセルスと対等。もしくはそれ以上に戦えるほどの実力を兼ね備えたのだ。
そしてフィーに魔法を教えたシーカも相当な実力者となった。攻防一体となっている『アジュラ』を完璧に使いこなし、セルスに魔法を使わせるようになった。しかしシーカは相変わらずセルスに動揺させられて『アジュラ』の支配権を奪われると言う失態を犯す。その時は決まってセルスが何かをシーカと話しているのだ。
口頭による言葉もしっかりとした戦闘だとセルスは言っている。魔の者に口頭による攻撃はできるのかという疑問はさておいて。
先程の大きい魔の者よりも少し小さめ、だが四足で走ってくるニ角の角が生えた馬やそれに乗る人型の魔の者の姿をとらえる。
「ライダー系か。ちっとばかし骨が折れるな」
「こんなので折れてたら大変だよアルタル。まだ壁を伝う普通より大きい蜘蛛とか、大型闘牛とか、伝説級の魔の者は出て来ていないんだから」
いろいろと知っているセルスがアルタルを叱咤する。
前方ではライダー系の魔の者が統率したその動きで一斉にアルタル達へと突進を繰り出してきた。
「十字架の光よ……我を守りたまえ!」
フィーが防御魔法を発動する。それは十字架から解放された光が前方へと展開。それに魔の者達が突進し、光を突き破ろうと更に力を入れてくる。
「風神の風よ。ここに集え」
その内にセルスが風の魔法を展開して背後に複数の鋭い刃が準備される。一つ一つがトンデモない魔力が込められているので一撃でライダーの魔の者を仕留めるのだろう。
ライダーは壁の向こう側に集まっている魔力に驚いたのだろうか、壁を壊すのをやめて一旦下がった。
フィーはそれを好機だと思い、光の壁を消した次にはセルスがライダーへと向けて魔法を放った。
「GYAaaaaAAAAAAAAAAAAAッッ!!」
何とか避けたライダーが数体居るが、ほとんどが腹を貫かれて消えていった。
騎手が消えた馬の魔の者は暴れだしこちらへと突進してくる。
「むんっ!」
真正面から突進する魔の者に対し、アルタル、フィガットがそれぞれ当たる瞬間に拳やダガーをくい込ませていた。
それぞれ単体で突進してきたから簡単にめり込ませれたのだが、危険と判断されたフィーとセルスには大多数の魔の者が突進をしていた。
「数が多いっ。フィーさんなるべく撃ち倒しますので避けて!」
「はい!」
「私の心配は無しですか」
カーリンがそれぞれの魔の者の脳天へと一矢で突きさす――のだが。
「死んでない!?」
「――ッ!?」
次の瞬間にフィーはニ角が生えた馬に飛ばされていた。
「がは――っ」
「フィー!? お前ぇぇええええええ!」
フィーが飛ばされ怒ったアルタルが地面を蹴って飛ばした魔の者へと跳躍した。
運良く馬の角に刺さらなかった飛ばされたフィーはというと、地面を転がってくらくらとするのだろうか頭を押さえている。
あのままだと次は馬の角に貫かれるだろうと感じ、急いでフィーを助けるべくアルタルの後を追ってフィガットが後戻りをするも、残っていたライダーに囲まれて手に持っている槍を振るってきた。
「うぉっと!」
「フィガット!? 今そちらに――」
カーリンがその様子に気がついてフィガットに群がる魔の者へと弓を向けると、フィガットが声をあげる。
「優先順位を間違えるな! まずはフィーさんを助けろ!」
フィガットの声が聞こえたカーリンはフィガットへ向けていた弓をフィーへと更に突進する魔の者へと向けて何度も放つ。
これでほぼ孤立無援かと思われたフィガットの元に、キラリと光る一糸。
残されたライダーの数体の内二体を残して馬ごと真っ二つに斬り裂いた。
「また二人外した。フィガット、一体しか倒せないならもう一体も倒してみるけど?」
「いや、十分だ!」
助けてくれたセルスにフィガットは礼を言いながら、ダルそうにしながらの台詞が合っていない言葉を吐く。
ライダーはというと、仲間が殺されて奮闘している。そんな魔の者へとフィガットはダガーを握りしめて走った。
降り注ぐ槍の雨をかわしながらも正確に心臓をついてこようとする槍はダガーで何とか防いでいく。
しかし、魔法陣から現われた時に気がついていたが、ライダーの大きさは先程よりは小さいがそれなりに大きい。それ相応の槍を振るっているのでダガーで防いだ時は決まってよれてしまう。
横をつくように槍が追撃してくるがそれを何とか避けた後にまたライダーへと接近し、ダガーを突き刺して馬を這うようにして登って行く。
そんなフィガットを殺そうと、怒り狂っていたもう一体のライダーがフィガットへ向けて槍を繰り出した。
「あっぶね!」
それに気がついたフィガットはとっさの判断でジャンプしてよじ登っていた魔の者から離れると、そこに槍が突き立った。
「 GYAaaaaAAAAAAAAAAAAAッッ!!」
もちろん突き立った場所はよじ登っていた馬の魔の者。槍は深く抉るようにして貫いたために即死して消えていった。残された騎手が地面へと落ちてくる。
「はっ。同士討ちかよ! って待て待て待て!」
同士討ちを見て鼻で笑った直後、落ちているライダーがフィガットへとその槍を突き出していた。
「フィガット捕まって!」
セルスが糸を視認兼切れないように太くしてフィガットへと飛ばすと、フィガットがそれに捕まる。
なるべく早い段階で引くも、ライダーの槍がフィガットの横腹を抉り、大量の肉と血を槍に持って行かれた。
「ぐぅ」
受け身の取れないフィガットを、何とかセルスがキャッチし、それから抉られた腹部を見て薬を渡してくる。
「ほら、フィガット早く飲んで」
「おう」
フィガットはセルスから薬を受け取るとすぐさま飲む。足りない肉がグロい再生の仕方をするのを見ながらセルスがそれを糸で紡いでいく。
もちろん魔の者は黙っていなかったが、そこは抜け目が無いセルスの防御魔法が張ってあった。
すると、上空からやってくる一矢がそれぞれライダーの頭に突きささり、次には喉元に突き刺さって絶命した。残った馬の魔の者はフィガットとセルスへと突進してくるけど防御魔法に阻まれて襲ってくる事が出来ない。
「よし、フィガット、もう動けますよね」
「おう、二度もすまない」
「助けるのはもちろんの事。ですが、激しい動きをすればまた開きます」
大穴が治ったフィガットは二、三度足を確かめるようにして動かして、何も問題ない事を確認すると、すぐさま馬へと走った。
防御魔法が解けると、そこを馬が単体で走ってくるのを、フィガットが避けて足をダガーで斬る。
激痛で足を転ばせた馬の元へとフィガットは走り、そして首筋へとダガーを突き立てて絶命させる。
「よし! 後は向こう側!」
フィガットがフィーの方面へと向けるとそこではアルタルが奮闘して全ての馬を防いでいた。
先程よりも数が少なくなっている所を見ると何体かは倒せたのだろう。
「ぬぅん!」
「十字架の光よ!」
いつの間にか回復しているフィーが魔の者へと光の槍を放ち、それぞれ突き刺さる。そこにアルタルがまるで杭を打つかのように刺さった光の槍を殴り、魔の者の体を貫通していった。
「よしっ。大丈夫だったかフィー」
「うん。何とか……」
間一髪のところをアルタルとカーリンに助けてもらったフィー。
何とか第二波を突破したアルタル達。
少し犠牲が出そうになったが何とか出さずに済んでほっとする一同。
第三波がすぐにでも来るかと思っていたが、なかなか下りてこない魔の者達。気配は感じたままだからまだ居るのだろうとは思う。
「動ける? みんな」
「あぁ。俺はまだ大丈夫だ」
「私も大丈夫」
「セルスー! 下ろしてくださーい!」
カーリンが上で叫んでいる。よじ登ったり飛び下りたりなんかできない場所に居るのでセルスは嘆息しながらカーリンの元へと糸を使って梯子を作った。カーリンはそれを伝って下りてくる。
「俺は少し休ませて欲しいな……」
フィガットは先程のライダーの攻撃で決定的な致命傷になるほどに腹部を抉られている。治したとはいえ、すぐに激しく動けばもちろんまた傷は広がる。
「そうだな。フィガット、悪いがお前は……」
「心配すんなって。行ってこい旦那。悪いが俺はリタイアだ。満足に動けなかったら足手まといだろ?」
フィガットはそう言って笑いかける。
このまま連れて行って死んでしまうよりも、此処で見つからないようにしている方がいいと自分でも判断したのだ。
「すまない。後で迎えに来るからな!」
アルタル達は手を振るフィガットに背を向けて回廊にある階段を真っ直ぐに駆け上がって行く。
その背を見つめながらフィガットは……。
「情けねぇ」
自分がこれ以上進めない事を身にしみて壁に体を預けてその場に座り込んだ。
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階段を昇りきるとそこには大量の魔の者が。先ほどとは数が比にならないが外に居る奴等ほど多いわけではない。
「全員がまた得物を持ってるな……」
「筋肉さんはなるべく避けた方がいいんじゃない?」
「誰が筋肉だセルス」
「はいはい。二人ともケンカしないの」
割って入るフィー。セルスにとってはからかって遊んでいるだけだが。
「マイペースですね、三人とも……」
そんな様子にカーリンが呆れながら苦笑している。
よく一緒に居たフィガットが下に置いて行かれて心配なのか、あまり会話に入ってこようとはしていない。
「それじゃあ、二度目の奇襲と――」
セルスが腰をあげて、アルタルと一緒に走りだそうとしたその瞬間。
――上からの殺意ある気配を感じ取った。
「飛べぇ!」
アルタルの号令にセルス、フィーはとっさに階段から部屋へと緊急回避して避ける。
しかし、カーリンはアルタルの声の反応に遅れて上からの攻撃に避け損ねて右足と右腕が飛んだ。
「あ゛ぁぁぁッ!!」
「カーリン!? クソッ」
回避した後、すぐに近づいたアルタルが上から奇襲してきた蜘蛛のような魔の者を殴って飛ばしカーリンの体を抱きかかえた。
「セルス頼む!!」
「わかってる! 今ので気づかれたみたいだ、アルタルとフィーは私がカーリンを治している間食い止めてください!」
すぐさまカーリンを受け取ったセルスがアルタルとフィーに指示。二人は頷いて襲い掛かってくる魔の者を食い止めるために出て行った。
「腕と足が、あ゛ぁぁぁぁあああ!!」
「カーリン、すぐ治すから落ち着いて!!」
いつもは冷静で精神統一しているカーリンを抑えつけながらセルスが飛んだ腕と足を回収して糸で縫い始めて行く。
その間、魔の者の激しい攻撃が開始された。
「ぬんっ!!」
「十字架の光よ……ッ!!」
アルタルが近づいてくる先程のようにかなり大きい人型の魔の者を殴り飛ばし、天井から這ってきたりする大蜘蛛にフィーが光の槍を飛ばす。
だが数が多すぎるために徐々に押され始める。
ジリ貧となってしまった戦いにアルタルとフィーが応戦していく。
「ガァァアア!!」
「ぬぅッ!」
「アル!? くっ、邪魔よ!」
巨人の魔の者のハンマーをガードしてくらうアルタルにフィーが援護しようも、天井から粘着性の糸を吐いた蜘蛛に邪魔をされる。
アルタルはガードしたその右腕の痺れから数分は動かないだろうと考え、アルタルは次々と来るさまざまな武器の合間を掻い潜りながら左の拳をそれぞれ武器に叩きつけてそれを他の巨人の足や体に当てている。
「うぉぉおおおおおおおお!!」
その拳が血に滲みながらも力の限り叩きつけるアルタル。
アルタルの奮闘に魔の者達が危険だと判断。各自思い思いにアルタルを狙い始めた。
「いくらでも来ぉぉおい!! 『神原幸治武器№2』発動!!」
アルタルはポケットへと入れていたその三つ折りの白い何かを取り出した。
それは額へと巻くと、アルタルの体を赤く煌めいた光が放たれた。
アルタルが額に巻いたそれは白い布のような物に、丁度額のある場所に『必勝』と書かれた布。
未来がこれを初めて言った第一発言。それは……。
『ひ、必勝ハチマキ? こんなのまであるんだ……』
だった。
ちなみにこのハチマキは三つ折りからほぐれる事は無い。それはその三つ折りの裏側にたくさんの機器が取り付けられているのだ。触っても感触は感じないが、セルスが調べたので本当の事だ。
その効果は、一撃の攻撃を底上げする筋力増加装置。
つまり、アルタルにはピッタリの『神原幸治武器』なのだ。
「軽い、軽いぞぉおおお!!」
「ホントにあれ、筋肉だよね。ただの」
遠目に若干引いているセルスがアルタルを見ながらカーリンを治し終えた。
「助かった……。ごめなさい、僕が取り乱してしまって……」
「弓を引くとまた血が吹き出そうだからカーリンはすまないけど此処で待ってて」
「危険だったら弓を射ります」
「それで頼むよ」
セルスがカーリンはそう言って階段から躍り出て網目の糸を階段と部屋の間に張る。これによってカーリンへと攻撃が当たらないようにする。
「うぇ、何これ、ネバネバするぅ! 気持ち悪い!」
いつの間にか粘着性のある糸によって捉えられているフィーにセルスは手に炎の魔法を発動して糸の半ばほどの所を焼き、それから氷の魔法を発動してフィーの手首に巻かれている糸を凍らせ手から破壊する。
「あ、ありがとセルス」
「相変わらずフィーさんは光の槍以外の魔法が使えないのですね。まぁ適性がそれ以外無かったのだから仕方ないかもしれませんが」
それにしても……とセルスが天井を見上げる。
そこにはまだたくさんいる大蜘蛛達。見ていて気持ちがいい物では無い。
粘着性のある糸を使ってくるのでこちらの糸で切る事は敵わない。ならばどうするか。
(――燃やそうか)
即座にその手に数多の炎の塊だったり槍だったりを作り出すセルス。
「ぐもぉ!?」
それが全て自らを焼き尽くすようなほど魔力が込められている事を知る大蜘蛛達は急いで標的をフィーから変えてセルスへと降らせてくる。
「私はそんなの当たらないよ」
空から降ってくる粘着性の糸を次々と焼き、一瞬にして灰へと変えながら大蜘蛛達に迫る数多の形をした炎。
止められない事を悟った大蜘蛛達の多くは逃げ始めたが――。
「ごめん。それ爆発するんだ」
天井にそれが当たった瞬間。全ての大蜘蛛を巻き込んで爆発を起こした。
もちろんそれは天井の壁も崩れ始めて……。
――そこから大量の瓦礫と魔の者が落ちてきた。
「ちょっとセルスぅぅぅうううう!? これも計算の内だった!?」
「ごめん。まったく考えていなかった」
慌てているフィーに申し訳なさそうに謝るセルス。
二人がいる場所は瓦礫や魔の者は振ってこないが……。
「む、なんだこれは!?」
アルタルがいる場所はそう。
――瓦礫や魔の者が落ちてくる所。
「ぬぉぉおおおおおおおお!!!!」
アルタルが他の魔の者と一緒に埋もれていった。
「ちょっと嘘!? アル!? アル返事を――」
「おぉぉおおおおおおおおお!!!!」
猛々しい声をあげて上に乗った瓦礫や魔の者をどかして立ち上がったアルタル。
「生きてたか」
「セルス!! お前絶対に俺の事嫌いだろ!?」
指されて激しい抗議をあげるアルタルにセルスは目を逸らした。
アルタルはそのまま瓦礫に埋もれて死んだ魔の者を踏みながらセルスへと近寄ると、更に怒鳴ってきた。
「お前俺が死んでたらどうするつもりだ!?」
「ほら、筋肉は死なないと治らないって言うしさ」
「バカはお前だぁぁあああ!!」
「私は別に筋肉は無いよ? ほっそりとしてるし、体力も無いしね。どちらかというといつも女の子に間違えられるし――」
「そう言う意味じゃねぇ!! 天井に大穴なんて開けてどうするつもりだ!?」
「……まさか次のフロアが上にあるだなんて知らなかったし……ほら、まとめて一掃できるじゃん」
「後先考えずに天井を壊すなと言っているんだ!!」
「だって、蜘蛛気持ち悪いし」
「そんな理由で天井に大穴開けたのか!?」
「うん」
「肯定するなぁぁぁあああああああああああああ!!」
アルタルが叫んだからであろう、天井の上に居た魔の者達がこちらへと気がついてそれぞれ大気を震わせて吠えた。
「ほら、アルタルが叫んだおかげで上から落ちて来てまだ状況把握できてない魔の者達が状況把握できちゃったじゃないか」
「俺の所為なのか!? 俺の所為なのか!?」
二度繰り返す言葉はむなしく虚空の中に消えて行った。
それから下敷きにされた巨人どもでは無く、上から落ちてきた巨人どもが武器を振り上げてこちらへと走ってくる。
「二人とも遊んでる場合じゃないよ!?」
フィーに怒られてようやく魔の者に視線を向ける二人。
走ってくる魔の者は大半が巨人。その中にまれに先ほど出てきた大蜘蛛やらライダー系やらが混じっている。
だけどその中で奇妙な動きをする魔の者をセルスは発見していた。姿は人のようだ。それはこちらへと走ってくるのではなく、反対側へと逃げているのだ。もっと言えば、このフロアの二階へと続く階段を上がって行っているように見える。
「何でしょうね……」
「ん? どうかしたのか?」
「いえ……」
悠久の時だけでなく前世の記憶があるからこその危険信号が頭の中で鳴り響いている。
あれを逃してはいけない。
その言葉だけが頭の中に浮かんでくる。
「アルタル、フィーさん。ここをお願いしてもいいですか?」
「え?」
「どういうことだ?」
二人は上へと逃げた魔の者を見てはいないようで、まっ先に突っ込んでくる巨人共だけしか見ていないようだった。
だからこそセルスのその言葉に不思議に思い、眉を曲げていた。
「私の大六感が告げています」
そういうや否やセルスはテレポートを発動。これまで何度も使ってきたからこれ以上はもう使いたくはないと考えながら、階段の手前まで転送される。
「ちょ、セルス!?」
「頼みましたよ~」
フィーが驚いて声を上げるもセルスは比較的軽く手を挙げながら階段を駆け上って行った。
階段を上がるなら上に空いた穴を使えばいいではないかと思って上を見るとそこはすでに修復されていて大穴が無かった。
「フィー。セルスにも何か考えがあるんだろう。俺たちは目の前のやつらを倒すぞ」
「うん」
フィガット、カーリン、セルスまでもが抜けたための二人になってしまったが、それでもこれまで培ってきた経験を思い出すと、決して目の前の大量の魔の者に負ける気がしない。
フィーは自分の中に眠っている大量の魔力を起こし、その手に光の槍を多数展開。
「セルスが居ないから蜘蛛の糸は燃やせないかッ」
大蜘蛛による糸攻撃が飛んでくる。
ステップで飛んでくる糸を避けて、避けきれない糸は光の槍を撃って散らせる。フィーは糸に向けて有力な武器を持っていない為にアルタルに降る糸の雨は全てに光の槍を撃っていた。
「うぉらぁ!」
降ってくる巨人の武器の雨を横殴りで軌道を変え、そして鉄をも砕くその拳を跳び上がった際に顔を粉砕する。
次の巨人へと向かって武器を蹴り上げ足に拳を突きさす。
「オォォオオオオオオオ!!」
雄たけびを上げて倒れる巨人の上に移動したアルタルを殺そうと武器を振り下ろす巨人たち。
もちろんアルタルには当たるはずも無く巨人たちが振り下げた武器は倒れた巨人へと突き刺さった。
「いけぇ!」
光の槍を出せるだけ出したフィーの周りには先程とは比べられないほどの量。軽く数百はいっているだろうその槍を全て放った。
光の槍はまるで流星の如く降り注ぎ、数々の魔の者たちを撃ち沈ませていく。
「よし。後は……」
光の槍を展開し、それを放とうとした。
「逃げてください!!」
――矢が顔の真横を通った。
「…………え?」
恐る恐る、と言った風に顔を後ろへと向ける。
そこでは……。
――カーリンが震える腕で矢を構えていた。
「か、カーリン……?」
「逃げて!! 僕……からッ!! 体が……勝手に動くんだ!!」
次の瞬間。
矢がフィーへと向けて放たれた。
「くっ」
フィーは横へと転がってその矢を避けた。
「ぐぅ!?」
「アル!?」
アルタルの悲鳴が聞こえたかと思うと、矢が飛んできた。
走って避けると、更に走る方向に矢が飛んでくる。
「あぁ!」
足に刺さって転んでしまう。
一体何が起こっているのか。視線を周りに巡らせるもカーリンを操っているらしい魔の者が居ない。
(もしかして……カーリンがとり憑かれた!?)
後ろには魔の者を通していないはずだ。
それに、魔の者からとり憑かれた人間は意識が無いはずだ。
とり憑かれた訳ではないはずだ。
「ぐぉぉ!」
アルタルはその弓による攻撃によって不意をつかれ、そこに巨人たちの武器が次々と飛来した。
「アル!?」
「フィーさん避けてください!」
矢が再び飛来する。
「邪魔よ!」
光の槍を使って壁を作る。おかげで矢が防がれるが――。
「フィーさん……曲射、です! 左右から来ます!」
カーリンの声が聞こえたかと思うと、左右から曲がって迫る矢が見えた。
前に展開していた光の槍を左右へと展開。それぞれで矢を防ぐ。
「ごめん、カーリン!」
そして光の槍を一つ、カーリンへと向けて放つ。
威力は抑えてあるから死ぬことは無い。
カーリンはその光の槍を自ら当たりに行き、階段を転がるようにして落ちて行った。
「よし、これで…………え?」
アルタルへと集団で攻撃している魔の者へと光の槍を放とうとすると、なぜかアルタルへと標準が動いてる。
「何、これ!?」
なんとか魔の者に標準を合わせようとするも腕が震えるだけで動こうとしない。
まるで見えない何者かがフィーの体を動かしているようだ。
(これは、カーリンと同じ現象!?)
光の槍が放たれる感触。
「アル! 前に避けて!」
「なっ!?」
アルはとっさの判断で回避。放たれた光の槍は奥にいた巨人を貫いた。
「フィー、どうした!?」
「体の……自由が利かない! カーリンと同じ、かも!!」
それから再び光の槍を構築する。
アルタルは動揺した。なぜなら今までフィーを標的とした魔の者たちまでもがアルタルを狙い始めたのだ。まるでこれ以上フィーを攻撃することに意味がないことを悟っているようだ。
つまりは魔の者の仕業なんだろうけど、アルタルやフィーにとっては知ることができない。
(せめて姿さえ見ることができればッ!!)
舌打ちをしながら迫ってくる巨人や大蜘蛛やライダーを対処していく。
見ることができればいくらかは対策を打つことができるかもしれない。だがそれをさせてくれない。おそらく魔の者の間だとそれなりに高い地位にいる強者なんだろうとアルタルは考える。
(クソッ。こんな時に俺達の中で魔の者にやたら詳しいセルスが居てくれればッ!)
そう考えた時だった。
「きゃぁ! 何、これ!?」
「フィー!?」
アルタルは見た。
――フィーの体を覆うようにして憑いている半透明の黒い布が。
(あれが正体か!? しかしなぜ姿が?)
そんなアルタルの考えとは別に、時間は数十分前にさかのぼる。
==============================
「ビンゴ。やっぱりあいつは人形師の魔の者か」
そこは大穴をあけた場所から一方通行で、二つほどフロアを抜けた所。アルタル達の残した場所を出発して階段を上がり二階に着き、一方通行の先の部屋に向かった場所だ。
その部屋の中央で人の姿をした、つまりは人形師とセルスが呼んだ魔の者が佇んでいたのだ。
手はせわしなく動いており、まるで自分の人形を動かしているように見える。
「あれの型は面倒なんだよね。人形の姿が見えないから魔の者に取り憑かれたような感覚に陥るんだから。あぁ、未来くんはちゃんと覚えてるかな?」
セルスは一応自分の知りうる一つを除いてすべての魔の者の型を未来に教えている。
もし教えていない魔の者が出てきたならば、おそらくそいつが魔の者の頂点。
――正確には会った事がある(、、、、、、)。
そして、知ってる。姿も、声も、名前も……。
前世の記憶ではその頂点にセルス……いや、彼女(、、)は殺されているから……。
「……すっかりこの口調も慣れてしまったなぁ。昔は完全な女言葉とか、自分の体に慣れなかったけど……」
下から壮大な衝撃音が鳴り響いて来る。
アルタル、フィーと魔の者による死闘が繰り広げられているのだろう。
もしかしたらフィガットやカーリンも戦っているのかもしれない。下から魔の者が来ないという保証はない。
フィガットは手負いだが、下から階段を上ってくるのはほぼ雑魚だ。何とかなるだろう。
「それじゃあ行こうか。いつまでも待たせてると下にいる未来を生きる人たちの生を絶ってしまうからね」
セルスは二つの指輪のうち一つを開放。すべてを罠として糸を展開する。相手にはまだ気付かれていないようだ。
だったらさっさと済ませてしまおうと思い、この階に逃げ場をなくしたところで罠を発動しようとした。
「あ、こういうときは名前が必要だったんだっけ? なんて名前にしようかなぁ……」
などと悠長なことを言っている間、フィーの顔の真横をカーリンの矢が放たれた時だった。
う~ん、といつまでも考えていると、刻々と時間が過ぎて行った。
ようやく考えがまとまったのか、ポンッと手をたたいた瞬間。
――罠が発動されてしまった。
「……あ」
目の前で幾重にも発動されていく罠に無残にも散っていく魔の者たち。その中には中央で人形師の型の魔の者も混ざっていた。
「…………。こほん。まぁ、いいや」
人形師が操るのは同じ魔の者。透明化の能力を持っているから倒したことで透明になっていた魔の者の姿が現れただろう。
仕事は終わったと思い、このまま下に行くのも面倒だとも思ったセルスは何を思ったのか、足をその部屋の中央へと歩き続けていった。
確認したところどこにも魔の者は存在しない。全滅した魔の者の死骸を踏みしめながら部屋の中心まで来た。
……と、ふとセルスが顔をあげた時。目の前に人影が降りてきた。
「……やっぱり……生きてた、んですね……」
いつもの口調とかけ離れた口調で返したセルス。
その口調と雰囲気はまるで懐かしむように、それでいて悲しむように……。
「真夜先輩……」
「久しぶりね。姿が変わっても、あなたの事はよぉくわかるわ、凪。それとも伝承に記されてる名前で呼ぼうかしら?」
「やめて。あの名前を呼んでいいのは幸治だけです先輩」
「そう。ところで凪。先輩である私に向けているそのバット(、、、)を下ろしてくれないかしら? 私の可愛いお転婆後輩ちゃん」
目の前に降りてきた人影は口端を吊り上げた。
「昔、みんな同じグループに居た仲じゃない」
「だから、けじめをつけに来たんじゃないですか。過去に生きる私の命を犠牲にしても。先輩は危険だから、他人を巻き込みたくはありません」
数秒後。
この場所に人がいただなんてことがわからないほど二人はその場から音もなく消えてしまっていた。
ただ、その部屋一杯に広がる魔の者の死骸が押しのけられ、中央に丸い円が残っていた。キラリと光る、何かを残して。
=============================
「あぁ、くそ。イテェな……」
アルタルたちが操っていた黒い布のような魔の者を見る事が出来たと同時時刻。
「あぁ、マジでこれはヤバイ……」
身を隠せる場所が無いので何とか暗い色の服を脱いで寝そべり、その上にそれをかけて身を隠していた。
この巨人の魔の者が大勢いるだけあってなかなかに広いフロアでは目立つ色さえしていなければ魔の者にバレる恐れは無いだろう。
つまりだ。
下に居た小者の魔の者が魔法陣を使わずに上にあがって来たのだ。
大きな音でも聞きつけたのか、もしくはもっと別の理由からか、ゆっくりとだが回廊からあがって来た。
今此処に居るのはフィガットただ一人。しかもケガ人。おいそれと戦闘をするわけにはいかず、こうして身を隠しているのだ。
(そもそも、下の奴等は外を担当した方に行ったんじゃないのか? それとも下の奴等がしくじったのか?)
武器もある。足もある。
そのために戦えるには戦えるが回避する事に越した事は無い。
上に行ってもアルタル、フィー、カーリン、セルスが何とかしてくれるだろうと思ったフィガットは身を伏せてやり過ごす事にしたのだ。
あがってくる魔の者達の中には外で見かけたゾンビのようなのが大半で、カーリンが立っていた穴から顔だけを覗かせるドラゴンのような魔の者も見受けられた。
今一人で戦っても返り討ちだろう。
(うっひょ~。今ここで見つかっちまったらアウトだな)
のんきに考えつつも、フィガットにとっては真剣そのものだった。
ドラゴンは執拗に鼻をひくつかせて匂いを確かめているようだが、どうやら戦っている最中フィガット達が動きまわったおかげで人間の匂いは分散され、寝そべって暗い服をかぶせているフィガットには気づいていないようだ。
(見つからないでくれよぉ)
フィガットは心の中で懇願していると、ドラゴンは頭をフロアから出して外を飛び始めて行った。
それからだった。回廊の上の方から何かが転がってくるような影が見えたのは。
それが最後の回廊の段を落ちてこのフロアに入ると、その影が尻を打ってようやく止まった。
「痛っ……。フィーに感謝するべきか、怒るべきか……」
それはしっかりとしながら言葉を発しており、どうやら人型の、と言うかフィガットは思いっきり見た事があった人影だった。
(カーリン!? 何であいつ上から転がって来たんだ!? ってか後ろ後ろ!!)
「そう言えば、このフロアにはフィガットが休んでいたはずですね」
そう言って振り向いたカーリン。
眼と鼻の先に覗きこんでいるゾンビの大群。
・ ・ ・ ・。
「うぉわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
きっかり四秒後に物凄く跳び上がって驚いたカーリンは偶然にも手のついたその壁につかまった。
「ゥォォォォォォォオオ」
下から落ちてこい、落ちてこいと言っているかのようなゾンビの大群。
その様子にフィガットは……。
(あれは嫌だな……。精神的に死ぬ。マジで)
冷静に見守っていた。最低である。
「って、こんな事してる場合じゃねぇ!」
やっと今のこの状況を把握できたのか、その両手にダガーを構えて走り出した。
フィガットは横腹が少々痛むが、結局はその程度だと頭の隅に起き、それよりもカーリン救出に向けて走り出した。
「おらおらおらぁ!! どきやがれぇ!!」
「フィガット!?」
ゆっくりとだが振り向くゾンビ達の首を斬り飛ばし続けていくと、カーリンへとようやくたどり着き、そして手を引いて文字通り切り開いた道をたどって元の方へと戻って行く。
さすがにゾンビ達がその間を埋め尽くそうと群がって来たが全て斬り裂いた。
「助かりました」
「良いってことよ。ってかこれ全部相手すんのか……やれる――」
手伝ってもらおうとしたフィガットはカーリンを見るも、その腕を見て諦めた。
腕からは多量の血が流れ出ている。これでは弓など満足に引けないだろう。
先程走り方もぎこちなかった事も思いだしたフィガットはおそらく足もやられているのだろうと考えた。
「すまねぇ。お前は休んでろ。俺がやる」
「いや、僕も手伝います」
「そんなんじゃできないだろ?」
フィガットが言うと、カーリンはその場に座った。
諦めたと思ったフィガットは次にカーリンが弓を構えた事に驚いていた。
「困難ですが――左手と左足を使います」
そう言ってカーリンは懐からテーピングテープを取り出し、弓を横にし、足の指で挟むようにして固定した。足の親指との間はもちろん広げた。
それから左手で矢を持ち弓を引き絞った。
「デタラメだ……」
「緊急事態ですからね。矢を外すかも知れないですからフィガットの近くには射る事が出来ませんが」
「一体でも減らしてくれれば良い! いつか下からこいつら追ってくる奴が居るかも知れねぇからな!」
フィガットはそれを信じて、大群であるゾンビの魔の者に向かって走って行った。
「くらえッ!」
ダガーを巧みに使い、動きが遅いゾンビを次々と首を斬り落としていく。
その後ろの方ではフィガットを回り込んで襲おうと考えているゾンビに向かって矢を放つカーリンの姿が。
巧みに扱い矢がゾンビの魔の者の脳天に突きささる。
「よし、このままいけば……ぐッ!?」
だがフィガットは抉られた部分。つまりはセルスに縫われた場所から激痛が来た。おそらく無理をして体を動かしているのだ、当たり前なのかもしれない。
その激痛に耐えながらも、ゾンビの魔の者を確実に一体一体容赦無く斬り捨てていく。
基本フィガットの独壇場。周りから来る魔の者を切り捨てていく。
カーリンはその様子を見ながら徐々にコツを掴んできたのか、一回で放つ矢を一本から最低五本とあげていた。もちろん全て当たってはいるが一本の矢で死ぬような場所にたまにしか放てていないので繰り返し放ちまくる。
そうこうして少しずつその量を減らしていくが、先程穴から顔を覗かせていたドラゴンが異変を感じてか、大穴をあけて突入してきた。
「ドラゴン!? うわぁっ」
突入の際に激しい衝撃と揺れ、おかげで武器を振るのもやめて地面に伏せてしまう。
「GYAAAAaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!!!」
他の魔の者とは違う、ドラゴン特有の咆哮に耳を塞ぐ二人。二人だけでなく近くに居たゾンビ達も耳を塞いでいるようだった。
「見ツケタゾ。ニンゲンッ!」
黒鱗で身を纏うドラゴンの目の瞳孔が見開き、フィガットとカーリンの姿を確認したかと思ったら、今度は口が大きく開かれ、大量の熱気が溜まる。
「あいつ、まさか炎を吐くつもりか!? この場所で!?」
「ふざけないでください! こんな所で吐かれたら塔が壊れるかこのフロアが火で充満して俺達は確実に死んでしまいます!」
他の魔の者はそんなのはお構いなしにフィガットに群がってくる。
それだけでなくカーリンの方にも近づいてくる。
その魔の者に武器を振るわなければならない為に一度もドラゴンに攻撃する事が出来ない。
そ れでも何とか炎を吐こうとするドラゴンめがけて弓を引き絞り、放つ事が出来たが、左手と左足で放ったので命中はしなかった。
「くっ、多少痛くても仕方ありません!」
カーリンは懐から弓使いにとっての必須なサバイバルナイフを取り出した。それを弓と足で固定していたテーピングテープを切り離すと、弓を左手で持ち、右手で矢を引き絞った。
激しい激痛が右腕を襲い、震える腕となりなかなか定まってくれない。
縫った後の場所から血が溢れるなんて事が起きてしまっている。
「カーリン!? クソッ、邪魔だ!」
フィガットは周りに居る敵を一度飛ばすと、カーリンへと近づいている魔の者に向けて一直線。抉られて縫った場所が悲鳴を上げて激痛を体に伝えるだけでなく、今まで同じように無理に体を動かしていたために体のダルさが襲ってくる。血の量が足りないのだ。
それでもフィガットはカーリンへと迫っていた魔の者達を排除し、カーリンと魔の者達の間にフィガットが降り立った。
「射ぬけ!」
カーリンの掛け声とともに放たれる矢。
その矢は真っ直ぐそのドラゴンの口の中へと吸い込まれていき――
――ドラゴンがその矢を踏み砕いた。
「舐メルナ、ニンゲン!!」
大量の炎がドラゴンの口の中に集まり……。
「クソッ、このままじゃ――」
――巨大な炎が視界を埋め尽くした。
「GYAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAッッ!!!!」
ただし、巨大な炎が襲ったのは黒鱗のドラゴン。
その誰も予期しなかった結末に魔の者含めた一同全てが驚きに顔を染めてドラゴンを見ていた。
そのドラゴンは不意打ちによる一撃でのた打ち回ったかと思うと、動かなくなり消えていった。
「一体……」
カーリンがその様子に驚いていると、消えていったドラゴンのその向こう側に何者かが歩いてくる。
その姿は白銀色の髪に隆起した白角、純白の翼を持ち、瞳は真紅。
これだけでフィガットとカーリンは誰か此処に来たのかを理解できた。
「ふん、こんな雑魚共に神の力は要らんな」
手を振るう。するとかまわず迫っていた魔の者たちの場に発火され、その炎が伝うように他の魔の者に向かって炎が広がって行った。
「アイリーン……? どうして此処に?」
「確か、初めの時にはいなかったはずでは……」
燃え広がる魔の者達にこれ以上の攻撃は無意味と、予測をつけた二人は武器を納めて歩くアイリーンに少しずつだが近づいた。
「何。ちょっとした忘れ物を届けに来たのでな。ここは二人だけか?」
「あ、あぁ。だが助かった。俺もフィガットもそろそろ肉体的に限界が来ていたからな……」
と、安心したのか、カーリンがフラフラとした足取りから倒れそうになった。
「カーリン!?」
そこをフィガットが急いで抱きかかえる、と。
「へ?」
抱きかかえた時に左手にふにょりと柔らかい感触。
ニ、三度感触を確かめるように握ってみると、また同じようにふにょりと柔らかい感触が伝ってくる。
「な……な……な……」
そしてわなわなと顔を真っ赤にして震えるカーリン。
ようやっと自分がしでかしている事に気づくフィガット。
「お、お、お前……お、お、女だったのか!?」
「だからと言って……い、つまでも……僕の……僕の胸を触るなぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!」
肘打ち、裏拳、からの回し蹴り三連コンボを決められたフィガットは数メートル離れた場所でノックアウト。カン、カン、カーンとどこかで鳴り響くゴングの音。
「触られた……一度も触られた事ないのに……フィガットに触られるなんて……」
胸を抱えて座りこむカーリン。そこには先程の戦闘の時までのように何も無いような胸では無く、確かに盛り上がるような胸があったのだ。
「だ、大丈夫か? と言うより、フィガット生きておるか?」
ピクリともしないフィガットをアイリーンが心配するが、ちょっとにやけている所を見るとどうも心 配する必要は無いと判断。
「さ、サラシが切れて……あ! まさかさっきナイフを取り出す時に一緒に切れちゃった……?」
カーリンは放心状態。フィガットは気絶。
アイリーンは「はぁ」とため息をつくと、此処を後にして回廊の先へと進んでいった。
==============================
「はぁ……はぁ……ようやく全部倒したか……」
「ほん、と……はぁ……はぁ……。しかも、何気に……黒い布……強すぎ……」
一撃も攻撃が当たらないのだ。いくら光の槍を放っても、いくら粉砕する拳を放っても、半透明の黒い布には一撃も当たらなかった。
最終的にはアルタルがその布を掴んで広げ、フィーが貫くと言う荒業をやってのけた。
相当な数を相手にしたので息がなかなか整わない。それでも先に行ったセルスが心配だと、フィーが言うのでアルタルとフィーの二人は息も切れ切れにゆっくりとだが回廊を進んでいく事を決めた。
回廊に今まで魔の者が出て来てはいないので回廊で戦闘することは無いだろうと踏んでの事だ。
「だけど、セルスはどこまで行ったんだ?」
「わからないけど一階上、ってわけじゃないと思う」
歩きながら考える。
何も無いまま進んでいくと、二階に到着した。
だがやはり何も無い部屋だった。魔の者の一匹もいやしない。
「ま、此処の奴等は下で全員戦ったからな。フィー、一度休憩取るか?」
「ううん」
首を横に振り、フィーは奥に繋がれている回廊を見つけ、進み始めた。
そして戦っていた場所から数十分。
ようやくたどり着いたのはたくさんの魔の者の死骸が倒れている部屋だった。一目でセルスが此処で戦ったのだろうと予測をつけ、部屋に入って行く。
そして一つ気になる所がある。それは部屋の中心には死骸が無かった事だ。他の場所には死骸が埋め尽くすほどにあるのに、中心だけはぽっかりと穴が開いている。その場所に魔の者がいなかっただけなのか、もしくはわざわざ移動させたか、余波でその場所だけぽっかりと穴が開くような攻撃をしたかの三択。
アルタルは考えてみたがどれも想像する事が出来なかった。
「わざとか、もしくは此処だけ攻撃を弾いた敵が居たか」
「でも、魔の者の死骸って普通は消えなかった? アル」
フィーに言われ、アルタルはその事実に気がついたようだ。
二人とも警戒心を高めるが死骸の魔の者が起きてくるような事は無かった。それもそうだろう。ほとんどの死骸が小石レベルに切断されているのだ。これではどんな魔の者だったのかさえ分からない。
「仕方無い。とりあえずあの死骸が無い場所まで歩いて行くか」
アルタルが決意すると、唐突に地震が起きた。
「きゃぁ! 今度は何!?」
「わからん! とにかく伏せろ!」
二人とも地面に伏せる。魔の者の死臭の刺激が強いが揺れている間は我慢した。
ものの数秒で治まった所を見ると、何かの爆発の余波だろうと決定づける。
「フィガットさんやカーリンさん。大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。外に居たのは大体雑魚ばかりだ。もしニ層に入って来ても何とか食い止めるだろう」
アルタルはそうして部屋の中央まで進むと、何やら光るものを見つけた。
「これは……」
何だろうと膝を曲げて光るものを手に取ると、どうやら首から下げるような装身具のロケットのようだった。
少し色褪せているだけでなく、錆びている所が多数ある。悠久の時を過ぎてきた事を感じる。
カチッと音を鳴らせて中を開く。すこし錆びていたためになかなか開けにくかったが、ようやく中を見る事が出来た。
そこには一枚の写真。
顔を赤くして少し目を逸らしている神原幸治と、もう二人。中央に一番背の低い元気の笑顔を振り撒く女性と、その女性を挟んで幸治とは反対側にいる背が高く髪が一番長い女性が微笑みながら映っていた。
「これ、神原幸治さんのロケット?」
フィーが覗きこんできて第一感想を述べる。
「違うと思うぞ。俺たちに任せたんだし生身は死んでいる。ここまで運べるとは思えん」
「それもそっか。……それより、中央に寄り添ってる人が彼女かな? もしくはこっちの女の人。美人、って言ったらこっちの髪が長い女の人だよね」
笑顔を見るだけでも活発そうに見える女性を先に指しその後に髪が長い女性を指していた。三人とも同じ白い白衣を着ている所を見ると同じ科学者と言う物なのだろう。
神原幸治が照れている所を見ると、どちらかが彼女なのか、もしくは好意を寄せている人だろう。あながち間違っていないと思われる。
「神原幸治の愛する人……何と言う名前だったか?」
「そんなこと言われても、私は信じていなかった派だから名前を聞かれてもわかんないよ」
それもそうか、とアルタルは頭の中でどんな名前だったか思い出してみる。
「確か……アイギナ、だったか。未来が言うにはラーバは反対語になっていると言うし、本名はナギイア? いや、女の名前でも男の名前でも無いな……」
「それより、先に行かない? セルスが心配だよ」
いくら強いとは言ってもそれは知識や経験が一番長いからだろう。もし不意をつかれてしまったら、と思うとフィーはいてもたってもいられないのだ。同じ仲間だから。
「そうだな。これは一応持って置こう」
懐に入れ、大事にしまっておく。
その場から立ちあがり、奥に続く回廊を見る。
もう段は無く真っ直ぐ奥に続いているが暗くて向こう側までよく見えない。
「行くか」
「うん」
回廊を進む。蝋燭が壁に立てかけてあるが足元は薄暗くて見にくい。これだけ暗いと奇襲に気をつけなければならないだろう。
警戒しながら奥へと進んでいく。
アルタルとフィーの足音しか聞こえず、逆にそれが不安になる二人。
「どこまで行ったのかな」
「ところでフィー。フィーはどうしてそこまでセルスを心配するんだ?」
一番疑問に思う事をアルタルはフィーに訊くと、フィーはそれを悩みながらも答えてくれた。
「そりゃぁ……力も強いし、知識もあるからなんでもできるイメージがあるけど、それが逆に壁になっていると言うか……。セルスって、心を許しているようでどこかで壁を作ってるような感じがするんだよね。女の勘って奴?」
なんだそれは、とアルタルは嘆息しながら回廊の先を見る。
そこはもう次の部屋が薄暗い光を照らしながら見えてきた。どうやら次の部屋についたようだ。
「此処にもいない、と……」
魔の者の死骸が大量に残されている。今度は部屋に足場を作らないほどバラバラに配置されている。だが一部だけ、つまりは次の部屋に進むルートだけには魔の者の死骸が密集している。
それと、部屋に入った時に気がついたがどうやら部屋の構造が今までの部屋と少し違う。
今まで岩でできた部屋とかなのにこの部屋の床を踏みしめたら少し柔らかいような感覚を感じた。よく見てみると、何やら生きている肉のようだ。時折ドクンッと音が鳴って血脈が見てとれる。
「気持ち悪い……」
「あぁ、そうだな。それより、先に進むか。此処も全滅しているようだしな」
そうして次の部屋へと進もうとした時――カタリ。
「?」
「アルどうしたの?」
不思議そうに見るフィー。
アルタルとフィーが進んだ足を止めたのは部屋の中央。
カタカタ……そんな音が聞こえる。フィーもようやっと音に気がついたようで周りをキョロキョロと見始める。
「どうやら、取りこぼした敵がいるようだな」
アルタルが拳を握ったその瞬間、バッとたくさんの魔の者が現れた。
全体的に綺麗な白色。たくさんの種類があるがそのすべてに共通するのがそれだけ。人型があったり、犬や猫、たくさんの種類の動物に、ドラゴンのような物まであった。人型の魔の者だけその手に剣を持っている。覆うようにして出てきたその魔の者は……。
――全て白骨だけで作られていた。
「こ、此処にメルが居なくて良かったな……」
「わ、私……だって、あれは……ちょっと……」
身震いするアルタルと顔を青く染めるフィー。
暗い部屋で余計に怖く感じる。
カタカタカタと音を鳴らして少しずつ近づいてくる白骨死体。それから、走り出した。
「フィー! 二か所だけ小さい奴が通れる場所を作って防御魔法を張ってくれ!」
「う、うん! 十字架の光よ、我を守りたまえ!」
十字架から放たれた光が二人を囲むようにして広がった。
アルタルの前と、フィーの前は穴をあけて。
「それぞれ一体ずつ迎撃するぞ!」
「わかった!」
穴から割れ先にと入ってくる白骨死体をアルタルは次々と殴り壊して行き、フィーは光の槍を放って行く。
そして人型や犬や猫など、小さい白骨死体の魔の者を倒して行くが、これっぽっちも減る事が無い。
「こいつら、永遠に出てくるのか!?」
「かもしれない! 向こう側からずっと出て来てて止まる気配が無い!」
アルタルは白骨死体を砕きながら考えていると、横でパリィンッと割れる音が聞こえた。
「何だ!?」
「ドラゴンの白骨が防御魔法を割ったの! 横から入ってきちゃった!」
迫って来ていた白骨死体を蹴ると横を見る。そこでは口を大きく開けて迫ってくるドラゴンの白骨死体。とっさに跳躍して避けた所にドラゴンが地面を噛み砕いた。
「ただの骨なのに砕いただと!? って、肉だったか」
だがその砕かれた肉の床から大量の黒い靄が。
「魔の者の霧か!? 逃げるぞフィー!」
「どこに!?」
フィーの言う通り、周りにはもうすでに白骨死体が迫って来ていた。
舌打ちをして黒い靄とは反対方向へとフィーを連れて走り始めた。
「前は俺が倒すから横と後ろを倒してくれ!」
「わかった!」
前からくる白骨死体を跳ねのけていく。目指すはたくさんの魔の者の死体がある場所。
「数が多いッ」
フィーはできる限りたくさんの光の槍を展開してもはや投げるのではなく置いて行く。
当たるだけでも威力はあるし壁にもなる。
だけど数が多すぎて横は何とかなるが後ろが手つかずになりたまに魔の者の攻撃が当たる。
背中に激痛が走るが前を走るアルタルは気づかない。
「もっと、もっとたくさんの槍を!」
数十、数百、一千もの光の槍を作り出す。
それだけ作られるともはや壁にならない場所は無く、ようやく後ろからの攻撃も防ぐ事が出来た。
「よし、道が開いた! フィー、大丈夫か!?」
回廊にようやく入り、それからフィーが入ってくる。後ろから追って来た白骨死体はアルタルに蹴飛ばされると、次第に追ってこなくなった。
部屋から出たからか、それとも追って来なくてもいいのか、わからない。
「追ってこないならば好都合だな……? フィー!? 大丈夫か!?」
ようやくフィーの背中が血だらけになっている事に気づくアルタル。
「大、丈夫。ちょっとひりひりするだけ」
肩を押さえながら言うも背中の服は血が滲み出ている。
「くそ、セルスは何でこんなときに……。セルスを探すぞ。立てるか? 肩貸すか?」
「だから、大丈夫だって……。それに、アルが動けなかったら誰が魔の者倒してくれるの?」
フィーは苦しみながらも肉壁に手を突いて歩いて行く。
致命傷では無いので決して死ぬ事は無いだろうが、いつまでもこの状態と言うのは危ない。血は少しずつ流れ出て広がっている。
早めにセルスを見つけようとアルタルはフィーの歩く速度に合わせて先を進んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「休むか? 回廊には今の所魔の者が出ないとわかっているからな」
段々と息が荒くなってくるフィーを気遣ってアルタルが声をかける。
フィーはそんなアルタルを見ると、少し頷いてその場に座り込んだ。
「はぁ……はぁ……。ごめん、アル……」
「気にするな。俺もあまり役に立てていないからな」
「そんな、事は……」
それにしても、と考えるアルタル。
いくら背中から血をたくさん流しているからと言って此処まで苦しい物なのか?
どう考えてもおかしいと決めたその時、フィーが倒れた。
「フィー!?」
「あれ……何で、私倒れて……」
「まさか……毒か!?」
ようやく正体を掴めたアルタル。
毒が体内に入りこんだならばこの症状に納得がいく。
だがアルタルは毒に対する知識を持ってはいないし薬を持っている訳でもない。
「フィー! 一応防御魔法を張っておけ! 俺が先に行ってセルスを必ず連れてくる! 必ずだ! それまで絶対に意識を保ってろ!」
「わか……た……。十字架の光……よ、我を、守りたま……え……」
すぐにフィーの周りに防御魔法が展開される。
それを確認したアルタルは先に居るはずのセルスを求めて肉床を蹴った。
次の部屋にたどり着いた時にもセルスはいなかった。
そろそろ第三層までたどり着いてしまう頃だ。どこに行ったのだと悪態をつきまた現れた白骨死体を無視して先へと進み始めた。
「セルスー! どこだー! セルスー!」
大声で叫んでみても声は聞こえ無い。一体どこまで進んだと言うのだ。
そうして二つ目の部屋にたどり着いた時、そこは今までのような赤い肉が壁となっているのではなく、黒い肉が壁となっている他とは異様な色を出している部屋だった。
「何だ、ここは……」
先程のような柔らかい肉が堅い肉となって足で地面を叩くとカンカンッと石のような音が鳴る。
「ニ層はいくつかのエリアに分かれている、と言ったところか?」
「そのとおりよ」
「誰だ」
このくらい部屋の奥からくる足音。
「でもまぁ、この先にある螺旋の塔はさすがに周りの環境は変わらないわ」
アルタルは聞こえてくる足音だけを聞きながらその方面に向かって眼を鋭くする。
「あっと、屋上だけは特殊な物で作られてたかしら?」
姿が見えてくる。どうやら人型のようだ。それに言葉を違和感なく喋れるという事は知能がとても高い。
だけど、そんな考えは全ての姿が新明に見えた時に真っ白になってしまった。
「こんにちは。突然で悪いのだけど、ここから出てってくれないかしら? 奥に行った命知らずの人間も連れて」
大人の女性。背が高く、長い黒髪、白い白衣。微笑んでいるその姿はつい先ほど見たばかり。
アルタルはその懐に入れてあったロケットを取り出し、開けた。
一番右端の女性と、目の前に居る女性の姿が被った。
「あら、そのロケット拾ってくれたの。探していたのよ。礼を言うわ」
手を差し出す黒い女性。
その間、アルタルの頭の中身は疑問で一杯だった。
(何がどうなっている? 姿が一ミリたりとも変わっていない。このロケットは少なくとも何十年以上前の物だ)
女性がいつまでも待てなくてアルタルの手の内にあるロケットを強引に奪って行った。
「勝手に開けるのは感心しないわね。プライバシーと言う物を知らないのかしら? あぁ、今は関係ないわね、なんたって味方と敵なんだから」
「味方と……敵、だと?」
たくさんの疑問を持つ中で、ようやく目の前の女性が危険な人物だと言う事がわかった。
突然刃物を突き出してきたのだ。
「むぅ!?」
身を逸らしてどうにか回避した後、その場から後退した。
刃物の正体は剣。それも細剣に部類される武器だ。
「まったく、私は幸治と凪にしか興味無いの。それ以外は全員返してあげるからさっさとこの場所から消えなさい」
「凪? 誰だ、それは」
この場所に来ている中に、幸治も凪と言う名前の人も来ていない。なのに目の前の女性は二人の名前を出してくる。
「筋肉が知る必要は無いのよ」
「筋肉だと?」
「ええ、可愛い後輩がニ層入口であなたの事を筋肉と言っていたわね。」
「その名前で呼んでいたのはセルスだけ――」
目の前の細剣の矛先。一瞬の事だった。
「今度私の後輩の事をその体につけられた名前で呼ばないで。今ここで殺してあげるわよ?」
背筋に寒気が走った。
力が今までの魔の者と違う。本能的に勝てるかどうかわからない。
(後輩がセルスと言う事、か? そう言えばセルスも悠久の時を過ごしてると言った。だが名前は凪のはずが無い。別人か? とりあえず……)
それとは別に考えた事。そして決めた事。
「お前は知っているんだな? 後輩とやらの居場所を」
「ええ、あそこに居るわよ?」
女性が視線を後ろへと向ける。
その視線の先をアルタルが追うと……。
――意識の無いセルスが徐々に黒とは違う、紫色の肉壁に取り込まれそうになっていた。
「何だ!? 何をしている!?」
「何って、今からあの体を改造して、元の姿に戻すのよ。これでも科学者だからね。いくらでも作れるのよ。肉体改造する装置なんてね」
肉体改造。その単語に一瞬フーリィの姿を思い出し、そして体が変わってしまう薬を思い出した。
「させるか!」
「いつまでも男の子のままでは可哀そうでしょう?」
「あいつは男だ! それとも違うと言いたいのか!?」
「当たり前でしょう? あの時、幸治と私がそれぞれ剣とレイピアと撃ち合ったおかげで、死んだのがアイギナ。つまり凪なのよ。私と幸治の二人の武器に貫かれてね」
「な、に?」
衝撃の事実。
そう言えばと思いだす。幸治は一度も魔女を倒したりするまでの話をしていない。
「あら? 初めて知ったって顔ね。もしかして一番初めに魔の者の元祖を見つけたのが幸治(、、)だって話も知らなそうね」
「それは……どういうことだ? お前は、魔女なのか?」
アルタルが言うと、目の前の女性が微笑んだ。
「ええ、私の名前は吉田真夜。神原幸治と七光凪と一緒のグループに居た科学者であり、オカルト組織の副リーダーでもある。み~んな、同じ組織に居た仲間だった、のよ」
「仲間だった、だと?」
「だから、あなた達が勇者だと言っている幸治こそが最悪の元凶で、全ての始まり。あえて言うなら幸治は黒い勇者よ。物語は美化されてるけど、現実は泥沼よ」
真夜はそう言ってセルスの元にまで行き、その頬を撫でる。
「これ以上あなたに話しても意味は無いわね。解毒する薬はあげるから去りなさい。私はこれから凪を連れて王の元に向かうのだから」
そう言って投げてきたのは一つのゴムのついた試験管。中に紫色の液体が入っており、これが解毒する薬なのか心配になる。
「って、向かわせるか!」
走りだそうと足を踏み込んだ場所が沈んだ。
「何だ!?」
「この肉壁、私の意志で動かせるのよ。戻らないんだったらそこでセルスが元の姿に戻るのを見ていなさい」
沈み込むセルスの体がすでに半分以上。このままいけば一分もかからずに全て飲み込んでしまう。
「く、そぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
肉に足を取られて動けないアルタルはその場で叫んだ。
近接格闘しかできない自分。せめてもう一人遠距離の味方が……。
「――はぁッッ!!」
後方より渡来した数百の光の槍。
「これは!?」
「な!? 私の装置になんて事を!?」
両手を頬に当てて悲鳴を上げる真夜。
肉に埋もれていたセルスがするりと表へと出てきた。
ただ、いつも着ていたローブが無く、下に着ている服が見えていた。
袖無しのポロシャツに、ショートパンツとずいぶんとシンプルな服装だった。動きやすさを追求していたのだろう。肩から先とももから先は靴下以外全部露出している。ただ、その綺麗な肌はとても柔らかそうだ。
「く、これでは肉体改造が。お前、よくもッ」
「なんでフィー、此処に……」
「あ、は、はは……。アル、私、は一人で、待っている、ような子じゃない、よ……」
フィーはそれだけ言って倒れ込んだ。
「フィー!?」
アルタルは急いで身をひるがえしてフィーの場所へと戻った。帰れるように後の肉は動く事が出来るようだ。
「大丈夫か!? フィー!」
アルタルは急いでフィーに解毒薬を呑ませる。どうやら本当に解毒薬だったそうで、荒かったフィーの呼吸が整ってきた。
「良かった、これで……」
フィーを助ける事が出来た。後は、真夜の元に倒れているセルスだけだ。
アルタルは真夜を見上げる。真夜は顔を片手で隠すようにして考えている。
「まぁ、いいわ。また作ればいいんだから……。あとは洗脳してから王の元に行けばいい。凪は誰にも渡さない。私の可愛い後輩なんだから」
真夜はこれからの行動を決めると、その手にセルスを抱きかかえる。
「待て!」
「悪いけど、あなた達はこいつ等の相手でもしてなさい」
手を振ると、肉床、肉壁から触手が出てきた。そして何やら踏んでいるその肉がその触手のような物に集まって行く。
「なん、だ?」
「陸で戦うのはあれだけど、筋肉ぐらいどうとでもなるでしょう。クラーケン! そいつと女はエサだ、喰らえ!」
――エ……サ……――
それは重く、鈍重に響いた声だった。
いつの間にか肉に覆われていた床や壁は全て部屋の中央に集まっている。その大きさはシャレにならないほど大きい。
その集まった肉から十ある触手が現れる。そしてまだ残っている巨大な肉から三角の甲殻が出てくる。そして残りの肉は全て胴体と避けた口が現れた。
「周りの肉は魔の者だったか!?」
アルタルが驚く反面、まだ苦しいだろうフィーが起きようとアルタルの足を掴む。アルタルはそれに気づいてフィーの体を支える。
「大丈夫、だよ、アル……」
フィーはそれを拒否して回廊の壁にもたれかかる様にした。まだ肩で息をしている。
「これなら、魔法を打てる……。アル、気をつけて。先の事は、みんなに任せよう。私達は、こいつを……」
苦し紛れに光の槍を生成する。
その槍の矛先がすでにそれぞれの触手に向かって伸びている。
「だがフィー。お前は休んでいた方が――」
フィーの手がアルタルの口を塞ぐ。
「いつまでも、子供扱いしないでよ……。私は、アルと一緒に戦いたいの……。ここが、第二層の最後なんだから……最後まで、やらせて……」
今までのフィーの扱い。アルタルは必ずフィーを守る立場だ。いつも一歩後ろで守るようにして来た。
だけど、目の前に居るフィーはもう今までのようなフィーでは無い。
子供ではない、大人。もう昔では無い。
アルタルは再認識をしなければならないのかもしれないと考え、フィーのその手が口から離れた。
「……分かった。フィーはここから魔法支援を頼む。最後まで付き合ってくれ」
「わか、った。いけぇ!」
飛来する光の槍と共に走りだす。
「……エサ……」
クラーケンの触手がアルタルへと迫る。
その触手はほぼすべて光の槍によって撃ち落とされていくが触手はすぐに回復してアルタルへと襲い掛かる。どうやらこの触手は潰しても魔の者の靄を吐く事はないようだ。
アルタルは安心してその触手を殴ってどかしながら胴体に向かって走って行く。
「はぁ!!」
フィーの光の槍が数百と飛来してくる。全てが触手を止めるために突き刺さり、アルタルを捕まえようとして来る触手が切れていく。
アルタルはとうとう胴体までたどり着くと、今度はクラーケンが口をあけてその身を乗り出して飲み込もうとして来た。
「ぬぅん!!」
跳躍して丸のみになるのを回避すると、その真上から一撃。更に回し蹴りを放ちクラーケンの巨体を弾き飛ばす。
「ォォォォオオオオオオオオオオオオ!!」
「えぃ!!」
爆発したような衝撃音を鳴らしてクラーケンは壁に叩きつけられると、そこにフィーがすかさず光の槍を突き刺した。それは触手を貫いて壁に突きさり、それぞれの触手を動かないように一本の触手に十本は突き刺した。
残りの光の槍は全て甲殻に攻撃。甲殻は光の槍を受け続け、ヒビが入ってくる。
「ナイスだフィー! オォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
アルタルが跳躍し、その拳に一撃の全力を高める『必勝ハチマキ』を振る発動して力を込める。
「砕けろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
星をも砕く一撃。
甲殻が割れる音と、その下を容赦なく潰す拳がこの第二層の地盤を揺るがした。
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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「大丈夫か? フィー」
魔力のほとんどを使い切ったのか、フィーは息を荒くしてその場に座り込んだ。
先程まで毒で倒れていたのだ。体力も持つはずが無い。
「アル、行って」
「何?」
フィーの小さな呟きにアルタルが聞き返した。
「だから、第三層に……行って」
「第三層は、未来達が何とかするだろ? 俺はお前が心配で」
「大丈夫だって」
フィーがアルタルが話している途中に割り込んだ。
「第二層はほとんど殲滅完了だし、来たとしても、十分倒せるよ。それより、さっきの……真夜、だっけ? その人が言っていた事を伝えないと。魔の者が悪いのは事実だけど、どうも神原さんだけを信じちゃいけないような気がするの……」
「言っていた事って……お前いつから聞いていたんだ?」
「名前、名乗った時ぐらいから、だったかな……。回廊を歩いていた時に聞こえてたんだ……」
フィーはそう言うと、この部屋の先を見た。
そこは一層とニ層の間にあった結界と同じように、ニ層と三層を分けているのだろう。
そしてこの三層が螺旋の塔とやらの入口。
「ほら、早く行かないと未来君達が王にまで到達しちゃう。魔の者の王を倒すのは、問題ないかもしれないけど、真夜を倒して……ううん。殺してしまったら、取り返しのつかない事になりそうだから」
「取り返しのつかない事、だと?」
見た所真夜は魔の者ではないだろう。だけど魔の者を使役できる。
戦って誤って殺してしまうことも無しきもあらずだ。
その中で、アルタルはどうして真夜が死んでしまったら取り返しのつかない事になるのか考えたが分からなかった。
すると、フィーがようやく再び口を開いた。
「うん。だって、死んじゃったらきっと……謝ったり、お礼言えたりしないじゃない。つまり、仲直りができないじゃない……ね?」
第二層と第三層を繋ぐ結界。
その結界を、二人の人間が通った後、後を追うようにして一人の人間が通って行った。
ちなみに、その十分後に第二層の最後の部屋に人間が二人、人の姿をしたドラゴンが到達し、ドラゴンは二人を残して先の結界を通った。
ひ、一人でこの量……死ぬ……(バタッ
ということで皆様こんにちわぁヾ(・・*
長谷川レンですよ~(==*
空白入れると三万文字を超える事が出来ました。しかし私は納得できていません……。
なぜなら文字数だけで三万文字を超える事が出来ていないからです!!←
くそぅ……できると思ったのに所詮私はこの程度か……Orz
ちなみに平日はヒスティマに忙しくて休日はヒスティマ書いてからリレー小説を書いていたからリレー小説書く時間って正直限られていたんですよねぇ(あはははww
第二層を私にほとんど任せられる、ということで靉靆さんには一週間だけ期限を延ばして貰いました。
もしいつもの期限の二週間だったら私はきっとこのステージに立っていないでしょう……。
そしてこんな話にならなかったでしょう。靉靆さん、ありがとうございます!!
しかし、第二層を本当に私が書いてしまってもよかったのでしょうか?
物語の大半を書いてしまった気分ですよ(==*
さて、ここから第三層組がどう書くのかが私にとっては一つの楽しみでもあります。
魔女さん、あまり悪い人ではなかったでしょう? ちょっと百合っ気のある人なだけですよ~(←
あと、カーリンが実は女性でした。男装少女って反応が初々しくて可愛いです(==*ホクホク←
私がそれぞれ勝手にそう設定したんだけどね!!(ちょっとアドバイス貰ったりしたことはあります)
リレー小説って面白いですね~。私の番はこれにて終了してしまいますが、不満なく楽しめて読む事ができたら何よりです!
私の小説は真剣な戦いでもボケ、ツッコミは必要だと思うんですよ。
やっぱりただ戦うだけじゃつまらないでしょう? あ、もちろん雑魚と戦ったりするときですよ? 大物と戦う時はその大物がネタキャラでなければ本気に書きますよ?
さて、これで肩の荷も降ろしましたし、ヒスティマⅤに力を入れましょうか。
長くなってしまいましたし、私はそろそろお疲れ様しますね?
リレー小説:重なる世界の物語。最後まで御清聴よろしくお願いします!(≧▽≦*
あ、御愛読だった!? ご、ごめんなさい!!(≧△≦;
長谷川 レン




