―Knew・World―ボクの知っていた世界
リレー小説第12話です。
担当 :たしぎ はく
代表作:ラスト人類私in地球。合掌!(http://ncode.syosetu.com/n3208bi/)
ルークを撃退してから少し。
太陽ももう地平線の向こうに消え、今は茜色が最後の抵抗を見せている。
「未来さん。私、あなたに隠していたことがあります」
少女――メルは、未来に言った。
「私――」
メルのただならぬ雰囲気に、未来は無意識のうちに喉を鳴らした。
「――フーリィと結婚することになりました!」
は? 未来の周囲一メートルの空間が凍りついた。
え? 未来が動かない。状態異常石化である。本来石化魔法は危険であるためスペルがおそろしく長い。詠唱に一時間はかかるのだ。それを無詠唱で未来にかけたメルは実は天才魔法少女――という冗談はさておき。
「問題があるのは分かってます! でも、女の子同士でも愛さえあれば関係ありませんっ!」
いやいやいやいやそこじゃないだろそもそも人間とエゾモモンガだしでも愛さえあれば関係ないのかいやそんなわけが
未来は混乱してしまった。
そんなメルがフーリィと結婚いつのまに羨ま不じゅいや代われボクと代われ。
未来の脳内を「メルと結婚羨ましい」がグルグル回る。
結果、一般人となんら変わらないキャパシティの未来の思考は爆発し――
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
====================
「――ぁぁぁぁぁぁああ!?」
ガバッ、と薄い掛け布団を跳ね飛ばすようにして未来は身を起こした。
夢だった。非常に悪夢だった。泣きたくなった。
若干涙目の未来がほっとする気持ちでなんとはなしに右体側が下になるように寝返りを打った。
そこで幸せそうな寝顔をさらすメルと、メルに抱きしめられて若干寝苦しそうなフーリィがいた。
寝苦しいならボクと代われ! 羨ま――ではなく、どうしてメルがここにいるのか。
未来は石化した。メルは――もしかしたら凄い魔法少女なのかもしれなかった。
====================
メルがどうして未来に添い寝していたのか。時は、少し遡る。
夜。明日はフィーと朝早くから狩りに行くために未来は早くに床についた。
メルは、なぜか自分について来たフーリィを抱いて未来のところにやってきていた。
しかしあまりにフーリィの抱き心地が良かっため――未来のベッドにたどり着いた段階で力尽き、眠りに誘われたというわけだ。
もちろんそんなことを未来がわかろうハズも無く――。
「メ、メル、どうしてここに……!」
すぅ、すぅ、と可愛らしい寝息を立てて眠るメルに話し掛けていた。
もちろん、返事はない。ただの寝ているメルのようだ――メルの目がパッチリと開いた。
この日。メルのみならず、未来までもが石化魔法を習得した。
どうやら、未来にも魔法少女の素質があったようである。
未来は、フーリィが「ボクと契約して、魔法少女になってよ」と言い出さないか不安だった。
====================
石化状態からいち早く回復したメルは、シャワーを浴びていた。
シャワーといっても蛇口を捻ればお湯が出るホースがあるだけなのだが。
しかし嫌な汗をかいた。未来に確実に寝顔を見られた。
未来は石化していただけだが、メルには自分の寝顔をじっと見つめていたようにしか思えなかった。
====================
しかし嫌な汗をかいた。自分は汗くさくなかっただろうか。
布団に残ったメルの残り香を吸い込みながら、未来は思う。いい匂いだ――じゃないだろ自分。
フーリィのネコパンチならぬエゾモモンガパンチがはいる。さながら「変態行為禁止!」と怒っているようにも見えた。
寝ようにも、目が冴えてしまった。
どうしようかと逡巡し、立ち上がる。
「シャワー浴びて来るから、フーリィ、ちょっと待っててくれ」
====================
シャワーには、先客がいた。しかし、バスタオルのような大きな布が肩甲骨から上を覆っているため誰かは判断できない。
それに、こちらに向ける背中。あんなに大きな刺墨をしている村人はいただろうか、と視線を下げて――。
未来は迅速かつ穏便に、脱衣所から脱出した。
====================
ガチャ
「あれ? どうしたのですか、未来さん」
まさか裸見てましたとも言えまい。
だから未来は「ちょっと目が覚めちゃってさ……」と返事を返した。
「今は大丈夫だよね」
未来は、メルに体の正面が向かないように気をつけながら脱衣所に消えた。
====================
シャワーを浴びながら、未来はルークの言葉を反芻するように思い出していた。
『伝聞により伝わる魔女の名はユーピティア=ゼ=ティリエントワール。――そして、これは何かの偶然かな。君はメルのフルネームを知っているかい?』
『彼女の名前はメルクリウス=ゼ=ティリエントワール。その意味を、君なら理解できるかもしれないね』
メルが魔女と同じ名前だった?
しかし椿はこう言った。
――魔女の名のおとぎ話はの、メルを魔女の一族と思わせることで、魔の者の文字通り魔の手から隠すことが狙いで改竄された物なのじゃ。
それはいったいどうして?
それに、椿を信用するに足る証拠は、ない。
未来は、一体何を信用していいのかわからなかった。
====================
「メル。この町で一番昔話とかに通じてそうな人は誰?」
未来はメルに問うた。
椿に聞けばいいとも思うが、椿に問うと「もうこれ以上斬れない(たべられない)のじゃ」というテンプレかましてくれたので、しかたなく全幅の信頼を置くメルに尋ねる運びとなったわけである。
「大長老さまが――」
「大長老さまだね!? ちょっと今から行ってくるよ!」
フーリィをモフりにやってきたシーカが泣きながらどこかへ走り去ってから少し。未来は、昼食もそこそこに集落に繰り出した。
ちなみにフーリィはといえば――メルの胸に押し潰されて苦しそうにもがいていた。
未来は、代われよ――ッ! と叫んで見えなくなった。
「大長老さまは、昔は、伝承や昔話に詳しかった、て言いそびれちゃいましたね。フーリィ、私達も大長老さまのところに行きましょうか」
メルも、未来を追いかけて大長老さまのもとへと向かう。
====================
「主はメルに連れて来られた子童ぢゃな?」
村の外れの高台に、大長老の暮らす家は存在する。
大長老とは、この村の最高齢者のことであり、今未来の目前にいる老体は、すでに百歳であった。
「して、何の用ぢゃ?」
「メルから、昔話に詳しいと聞きました――」
「――魔女の、ことぢゃな?」
お前の言わんとすることはすべて分かっている――という風に、大長老の目が光る。
====================
はるか神代の時代。ここヨスガメーリフに「日本」という神の国があった。
====================
「ちょっと待って」と未来の待ったがかかる。
その話だと、未来はこの世界では神ということになる。
しかし、大長老は未来を無視した。
====================
神代の世界には、三人の神がいた。
話す神、見る神、聞く神だ。
見る神の名前は「リッカ=アイリーン」。話す神の名前は「メルクリウス」。そして聞く神の名前は「ラカワミ=ライ」。
三神は、それぞれ、見ること、話すこと、聞くことに優れ、見る神は人の本質を見、話す神は人の中に入り込み、聞く神は人の心を聞いた。
しかし、魔女と呼ばれる大災厄の種に敗れてしまう。
そして三神は人類の中から一人の英雄を選び――彼を勇者とした。
その後見る神は眠りにつき、話す神は人と交わり子孫にその力を継がせ、聞く神は時空を超えて来るべき時が来るまで力を蓄えている。
====================
「その後勇者ジーコ=ラーバンカが魔女を封印し、時が流れて今に至るというわけぢゃ。時にお主。名はなんと言ったかな?」
「白川未来です」
「おおそうぢゃ未来。御主、この話は他言無用ぢゃ。代々この村の大長老が認めた者にしか語り継がれんものぢゃからな」
そんな大事な話をなぜボクに――。未来は動揺を隠せないでいる。
「村に来たもの全員に話しておるからな」
なんだ痴呆か、と未来はあとすこしで口にするところだった。
「しかし、みな痴呆だと頭から否定して本当にあった話だと信じてくれんのぢゃ」
すいません、今痴呆かと思ってたところでした、と未来は心の中で謝罪した。
「ここだけの話、この話は今、お伽話や昔話と名を変えて伝わっておる話の大元なのぢゃよ」
大長老は一度言葉を切ると、唇を湿らせてから言う。
「そしてこの話はここ――すべてが交差するこの村にしか伝わっておらん」
ひょっとしてこれ結構大事な話なんじゃ――と、うろたえはじめた未来。
しかし椿の凛と研ぎ澄まされた声がその空気を両断する。
「人間。貴様、なぜその話を知っている。それは人間ごときが知っていてはならない禁忌の叡智じゃぞ! 答えぃ! 返答によっては貴様の命はもらうのじゃ!」
椿の声は何故か切羽詰っていて、致死量の殺気を孕んでいた。実際、その殺気を全てぶつけられていたならば、一般人はいともたやすく絶命していただろう。
そこへ、メルがやって来た。なぜか椿がおとなしくなる。
大長老は何事もなかったかのようにメルに話しかけた。
「おぉ、調度良いところに来たのぢゃ、『月の神子』メル――メルクリウスよ」
未来の脳が現状把握を放棄しかけるが、ぐっと耐えて問う。
「『月の神子』? とはなんですか?」
メルがちょっと、と顔を寄せてくる。なんだキスかこんなところで!? 待ってまだ心の準備が――。
「……大長老さまはボケが進んでるんです。私を魔女の子だとか言うお伽話もありますけど、大長老さまのお話はそれと同じくらい信憑性がありません」
だから、月の神子というのも戯れ事ですよ、とメルは言った。
なんだキスじゃないのか残ね――びっくりした。
「うむ。見る神は太陽、話す神は月、聞く神は水球をそれぞれ司っておったのぢゃ」
それとこれとの関係性を未来は見つけられない。だから続きを促した。
「そして見る神は人と交わり子にその力を継いだわけぢゃが――」
「それで、どうしてメルが月の神子なんかになるんですか?」
「背中に月の神子であることを示す紋章があるみたいなんです。そんなものないのに」
メルが言った。
しかし、未来の脳裏には、昨日の夜シャワーで見た肉付きがいいながらもキュッと引き締まった小振りなお尻――じゃなくて。未来は全力で頭を降る。
荘厳で見つめていると落ち着かなくなるような背中の刺墨――ちょうど椿の鍔の紋様に似ている――のようなものを思い出していた。
昨日、自分は確実にメルの背中にその『月の紋章』とやらを見たはずだ。
ゆえに、未来は純粋なる探究心につき動かされた結果として――言った。
「メル、ボクに裸を見せてくれないか」
未来は石化魔法を習得した! しかし、メルの投擲した小剣を前に倒れた!
====================
ダガーが投擲され、剣先が迫る。
そして眉間に突き刺さって――
「うぁぁぁ――!?」
未来は布団を跳ね飛ばして飛び起きた。
「夢か……?」
それにしては妙にはっきりとした夢だった。
メルの美しいお尻も克明に記憶して――って違う違う。
しかし現実にしては荒唐無稽な話すぎた。
だから夢を見ていたのだ。そうに違いない。一応頬をつねってみるもちゃんと痛痒を感じる。
(……椿)
(……なんじゃ、我が主よ。すまないが、もう少し寝かせてくれぬか。妾は低血圧でのう。朝に弱いのじゃ)
未来は刀に低血圧って何! と思わず大きな声でツッコミ、我に返った。ああ、夢じゃないようだ。
未来は今が夢ではないことを確認し、今まで寝ていた部屋を出る。
====================
未来が村に繰り出すと、日は高く昇り、どうやら昼くらいのようだ。
と、フィーが未来を見つけるや駆け寄って来る。
「未来大変! メルが……メルが、ルークに連れ去られた!」
フィーの告げた言葉はあまりにも未来が生きてきた常識から乖離していて、未来の脳では理解することができなかった。
しかしフィーにもそんなことを慮る余裕はないのか、未来を放って話を続ける。
「ルークはニツ公爵領の軍人だから、その領村であるここ、エド村の村民は手出しできないの!」
フィーの言葉には、言外に未来はよそ者だと言っている。
しかし、フィーにはそうは思えない必死さがあった。自分が下手に動けば、エド村に迷惑がかかる。あるいは未来なら――。
(すまぬ、主殿。ルークの“魔”をうまく断ち切れておらなんだようじゃ。長年眠っておったでのう……)
(……しかたないよ、椿。長いこと眠ってたんでしょ)
「未来! メルを――メルを、助けて!」
フィーの叫びは、未来の心に届いた。それと同時に、未来の聴覚が異常に鋭敏化し始める。
……なんだコレ――。
耳が周囲のすべての音を拾いはじめ、未来はまるで自分が世界と一体になってしまったような錯覚を覚えた。
小さくうずくまると、ポケットでジャラ、と金属のこすれる音がする。
異常に鋭敏化した耳は、本来ならば大きい音に隠れて聞こえなくなるはずの、小さな音まで拾う。
と。
ズガァ――ともバゴォ――ンともとれる音が一般人の数百倍にも及ぶ聴覚がさらに異常に鋭敏化した耳に入る。
人間の聴覚で処理できる情報量を超えた音を、未来の耳はシャットダウンした。
そして。
忽然と。掻き消えるようにして。フィーと、フィーを追い掛けるようにしてついてきていたフーリィの前から――未来は、姿を消した。
====================
まるで世界戦争でもあったかのような――木々は根こそぎ枯れ、岩石は砕け、文明の象徴足る高層建築はみな崩れ、大地はえぐれたような場所がある。
生物の姿は無く、鉄臭い血色の風がときおり砂の小粒を巻き上げる。
人類が滅びた世界。それが――そこで気が付いた、未来の第一印象だった。
自分はなぜここにいる? メルはどうなった。そうだフーリィは? それにあの轟音と急に鋭敏化した聴覚。一体どうなっている――?
その時、ザッ、と砂を鳴らし、未来の目前に生物が現れる。
見知らない、未来と同じ年位の少女だ。
「やぁ、こんなところで君に会おうとは」
幼稚園で同じクラスに入り、よくケンカをし――小学校では逆上がりを教えてもらい――中学校では修学旅行で同じ班として二人でテーマパークをまわった――。
そして、ある日周囲の記憶から欠落するように消えた少女――それが彼女だった。
未来の脳に知ってはならない知識が流れはじめる。
消滅する前、自分は少女とともに――。
「額の包帯はどうしたんだい? ファッションかい?」
額に触れる。自分は怪我などしていないハズだ。
未来の脳裏に夢だと思っていた記憶がフラッシュバックする。あの日見たメルの背中の紋章は夢ではなかったのだ。
「その表情を見るに、どうやらファッションでは無いらしい」
未来の意識が、再度少女に向く。
未来の唇が、幼馴染みであった少女の名前を、無意識のうちに紡ぐ。
「……立花……愛莉……?」
次いで、かつて未来が少女を呼ぶときに使っていたあだ名を呟く。
「……リッカか……? リッカなのか!?」
「やあ、覚えてくれていたようだね、親友」
少女の顔が、ニパ、と人懐こそうな笑みをたたえる。
「改めまして、ようこそ。えーっと、平成二四年から一年後の世界へ」
言葉が続く。
「未来――いや、ここではこう読んだ方がいいのかもしれないね――」
少女は言葉を切る。未来の異常聴覚でも音を拾わないことから、続きは言う気がないのだろうか。
未来の脳に流れ込みつづける、知ってはならない、知らないほうがいい禁断の記憶の情報量が急激に増化する――。
「重ねてようこそ。魔女が復活し――そして魔王が産まれ堕ちる年へ」
という壮大な夢を見た。
ここのところ、未来が時を超えてから毎日、同じような夢を見ていた。変な夢だった な、と笑い飛ばすのにも限度がある。
それに、日を追うごとに夢の内容が克明と、はっきりしてくるのだ。それは、椿や キュアノエイデス•アンフィスバエナと契約(?)したときからより顕著になっていった。
しかし今のところは実害はない。所詮は、夢、当たり前だ。
と、そこへメルの声が。
「未来さーん。そろそろ起きてください。朝食の用意ができましたよー」
未来は、これ以上考えても答えはでないとして、メルのもとへ行った。
そして、朝食の入った盆を持つメルに言った。
悪気があるのではない。さりとて他の意味があるのでもない。純粋な好奇心だけを 持って、未来は言った。
「メル、服、脱いでくれない?」
メルクリウスさんちの食卓は、今日も平和であった。
こんにちは、最近おとなしくなろうと決めたたしぎです。今が昼だろうと夜だろうと、挨拶がこんにちはなのは愛嬌です。
なお、今回の話に出てくる立花愛莉は、なろうユーザの某立花さんとは一切関係ありません。カタカナで読める感じを考えてた時に、真っ先に思いついたのが「立花」だっただけです。となりに某ヘビィノベルがあったのも一因かもしれませんがね。
さて。
メルクリウスってね、ローマでは商業と弁舌の神なんですよ。今さっき、ここのあとがき書いてる時に調べて、ビビりました。話す神メルクリウスが偶然にも弁舌の神だったのですから。
まあ、そんなよもやま話を置いておいてですね、謝ることが大変にあります。
まず、これまでの伏線もあらかた拾わないうちに物語を大きく進めてしまってごめんなさい。
次、全国に一万七千人のファンがいるフーリィを退場させてごめんなさい。今未来の隣には椿とキュアノエイデス・アンフィスバエナ、立花愛莉しかいません。
最後、なんかこのままいったら物語終わるんじゃね? とヒヤヒヤしております。しかし、辺さんがうまいことカオスにしてごまかしてくれるはずです。
さて、マズイところは全部辺さんに丸投げしたところでですね(ォィ)、次回予告の方をば。
連れ去られたメル。そして離れ離れになったメル、未来、フーリィ。そして時空を超えた未来の前に現れた少女とは! さらに魔王とは!?
次回以降(←コレ大事)に続く!
たしぎ はく




