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リレー小説:重なる世界の物語  作者: リレー小説ALLプロジェクトメンバー Ver.1.3
20/31

NYHA16創世神

リレー小説第20話です。


担当 :三河 悟

代表作:ゴキげんNANAME!(http://ncode.syosetu.com/n1377ba/)

「はぁ……はぁ……!」


 未来は息を荒げていた。


 そして、絶望していた。


 目の前の現実に。


 眼前の惨状に。


 今彼がいるのはセルスの千里眼によって導き出された、盗賊達のアジト。険しい山々の、峰と峰の間にある大きく裂けた谷。その間にそびえ立つ、一本の石柱。未来のいた時代風に言うのなら東京ドームの円周よりも太い、大きくて図太い石の柱。


 その頂上に、盗賊のアジトはあった。


 いや、正しくは本アジトと言った方がいいかもしれない。


 フーリィを攫った盗賊団は思った以上に大規模な組織で、谷の周りに小規模なアジトをいくつも用意して防衛線を張り、本拠地にフーリィを拘束した上で待ち構えていた。


 これ自体はセルスの千里眼で予見(覗き見とも言う)していたので、容易に奇襲をかけることには成功した。


 だが、それ以降は全くの予想外だった。


 何故なら――――――全滅してしまったからだ。


 セルスも、アルタルも、シーカも、ついてきたフィーも……そして、盗賊団すらも。盗賊団は全員動かぬ置物と化し、セルス達は生きてはいるものの、呻いているだけで全く動けそうにない。


 その死の絨毯の中心で、“彼女”は笑っていた。


『やっと来たか、待ちくたびれたぞ』


 闇と血に染まった、フーリィが。


 ◆◆◆◆◆◆


 今から数十分前。


 月が大地を淡く照らし、星々が宝石のように瞬く頃。


「よし、ここだ」


 未来達は森の茂みに隠れていた。むろん、盗賊団の小アジトの近くである。


 いるのは、セルス、アルタル、シーカ、フィー、そして未来の五人。あと、アムール。メルは留守の守りに当たってもらっている(別の魔物が来ないとも限らないため)。


 全員、完全な戦闘態勢であり、セルスはマリオネット、アルタルは『アイギナのメイス』、シーカは『アジュラ』、フィーも己の武器と魔力を高めている。かく言う未来も、椿をしっかりと握りしめている。


「で、どうするつもり?」


 シーカが、アムールにすり寄られているセルスに尋ねる。


「まず、この小規模アジトを制圧する」

「簡単に言ってくれるわね。アレ見てみなさいよ」


 至極あっさりと無茶を言ってくれたセルスに呆れつつ、シーカはアジトの方を指差した。


 こじんまりとしたログハウスの周りには、何人もの人影が見える。


 しかし、人型をしているものの、どれも人間ではない。


 闇のような黒。全身が黒いゴム状の皮膚で覆われ、人間の目が幾つも浮かび上がって水玉模様を描いている。頭には二本の角がそそり立ち、背中には蝙蝠の羽、尻からは長大な尾が生えている。手足の指が異常に長く、爪は鋭い。


 全員、魔物だった。黒い肌が闇夜に紛れて分かりにくいが、これを人間と見間違えるアホはいないだろう。


 どうやら、盗賊団は全員魔物が化けていた物らしい。


「こんなに魔物がいるのに、そんな易々と制圧なんて出来る訳ないでしょう」

「別に完全に制圧する必要はないよ。皆で一気に奇襲をかけて混乱させ、大多数を逃がしてやればいい」

「逃がす?」

「そう。そして、誰か二人くらいここに残ってもらって、残りの人達で本陣に攻撃を仕掛ける」

「典型的な陽動だな」


 と、アルタルが口を挟んだ。


「つまり、奇襲をかけて混乱させ、ここに魔物達の気を引かせている内に、手薄になるであろう本陣を別働隊が叩くという寸法だ」

「まぁ、そういうことです」

「でも、そんなうまく行くの?」


 次にフィーが尋ねる。


「そもそも向こう側がこちらを誘ってきているんだから、陽動をかけたとしても、結局敵の罠に飛び込むことになるだけだと思うんだけど……」


 そう。未来達は敵の罠に飛び込むことを前提にやって来たので、こちらが何かしらのアクションをかけてくるのは予測しているはずである。


 だが、セルスは指を二本立て、


「だから、ここで“もう一つ”の陽動だ」

「もう一つ?」

「そう。小アジトに奇襲をかけて混乱を誘い、本陣を強襲する……と見せかけて、そちらも囮に使います」

「どういうこと?」

「まず、ここに複数人残って混乱を起こして、別働隊で本陣を強襲する。そうなれば、当然本陣の連中も別働隊と戦闘するしかない。その間に、残っていた複数人の中の一人が、転移魔法で完全に手薄になった本陣アジトにこっそり侵入して、フーリィを奪還するのさ」

「……なるほど、二重の陽動か」


 さすがはプロ、アルタルはすぐさま理解した。


 結論から言うと、小アジトと本陣を同時に混乱させ、その隙にフーリィを助け出そうというのだ。


 むろん、これにもいろいろと問題がある。


「……まず、ここを奇襲する役目を誰にするかだな」


 当然、別働隊よりも人数が少ないので、それなりに実力者でなければならない。その上、転移魔法を使える者が必要だ。


 となると、役割を果たせる人間も限られてくる。


「まず、転移魔法を使える者は……私の他に誰がいるかな?」


 セルスが聞くと、


「……一応は使える。短距離なら」

「私も使えるよ」


 アルタル、シーカが手を挙げる。この中で使えないのは、フィーと未来だけらしい。無念ナリ。


 とにかく、居残り候補は三人いる訳だが、全員を使う訳にはいかない。


 こっちの最初の役目はあくまで囮なので、長時間戦え、なおかつ多人数向けの戦闘スタイルを持つ者でなくてはならないのだ。


 さらに、候補三人は三人とも実力者揃いだが、本陣強襲のために戦力を分断する必要もある。


 それらを踏まえてチーム分けするとすれば、囮兼再襲撃チームは広範囲攻撃能力を持つセルスとシーカ、本陣強襲はアルタル・フィー・未来に任せるのが妥当だろう。


 囮側は攻撃力が上のセルスが残って、柔軟性の高いシーカが奇襲役に。


 本陣強襲側はがパワー重視のアルタルで大打撃を与えて混乱を誘い、フィーと未来がそのサポートに当たる。フィーはまだ未熟だが、広範囲を攻撃するだけならアルタルの補助があれば十分のはずだ。それは未来も然り。


 役割ごとの動きとしてはこんな感じだろうか?


「じゃあ、私とセルスがここに残って、他の皆は……」

「――――――ちょっと待って」


 シーカが役割分担の発表をしようとした時、未来がそれを制した。そして、


「……僕に囮側をやらせてほしい」


 衝撃的なことを言ってしまった。全員、最初は絶句していたが、


「な、お前、何を……!」

「そ、そうだよ! 何考えてるんだよ! 私よりずっと弱いのに!」

「……気は確かか、未来?」


 当然、全員の猛抗議の雨あられが降る。


 いや、正しくは全員ではない。一人だけ、何も言わず静かに彼の顔を見ている者がいる。


 そう――――――セルスだ。


 しかし、他の皆がそんなことを気にしている余裕はない。目の前で正気を疑う発言した奴がいるからである。


「私に一ミリも勝てないくせに、何でそんなことが言えるの!? 訳が分からないよ!」


 フィーはかなりキレ気味で捲し立て、


「……未来、お前が劣等感を感じているのは薄々は分かっていたが、これはただの自殺だ。セルスと言えども、この辺一帯の魔物が集結したら、未来を庇い続けることなんて出来ない」

「未来、気持ちだけじゃ勝てないんだよ」


 アルタルとシーカは言葉こそ静かだが、なかなかに辛辣な言葉で攻め立てる。


 もちろん、未来を苛めたい訳ではなく、純粋に彼を心配してのことだった。確かに特訓のおかげである程度は実力をつけてきているものの、それでもアルタル達に及ぶ訳ではない。


 そんな未来が囮役を引き受けるということは、自殺行為以外の何物でもない。ついでに言うなら、未来は転移魔法が使えないため、必然的にセルスに置いて行かれることになる。魔物達においしいハンバーグにされてしまうのは明白だ。


 だが、しかし。


「……僕はやりたいことがあるんだ。これだけは譲らない」


 キッパリサッパリ断ってしまう未来。その顔はいっそ清々しい。


「だから、我侭を――――――」

「まぁまぁ、待ちなよ君達」


 さらに突っかかろうとしたシーカ達と未来の間を割って、セルスが割り込んできた。


「彼にも彼の考えがあるんだ。少しくらい聞いてあげたらどうだい?」

「お前、未来を殺すつもりか!?」


 いつも冷静なアルタルが珍しく声を荒げた。それほど、その役割を受けることが危険かを意味している。


 しかし、セルスはいつもの飄々とした態度で続けた。


「もちろん、死なせはしないさ。本当は私が行きたいところだけど、未来くんを送ることにするよ」

「でも、それじゃあ、誰が未来を回収するのよ」

「それはもちろん、君達で」

「随分簡単に言ってくれるな。転移魔法は魔力の消費こそ少ないが、扱いが難しいんだ。俺達でさえ自分にプラスして一人が限界だ。必然的に一人余ることになる。そいつの回収はどうするつもりなんだよ。……お前だって、そうポンポン転移魔法は使えないんだろう?」

「でも、彼は認めないと思うけど?」


 抗議するアルタルに、未来の方を見るように言った。テコでも動きそうになかった。殴って気絶でもさせたら、後で復讐されるかもしれない。それくらいの殺気も籠っていた。


 その顔を見て、アルタルは深くため息をつき、


「あー、もう分かった分かった。なら、お前とセルスが居残り。俺達が奇襲を掛けたら未来を転移させてフーリィを奪還。その後、まずフーリィを俺が離れた場所に転移させ、俺が戻ってきたら次にシーカが未来を転移。その後はフィーと三人でしばらく持久戦。そして、セルスに本陣まで来てもらってから、残りのメンバーで転移して退却だ。フィーとシーカはそれで構わないか?」

「ええ、いいわ」

「やってやるわ!」

「……それとセルス、お前、魔力を回復させる丸薬とか持っているか?」

「即効性のはないけど、遅行性の物なら」


 そう言いつつ、セルスは懐から小さな袋を取り出した。袋を開けて中身を取り出す。中から出て来たのは、大変趣味の悪いデザインの悪玉だった。飲んだだけで爆殺されてしまいそうである。趣味か?


 アルタルは少し顔をしかめつつ、未来の方を向く。


「なら、一度転移したらをれを飲んで魔力の回復に努めるしかねぇな。――――――って感じなんだが、未来はそれで満足か?」

「……うん、ありがとう」

「未来のバカバカ、バァーカ!」


 フィーはまだ不満タラタラだったが、そういうことになった。


 ◆◆◆◆◆◆


 そして、二手に分かれることになったのだが、


「(おい、椿、どういうつもりだよ!)」

『(仕方ないじゃろう。こうでも言わなければ、奴ら動かなかったじゃろうが!)』


 未来と椿(刀)は盛大に、だが小声で喧嘩していた。傍から見ると年頃の少年が物言わぬ刀に話しかけているようにしか見えないので、かなり痛々しい。ボールが友達、刀は彼女。お終いになるがよい。


 実は、さっきここに残りたいと未来に言わせたさせたのは、他ならぬ椿だったのだ。


「(しかも、「お前何とかして居残り組になれ」なんて、無茶ぶり過ぎるぞ! おかげでフィー達と険悪なムードになっちゃったじゃないか! どうしてくれるんだ、このナマクラが!)」

『(ちょ、おま、言うに事欠いてナマクラ!? この前助けてもらっておいて!? これには訳がるんじゃっちゅーに!)』

「そうだよ。少し落ち着きなって」

「うわぁーお!」『うはぁーい!』


 突然会話に混ざってきたセルスに驚き、二人は間抜けな声を出してしまった。そして、びっくりしてしばらく何も言えなかったが、未来はふとあることに気付く。


「……セルスさん、椿の声聞こえているんですか?」

「まぁ、一応ね。賢者的なアレで」

『マジかい……って言うか、賢者的なアレって』


 突っ込みたい所は山々だが、気にしたら負けだ。


『――――――で? そこまで分かっている上で、妾の提案に乗ったということは……やはり、お主も感じ取っているのかのう?』


 と、ここで、椿が真剣な表情(っぽい雰囲気)でセルスに尋ねる。


「まぁね。最初は魔物の物だけだったんだが、こっちに着いてからはもっと別の“何か”を感じ始めたんだ」

『そして、今もそれは強くなっていくばかり……違うかの?』

「そのとおり。だから、君がそのあの提案を上げた時点で、乗ってみることにしたのさ」


 さらに、二人にしか分かりそうもない会話。当然、理解不能な未来としては訳を聞かずにはいられない。


「……“魔物とは別の気配”? どういうこと?」

『我が主よ、よく聞け』


 すると、椿が水底よりも冷たい声で言う。


『……妾の予測が正しければ、このままでは妾達は全滅する』

「……は?」


 一瞬呆気に取られた未来だったが、


「どういうこと? それって、本陣にいる魔物が強過ぎるってこと? それじゃあ……」

『いや、魔物ではない。どころか、下手すれば魔物も皆殺しにされる』

「??????」


 なかなか物騒な発言だったが、状況を理解できない未来からすれば頭に疑問符が増えるだけだ。それでも、何とか頭を捻って聞いてみる。


「……さっき君らが言ってた、“別の何か”にってこと」

『そうじゃ』

「まぁ、有体に言えばね」


 同意する椿とセルス。そして、


『じゃから、お主にはこれから妾の秘技を授ける』

「秘技?」

『ダサい言い方をすれば必殺技みたいなものじゃ。“それ”と戦うには、妾が今から教える秘技が必要になる。ただし、それはお主にはまだ早い、かなり危険な禁じ手なんじゃ。じゃから、他の者には席を外してもらったのじゃよ』

「ふーん……」


 相当な実力者であるアルタル達にまで隠さなければならない必殺技とは、一体どれほど危険で凄まじいものなのだろうか?


 つーか、ダサいって……。


「さて、それじゃあ、私がある程度魔物の相手をしておくから、その間に彼女から聞いておきなよ」


 と、セルスがマリオネットを展開し、茂みから出ていく。すぐに、激しい戦闘が始まり、剣戟や爆発音が辺りに響く。戦況は茂みの中にいる未来からは窺い知ることは出来ないが、魔物の悲鳴しか聞こえないところを見るとセルスの方が圧倒しているようだ。


「それで? その必殺技とやらは、どんなものなの?」

『その前に、お主のポケットに入っているアレを出せい』

「アレって……もしかして、ルークの残していったアレ?」

『そうじゃ』


 言われて、未来はポケットからそれを取り出した。滴型の綺麗な紫色の宝石だった。


 以前、魔物に憑依されたルークを救った後に、ルーク本人から謝罪の意味を込めてもらったのだ。


 何でも、彼の領地内で取れる宝石とのことで、その昔とある魔獣が死に際に流した涙が具現化した、魔力たっぷり入りの代物なのだとか。稀にしか見つからず、場合によっては国一つ買えるくらいの値が付くそうな。


 そんな物を謝罪のためとは言えホイホイ渡す辺り、彼はかなりの太っ腹のようである。

『何度も言うが、この技はお主にはまだ早い、早すぎる代物じゃ』

「随分未熟者を強調するね。この前はちょっと褒めてなかったっけ?」

『あれは世辞じゃ』

「お世辞かい」

『そりゃそうじゃろう。この技はアンフィスバエナを顕現していなければ、発動することすら出来ん代物じゃからの』

「あ、なるほど」


 なら言われても仕方ない。


『それに、これはお主自身にも負担の大きい、諸刃の剣なのじゃ。本当ならまだ教えたくなかったが、“あやつ”が現れたのだとしたら、止むを得ん。今回限りの特例じゃ』


 随分と焦らすが、それも未来の身体を心配してのことだろう。逆に言うと、その苦渋の選択をしなければならないほど、椿の言う“ソレ”が相当危険な実力者だということでもある。


「で、具体的にはどうするの?」

『ルークからもらったその石で、一時的にアンフィスバエナの力を解放する。むろん、それでもアンフィスバエナは中途半端にしか目覚めん上に、魔力の消費から考えて石の力を使っても二・三回しか放てん』


 それはそんな凄い技を二・三発も放てるほど、ルークからもらった石には膨大な魔力が詰まっているということだ。だから魔物に狙われたんじゃなかろうか、ルーク。


「分かった。それじゃあ、教えてくれ」

『いいか、一回しか言わんからよく聞くんじゃ。まず――――――』


 セルスが戦ってくれている間に、未来は椿から必殺技の概要を聞く。


 ぐずぐずしている暇はない。いくらセルスが戦ってくれているからと言っても一人だけではいずれ摩耗してしまうし、戦いの匂いに引き寄せられた魔物とうっかりばったり鉢合わせしてしまうかもしれない。そんなことになれば、戦闘状態を解いている未来などひとたまりもないだろう。


『――――――する。以上じゃ』

「うん、分かった」


 それから数分、椿のレッスンは終わった。カップ麺より早かった。


「セルスさん!」


 未来は椿を鞘から抜き、茂みから躍り出て、セルスに向かって叫ぶ。


「何だね、未来くん。必殺技の伝授とやらは終わったのかい?」

「ええ。そして、頼みがあります」

「何だい?」

「……僕を置いて、フーリィの所に行ってください」


 アルタル達が聞いたらリンチの上にロープで縛り上げられそうなセリフだったが、


「分かった。……“早く来なよ”」


 何かを悟り切った表情で、とっとと転移魔法で移動してしまった。残されたのは未来と、数えきれないほどの魔物の軍勢。数の差で言えば、一対千といったところか。


「『三千世界ホープ・アンド・ディサピア』!」


 勝負は明らかに見えていたが、未来は取り乱すことなく、先ほど椿から教わった“構え”と“呪文”を唱える。


「オン ベイシラマンダヤ ソワカ……」


 西洋騎士のように刀を眼前に掲げ、自分側の柄に左手を添える。その後、左手で刀身を撫で、それを刀身の先まで続ける。すると、それに合わせて刀身が強く輝きだし、稲妻を帯びる。


 同時に、アンフィスバエナが独りでに鞘から抜かれ、何本もの剣に分裂し、未来の背後を後光の如く放射状に旋回し始めた。青い焔が灯ったその刀身は美しく、幻想的だ。


「フぅぅぅぅンっ!」


 そして、椿を前に突き出すと、未来の身体が赤いオーラに包まれた。


 さらにその瞬間、刀身を中心に魔力のつむじ風が発生し、周囲の魔物達を一瞬にして飲み込んだ。その一撃で魔物達が死ぬことはなかったものの、放つ瞬間アンフィスバエナがつむじ風に混ぜて発した魔雷の効果で全身が痺れ、動けなくなっている。


()ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 そこに、未来の一閃が叩き込まれる。魔力を帯びた刀の軌跡が赤い光の刃となって、その上そこにアンフィスバエナの魔雷が加わり、動けない魔物達の身体を粉砕して塵芥へと変える。


 全てが終わった時には、そこには魔物の死骸どころか、森すらなくなっていた。おそらく、この辺一帯に巣食っていた魔物全てが消滅したと思われる。


「す、すっげぇぇえええええええええ!」


 その荒野の中心で、未来が驚きと感動の入り混じった、歓喜の雄叫びを上げる。男の子として生まれたのだから、これだけ圧倒的な力を揮えれば興奮するのも仕方のないことだろう。


 そんな彼に、椿が冷静に話しかける。


『これが妾の持ち主に教えるべき、最大最強の技じゃ。だが、これは諸刃の剣。持ち主の魔力と命を輝きにして放つ絶対破壊の力。多用すればお主自身の命を消しかねんからの。もっとも、あと二回くらいしか使えんじゃろうが』

「……うん、分かってるよ」


 改めて注意事項を聞いて、未来も落ち着きを取り戻した。確かに、使った後はどっと疲れるし、眩暈すらも感じる。一種のドーピングのような技なのだろう。もっとも、その薬が自分自身の命の灯火なのだが。


『それと、さっき言った“あの呪文”だけは唱えるでないぞ。一応、教える義務があったから教えてやったが、あれを使ったらお前自身が死ぬものだと思え』

「分かった……分かってる」

『なら、急ぐぞ。嫌な予感がするのじゃ』


 未来と椿は、セルス達とフーリィの待つ本陣へと向かった。


 そして―――――――――――――――――――、


 ◆◆◆◆◆◆


 そして、セルス達は全滅していた。それどころか、本陣の魔物丸ごと皆殺しだ。


「どういうことだよ、これ……」


 今頃はアルタル達がフーリィを退避させていると思っていた未来だったが、その予感は見事に外れた。


 いや、外れたなんてものじゃない。


 あのセルスですら瀕死の状態に追い込まれ、魔物達の死体の中心に立っているのが、攫われ監禁されているはずのフーリィだったのだから。


 しかも、フーリィの様子も変だった。


 体毛は白銀色に染まり、肌も色素が抜けたように真っ白になっている。一番変わっているのは目で、本来白目である部分が黒く、瞳が紫色に染まり、目付きもかなり鋭い。その眼光だけで殺されてしまいそうである。


 さらに、小学生並みの体型と身長でしかなかった彼女の身体は、スタイル抜群の美女へと変貌を遂げていた。特に胸の辺りがけしからん……じゃなくて。


 そのフーリィが、静かに、しかし威圧的に未来に話しかける。


『もう一度言おう。待ちくたびれたぞ、貴様が来るのを。こんな者どもでは暇つぶしにもならなかったからな』

「な……!?」


 それはつまり、この惨状を招いたのはフーリィだということになる。


「だけど、一体どうやって!? それに、僕を待っていたとはどういうことなんだ!?」

『貴様ではない』


 意外な答えが返ってきた。


 そして、フーリィの視線が未来の手に持つ椿へと移り、


『貴様に言っているのだ、「ヴァイシュラヴァナ」』

「え……?」


 知らない名前が出て来た。どうやら椿のことを指して言っているようだが、そんな名前に聞き覚えはない。


 と、その時。


「未来!」


 何とか意識を取り戻したシーカが、未来に向かって叫んだ。


「未来! 早く逃げろ!」

「逃げる? 一体、何があったんだ!?」

「……さっきまで、私達は本陣に強襲をかけていたんだが、突然建物が爆発して、中からフーリィが出て来たんだ。しかも、何か様子が変で、何かに“取り憑かれて”いるみたいで――――――」

「そして、何があったんだ!?」

「虚を突かれた私達の内、まずフィーが倒された。私とアルタルも応戦しようとしたんだけど、全くと言っていいほど歯が立たず、すぐにやられてしまった。その後、予定外に転移してきたセルスも善戦はしたんだが、やはり負けてしまって……」

「そ、そんな馬鹿な……」


 魔物達はそのついでに全滅させられてしまったのだろう。


 とても信じられる話ではなかった。なにせ、あのセルスすらも負けてしまったというのだから。


 だが、事実は事実。目の前の現実は疑いようがない。


『黙っていろ。弱者に語る資格はない』

「きゃぁああ!」


 フーリィが腕で空を切ると、シーカが吹き飛ばされた。ほっそりとした体が宙を舞い、建物の残骸に激突して、力なくズルズルと再び地面に倒れ伏す。


「フーリィ! お前何を……」

『我はフーリィではない。我は『NYHA(ニーハ)16創世神』の一人、「ヴィカラーラ」だ』


 怒り心頭の未来に対して、フーリィが冷静そのもので自己紹介した。またしても知らない名前だった。


「ヴィカラーラ? 『NYHA16創世神』? 何だよ、何なんだよ、それは!」


 意味不明の展開で混乱の極みに達していた未来に、


『『NYHA16創世神』。……現在『神原孝治科学武器』と呼ばれている遺物群の、本来の姿と名称じゃ』


 椿が驚くべき解を示してきた。


「『神原孝治科学武器』の本来の姿と名称? 何それ、どういうこと!?」

『そこからは我が引き継ごう、人間の少年よ』


 と、フーリィ――――――いや、ヴィカラーラが自ら解説役を買って出た。暴力三昧なことをしておきながら、意外と律儀な敵役である。


『我らはNYHA16創世神。偉大なる大日本帝国の再生プログラムにして、その存在を守る守護神だ』

「大日本帝国?」


 その言葉には、未来も聞き覚えがあった。日本史の教科書などに出てくる、戦時中の日本の名称だ。


『そう、我らが守るべき大日本帝国は偉大にして最強。そして、我らの役目は愚かな魔女に滅ぼされた、大日本帝国を再生・復活させること』

「日本を……復活?」

『そうだ。見れば、貴様も日本人のようではないか。ならば、我とともに日本の再生に協力せぬか?』

「………………」


 こう思ってしまうのは不謹慎かもしれないが、未来はヴィカラーラの言葉に魅せられていた。


 今はなき自らの故郷。消えてなくなってしまった思い出の地。


 その日本が、蘇る。


 戻る方法が分からない未来にとってその言葉は、とても心惹かれる物だった。心の全てを蝕む、悪魔の囁きだった。


 状況から考えれば、ヴィカラーラの言葉など軽く無視して、一刻も早くシーカ達を救助すべきなのだが、そこは人の心の弱さ。


 いくら成長していようと、故郷への情念は捨てられない。


 それが二度と叶わないと思っていたのだからなおさらだ。


「日本が……僕の故郷が……蘇る?」


 迷い、惑う未来に、ヴィカラーラがさらなる拍車をかける。


『そうだ。ヴァイシュラヴァナに選ばれた貴様には、その指導者になる資格もある。さぁ、我とともに来るがいい。……この小動物も、それを望んでいるぞ』

「フーリィが……?」

『そのとおり。我らは貴様を歓迎しよう。さぁ、来るのだ少年。我ら大日本帝国の指導者となるのだ、未来』

「フーリィ……」


 その名前が決定打だったのか、未来がフラフラとヴィカラーラに歩み寄る。その様は、まるで神に救いを求める弱者のようだった。


『そやつの言葉に耳を貸すな、我が主よ!』


 突如、椿が大声で叫んだ。


「……っ!」


 その一喝によって、未来も正気に戻り、辺りを見回す。


「何だこれ?」


 知らぬ間に、辺り一帯が紫色のガス状の物体に包まれていた。


『ちっ……』


 そして、ヴィカラーラの舌打ち。


「どういうことなんだ、これは?」

『これは奴の操る洗脳魔法。これを吸ってしまった者は、甘い夢に魅せられ、奴の言いなりになってしまう。……妾が、それを解いたのじゃ』

「な……」


 未来は一瞬絶句し、ヴィカラーラの方に向き直る。


「……騙していたのか?」

『別に騙してなどいない。大日本帝国を蘇らせるというのは本当だ』

「なら、何でこんなマネを!」

『真実を知られると困るからじゃ』


 そこで、椿が二人の会話に割って入る。こうでもしないと、再び洗脳されてしまう可能性があるからだ。


『いいか、我が主よ、よく聞くのだ。……奴らが言っているのは本当じゃ』

「そうなの?」

『じゃが、無から有は創れん。ならば、どうすると思う? もはや消えてしまった人や大地を、どうやって蘇らせると思う?』

「まさか……」


 未来は息を飲んだ。そして、その恐るべき解を椿が宣言する。


『そう、今あるこの大陸、そこに住む人々を糧にして、過去の日本に変換してしまうんじゃ。当然、そこにいた人々の心と体は死に至る』

「――――――――――――――――――――!」


 未来は何も言えなかった。ただ驚くしかなかった。


『……元々、大日本帝国、つまり今に伝わる日本という国は、強大な侵略国家じゃった。「殺し、奪い、焼き尽くす」ことが信条の、凶暴な軍事国家じゃった。なにせ、その当時の世界の半分は大日本帝国の支配下にあったからの』


 とんでもない数字である。古代中国ですら為しえなかったことだと言えば、分かってもらえるだろうか?


『じゃが、もちろん問題も多かった。特に、国内が三つの覇権に分断されてしまっておったことがの』

「三つの覇権?」

『侵略することしか頭にない過激派と、それに反対しそれ以上の侵略を望まない穏健派、そしてどちらにもつかない中立派の三つ。『NYHA16創世神』は、その中の過激派が創り出した悪魔の兵器じゃ』

「過激派が……」


 世界の半分を支配しているような帝国の造り上げた侵略兵器だというのだから、話にならないくらいとんでもない性能だったのだろう。


『じゃから、その危険性を危惧した穏健派と、バランスが崩れたことに焦りを感じた中立派は手を組み、過激派と戦うこととなった』

「そんな化け物十六体相手に、どうやって勝ったの?」

『いや、正確には十六体ではない。その時は十二体しかいなかった。じゃから勝てた』

「どういうこと?」

『穏健派と中立派の指導者は、『NYHA16創世神』が完成する前に、開発者――――――つまり、神原 孝治に接触しておったのじゃ。“完成した『NYHA16創世神』に対抗するためのアンチプログラムを仕込んでおいてくれ”と。神原も元々乗り気じゃないのに無理矢理造らせられていたから、すぐに賛成した。そして、戦争開始と同時にそのアンチプログラムが味方になるよう設定しておき、そのおかげで穏健派と中立派が勝つことが出来た。過激派は三勢力の中でももっとも強力な軍事力を持っておったから、それがなければ大敗しておったじゃろう。そのアンチプログラムというのが――――――』

『その出来損ないのことだ、少年よ』


 と、黙って見ていたヴィカラーラが忌々しそうに口を挟んできた。


「椿が、『NYHA16創世神』のアンチプログラム?」

『そう。その者の他に三体が存在した。本来ならば、我らが指導者自らが身に纏い、力の象徴として絶対唯一の神にするのが役目だった。だが、その者どもは愚かな弱者にほだされた愚かなる創造主によって、魔女と勇者を守る四天王として我々の前に立った。ヴァイシュラヴァナ……』


 そして、椿の方を見て、


『今からでも遅くはない。貴様も創世神の一人ならば、我らとともに大日本帝国復活のために尽力するのだ!』

『断る!』


 しかし、椿ははっきりと断った。


『貴様らは、身勝手なあの指導者が生み出した、過去の災厄じゃ! そして、貴様らを破壊するのが妾の使命! 戻るつもりなどサラサラない!』

『……そうか。ならば、その人間とともに死ぬがよい。我らが強大なる大日本帝国に、貴様らのような弱者は必要ない』


 ヴィカラーラもほとんど予想どおりだったようで、特に拘ることもなく切って捨てる。


『『サンスクリット』!』


 さらに、その姿を戦闘的なものに変えていく。


 十字架の描かれた白銀色の兜を頭に被り、腕には鋭い爪の生えた獣を思わせる手甲、脚には鳥のような足甲を着け、胴体はナース服を模した鎧を纏っている。髪は腰に届くほど長く伸びてユラユラと揺らめき、目は兜に隠れて見えないが、目元のみアイシールドになっているので、その凶暴な眼光だけは見えた。背中には白いマントを羽織り、さらに仏像の後光のような物体が装着されている。美しい金色の輪で、そこから十八本の闘剣が放射状に生えているのだ。


『「ヴィカラーラ・ドゥルガー」!』


 眩しい光が彼女の身体から生まれ、その身を赤い光の粒子が包む。その怒りとも、炎とも取れる威圧的な姿は、まさに荒ぶる神のそれだった。


『これが力だ、弱者どもよ』


 ヴィカラーラはその威容を未来、いや、椿に見せつける。


『弱者に語る資格などない。弱き者に存在する価値などない。我自らが教えてやろう……貴様ら弱者に、生きる資格などないことを! 『輪廻転生デッド・アンド・リバイブ』!』


 すると、ヴィカラーラの背部の後光から全ての闘剣が分離・射出され、彼女の手元に集まっていく。そして、分子的に一度分解、十本はそれぞれの指と一体となってさらに巨大化させ、残る八本は四本棘のメリケンサックとなって手に装備された。


 そこから凄まじい闘気と光が放たれ、物理的に全ての物を揺るがしていく。


「み、未来……!」

「未来!?」

「がはっ……み、未来、どうしてここに……」


 その衝撃によって、気絶していたシーカ達が目を覚ました。セルスだけはダメージが深すぎたようで、気絶したままだったが。


「逃げろ、未来! その技で、セルスさんがやられたんだ! マリオネット全てを、たった一撃で!」

「未来の敵う相手じゃないよ!」

「私らはいいから、早く逃げて!」


 口々に逃げるよう促したが、未来は動かなかった。それどころか、怒りに満ちた目でヴィカラーラを睨み付けている。


 そして、ボソリと椿に尋ねる。


「椿。フーリィをあいつから解放する方法はあるか?」

『……奴のコア――――――つまり本体部分は今、フーリィの心臓に移動しておる。今は覚醒したてで支配力が弱い状態じゃから、胸の辺りに強い衝撃を与えれば沈静化するはずじゃ。じゃが、どうするつもりじゃ? ……奴の力は思ったよりも強大化しておる。さっきの『三千世界』でも押し切れるかどうか……。ついでに言うと、ルークの石の魔力を使っても後一発、よくて二発が限界じゃ』

「いいよ、それだけ聞けば十分だ」


 未来は言葉を切り、『輪廻転生』の構えを取るヴィカラーラに叫んだ。


「生きる資格だと……? そんなこと、お前に決められる筋合いはない! ましてや、皆を……フーリィをお前の犠牲なんかにさせてたまるか! フーリィを返せ! 『三千世界』!」


 未来も『三千世界』の構えを取って臨戦態勢に入る。


「オン ベイシラマンダヤ ソワカ……“クベーラ”!」


 しかし、今回は先ほどと構えと呪文が違っていた。剣を押し出すところまでは同じなのだが、その後、それを大きく振るったのだ。


『馬鹿、お主、それを唱えてはならんと言ったじゃろうが!』


 椿は叫んだ。


 何故なら、それは『三千世界』の出力を最大にする呪文だったからである。リミッターが外され、持ち主の命を限界まで吸い取って放つその技は、先の『三千世界』とは威力も出力も比べ物にならないが、一度使ってしまえば持ち主がどうなってしまうか分からない、諸刃の剣なのだ。


 だが、もう遅い。


 未来は呪文を唱えてしまった。


 止められないし、彼自身も止まらない。


「とぉりゃぁあっ!」


 刀の軌跡から放たれた魔力はつむじ風ではなく巨大な竜巻となって、ヴィカラーラを襲う。千体もの魔物を封じ込める魔力の風が一点集中され、その上威力が格段に上がっているのである。ヴィカラーラ一人に、それを耐えることなど出来るはずもない。


 しかし、


『でぁぁああああああああああああああああああああああああ!』


 何と、ヴィカラーラはそれを正面から薙ぎ払って突進してきたのだ。


 さすがは強大なる神を自称するだけのことはある。とんでもない化け物だ。


「破ぁぁああああああああああああああああああああああああ!」


 だが、未来も止まらない。


 今度は薙ぎ払うのではなく、牙突の構えで突っ込んでいく。破壊力の全てを切っ先に集中させており、その一撃は薙ぎ払いなどとは格が違う。さらに、今回はアンフィスバエナの魔雷と焔を推進力に利用しており、初速も段違いである。


 まさに全てにおいて最強で、命がけの一撃だった。


『どぉああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』

「はぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 互いの全力を込めた一撃がぶつかり合い、


 そして―――――――――――――――――――――――――――、


 ◆◆◆◆◆◆


 そして、未来は倒れていた。力の全てを使い果たし、立ち上がることすら出来ずに。


 すぐ脇には椿が地面に突き立てられており、よく見ると刀身にヒビが入っている。


 動くものは誰もいない。


 フィー、アルタル、シーカ、セルス、未来――――――そして、フーリィ。さっきまでの大人びた姿ではなく、元の小学生体型に戻り、髪の毛も肌の色も元どおりだった。


「フーリィ……」


 未来は思い出していた。さっきまでの戦いを……。


 ◆◆◆◆◆◆


『どぉああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』

「はぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 未来とヴィカラーラは激突していた。


 互いが互いを滅ぼすために。絶対の勝利を得るために。


「くぅ……!」


 しかし、戦局としては未来の方が不利だった。少しずつだが、ヴィカラーラの方が押している。


 石の魔力を使い果たし、命を懸けた全力の一撃ですら、ヴィカラーラの前では劣っていたのだ。椿にヒビが入り、その間から未来の命が漏れていく。このまま押し切られてしまうことは自明の理だった。


『ヴァイシュラヴァナ……破壊の神と言えども、貴様一人では不完全な我にすら劣るのだ』

『くっ、この……!』

『自らの運命に抗おうとする愚かな弱者どもよ。絶望しろ! 泣き叫べ! そして我らの糧となって消えろ!』

「くそぉっ!」

『弱者は滅びる! それが弱肉強食たるこの世界の掟なのだ! 破滅の死神よ! 消え去れぇぇええええええええええええええええええ!』


 だが、その時。


『がはぁっ……!?』


 突然、ヴィカラーラが苦しみだした。同時に、彼女の心臓の辺りが紫色に輝きだす。


『お……の……れぇ! 人間ですらない小動物の分際で、我に逆らうつもりなのかぁぁあああああ!』


 どうやら、フーリィの心がヴィカラーラを内側から抑えつけているようだ。その様子を見て、未来がフッと笑う。


「……お前は命を見くびり過ぎだ。命はそんなに軽いものじゃない。モモンガだったフーリィですら、その命の輝きはこんなにも強いんだ。……弱者はフーリィや僕達じゃない。この中で一番の弱者は、お前だ、ヴィカラーラ!」

『今だ! 行け!』

「フーリィは返してもらうぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その隙を突き、ヴィカラーラの『輪廻転生』を破り、心臓の一目がけて『三千世界』を食らわせた。同時にルークからもらった石も粉々に砕け散る。これで、もう『三千世界』は使えない。


 その結果は、


『うぐぅぬぉあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ……!』


 未来と椿の勝利だった。


 そして、


 ◆◆◆◆◆◆


 そして、フーリィは元に戻った。


 今考えれば、相当な無茶ばかりしていた。未来が『三千世界』発動後に死ななかったのは、ひとえに奇跡だったと言えよう。


 もしくは、フーリィの想いが守ってくれたのか。


「うぅぅ……ん……」


 これからやらなければいけないことはたくさんあったが、未来は今、とても眠かった。力の全てを放出しきったのだから、当然と言えば当然である。


 それはフーリィの方も同じようで、クゥクゥと寝息を立てて眠っている。こんな所で眠ってしまっては風邪を引くような気がするが、そんなことに頭を回す余裕は彼らにない。


「………………」


 そして、未来も耐えられなくなり、深い眠りに着いた。


 この小説においては初めまシテ、三河 悟デス。


 何か異様に長くなってしまいましタガ、それは前任者の皆様から暗に「これまでの複線回収して」という素敵な無茶ぶりをされたノデ、何故か「ならやったろうやないかい!」という気分にナリ、更新すべき小説達をほったらかして作成しまシタ。


 ちなみに『NYHA16創世神』は私の小説に出演予定の敵キャラクターの設定を流用・改訂して誕生しまシタ。


 マァ、洒落がこもったアホみたいな名前でスガ。


 ちなみに「NYHA」というのは心臓病の分類の一つ「NYHA分類」のことデス。


 ついでに「ヴィカラーラ」は十二神将の毘羯羅大将、椿の本名(?)「ヴァイシュラヴァナ」は四天王の一人・多聞天のサンスクリット名デス。


 興味がある人は調べてみましョウ。


 ……別に最終回ではありまセン。この後フーリィを元に戻す旅に出るナリ、一転してコメディな感じにするナリ、全く関係ない話にするなり好きにしてくだサイ。設定も好きなように変えてもらって構いまセン。所詮は思いつきなノデ。


 次回はメルトさんでスネ。本当にどう扱ってもらっても構わないノデ、あまり気負わず書いてくだサイ。気負っていたのはむしろ私の方ですケド。


三河 悟

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