アイリーン
リレー小説第21話です。
担当 :雷 (元メルト)
代表作:未知びきっ!(http://ncode.syosetu.com/n0688bh/)
瞼を通って赤みの付加された光が目に突き刺さる。朝日で目を覚ました未来は身体中にわずかな倦怠感を覚えつつ、地面に手をついて上半身を起こした。
(そうだ……確かボクは……)
ヴィカラーラとの戦いに打ち勝ったはいいものの、その場で力尽きてしまったのだ。そのまま朝まで眠ってしまったのだろう。隣ではまだ起きていないフーリィがあどけない寝顔を見せてくれている。
「っと……こんなことしてる場合じゃなかった。他のみん……な……」
ぐらり、と立ち上がろうとした未来の身体が傾いた。
重力に逆らう力すらなく、ドサッと再び地面に倒れ込む未来。もちろん本人の意思ではない。蓄積されたダメージと使い果たした体力は、わずかな睡眠で自然回復するようなものではなかったのだろう。
「違う違う。君の推測は間違っているよ、少年。君の身体が動かない原因はダメージではなく副作用のようなものだ」
「……ッ!?」
突然、少し離れた辺りから聞き覚えのない声がした。その声は少年のように弾むようで、少女のように愛らしくて、しかし父親のような力強い存在感を持ち、母親のような慈愛と優しさに満ちている。
「そこにいるのは……誰?」
警戒心を解かず(といっても身体が動かなければ自衛もできないが)、声のした方向の、姿も見えない声の主に問いかける。
「そこにはいないよ。私はここにいる」
「ッ!?」
短時間に二度も驚かされた。
さっきは足元の方で声がしていたのに、その人影は不意を突くようにぴょこんと視界の頭側から顔を出したのだ。
途端、視界が白銀に埋め尽くされた。
「んなっ、何だコレッ」
ヴィカラーラに取り憑かれた時のフーリィのことを思い出す色に、警戒心からか未来は身体が強張るのを感じた。
さらさらと流れる絹糸のような感触。鼻孔をくすぐるほんのり甘い自然な香り。触れている感覚はあるものの、まったく重さは感じない。まるで水のように肌の上をさぁっと撫でて転がっていく。
「おっとすまない、少年。私の髪だ」
伸びてきた手がその白銀の絹髪をかき分け、その向こうに顔が現れた。
「ッ!?」
これで驚かされるのは三度目だ。そろそろ心臓に悪い。
その人物は年端もいかないように見える少女だった。
しかし、一目見れば彼女もまた『悠久の賢者』セルス=クライリストと同じく、実年齢と外見年齢が一致しない存在であることが容易に推測できる。
少なくとも――――人間じゃない。
髪の白銀色や色白の肌と対比して目立つのは、燃える血のような真紅の眼。その顔の造形は思わずゾッとするほど整っていて、非の打ち所がないという以上に違和感すら覚えるほど繊細な美を体現している。日の下で陰っているにも関わらず、キラキラと輝く粒子を纏っているように見える。
しかしセルスとは異なり、この少女には明らかな異形があった。
少女の口元には大きく鋭い犬歯、否、牙が鈍い光を放つ。こめかみから耳の上辺りには隆起した細い白角が生え、首から肩にかけて、肩当てのようにも見える玉色に輝く鱗に覆われている。そして前屈みに座る彼女の肩の向こう側には翼肢が広がり、純白の翼膜が張られた翼が見えた。
その姿から未来が連想した単語は、『魔法』と同じくファンタジーの代名詞となりうる存在。破壊の象徴たる火を操り、風のように軽々と空を飛び、時に水の象徴として神格化され、地上と天空の支配者として君臨する怪物。
つまり竜、ドラゴンだ。
しかし、未来の知っているRPGの知識において、人型のドラゴンなんて聞いたことがなかった。ドラゴン娘か。
「確かに私は人間じゃない。察しの通り、この身は竜族の一画に定義できるからね。少し外れた枠外、ではあるが。しかし少年、君はそれを問いただす前に言うべき言葉はないのかい。あるいは思うべき心葉はないのかな?」
「このは……?」
「外に向ける言の葉に対して内に秘める心の葉だよ。察しの通り、私は君たち他者が何を考えているのかが手にとるように、まさに手玉にとるようにわかる。言葉と心葉の説得力の差は言わずもがな……だろう? 少年」
悪戯っぽい笑み。しかし、そこに幼さはまるで感じられなかった。
「状況を掴みきれてないんだろうね。まだしばらくは身体も動かないはずだ。一から説明してあげてもいいけれど、何事も自分で見た方が早いだろう。手を貸してあげるから起きるといい」
そして少女の助けを借りて、再び上半身を起こした未来が見たものは――――。
「どういうこと……!?」
「見ての通りだよ」
少女は答えになっていない応えを返しながら、後ろから未来の脇に通した両手を彼の胸に優しく添える。そして同時に未来の背中に密着し、抱き留めるように彼を支えた。
初対面の相手に対するものとしてはかなり大胆な行動だが、驚くばかりの今の未来には気にしている余裕はなかった。
その光景は、未来にとっておそろしく都合のいい指向性を以て改変されていた。
意識を失う直前に見た光景(細部まではうろ覚えだが)では、フィーもアルタルもシーカもセルスも全身に自他の血を浴び大怪我をしていたはずなのに、少なくとも見る限りその痕跡すら見当たらない。唯一動けるらしいアムールだけがセルスの周りを心配げにうろうろ歩き回っている。
さらに、その異常な変化は人だけに起こったものではなかった。
未来とヴィカラーラの戦いで周囲に撒き散らされた破壊の余波とそれ以前のヴィカラーラの暴挙で壊れていた建物すら、全てが綺麗さっぱり修復されている。
しかし逆に、そこにあったはずの大量の魔物の死体は綺麗さっぱり消え去っている。あまりにも都合の良すぎる展開だ。
「気に喰わない魔力の気配と夥しい血の匂いが気になって降りてきたら、酷い有り様だったからね。救える命だけを引き戻した。君たちの言葉で言うなら結果的に治癒というのが一番近いかな? 意識こそ戻ってはいないけれど物理外傷は完全に快復してるよ」
さも簡単なことのように言ってのけるが、無論簡単なことではない。自然回復を補助する手当てではなく直接その結果に結びつけたのだ。
ステップを飛ばすにも程がある。
少女は未来の耳元で囁く。
「さて……改めて聞こうか。君は私に言うべき言葉あるいは思うべき心葉はないかな?」
「あ……ありがとうございます!」
感謝しかなかった。
治癒の魔法を使える人がこの場にいないのは言うまでもない。
仮に村に戻るまでだとしても、死屍累々の一歩手前といえる惨状。何の処置もなければ村まで保つわけもない。あるいは未来が目を覚ます前に四人が死ぬ可能性の方が高かっただろうからだ。
ヴィカラーラに勝てたのは、奇しくもフーリィの生命力、命の輝きのおかげだったわけだが、彼らの命もまた危険な状態だったことに変わりはない。
「どういたしまして、少年。いや、白河未来くん、と呼んだ方がいいかな」
「どうしてボクの名前を……」
未来が少女の姿勢に気づきそれを意識し始めた瞬間、少女はスッと身体を引いた。
「彼らも含め、ずっと見ていたからね。特に君は、だけどね。七億八千年前の日本から来た古代人」
また驚かされた。これで四度目だ。
「それも心が読めるから……?」
「便利には違いないけどね。多少は罪悪感も沸いてくるよ。触れてはいけない部分にも否応なしに踏み込んでしまうから」
少女の声がわずかに沈む。
「おっと……危ない危ない。こんなことしてたらセルス君が起きちゃうな……」
セルスと顔見知りなのだろうか。
「未来くん……私が来たこと、ここで私がやったことはセルス君には内緒にしてね」
「え?」
「私の名はアイリーン。ずっと、君は見てるから……」
突然、一陣の風と共にさっきまで背中に感じていた包み込まれるような体温と、恐れにも近かった圧倒的な存在感が消えた。
「……いない……?」
振り返ったそこには、何もいなかった。
期限遅れてすいませんOrz
ほぼ全ての人ですが、初めまして雷と書いてカミナと読む、マイナーの底辺を突き進みながら迷い始めたダメ作者っすOrz
今回で企画モノ・リレー小説に参加するのは初めてっすOrz
至らぬところしかない遅筆ですが、これからもよろしくお願いしますOrz
(気づいたらOrzばっか……(汗 )
雷 (元メルト)




