表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リレー小説:重なる世界の物語  作者: リレー小説ALLプロジェクトメンバー Ver.1.3
13/31

二つの遺物

リレー小説第13話です。


担当 :辺 鋭一

代表作:大罪のゲーム(http://ncode.syosetu.com/n8304bc/)

 寝起きで放った発言のせいで朝食抜き&逆さ磔の刑にあった未来は、空腹を訴える胃袋をなだめながら、血が上ってめまいがしてくる頭を無理やり引き締め、むすっとした顔で朝食をとっているメルに対して謝り続けていた。


「ごめんなさい。もうしません。許してください。私は深く深く反省しております。ホントマジすいませんっした! いやあメルさんなかなか良い体して――ひぃ!?」


 謝罪以外の言葉を放つと容赦なく顔の近くに飛んでくるダガーに怯えながら、さげすんだ目で自分を見てくるメルにひたすら謝り続け、未来は何とか解放してもらうことができた。


「……まったく、もう変なことを言ったりしないでくださいね?

 朝食は机の上に残してありますから、早く食べて狩りの準備に取り掛かってください」


 そう言われて未来が机の上を見てみると、そこには小さな蓋付きのなべが置いてある。


 『なんだかんだ言ってやさしい人だなぁ』と思いながら椅子に座り、まだほの温かい鍋のふたを取ると、毛玉があった。


 その毛玉は一定のリズムで膨らんだりしぼんだりしており、時々もぞもぞ動いていた。


 その毛玉の腹の辺りは妙にふくれていた。


 その毛玉は、未来の朝食を平らげて満腹のあまり居眠りをしているフーリィにそっくりだった。


「――っていうかそのものじゃねえか!!

 何やってんだフーリィ!?」


 いきなりの大声に驚いたのかビクリと震えて飛び起きたフーリィは、自分を睨み付ける未来に気が付くとすぐさま状況を理解して一目散に逃げ出した。


「って、おいこら! ボクの朝食返せ!!」


 脱兎のごとく(モモンガだけど)逃げ出したフーリィと、食べ物の恨みを晴らすために追う未来との鬼ごっこは、騒ぎを聞きつけたメルが戻ってくるまで続くのだった。



====================



 追いかけっこの勝敗は、部屋の様子を見に来たメルにフーリィが泣きついたことで決し、『もふも――フーリィをいじめるとは何事ですか!?』の一言で未来は昼食も抜きになった。


 ――ぐぎゅるるるるるる……。


「……ねえ、その音、耳障りだからさっさと止めてほしいんだけど」


「無茶言わないでくれ」


 朝食を食べそこない、頼みの綱だった昼食の望みすら絶たれてしまったせいか、腹の虫が大ブーイングを唱えている未来に、他の皆は冷めた視線を向けてくる。


 今テーブルについているのは、お茶を全員分配り終えた家長のメルを筆頭に、その頭の上に載っているフーリィ(後で覚えていろ……)、その隣に座ってなぜか不機嫌そうにしているフィー、そのさらに隣にいる未来、そしてその三人と向かい合うように並んで座っているアルタルとシーカの五人(と一匹)だった。


 ちなみに、朝食の席で見かけなかったアルタルとシーカの二人は、早めに朝食をとった後でトレーニングがてら薪ひろいに行っていたらしい。


 そしてボクたちの朝食が終わったころに(未来の分は始まる前に終わっていたが)帰って来た二人は順番に水浴びをして、今テーブルについている、という状況だ。


 何故食事でもないのに皆がここに集っているのかというと、未来に昼食抜き(しけい)宣告をした後、メルが『少々皆で話したいことがありますので、ここに残っていて下さい』と言い残し、他の皆を呼びに行ったからである。


 だから未来は、これからメルが何を話すのか全く知らないのだ。


「(まあ、十中八九この二人に関わることなんだろうけど……)」


 そんなことを考えながら、未来は目の前に座っている二人に目を向ける。


 まだ水浴びを終えてそこまで時間がたっていない様子のシーカは、背中にかかるほどの黒髪を少し湿らせながら、隣に座るメルに――正確にはその頭上にいるフーリィに手を伸ばそうとして、しかし即座に気が付いたフーリィ自身に威嚇されて手を引き、しょんぼりしている。


 反面、その隣に座ってシーカの方を面白そうに眺めているアルタルは、水浴びを先に済ませたらしく(短髪ということもあるのだろうが)髪に水気は感じられない。


 ――と、お茶を配り終えて自分の分を一啜りし、一息ついたメルが全員を見渡すと、皆一斉に真面目な顔になってメルに視線を向けた。


「(こういうところを見ると、メルが代表者の一人なんだって思い知るよなぁ……)」


 そんなことを未来が考えていると、メルが口を開き――


「……さて、今回集まってもらったのは、この場にいる皆さんに意見を聞きたい事柄ができたためです。……が、まずは――」


 そこで言葉を止めると、メルはアルタルとシーカの方に向き直ると、


「昨日、一昨日といろいろあって言いそびれてしまいましたが、――おかえりなさい、アルさん、シーカちゃん」


 にっこり笑ったメルにそう言われた二人は一瞬きょとんと顔を見合わせた後、照れくさそうに笑って、


「「――ただいま、メル」」


 と言った。



====================



 挨拶が済んだあと、表情を元に戻したメルは二人に対して、


「……それでは二人とも、今回の旅で得た情報をもう一度、今度は二人にも話してあげてください」

「ああ、わかった」


 アルタルが頷き、そして未来とフィーに向き直り、


「今回、俺たちが調査で見つけた物についてだが――」

「……あの、ちょっと聞きたいんだけど……」


 話し始めたアルタルの言葉を途中で遮り、未来は気になることを尋ねる。


「今、アルは『調査』って言ったけど、二人の仕事って用心棒でしょう?

 なのになんで調査って……?」


 未来の疑問に合点がいったのか、メルが口を開き、


「……この二人は用心棒という仕事柄、いろいろな地域を巡っています。

 ですので、仕事と仕事の合間を縫って、私の父からの調査の依頼もこなしてもらっているんです」

「そう、そしてその調査対象は、各地に散らばる『勇者伝説』についてだ。

 大概は単なるお伽噺だが、時折『勇者ゆかりの地』みたいなものもある」

「……今回もそんな場所をいくつか調査して、そして帰って来たところなのよ。

 もっとも、十何件か調べて、実入りがあったのは最初の方の二つだけだったけど」


 メル達三人から順番に説明を受け、未来は状況を理解した。


 おそらくこの二人は何らかの発見をして、それを昨日メルに見せ、そしてそれについての意見を未来とフィーに(主に未来に)求めようというのだ。


 いつもならばそんなことはしないのだろうが、今回はコージェンを読み・理解できる未来がいる。


 そのため、わざわざここに全員を集めたのだろう。


「……疑問が解けたところで、話を続けるぞ。

 まず依頼に向かう途中で向かった一件目の遺跡は、勇者の仲間の一人、アイギナの墓だと言われているところだった」

「……そんなものが、あるんですか?」

「ええ、あるわよ。それも世界中に」

「――世界中に!?」


 人一人の墓が、なぜ世界中に存在するのかと驚く未来に、隣に座るフィーが冷静に告げる。


「考えてもみなさいよ。

 お伽噺の勇者なんて誰でも知っている存在にゆかりのある場所なんて、絶好の観光スポットでしょう?

 そんなおいしそうなもの、町おこしの材料に使わないわけないじゃない。

 幸いお伽噺の存在だから、真偽も有耶無耶にできるし、ね」


 フィーのその言葉に、メルは困ったように笑いながら、


「そのおかげで、この二人には無駄足を踏ませてばかりなんですよね……。

 ……ですが、今回は……」

「ああ、面白い物を見つけた」


 そう言ってアルタルが懐から取り出したのは、


「……腕輪……?」


 そう、銀色に輝く金属製の小さな輪は、どう見ても腕輪だった。


「……こんなものが、お墓に……?」

「ああ、その場所は何の変哲もない洞穴の奥に小さな墓が一つあるだけの場所だったんだが、俺のカンが働いてな、何かあると思ってよくよく探してみると――」

「よく言うわね。

 もっとよく探しなさいって言ったのは私で、アルはさっさと帰ろうってずっと言ってたくせに。

 挙句の果てにめんどくさがって壁に寄り掛かったらそこが隠し扉になっていて、その奥にこれが隠されていただけでしょう?」

「余計なことは言わなくていいんだよ!!」


 どうやら、発見は偶然だったらしい。


 ともあれ、アルタルとメルに許可を取り、それをよく見て見る事にする。


 それは、ごく普通の腕輪だった。


 ほとんど何の飾りも無く、ただ金属を円環状にしただけの物だ。


 ただ一点だけ、帯に対して垂直になるように取り付けられた、木製だと思われる短い(幅数ミリ、長さ二センチほど)棒が異彩を放っている。


 文字の類なども彫り込まれておらず、現状ではそれ以外の情報は得られそうになかった。


「……それで、これはなんなんだ……?」


 せっかく持って帰って来たのだから、何かしらの意味がある物なのだろうと思い尋ねると、


「それが置いてあった台座に彫られていた文字によると、『アイギナのメイス』だそうだ」

「……メイスって、どう見てもただの腕輪にしか……」


 『まあそうなんだよなぁ』とアルタルは困ったように頭をかき、


「確かにこれは武器なんだが、ここじゃちと証明できない。外に出てくれ」


 そう言うとアルタルは席を立ち、外へ向かって進んで行った。


 シーカとメルも迷わずそれに続き、送れて未来とフィーも続く。



====================



 外に出た四人(と一匹)は、きょろきょろとあたりを見渡すアルタルに率いられて歩いていく。


 しばし何かを探していたアルタルだったが、ふと視線を向けた先で目的の物を見つけたらしく、先ほどまでと違いしっかりとした足取りでとある方向へ歩いていく。


 そしてアルタルが足を止めたのは、大きな岩の前だった。


 その岩は大の男が三人ほど手をつながなければ周りを囲えない程の大きさであり、高さもアルタルの身長より上だった。


 アルタルはその岩を示しながらメルに顔を向け、


「なあ、この岩ってどうこうしても構わないんだったな?」

「ええ、あっても邪魔なだけですし、いずれどうにかしようとは考えていましたが、なかなかその機会がなく、何年もそのままになっているものですから」

「そうか」


 そう言うとアルタルは皆に向かって右腕を掲げてきた。


 その右手首には、先ほど見せられた腕輪がはめられている。


「……さて、良く見ててくれよ?」


 そう言いながらアルタルは右手を振るう。


 すると同時に腕輪が眩いほどに光り輝き、思わず皆が目を瞑ってしまう。


 そしてその光はすぐに消え、それを確かめた皆がアルタルの方を見ると――


「……え、それって……!?」


 いつの間にかアルタルの手首にはめられていた腕輪が消え、代わりにその手には長い物が握られていた。


 それは長く、地面に立てれば未来の胸に届くぐらいの長さだった。


 それは独特の形であり、基本は棒だったが一方は細く片手でも十分円周を包むことができたが、もう一方は両掌でも包むことは難しそうなくらいだった。


 それは木でできているらしく、木目らしきものが時折現れていた。


 それはきれいに削られているらしく、表面はとても滑らかだった。


 ……そしてそれは、未来にとって見慣れた物だった。


「…………バット?」


 それは、普通の物よりも二回りほど大きいが野球で使うバットだった。



====================



「驚いたか!? これが『アイギナのメイス』だ!!」


 そう誇らしげに言うアルタルに、しかしシーカは冷たく言い放つ。


「……本物なわけないでしょ。どこかの武器職人が伝説を模して作った偽物に決まってるじゃない」

「そんなつまらねーこと言うなよ。こういうのは楽しんだほうが良いじゃねえか」


 そんなことを言い合う二人をよそに、未来はこれが本物の『アイギナのメイス』なのではないかと思い始めていた。


 この時代の人たちは――メル達も含めて――バットどころか野球も知らないようだ。


 ならば、知らないはずのバットをこうも精巧に作ることは難しいはずである。


 反面、物語が正しいのならば勇者が戦ったのは未来のいた時代であり、バットは当たり前に存在していた時代だ。


「……でも、そんな木の棒で何ができるんですか?

 武器にするのなら石や鉄の方がまだ威力が出るのに……」


 いまいち信用していない様子のフィーがそう言うと、シーカと言い合いをしていたアルタルはにやりと笑い、


「だったら見ててみろ。このメイスはとんでもない能力を持ってるんだぜ?」


 そう言って、アルタルはメイス――バットにしか見えないが――の先端を岩の上に乗せ、反対側を自分の掌に載せて支えるように持つ。


 ちょうど、バットを何かの上に立てかけているような形だ。


「いいか? 俺はこのメイスをこうやって支えているだけで、何も力を加えていないだろ? だがな、見ててみろよ……」


 そう皆に言い聞かせると、アルタルは黙ってメイスの先端をじっと見つめ始めた。


 最初は何が起こるのかわくわくしていたが、すぐに飽きたのかフィーが文句を言い始める。


「……ねえ、まだ?」

「もうすぐだ」


 つまらなそうなフィーにそう返しながら、アルタルはじっと岩の上に有るメイスを見つめ続ける。


 そして、少しずつ変化が起き始めた。


「……あれ? 何か、聞こえる……?」


 最初に異変に気が付いたのは、耳が人一倍いい未来だった。


 敏感に何かを聞き取った未来は、その音源が目の前の岩であることを突き止め、そこに近付こうとして――


「――危ない!!」


 すぐさまシーカに襟首を掴まれて引き戻された、その直後――


 ミシ、ミシミシミシ……。


 もはやその場にいる誰の耳にも明らかに届くほどの岩の悲鳴が響き――


 ――そしてすぐに大きな音を立てて、岩が真っ二つに割れてしまった。


「……………………」


 目の前で起こった現象に唖然とする未来たちを見て、アルタルとシーカは得意そうに笑顔を浮かべる。


「どうだ、スゲーだろ?

 この『アイギナのメイス』は、触れているモノの重さを奪い、本体の重さに加えることができるんだ。

 しかも、持ち主が感じるのは本体の重さだけ、ってことになってるらしい」

「つまり、相手にはとても重く感じさせることができて、しかも自分は軽く感じるから、結果的に重い武器を軽々扱えるように見える、って訳よ」


 メイスの説明をしながら、アルタルは地面に半ば埋まってしまっているメイスを持ち上げる。


 その動きには、重い物を持ち上げているという様子は全く見受けられなかった。


「しかも、奪い取った重さは貯めておく事ができて、いつでも好きなときに発揮できるんだ。

 しかも、触れていれば重さを他のモノに分け与えることもできる」

「欠点としては、重さを移す際には相応の時間がかかる、ということ。

 だから今もこれだけの時間がかかったの。

 それに、貯めた重さを発揮している間は少しずつ軽くなって行くから、重さを使い切ってしまうとただの木の棒になってしまうわ」


 二人は交互にメイスの特性を言い合い、皆が感じているであろう疑問に答えていく。


「ちなみに、やろうと思えばこの大地すべての重さを奪い取ることもできるぜ」

「まあ、それだけのことをやろうと思えばとんでもない時間がかかるだろうけど」


『さて、何か質問は?』


 最後にそう言ってくるが、二人以外は無言を返すだけだった。


 それを確認すると、アルタルはメイスを一振りして元の腕輪に戻し、一歩下がった。


 それと対照的に、今度はシーカが一歩前に出てきて、


「じゃあ今度はあたしの番。

 そしてこれが、私達が見つけたもう一つの物よ」


 そう言って背負っていた袋からシーカが取り出したのは――


「……本?」


 そう、シーカが得意げに掲げているのは、一冊の本だった。


 全体的に赤黒い色をしたハードカバーのその本は、一抱えもあるほどの大きさだった。


 シーカはそれを軽々持つと、裏表紙の下部を指し示してきた。


「……ほら、この部分を見てみて。なんとなく、この村にある『勇者の武器』に書かれている文字と似ているでしょう?」


 そう言われ、未来はシーカの指の先を見てみると、赤黒いカバーにまぎれるように文字列が記されていた。


 他の者達にはなんとなく似ているとしか思われないだろうが、未来にはそれの意味するものがはっきりと理解できた。




 『神原幸治科学武器No.6』




 そこに記されていたのは、バス停に罹れていた文字の数字違いの物だった。


「……これを見つけたのはメイスを見つけた場所の近く、傷心の勇者が訪れたという場所よ。

 メイスの件があったから、私達もいろいろなところをくまなく探してみて、そして小さな池の中に沈んでいるこれを見つけたの」

「そこは水の中だけあって周りの劣化も激しくてな。

 その本はなぜか無傷だったが、それが置かれていた台座はボロボロだった。

 何とか読み取れた名前らしきものから、俺たちはそれを『アジュラ』と呼んでいる」

「中身は全部訳が分からない文字だったから、メルなら何か知ってるんじゃないかとも思ったんだけど……」

「……ごめんなさい。これは私も見たことがない、コージェンとも全く違う異質な文字だったから、解読はできなかったわ……」


 そんなことを言い合う三人だったが、未来が注目していたのは『アジュラ』と呼ばれる本の表紙部分だった。


 そこに書かれていたのは、未来にはなじみのある言語だったからだ。


 しかも、その内容も理解できた。


「……それで、この本はもちろんただの本じゃないの。

 ――『数は五・展開・周回して待機』」


 シーカはそう言いながら『アジュラ』を開いて見せた。


 するとパラパラとめくれるページのうち、五枚が本から外れ、宙に浮かんでシーカの周りをふわふわと漂い始めた。


「さて、これで準備は整ったわ。

 ――フィー、貴女、あたしに向かって魔法で攻撃してみなさい。

 どこからでも、何発でもいいから、全力で来ていいわよ」

「え? でも、そんなことしたら……」

「いいから、遠慮なく、殺す気で来なさい」


 そんなことを言われて最初は躊躇したフィーだったが、促されるままに右手で十字を描いて光の槍を創り出すと、


「どうなっても、知りませんからね……!!」


 シーカに向かって思い切り放った。


 自分に向かってくる力のこもったその光を、しかしシーカは見ようともしない。


「――ち、ちょっと! 何考えてるのよ!?」


 慌てた様子で叫ばれるフィーの声にも一切反応することなく、シーカはただ目を瞑って立ち尽くしているだけだ。


 そして、光の槍がシーカの頭に当たる、その瞬間、



 ――パァン、という音と共に、光の槍が何かにはじかれた。



「……え? あれって……」


 驚きながらフィーが見たのは、先ほどまでシーカの周りに浮かんでいた本のページのうちの一枚だ。


 本来ならば本一冊ごと貫けるはずの光の槍は、しかしたった一枚のページすらも傷つけられていない。


 現につい今しがた光の槍を喰らったページは、当たった箇所から煙のようなものは出ているものの、歪みや破れどころか焦げ目すらない。


「そんな、バカな……」

「ほらほら、何発でも撃っていいって言ったでしょ? どんどん来なさい!

 そして、あたしに当てて見せなさい!!」

「――っくそ!!」


 言われた通りに全力で撃った光の槍をいとも簡単に防がれてしまいプライドが傷つけられたのか、一瞬だけ呆然とした後、フィーはシーカの挑発に乗って何度も何度も槍を撃ち続ける。


 それも今までどおりの直線的な物だけでなく、緩い弧を描いて様々な角度から突き刺さる変化球も混ざっている。


 それを今度は移動しながら撃っているため、シーカは全方向からの攻撃にさらされている状態だ。


 ――だが、


「……ふぅん、だいぶ修行したみたいだね。随分と腕が上がってるのがわかるよ。

 正直、三枚でも十分相手ができると思ってたんだけどね。実際には五枚フルに使う羽目になったわ」

「――馬鹿に、するな……!!」


 その嵐の中、シーカは余裕たっぷりに構えている。


 実際、フィーの攻撃はシーカに届く前に必ず五枚の紙のうちのどれかによって防がれている。


 そのため、嵐の中心点は台風の目の中のように静かな物だ。


「……いったい、どうなってるんだ、あの本は……?」

「気になるか?」


 未来がふとこぼした呟きを聞きつけ、アルタルが話しかけてきた。


 アルタルは嵐の方から目を逸らすことなく、


「あいつの持っている『アジュラ』の能力は、本を持っている者の意思に応じてページを射出・操作することと、所有者を中心としたある一定距離に侵入してきた攻勢物体の軌道に自動で割り込むことだ。

 しかも、ページ自体は射出されると固く、丈夫になるから盾として申し分ない物になる。

 だからシーカは攻撃を見ないでも『アジュラ』が勝手に防御してくれるし、いざとなったら自分で動かすこともできるから様々な場合に対処できる」


 『しかも……』とアルタルは続け、


「魔術使いであるシーカにとって、自由な時間は多ければ多いほど有利になる」


 そうとだけ言って、アルタルは黙ってしまった。


 まるで、それ以上は自分の目で見ろ、とでも言うように。


 そして、未来が目を向けた先では、嵐が終盤に差し掛かっていた。



====================



 相変わらず連続で光の槍を撃ち続けているフィーだったが、しかし疲れが見え始めていた。


 それも当然だ。


 いくら比較的簡単な魔術であるとはいえ、こう何発も撃ち続けていれば、疲労しない方がおかしい。


「……はぁ、はぁ。――はぁ……!!」


 そんな自分に気合を入れ直すことで、攻撃の密度を落とさないように――むしろ濃くしていくように――槍を放って行く。


 しかし、それは一向に届く気配を見せない。


 それもまた、フィーの神経をすり減らしていく。


「……強くなったね」


 そんな中、(シーカ)の声がフィーの耳に届いてくる。


「……本当に、強くなったよ、フィー。

 まさかここまで食い下がられるとは思わなかった。

 それだけでも、あたしはすごくうれしい」


 それは、諦めを促す声だった。


「……でも、まだあなたはあたしに届かない。

 あたしがこの『アジュラ』を持っていなくても、きっと結果は同じだったと思う」


 『だって』とシーカは続け、


「だって、今あなたとあたしが戦い始めて、どれくらいの時間がたったと思う?」


 幼子に言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。


「ねえ、フィー。

 あなた、あたしがあたしの最高威力の魔術を発動させるのに、どれくらいの時間がかかるか、覚えてるでしょう?」


 彼我の絶対的な差を、わからせるように告げていく。


「……あたしは戦いが始まってからずっと、ここを動かず、一つの事に集中するだけの余裕があった。

 だから、高度な魔術を発動するための準備はいくらでもできた」


 そしてそれを乗り越えるために、


「反面、あなたはどう?

 攻撃の密度を上げることは確かに大切だけど、でもあなたはそれ以外の事をないがしろにして、ただ全方位からあたしを攻撃し続けた」


 乗り越えていくために、フィーは動き続ける。


「……あなたの敵は、あたし? それともこの本?」


 愚直なまでに己にしがみつこうとあがくフィーに、シーカは優しく語りかける。


「もう今頃になれば、この本に遠距離攻撃はきかないってわかってるはずでしょう?

 だったら、今も使っている身体強化を全開にしてかかってくればいいのに、あなたはそれをしない。

 ――いいえ、できない」


 もはや当初の目的さえも忘れて暴れまわる、小さな子どもに言い聞かせるように。


「あなたは、最初に防がれた自分の魔術を通用させようと躍起になって、あたしに攻撃を当てるという目標が、『アジュラ』に打ち勝つという目的にすり替わっている。

 ……それじゃあダメよ」


 子どもを成長させるための言葉を、浴びせかける。


「言ったでしょう? 目的の為なら手段を選ぶな、って。

 今のあなたは手段と目的が入れ替わっている。それじゃあ最初の目的までたどり着けない」


 だがそう言うものは大抵、子どもにとっては痛みを伴うものだ。


「……だから今、あたしはあなたを負かして、その間違いを止めてあげる。

 だからあなたは、早く自分に気が付いて、そしてもっと強くなりなさい」

「……さい……」


 痛みを得るのは苦痛だ。だから子どもは嫌だと抗う。


「――うるさい! いつまでも私を子ども扱いするな!!

 私はもう、十分強いんだ!!」


 痛みの元を払うため、全力で泣き叫ぶ。


 自分の主張を通そうと、全力で暴れまわる。


「……はぁぁぁぁあああああ!!!」


 そして、動き回るのをやめたフィーは、今まで身体強化に使っていた分の魔法を解き、右手一本に光を集中させ始めた。


 それを見たシーカは、一つ頷くと五枚のページを操作して、自分とフィーの間に重ねて配置する。


 互いに動きを止め、隙をうかがい、そして――


「……いっけぇぇえええ!!」


「………………………………」


 気合と共に放たれた極大の槍がシーカに迫り、あたりに大きな衝撃が走った。



==================



「……ホント、強くなったなぁ、フィーのやつ……」


 小さな嵐の中に起こった大きな爆発を眺めていた未来は、ふと隣から聞こえてきたつぶやきに反応した。


 その声は、しみじみとフィーの動きを追っていたアルタルがこぼした物だった。


「……なんだか、ずいぶんうれしそうだな?」

「そりゃあそうさ。なんたって、拾われてきたフィーの面倒を見たのはメルと俺たちだったからな」

「そう、なのか?」


 初めて聞いた事実だった。


「ああ、しかもきっちりと役割も分かれていてな。

 メルが優しく面倒を見て家事を叩き込み、俺が狩りの仕方なんかの肉体的な面を鍛えた。

 そしてシーカは、フィーがもともと使えた魔法の力を伸ばすために魔術の師となって辛く当たった。

 ……フィーからすれば、俺たちは二本の鞭だったからな。メルにばかりなつくのも無理はなかったな」

「……………………」


 そんなことを言うアルタルの顔は、どことなくさみしげだった。


「まあ、俺もあいつも不器用だから、こんな方法でしか接してやれん。

 それでも、俺はあいつの事が心配なんだ。何も知らない、何もできない、持っていたのは名前と少々汎用性の高い魔法だけ。そんなあいつが、何も知らないままどこぞでのたれ死ぬのなんか考えたくもなかった。

 だから――」


 顔を伏せて少し言いよどみ、しかしすぐに今まで浮かべていたさみしげな表情を消し、引き締まった顔を見せるアルタルは、言う。


「――だから、俺たちはあいつを叩き続ける。それが、あいつのためになると信じて、な」


 そう言いながら、アルタルは戦場の方へと目を向ける。


 そこは爆発による砂煙がだんだんと晴れてきたおかげで、結果がはっきりと見て取れるようになっていた。


 そこに立つ影は二つ。


 一つは苦しそうに荒い息を吐く小柄な少女。


 もう一人は前に伸ばした手の先に重ねられたページを堂々と掲げる、女の姿。


 そして、その女がページを己の顔の前へと持ってきて、重なりを解いた。


 そこにあったのは、無事なページが二枚と真ん中が黒こげになったページが一枚、そして穴の開いたページが二枚だった。


「……ほんと、強くなったね、フィー。

 まさか二枚も抜かれるとは思わなかった」


 しみじみといった様子でそう語ったシーカは、傷ついた三枚のページを『アジュラ』の本体に戻し、残った二枚をもう一度重ねると、


「……さあ、もう疲れたろう? ゆっくりお休み」


 そう言いながら前に向かって駆け、疲労のためろくに動けないフィーの胸に向かって、拳の前に浮かべたページを叩き込んだ。


「――っが……!」


 苦悶の声を一瞬だけもらし、フィーの意識は刈り取られた。



=================



 新しく何枚か展開したページで作った大きな板に気絶したフィーを載せてこちらに歩いてくるシーカを見ながら、未来は思考する。


 考えるのは、シーカ使っている『アジュラ』――正確には『神原幸治科学武器No.6』――について。


 その機能の異常さはともかくとして、問題なのは先ほど見た、表紙に書いてあったタイトルらしきもの。


 その本に書かれていた文字は、とある有名な劇作家が創り出した喜劇の題名であり、おそらくはこの本の名前でもある、たった四語の一文だった。


 二人がそれと一緒に見つけた台座とやらには、おそらくその音しか書かれていなかったのだろう。


 だから、中途半端に後半が欠損してしまったせいで、それは正式な名前で呼ばれなくなってしまった。


 そしてその言葉は、みらいのいた世界において、少々詳しい者なら誰でも知っているモノだ。


 あまりその言語に精通していない未来でも、それがどんなふうに和訳されるかは知っているほどに、その文は有名だった。




 『As(お 気) you(に 召) like(す ま) it().』




 そして、その名を持つ本はその名の通り、攻撃でも防御でも、どんな風にも使える道具だった。


「……『神原幸治科学武器』、その六番目、か……。

 いったい、あといくつあるってんだよ……」


 未来は、自分の胸に広がる嫌な気持ちを拭い去れなかった。

どうも皆様お久しぶりです。

前回のカオスっぷりに懲りて、カオス成分を減らしてみた辺 鋭一です。

そんな今回のお話、いかがでしたでしょうか?

このお話における私の目的は、二つの武器を出すことだけでした。

なので大した量にならないと思ったら、なぜか10000字をはるかに超える不思議なお話になってしまいました。


……なんででしょう……?


まあそれはともかくとして、最初の方はともかく、後半のほとんどはシリアスで行ってみました。

私だってカオス以外をかけるんだ、というところをお見せしたかったので。

……ただ、私の勝手な指のせいで、メルはフィーのお母さん的な立場に、アルタルとシーカはスパルタお父さん的な立場になってしまいました。

本当はもう少し『不器用な愛情』を表現したかったのですが、これ以上は分量的にも厳しいので、次のルパソ酸性様へとバトンをお渡ししたいと思います。


何かおかしい所や矛盾点などがあった場合、私へメッセージを送っていただくか、感想へお書きくだされば幸いです。


では、私はこれにて失礼させていただきます。

次回会う時まで、どうかお元気で。


そして、最後になりますが、

ここまで読んでくださった貴方に、最大限の感謝を。



辺 鋭一

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ