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リレー小説:重なる世界の物語  作者: リレー小説ALLプロジェクトメンバー Ver.1.3
15/31

悠久の賢者

リレー小説第15話です。


担当 :立花詩歌

代表作:旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー‐(http://ncode.syosetu.com/n3557be/)

「いいね? “おじゃまします”だよ。それ以外は言わなくていいから、とにかく“おじゃまします”って言うんだ」

「うんっ……」


 もうすぐ日が昇る辺りが薄明かりに包まれてきた頃、ログハウスの玄関扉の前にはしゃがみこんで声を潜める怪しげな二人がいた。


 片方は十字架を模したペンダントを首にかけた少年、名前は白河未来。


 そしてもう一方は、アジュラの中から発見され、神原幸治すら諸刃の剣と謳った謎の錠剤を飲み、半人化してしまった生後四ヶ月の(元)エゾモモンガのフーリィだ。


 説教の間は何とか森の草むらの中に隠れてもらっていたが、かなりサイズアップしたフーリィをこのまま置いておくわけにはいかない。


(何より、フーリィは服を着ていない! 着ていない!)


 別に大事なことだから二回言ったわけじゃないよ。


 今は何とか呼び出したシーカ(未来が「フーリィが呼んでいる」と言ったらすぐに飛んできた)から借りたローブで身体を隠しているが、その下はかなりまずい状況なのだ。


 思わず脳裏に甦ったあられもない姿を振り払い、改めてフーリィに向き直る。


「よし、復習だ。何て言うんだった?」

「おじやにします」

「はい、もう違うよ。そんな昨夜の鍋の残りを翌日のメニューに流用しようという宣言は今まったく関係ないから。“おじゃまします”だよ、“お・じゃ・ま・し・ま・す”。ちゃんと言えるよね?」

「うん」


 雰囲気に流されるように軽く頷くフーリィ。対する未来は、元モモンガのフーリィでもさっきはちゃんと挨拶できたのだから、もうひとつぐらい簡単にできるはず、と信じていたのだった。


「はい、じゃあ何て言うの?」

「おたまじゃくし」

「うん、だから違うよ。確かに似てなくもないけど、さっきより厳しい間違い方だよ。そんなカエルの幼生の俗称は今まったく関係ないんだよ。“おじゃまします”。フーリィは賢いから言えるよね」

「うん」


 再び軽い調子で頷くフーリィに、ようやく未来の頭に疑念がよぎる。


 そこでパッと思い付いた妙案を実践してみることにした。


「じゃあ一応まず練習しようか。リピー……は通じないか。後に続いて復唱するんだよ、フーリィ。はい、“おじゃまします”」

「おじゃる」

「うん、復唱どころかもう文字数からして違うことに気づこうね。そんな大昔の貴族しか使わないような語尾はどうでもいいの! とにかくメルにはバレないようにしたいんだから協力してよっ……!」

「わかったっ」


 今度は軽い調子ではなく、元気な様子で挙手を伴って頷くフーリィ。


「いい返事だよ。じゃあもう一度だけやるよ。“おじゃまします”、ちゃんと憶えたね? 間違えたら終わりだよ?」

「うん!」

「はい、じゃあ最後。家に入って、メルに会う前にさっと僕の部屋に行く。今頃はご飯を作ってるだろうから台所にメルがいる。でもメルなら必ず気づくから、先にボクが“ただいま”って言う。それに続いてフーリィも言わなきゃいけないことがあったよね。はい、何て言うんだったっけ?」

「おじゃまします」

「そう、それっ! やればできるじゃないか! さすがフーリィだよ!」

「えへへ、そう?」

「うんうん、本番もその調子でよろしく」

「わかったっ!」


 何はともあれ、新しく友達になった(ニュー・フレンド)作戦はようやく準備段階を終えたのだった。


 そんな二人の様子を少し離れたところに立って半信半疑の目で見ていたシーカは無言で苦笑し、ログハウスの扉をそっと開けて忍び足で入っていく二人の後に続くのだった。



 ================



「未来さんはたまにお馬鹿さんになるということがわかったところで……シーカちゃん、この現状を納得のいくように説明して下さい」


 七億八千年以上の歴史を誇る無差別級謝罪術最終秘奥義“土下座”を敢行する未来をよそに、朝御飯作りを邪魔されたと思っているメルはシーカに詰め寄る。


「私も詳しくは知らないわよ。知ってるのは『じょうざい』っていうのをフーリィが飲んで、今のあの姿になっちゃったってことだけ。詳しい経緯はさっぱりよ」

「じゃああの子は間違いなくフーリィなんですね!?」

「た、たぶん……?」


 おそるおそる上目遣いでメルを見るシーカに対して、メルは大きくため息を吐いた。


 廊下を進むまではうまくいった作戦も、その(かなめ)となるフーリィの「おじゃまします」が問題だった。


『おじゃんします!』


 当然、目論見が根本から崩された未来は『おじゃんだよ……』と呟いてその場に崩れ落ちたのだった。


「未来さん、その『じょうざい』というのは『勇者の武器』なんですか?」

「いや、強力すぎるからって外されたものらしいけど……」

「じゃあ何でそんなものをフーリィに飲ませるんですか!?」


 土下座から上げた顔の横を、ダガー、ならぬ包丁が通過し、背後の壁に垂直に突き刺さる。


 見上げるとメルの顔は怒り一色に染まり、引き攣ったような笑みを浮かべている。


 これはあの時と同じ表情、そう未来がこの時代に来て、初めてメルと出会った時の……裸を見てしまった時の怒りの顔だった。


 今回は二割り増しぐらいの怖さがあるが。


「あれはフーリィがボクが寝てる間にいつのまにか……」

「未来さん、監督不行届(ふゆきとど)きって知ってますか?」


 なんでそんな言葉ばかりが残ってるんだろうねぇこの時代にまで! と思ったのは言うまでもない。


「……とりあえず今はあの子をあのままにしとくわけにはいきませんし、未来さんへの(オシオキ)は後にします。フィー……はいないんでした。シーカ、何か合う服を探してあげて。その間に私はご飯を作っちゃいますから」

「そのご飯はボクも食べられるんだよね……?」


 未来の悲痛な呟きはメルの一睨みに黙殺された。



 ================



 エド村近郊の森――奇しくもメルと未来が出会ったその森に、今ひとりの旅人の姿があった。


「この空気…………久しぶりの匂いだ……」


 木々の間を歩く少年は、少し大人びたような喋り方でそう呟く。


 彼の名はセルス=クライリスト。


 外見は十四歳ほど、エド村出身にも(かかわ)らず、村の住民で彼を知る者はいない。その理由は何よりも単純で、何よりも異質だった。


 彼が生まれたのは今から約八千年前――はるか昔のエド村だった。かつて『賢者』と呼ばれていた彼はいつしか人々の記憶から消え、それに伴い人との関わりを自ら絶った。


(何故ここに戻ってこようと思ったのか……親類もいない、知人もいない。私の名を憶えている者など誰もいない。既にあの村は私の故郷ではないというのに。数日前から胸騒ぎがしているが、今更あの村に何があるというんだ……)


 ローブのフードを後ろに落とし、木々の間から差し込む日の出を見つめる。


 朝の日の光は少し穏やかな暖かさを持っているが、夜の間に冷えた空気も相俟って少し肌寒い。


 みゃー。


 ローブのポケットから聞こえた鳴き声にセルスは視線を下ろす。


 ポケットがもぞもぞと動き始め、その中から相棒が姿を現した。


「起きたのか、アムール」


 輝く絹のように清浄な純白の毛並みを持つ猫。


 一週間ほど前に旅先で拾ったのだが、出会った時からまったく毛並みが乱れることも汚れることもない不思議な猫だ。その謎を調べるためにも手元に置いているのだが、


 みっ。


 器用にポケットから這い出た相棒は、つれない態度で先を歩き始める。


 まるで行き先がわかっているかのような足取りだった。


 結局のところ、この猫はセルスに懐いてはいない。可愛げのある媚びたような様子を見せないのだ。


 しかしそれでもついてくるのは、嫌っているわけでもなく、ただ対等なパートナーとして認めているのだろうか。少なくとも上下関係のようなものはない。


「何か食べるか……?」


 セルスはいつものように聞いてみるが、アムールは否定を示すように顔を背け、構わないでとばかりに尻尾を立てたまま前を歩く。


 ただ単に差し出した干し肉では気に入らないのか、助けは借りないという意思表示なのか。


 しかたなく干し肉をローブの裏に吊った袋に戻すと、同時にアムールが駆け出した。


「……まったく……」


 セルスはため息混じりにローブを少し払い、アムールの後を追って歩き始めた。

初めましての人は初めまして、またお前かの人はまた私だ。

そしてこの文言も二度目ですよ。


はい、立花詩歌です。

前の担当回よりかなり短めなのはレンさんがこのあとどういう展開を持ってくるかを研究するためです(ぁ


ルパソさんの陰謀によって人化フーリィをどうするか、という難題を与えられたわけですが、本文を見てきた皆さんはわかるでしょうね。


ハイ、流しました。

次のレンさんに流しました、やってやりましたごめんなさいだよ!


(危ない危ない、またレン“ちゃん”っていうところだったよ……)



立花詩歌

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